(2014年12月27日撮影)

 
 現在はりゅうこつ座の1等星ですが、かつては全天第一位の大きさを誇るアルゴ座の1等星でした。星座を制定(まとめあげた)プトレマイオスの『数学大全(アルマゲスト)』の中でも「カノープスと呼ばれる」と記載されています。
 星座はプトレマイオスが設定したのではなく、もっとそれ以前から知られており、体系的に整って、書物に残されるようになってきたのはアラトスの『星辰譜』であり、ヒッパルコスの書物(現存せず)からでした。そのヒッパルコスが、 この星が地平線、または水平線上すれすれに動く様を発見したのは、当時、地平線ギリギリに確認できる緯度にいたからでしょう。
 
アラトス(紀元前3世紀ごろ)
ヒッパルコス(B.C.190ごろ〜B.C.120ごろ)
クラウディオス・プトレマイオス(83ごろ〜168ごろ)
 
 また、この星が位置する星座の、りゅうこつ(竜骨)というのは、船の底に位置する中心の木のことで、船首から船尾にかけて組まれるものです。

 全天第1位マイナス1.5等星のシリウスに次いで第2位のマイナス0.7等星の明るさを持つ輝星ですが、実際は、地平線近くの建物や光害、大気の汚れなどによって、なんとも頼りない姿にしか見えないのが現状です。かつてはもっと明るく見えていたことを想うと、今の姿が残念でなりません。ただ、日本からだと地平線すれすれのところに見える、まさに伝説の通りなので、それはそれで星好きを喜ばせているのです。しかしながら関東より北の地域では残念ながらその姿を見ることはできません。
 
 南極老人星という呼び名の他、日本各地では米良星、淡路星、鳴門星、源五郎星という具合に、その星が見える方角(地平線上)に見える地名で呼んでいます。

 また、カノープスという名はホメロス作と言われるトロイア戦争を題材にした叙事詩に登場する武将メネラオスが率いた艦隊の水先案内人だったり、アイソンがアルゴ船を駆使して金羊毛を探しに行く物語の水先案内人だったりと、いろいろな説があります。そうした物語を端に発して、その水先案内人の魂が海上をさまよっているという伝説が生まれ、命名されたようです。ホメロスとアポロドーロスは読みましたが、残念ながら水先案内人としてのカノボス(カノープス)は登場しません。多くの天文書でも説明はここまで。

 カノープスの由来について、ほとんどの星の本では上記の説明で終わっていますが、石田五郎のみが『英雄伝』や『モラリア』の作者として知られているプルタルコスが名づけたと特定しています。確かに彼の『モラリア』の中でカノープスへの言及があり興味がそそられますが「この星をカノープスと呼ぼう」的な言葉ではありません。あくまでも「すでに現地の人々によってカノープスと呼ばれている」ことを紹介しているだけです。つまり、プルタルコスが初めてギリシア世界に紹介した、ということではなかったのでしょうか。
 この後にプトレマイオスの『アルマゲスト』が書かれたわけですから、プトレマイオスは当時の最新情報を盛り込み、アルゴ座の説明で「カノープスと呼ばれる」と記載したのでしょう。

 これと似たようなものに、『ティマイオス』の中でプラトンが5つの惑星にローマ神話の神々をあてはめたことがありました。これも、同じことで、それまでにも口承で伝わり、名称としては呼ばれていたにもかかわらず「誰も文字として残さなかった」というのが真相のような気がします。それがプルタコスであり、プラトンだったのではないでしょうか?
 
 そして現在、宇宙空間を旅する惑星探査機やスペースシャトル、そして人工衛星など、自分がどこにいるのかを宇宙空間の中で「位置確認」をするのに、太陽系の極に最も近い位置にいるカノープスを、宇宙での水先案内人役にスタートラッカーが捉えて迷子にならないようにしています。
 

 

|カノープスに関する記述(訳違い含む)|

 
 カノポス島も小島で、ナイル河口のうちこれとおなじ名のついた河口を迎える。メネラオスの舵取りがたまたまこの地で死んで自分の名を島に与え、その島がこの河口の名のもととなった。(飯尾都人訳
世界地理 』より「第2巻ヨーロッパ」
ポンポニウス(B.C.1ごろ)


 

 

 
 オシリスを「将軍」、カノボスを「舵取り」と名付け、カノボス星はこの「舵取り」という名にちなんでそう呼ばれたのだと言います。またギリシア人たちが「アルゴ船」と呼んでいるその船は、オシリスの船の荷姿が誉を受けて星々の間に置かれたものなのですが、それがオリオンとシリウスの双方からさほど遠くないところを航行していて、その双方のうち、オリオンはホロスの、シリウスは聖なる星だとエジプト人たちは信じているというわけです。(丸橋裕訳

イシスとオシリスについて 』より
プルタルコス(46/48〜127)

 
 その上、オシリスを将軍、カノボスを船の舵取りとも名づけ、話によると星に後者とおなじ名がついた。また、ギリシア人がアルゴと呼ぶ軍船はオシリスが乗った船を模したもので、栄典を受け星の間に置かれてオリオン、シリウス両星からほど遠からぬあたりを運行している。(またエジプトでは)後二星のうち前者をホロス後者をイシスの、それぞれ神星と見なしている。(飯尾都人訳
イシスとオシリス 』より
プルタルコス(46/48〜127)


 

 オシリスを「将軍」、カノボスを「舵取り」と名付け、カノボス星はこの「舵取り」という名にちなんでそう呼ばれたのだと言います。またギリシア人たちが「アルゴ船」と呼んでいるその船は、オシリスの船の荷姿が誉を受けて星々の間に置かれたものなのですが、それがオリオンとシリウスの双方からさほど遠くないところを航行していて、その双方のうち、オリオンはホロスの、シリウスは聖なる星だとエジプト人たちは信じているというわけです。(柳沼重剛訳

エジプト神イシスとオシリスの伝説について 』より
プルタルコス(46/48〜127)

 

 
 アシア海岸の沖にある島々のうち最初のものはナイル河のカノプス河口にあって、その名をメネラウスの舵手カノプスからとったのだという。(中野定雄・中野里美・中野美代訳
博物誌 」第5巻より


プリニウス(22/23〜79)

 

 
 地球上すべての地点で同じ星座が見られないのは、大地が球形をなしていることによる。諸君は、海を渡ってナイルのほとりに行き着くまでは、空にカノプスを探しても無駄であろう。一方、頭上にこの星がみえるひとびとは、大熊座をみることができない。大地が凸面になっているので、邪魔になり、空のこの部分を視界から隠しているのである。(有田忠郎訳)
「占星術または天の聖なる学」第1巻より


マニリウス



 
狼比地有大星、曰南極老人、老人見、治安、不見、兵起。常以秋分時候之于南郊

「狼」の比地に大星あり。南極老人と曰う。老人見(あら)はるるときは、治安に、見はれざるときは、兵起る。常に秋分の時を以って、之を南郊に候(うかが)ふ。

地平線近くに南極老人という大きな星があり、この星が現われた時は天下泰平となる。
この星が現われないと、兵乱が起こる

史記 』「書」〜「天官書」
司馬遷(B.C.145/135〜87/86)

 

 

 
老人星が人びとの寿命を支配する
元命芭
 

 

 
老人星は瑞星なり、現るればすなわち治平にして寿を主る
『類衆国史 』(892)
菅原道真

 

 
 あの孫悟空が活躍する中国の『西遊記』には、5つの惑星(五行)や北斗七星などの星々を擬神化させているほか、第79回には『洞を尋ねて妖を求め寿星に逢うこと』としてカノープスをビリケン頭のおじいさんの姿をした寿星として、白鹿と共に登場させています。

西遊記(16世紀)/中野 美代子訳


西遊記(岩波文庫)より

 

 
 りゅうこつ座の一等星カノープスは、正確にはマイナス0.7等星でおおいぬ座のシリウスに次ぐ全天第二位の青白色の輝星である。ところが南緯五十二度四十一分という南半球に位置しているため、北半球の日本付近の緯度では南中するころでも南の地平線上わずかに顔を見せてくれるにすぎない。このことから中国では、これを南極老人星とよび、ひと目見ると長生きできるめでたい星として尊んでいた。
ふじい旭の新星座絵図(1976)
藤井旭

 

 
 この星を一回ながめると寿命が七五日のびるともいうが、一月、二月は晴れていればほとんど毎夜この星をみるから、私たちはきっとずいぶんと長生きをすることだろう。
天文台日記 (1976)
石田五郎

 

 
 二月初旬の夕方、南の地平線すれすれに姿をあらわす竜骨座のカノープスは、関東地方の天文ファンにとっては、あこがれの星であるし、中国では老人星と呼ばれて、長寿の吉兆とされたことは、大抵の人が知っているだろう。
星の文学・美術 (1982)
草加英明

 

 

カノーポスまたはカノーボス

 エジプトのナイル河口の一つと、同名の市に名を与えた英雄。アミュークライの出身で、メネラーオスの船の舵手。メネラーオスとヘレネーがイジプとに来た時、エジプト王プローテウスの娘テオノエーがカノーポスに恋したが報いられなかった。彼は毒蛇に噛まれて死に、メネラーオスとヘレネーは彼をカノーポスの島に厚く葬り、彼女の流した涙からヘレニオンが生え出た。一説では彼はオシーリス神の船の、あるいはアルゴー船の舵取りで、船も舵取りもともに星になったという。

ギリシア・ローマ神話辞典 (1960)
高津 春繁

 

 
 カノボス(カノープス)

  辞典と銘打ってありますが、読み物としても非常に面白い内容です。感心してしまったのは、一語一語の項目に対して、出典となるタイトルと作者が記載されていること。これらの内容量があまりにも膨大なため、サイズもビックです。
西洋古典学事典 (2010)
松原 國師

 

12月1日:01h40m
12月10日:01h00m
12月20日:00h20m
1月1日:23h40m
1月10日:23h00m
1月20日:22h20m
2月1日:21h40m
2月10日:21h00m
2月20日:20h20m
3月1日:19h50m
 
 
 これらの時間は、あくまでも目安の南中時刻です。上記の時間に真南を向いたとき、あるいはおおいぬ座のシリウスが南中(空高く昇ったとき)したときに、カノープスも南中すると考えて良いでしょう。東京では3度ぐらいの所に輝いて見えます。3度という高さは、自分の腕を思いっきり伸ばしたとき、指の幅3本分の高さと覚えておくと、何かと便利です。

 

 
 カノープスを探す時のコツとして、ほとんどの天文書では…

 

「おおいぬ座のβ星とζ星を結んで、白い矢印のように地平線に伸ばしていく…
 
 とありますが、そのようにまっすぐ下げていくとカノープスにはぶつかりません。シリウス(α)とβ星の間隔(黄色い線)を覚えておいて、まっすぐにおろした矢印を中心に、シリウスとβ星の間隔ほどの幅の中にある星、という余裕を持って探すようにしましょう。その近辺にはほとんど星はないので、見間違えることはないと思いますが。 円のなかにいるのがカノープス。明るい光跡となって映っているのは飛行機(2015年2月15日撮影)。


タイムラプス撮影すると約2時間の露出で、かなりはっきりとした光跡に写ってくれます。