星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

ギリシア神話とは
私たち日本人をはじめ、世界中で愛されているギリシア神話とは、要約するとホメロス(ホーマー)作と伝えられている【 イーリアス】 【 オデュッセイア】が歌われた紀元前9世紀〜紀元前8世紀、そしてキリスト生誕3、4世紀に掛けて、ギリシア語を話す地方に伝わる“不可思議な物語” や “伝説”に対し、総括してギリシア神話といいます。
ピエール・グリマル著『ギリシア神話』
神話はなぜ生まれたか?
 古代の人々にとって、日常の自然現象の不思議さ(天候、動物たちの移動、季節の移り変わりetc.)は、森羅万象といった考えとなり、目につくものから肌で感じるものすべてに神々を宿らせるようになりました。そうでなければならない理由があったからです。それは自分ではどうすることもできない自然現象に対して、あるいは単なる不注意から発生してしまう怪我、事故の起こりやすい場所に対して、「祈り」という形で人々の気持ちをかなえてくれる「相手」が絶対に必要だったからにほかなりません。雨が欲しければ雨を要求する相手が必要でした。頻繁に事故の起こる川や怪我をする坂道では、そこに「何か」が存在する必要がありました。

そこで人々の心の中に、自然に生まれてきたのが神(日本でいうところの八百万神や妖怪も同義)という存在です。祈りをかなえてくれる、あるいは拒否をしてくれる「相手」こそが神や妖怪などの存在へと変化していったのです。
 

 

 手っ取り早くギリシア神話を楽しむのなら、何を隠そう「ギリシア神話辞典」といった辞典ものが良かったりします。まぁ、それは最後に取っておくことにして、まず初めに紹介したいのは、ギリシア神話の出典元になった作者と、その著作(作品)です。
 いずれの神話も口承伝承という形で生まれたため、オリジナルは現存せず、もはや知る由もありません。地上の風と共に忘却の彼方でしょう。誰の記憶にも残っていません。最初に生まれた説話も地域によって姿形を変え、人々の口から口へ伝わった時点で、聞き手の記憶違いなどにより原型をとどめなくなってしまったはずです。それが幾年繰り返したことでしょう。
 
 バラバラだった神々の系譜を、初めて体系化したのはヘシオドス(B.C.8頃)
 
 また、ホメロスの『イリアス』、『オデュッセイア』はヘシオドスよりも古い作品とされていますが、この2つの叙事詩の中ではヘシオドスほどに神々は体系化されておらず、娯楽性の強い作品なっています。
それに比べるとヘシオドスの『神統記』は娯楽性に欠けているのかもしれません。どちらにせよ、ホメロスもヘシオドスの作品も現代語訳で読むことができるのは嬉しいことです。

 

 


〜『ギリシア神話』の原典となる著作〜


ホメロス
〜入手可能な書籍〜

 人類史上最古の文学と称されているホメロスの叙事詩ですが、原典は存在せず、その後の人たち(もっとも古いものとされる写本はBC3頃に書かれたパピルスの断片と言われ、シモニデスが紀元前83年の写本を発見し、写本としての最古といわれています)によって写本が作られ現在に至っています。そのホメロス作といわれている叙事詩でさえ、ホメロス以前に親しまれていた作品であり、ホメロス以外の詩人によっても語られてきたものでしょう。

〜入手可能な書籍〜
・『イーリアス(上)』(岩波文庫/松平千秋訳、平凡社ライブラリー/呉茂一訳)
・『イーリアス(下)』(岩波文庫/松平千秋訳、平凡社ライブラリー/呉茂一訳)
・『オデュッセイア(上)』(岩波書店/松平千秋訳)
・『オデュッセイア(下)』(岩波書店/松平千秋訳)
・『四つのギリシャ神話―ホメーロス讃歌より』(岩波文庫/逸身喜一郎・片山英男訳)
・『ホメーロスの諸神讃歌』(ちくま学芸文庫/沓掛良彦訳)

 

 

ホメーロスの諸神讃歌

 ホメロス作と言われていますが、実際のところの確証もないのは二大叙事詩と同じかもしれません。この諸神讃歌は二十二神を三十三篇の讃歌として歌い上げた、現存する叙事詩の全訳。これは岩波文庫から出版されている【四つのギリシャ神話】と同じ素材を扱っていますが、全訳と言うことで非常に読み応えがあり、かつ、詳細な解説が施されています。初版は1990年に平凡社から出版されていましたが、2004年に訂正本として文庫化され、気軽に読むことが出来ます。

 この讃歌集は、のちにアポロドーロスやオウィディウスなどによってまとめられた神話で読むことの出来るおなじみの神話が多数出てきますが、叙事詩の体裁で読むことが出来る貴重なもの。

 
 
 
 
 

 

ヘシオドス
〜入手可能な書籍〜

 (諸説ありますが)ホメロスより遅れること約1世紀、口承のみで伝えられていた神々を、初めて系統だって記した『神統記』は、その後のギリシア神話をまとめた多くの作家たちに多大な影響を与えました。そして『仕事と日』は、いかに当時の人々が星の動きを生活と密着させていたかを垣間見せてくれるのです。


〜入手可能な書籍〜
・『仕事と日』(岩波文庫/松平千秋訳)
・『神統記』(岩波文庫/廣川洋一訳)

・『神々の誕生と深層心理 』- 2013年2月出版 -
(北樹出版/リチャード・コールドウェル/小笠原正薫訳)
→神統記、仕事と日の新訳収録。

・『全作品 』(京都大学学術出版会/中務哲郎訳 )- 2013年5月出版 -
→神統記、仕事と日以外のヘシオドスの名に冠せられる作品すべて初邦訳。

 京都大学学術出版会から出版される、ちょうど100冊目の題材として、これ以上ふさわしい作品はないのではないでしょうか。しかも今まで伝記でしかお目に掛かることのなかった「ヘラクレスの楯」なども収録されています。

 

 

 

 ひとくちにギリシア神話の本といっても、内容は様々で、神話だけを扱ったもの(日本で読まれているギリシア神話の原典と言えばオウィディウスの『変身物語』)や神話の解釈本だったりします。ここからは古代にまとめられたオリジナルともいうべき説話集を紹介しましょう。

 

ギリシア神話(ビブリオテーケー) /高津春繁訳
(岩波書店)
出どころのわからない神話ですので、本来は作者というよりも、各地に散らばっていた神話(物語)を編纂したと表現したほうが正しいのかもしれません。星座の世界でも「プトレマイオスの48星座」などと紹介することがありますが、実際はプトレマイオスが星座を作ったのではなく、「古代からあった星座をまとめた」のがプトレマイオスであって、その功績から「プトレマイオスの48星座」と呼ばれているのです。 さて、このアポロドーロスの『ビブリオテーケー』は、B.C.2後半ごろのアテーナイの文法家の編纂と考えられていました。後年の研究によって、別人説が有力となり、『ビブリオテーケー』の編集者は偽アポロドーロスと呼ばれるようになってしまいました。 私は、この作品を手にしたとき「なんて読みずらい文体なんだ」と思ったものでしたが、読み進めていくうちに、その文体こそが古の表現と思えるようになり、ギリシア神話の雰囲気を味わうなら、「まずはこれだな」と思えるようになりました。

 

転身物語 / 田中秀央、前田敬作訳
(人文書院)
変身物語 /中村善也訳

(岩波書店)
オウィディウスの『変身物語』こそが、私たちがあらゆる書物に登場するギリシア神話の出典元と言っても良いでしょう。上記の二作品は、タイトル(と訳者)が異なるだけで、オウィディウスのギリシア神話です。
 ギリシア語で書かれていたこれらの神話を、誰もが読めるようにとラテン語に書き改め『変身物語』として出版し、広く普及に務めました。さらには、当時広まりつつあったヘレニズム文化の影響もあり、ギリシア神話は一般大衆の間にも伝わるようになったのです。
 オウィディウスの『変身物語』がもっとも(というより、一般向けにはこれが)「ギリシア神話」を元に、現在私たちが読み親しんでいる『ギリシア神話』ということになります。 それ以外は叙事詩的な文体なので、慣れるまでは物語の進行や、登場人物のかかわりなど、わかりずらいかもしれません。特にアポロドーロスの『ギリシア神話』は、人物カタログでもあるかのような内容で、紙面はカタカナがびっしりとひしめく場面に遭遇することがたびたびです(笑)。 ひととおり、ギリシア神話を読み終え、更に雰囲気を味わうためには、少々難しい文体で読むと、より古の物語に触れることができると思います。先にも書きましたが、現在の私たちが読むことができるギリシア神話の原典となる作品。

 現在は1981年に中村善也氏が訳した岩波文庫で上・下に分けられていて、アポロドーロスの『ギリシア神話』と違い、大衆向けの文学作品的な表現が洪水のようにつづられています。また2019年、京都大学学術出版会、西洋古典叢書、高橋 宏幸の新訳で出版されました(こちらも変身物語1変身物語2)。

 

 


ギリシャ神話集 (講談社学術文庫) /松田治・青山照男訳

(講談社文芸文庫)
星の数ほどあるギリシア神話を伝える本に、1535年に校定本として出版された本書が、初めて日本語訳され出版されました(訳者の方に感謝感謝!)。ギリシア神話ファンにとっても、これからギリシア神話を読もうと考えている方にも、良き手引書になってくれる一冊だと思います。
この小さな文庫に収まっているのは全277話。これをまとめたのはガイウス・ユリウス・ヒュギーヌス(B.C.。慣れ親しんだエピソードも語り部が変わると微妙に変化し、読むハナシのすべてが新鮮に感じられます。そのほとんどが語源とか辞典的な意味を持っていて、ギリシア語に不慣れだったラテン語読者に編まれたとか。ひとつが2行程度〜2頁程度にまとめられ、読みやすく、区切りやすい(笑)一冊です。また、星のソムリエと私的になるのは、1482年になって出版された『天文詩』です。いつの日か邦訳されるのを待ち焦がれつつ…


 京都大学学術出版会の2021年1月出版予定。訳者は五之治昌比呂(西洋古典叢書 G115)。

 

アルゴナウティカ―アルゴ船物語/岡道男訳
(講談社文芸文庫)
 現在この物語が読めるのはこの本だけになっています。ホメロスなどは沢山出版されているのに、アポロニウスの『アルゴナウティカ』はこの1冊しかありません。星の好きな方にはお馴染みの英雄たちが登場し、読み終わった後で星座となった彼らに思いを馳せるのも、この物語を楽しむ方法でしょう。

英雄イアソンが金毛の牡羊の毛皮を取りに行くという物語はおひつじ座に、ヘラクレスはヘルクレス座に、カストルとポリディクスはふたご座に、オルフェウスはこと座に関わりがあり、アルゴ船は廃止されてしまったアルゴ座として冬の夜空に面影を残しています。この叙事詩を読めば太古の夜空に描かれた物語の人物たちの表情が、今までと違った輝きで目に映ることでしょう。


2019年京都大学学術出版会、西洋古典叢書、堀川 宏の新訳で出版されました。

 

メタモルフォーシス ギリシア変身物語集 /安村典子訳
(講談社文芸文庫)
 2006年になってようやく翻訳され出版されたアントーニーヌス・リーベラーリスのギリシア神話。上記2冊、アポロニウスの『アルゴナウティカ』、ヒュギーヌスの『ギリシア神話集』と同様、講談社文芸文庫からしか読むことができない独占翻訳出版状態。だからか文庫のクセにちょっとお高いのが玉にキズか(笑)。

 

 上記の作品を出典として、後の世の作家が読みやすく書き伝えたのが今日、私たちが『ギリシア神話』と称して読むことが出来る物語です。特にオウィディウスがローマ時代にラテン語で書いた『変身物語(メタモルフォーセス)』は、私たちが読んでいる『ギリシア神話』の原典になっていると言って良いでしょう。
変身物語(転身物語、メタモルフォーセス)/オウィディウス

完訳 ギリシア・ローマ神話/トマス・ブルフィンチ
 トマス・ブルフィンチ(1796-1867)により、1855年に出版された『THE AGE OF FABLE; OR, THE BEAUTIES OF MYTHOLOGY(伝説の時代)』の邦訳。合間合間に散りばめられた、多くの作家たちに引用された詩や歌が挿入され、多角的なギリシア神話を読むことができます。個人的に星にまつわるギリシア神話を探索している中で、もっとも影響を受けたもの。ブルフィンチの読者に語りかけてくる口調もやわらかい物腰で、語り部からお話を聞かされているよう。

 
ギリシア・ローマ神話/グスターフ・シュヴァープ
グスターヴ・シュバーブ(1792-1850)による神話集。日本では1988年に3冊に分けて出版されました。

 
ギリシアの神話(神々の時代 英雄の時代)/カール・ケレーニイ

カール・ケレーニイ(1897-1983)による神話集。神々の時代と英雄の時代の2冊に分けられ、読者に語りかける体裁は、ブルフィンチ的。


 
ギリシアの神話/ロバート・グレーヴス
 1955年の出版。私の元には1998年の新装版。購入当時は、こんなに大きな書籍を買ったことが無かったので、買っただけでおなか一杯状態となりました(笑)。アポロドーロス、オウィディウスなどでは読むことのなかったエピソードも多く、帯にある「ギリシア神話の決定版!」も、あながちウソじゃないなぁ、と思いました。とくにオリオンの話は目からうろこ。

 
楽しいギリシアの神話ものがたり/ルチャーノ・デ・クレシェンツォ
 本の体裁(厚みがあるのにとても小さい)のことは、さておいておいて、これは非常に面白く読めたギリシア神話の本です(安易なタイトルはあながちウソじゃない)。
小型で分厚い。それだけで非常に読みづらさを感じさせてくれましたが、私の好きな「『オデュッセイア』を楽しく読む」の作者の絶妙な語り口で、そんなわずらわしさも忘れさせてくれました。

 





ギリシア神話をひと通り楽しんだあとは…
 
 
 

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