現在はりゅうこつ座の1等星ですが、かつては全天第一位の大きさを誇るアルゴ座の1等星でした。星座を制定(まとめあげた)プトレマイオスの『数学大全(アルマゲスト)』の中でも「カノープスと呼ばれる」と記載されています。
星座はプトレマイオスが設定したのではなく、もっとそれ以前から知られており、体系的に整って、書物に残されるようになってきたのはアラトスの『星辰譜』であり、ヒッパルコスの書物(現存せず)からでした。そのヒッパルコスが、 この星が地平線、または水平線上すれすれに動く様を発見したのは、当時、地平線ギリギリに確認できる緯度にいたからでしょう。 |
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アラトス(紀元前3世紀ごろ) |
ヒッパルコス(B.C.190ごろ~B.C.120ごろ) |
クラウディオス・プトレマイオス(83ごろ~168ごろ) |
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また、この星が位置する星座の、りゅうこつ(竜骨)というのは、船の底に位置する中心の木のことで、船首から船尾にかけて組まれるものです。
全天第1位マイナス1.5等星のシリウスに次いで第2位のマイナス0.7等星の明るさを持つ輝星ですが、実際は、地平線近くの建物や光害、大気の汚れなどによって、なんとも頼りない姿にしか見えないのが現状です。かつてはもっと明るく見えていたことを想うと、今の姿が残念でなりません。ただ、日本からだと地平線すれすれのところに見える、まさに伝説の通りなので、それはそれで星好きを喜ばせているのです。しかしながら関東より北の地域では残念ながらその姿を見ることはできません。 |
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南極老人星という呼び名の他、日本各地では米良星、淡路星、鳴門星、源五郎星という具合に、その星が見える方角(地平線上)に見える地名で呼んでいます。
また、カノープスという名はホメロス作と言われるトロイア戦争を題材にした叙事詩に登場する武将メネラオスが率いた艦隊の水先案内人だったり、アイソンがアルゴ船を駆使して金羊毛を探しに行く物語の水先案内人だったりと、いろいろな説があります。そうした物語を端に発して、その水先案内人の魂が海上をさまよっているという伝説が生まれ、命名されたようです。ホメロスとアポロドーロスは読みましたが、残念ながら水先案内人としてのカノボス(カノープス)は登場しません。多くの天文書でも説明はここまで。
カノープスの由来について、ほとんどの星の本では上記の説明で終わっていますが、石田五郎のみが『英雄伝』や『モラリア』の作者として知られているプルタルコスが名づけたと特定しています。確かに彼の『モラリア』の中でカノープスへの言及があり興味がそそられますが「この星をカノープスと呼ぼう」的な言葉ではありません。あくまでも「すでに現地の人々によってカノープスと呼ばれている」ことを紹介しているだけです。つまり、プルタルコスが初めてギリシア世界に紹介した、ということではなかったのでしょうか。
この後にプトレマイオスの『アルマゲスト』が書かれたわけですから、プトレマイオスは当時の最新情報を盛り込み、アルゴ座の説明で「カノープスと呼ばれる」と記載したのでしょう。
これと似たようなものに、『ティマイオス』の中でプラトンが5つの惑星にローマ神話の神々をあてはめたことがありました。これも、同じことで、それまでにも口承で伝わり、名称としては呼ばれていたにもかかわらず「誰も文字として残さなかった」というのが真相のような気がします。それがプルタコスであり、プラトンだったのではないでしょうか? |
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そして現在、宇宙空間を旅する惑星探査機やスペースシャトル、そして人工衛星など、自分がどこにいるのかを宇宙空間の中で「位置確認」をするのに、太陽系の極に最も近い位置にいるカノープスを、宇宙での水先案内人役にスタートラッカーが捉えて迷子にならないようにしています。 |
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