本作の著者である村田治氏は2006年に闘病生活を終え、アキレウスを始めとするギリシア神話に登場した英雄の元へ旅立っていきました。西洋古典学者としての最後の作品がここで紹介する『トロイア戦争全史』です。遺稿という形で遺族が明星大学教授青山照男氏に、そして出版部に託されたそうです。そして2008年9月10日に出版され日の目を見たのです。
ここではイリアスを中心としながらも、「なぜ」「どうして」という戦争に発展する経過が様々な作品を引用(出典元あり)してまったく新しい「トロイア戦争」を読むことができます。先に紹介した『トロイアの歌』同様、イリアスの難しさをここでは感じることがありません。むしろ、後述する阿刀田氏の作品に近い読みやすさがあります。しかし阿刀田氏の小説と違うのは、原典に忠実に松田節になっていること。“原典が読める人でも何冊も読まなければ知ることのできない戦争の原因から終末までを順次述べ、この戦争にまつわるあらゆる話題、エピソードを物語年代の順に記述し、トロイア戦争について知りたければこの一冊で充分だと言えるような本を作りたい”という情熱の元に編まれた一冊です。 |