レナード・バーンスタインとピエール・ブーレーズのマーラー 1994年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との初セッションで、マーラーの交響曲第6番をレコーディングしたピエール・ブーレーズ(1925 - 2016)。現代作曲家にして、最近は指揮者としての活躍が目立ってきましたが、マーラーの作品として最初に手をつけたのが、あまり人気のない第6番を持ってくるとは「さすがはブーレーズだなぁ(でもやっぱりね)」と思いました。 |
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ポートレイトはドイツグラモフォンより
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グスタフ・マーラー(1860-911)は、2010年に生誕150周年、そして翌2011年には没後100年という節目となります。いまだに衰えぬレコーディングラッシュが続いています。 |
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(2021/12/17) |
左ジャケットはレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)、右ジャケットはピエール・ブーレーズ(Pierre Boulez)のそれぞれのマーラー全集。バーンスタインの方はレコード会社も力を入れてまとめた感がありますが(値段もジャケットも)、ブーレーズの方は「お得感」前面丸出しのボックスという感じがしました。ブーレーズの方はあれだけジャケットとかにもこだわっていたのに、なんかちょっと安っぽく感じてしまったのは私だけでしょうか? 残念ながらレニーの全集は、死によって完結することなく未完に終わってしまいましたが、二度の全集を完成させたアーティストはレニーのほか、ロリン・マゼールぐらいでしょうか? ここに収録されることになったのは、新全集では未録音となってしまった8番、大地の歌、10番は古い音源を無理矢理収録して、強引に全集としてリリースしたのでした。 ちなみに80周年記念のジャケットは考えるマーラーと瞑想するバーンスタインが時を隔てウィーン国立歌劇場のロビーで撮ったもの。なんとなく対話しているようなレイアウトがなかなか…、でしょう? ブーレーズの方は交響曲を全曲レコーディングする気はあるのか?当初は器楽のみしか対象にしていなかったにもかかわらず、2007年に大作、交響曲第8番のセッションが終了し、第10番の第1楽章をライヴ・レコーディングをして、とうとう交響曲全集が完成させてくれました。 なお、マーラーのカンタータ『嘆きの歌』は、バーンスタインは手をつけず、方やブーレーズは、20年近く前に唯一のレコードとして(しかもオリジナルの三部作として)カタログに掲載されていました。こちらもレコーディングして欲しいと思います。コンプリートボックスになるのでしょうか?楽しみなシリーズです。 |
若きマーラーが当初2部からなる交響詩として完成させ、改訂の段階で五楽章形式の交響曲となり、失恋を味わい伝統的な四楽章形式の今の形になりました。『さすらう若者の歌』との連作のような関係を持っているため随所に歌心があり、わりかし短く(笑)、ロマンティックにあふれた展開。そのためマーラー入門によく推薦される曲です。約60分。 | ||||
~その他の演奏~ |
交響曲第1番が、まだ交響詩と名乗っていた頃の名残に作曲された続編《葬送》が元に、それを発展させて完成された交響曲第2番。この曲の聴きどころは、最終楽章に置かれた神秘の合唱と、エンディングの復活劇を歌った全強奏の盛り上がりに尽きるといっても過言ではありません。私は、いつもラストで涙を流してしまうし、実際、演奏者の中にも感極まって涙を流しているアーティストを何人かお見かけしました。演奏時間はギリギリCD一枚に収まる場合もありますが、テンポにより2枚に分かれてしまいます。約80分。ベートーヴェンの交響曲第9番との関連性(終楽章に合唱を加えるとか…)もあったり。 | ||||
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~その他の演奏~ |
なんと演奏時間でギネスブックに登録されてしまった交響曲。確かにこの曲はマーラーの作品の中では最も長く、第一楽章だけで、ハイドンやモーツァルトの交響曲が1曲終わってしまうほどの長大さを誇っています。弟子のブルーノ・ワルターがマーラーの避暑地を訪れた際、「君はもうこの景色を見る必要はないのだよ。私が全て音楽に詰め込んだから」と言った説話が残る曲です。私がマーラーにのめり込んでいった1980年代、集めていたロンドン(デッカ)のカタログに『夏の朝の夢』という副題がつけられていました。現在ではそんなタイトルをつける習慣は無いようですが、マーラーが初演の際に全て外してしまった曲の解説につけられたタイトルは、難解で長大なこの曲を理解する上で、私的には非常に役に立ちました。約90分。 | ||||
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~その他の演奏~ |
第2番から始まった《角笛交響曲》シリーズの第三作。交響曲第3番で構成されていた楽章が、こちらの最終楽章に採用されることになり、結果的に《角笛三部作》となりました。マーラーの交響曲の中では、第1番と並んで人気なのは、演奏時間が短いこと(笑)、そして声楽がことのほか天国的な雰囲気と旋律のため。しかし、歌詞の内容は楽想の雰囲気とは裏腹… | ||||
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~その他の演奏~ |
《角笛交響曲》シリーズのあとを受けた器楽のみの交響曲。第4楽章のアダージェットがことのほか美しく、編曲や単品でも演奏されることがある人気作品。およそ「交響曲」と呼ばれる作品群の中で、特に日本では副題などを含まず、純粋に番号だけで呼ばれる作品のうち、この交響曲だけはメインディッシュだけでチケットが売れるとか… (惣菜となる小品をいれると2時間超えのコンサートになるので) | ||||
~その他の演奏~ |
作曲者の人生の中で、もっとも充実期に書かれた交響曲。そのため妻のアルマから怒られたとか。そういえばポール・マッカートニーも同様のことをして、当時の恋人に起こられたというエピソードがあります。この曲のオープニングの行進曲風な感じや、終楽章のハンマーなど、今までの交響曲と違い、打楽器などの活躍が目立ちます。マーラーの交響曲中、7番とともに人気のない曲。そうしたことからも、マニアの間ではマーラーの最高傑作という呼び声も。約80分。 | ||||
~その他の演奏~ |
交響曲第5番〜第7番までは、純器楽(声楽なし)であり1時間越えの長大な作品。角笛に続く三部作と言えるのかどうか、続く第8番で大爆発する「宇宙の鳴り響く音」の直前の静かなセレナーデ。それまでは登場しなかった独奏楽器が登場するのは、指揮者マーラーの美的感覚でしょうか? この第7番ではマンドリン。約80分。 | ||||
~その他の演奏~ |
多くの方が、この交響曲に導くために1番から7番までを書いたといいます。確かに、この昂揚感や編成は、マーラーのどの交響曲をもしのぐ巨大な編成となりました。こうする必要があったためなのですが、うまく時代と合わさって空前絶後の名曲が生まれたというわけです。彼の感じた「宇宙の鳴り響く音」「天球の音楽」をまさに凡人である私も聞くことが出来るのです!ケプラーも喜ぶのではないかと思いますが、果たして…(笑) | ||||
~その他の演奏~ |
私がマーラーを聴きはじめるきっかけとなったのは、交響曲第2番「復活」というタイトルに惹かれて。この「大地の歌」もしかり。ちょうどその頃はサントリーのコマーシャルにジュリーニの新録音が使われたことも手伝って、交響曲という名ばかりの歌曲集を聴きあさることになります(笑)。 | ||||
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ベートーヴェンの、その後の様々な出来事が第九のジンクスを生じ、まんま術中にハマってしまったマーラーの白鳥の歌と言われています。特に第4楽章のすがるような、諦めのようなストリングスの響きが痛々しくもまた、美しく響き、これを受け容れられれば「死」への不安は消えてなくなりそうなほど覚醒作用が強い音楽ではないでしょうか? | ||||
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~その他の演奏~ |
マーラーの歌曲集には以下の作品があります。 年代順に並べると… 『若き日の歌』(1880) 『さすらう若者の歌』(1897) 『少年の不思議な魔法の角笛』(1899) 『リュッケルトの詩による5つの歌曲』(1901/02) 『亡き子を偲ぶ歌』(1901/04) これらの歌曲のうち、交響曲に転用されたメロディがあり、それらを発見しながらマーラーの巨大な交響曲を聴くことも、楽しみ方のひとつなのです。 マーラー歌曲集のページへ |
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マーラーの音楽は、歌曲に集約されていると言ってもいいのかもしれません。交響曲の中に歌曲のメロディが歌われ、歌曲の中に交響曲のメロディが顔を出し… それぞれが相互的関係にあり、長大な交響曲の中で歌曲のメロディを見つけたとき、その逆もまた、マーラーの音楽の愉しみなのです(えっらく時間が掛かる…)。 バリトンのトーマス・ハンプソンは大のマーラー・フリーク(クラシック界で、こういう表現はあまりしないなぁ)としてしられていますが、マーラーの記念年にあたる2011年にも興味深いアルバムをリリースしていました。しかし、それ以前にも「フリーク」と呼べるような面白いアルバムをリリースしているのです(こちら)。 |
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~その他の演奏~ |
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バーンスタインとブーレーズ 対照的な二人でも、マーラーに懸ける情熱は同じようなものなのでしょう。マーラーと同じユダヤの血が流れるバーンスタイン。バッハ、ベートーヴェン、ワーグナー、マーラー、ウェーベルン、シェーンベルグ、そしてブーレーズへと流れる音楽の源流の中にいるブーレーズ。)また、この二人はNPOの音楽監督を受け継ぐ形で接触をしています。 1958年にバーンスタインを音楽監督に迎え入れましたが、1969年、ヨーロッパ征服を切望していたバーンスタインは、マーラーの没後記念日にポストを辞任、その後任としてブーレーズが音楽監督に迎えられました。この二人の接触はここから始まりました。ブーレーズの就任に際し、その手助けをしたのが、推薦者のジョージ・セルとオットー・クレンペラーという、当代きっての頑固者二人。クレンペラー曰く「抜群の指揮者であり、抜群のミュージシャンでもある、この世代の中では最適な人」だそうです。 当時、「ブーレーズは百音のコードの中のただ一つの間違ったイントネーションも聞き分けられる耳を持っている」と尊敬され、バーンスタインの後任として指揮台に上がるや、くもの巣を払うかのように、NYPは濁りのない澄んだ音を出すようになりました。 この二人の性格の違いを物語るエピソードを読むと、確かに性格の全く違った二人が浮かび上がってきます。ブーレーズ就任後、ニューヨークタイムズは面白い記事を掲載しています。 「汗まみれで包容するバーンスタインの後に、誰にもキスしない、超然として距離をおく、禿げかかっているブーレーズを迎えることになった。『氷人指揮したり』」これはユージン・オニールの戯曲『氷人来る』もじって書かれました。 官能主義で社交的、冗舌で激しく、大きな音で派手に鳴らし身体全体で指揮をするバーンスタイン。ブーレーズはそれを「ノスタルジア」と批判し、自身は禁欲的で厳格、寡黙で冷静、指先で指揮をする。「指揮棒を持つと凍りつくようなんです」。また、両者の相違点を見つけるにはスコアを見れば充分明らかで、バーンスタインはスコア一面に大きな文字で急いで書き込んだり消したりしていますが、ブーレーズは五線の間に小さな文字できちんと丁寧に書き込む、といった具合。 ブーレーズは好んで「名曲を指揮するときに、何が重要かというと、汚れを落とすことだ」と語っていましたが、彼の演奏を聴くと、どれも見通しの良い、今まで聞こえなかった音までもがクリアにスピーカーから聞こえて(残念ながら実演の体験はありません)くるので、まさに「蜘蛛の巣をはらった」ような演奏と言えるでしょう。 |
参考書『巨匠神話』(ノーマン・ブレヒト著) 『レコードはまっすぐに』(ジョン・カルショウ著) 『名盤鑑定百科』(吉井亜彦) |
マーラー全集を成し遂げた指揮者たち(2010年まで) ♪モーリス・アブラヴァネル&ユタ交響楽団(1963-1974) (Maurice Abravanel/Uta Symphony) ♪ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1966~1972) (Bernard Herman Haitink/Concertgebouworkest Amsterdam) ♪ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団(1967~1971) (Rafael Kubelík/Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks) ♪ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1970~1983) (Georg Solti/Chicago Symphony Orchestra) ♪ヴァーツラフ・ノイマン/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団(1976-1982) (Václav Neumann/Českáfilharmonie) 90年代に二度目の全集録音を始めましたが、巨匠1995年に倒れ、かないませんでした。 ♪クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1977~1986) (Klaus Tennstedt/London Philharmonic Orchestra) ♪クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団ほか (Claudio Abbado) ♪ロリン・マゼール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1982-1989) マゼールだから出来た(完成)と言わざるを得ないウィーン・フィルによる全集。 ♪エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団(1985-1992) 2010年現在、東京都交響楽団と二度目の全集をレコーディング中 ♪ガリー・ベルティーニ/ケルン放送交響楽団(1984-1991) ♪サイモン・ラトル/ボーンマス交響楽団、バーミンガム交響楽団(1980-2004) ♪リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ベルリン放送交響楽団(1986-2004) ♪ジュゼッペ・シノポリ/フィルハーモニー管弦楽団(1985-1994) (Giuseppe Sinopoli/The Philharmonia Orchestra) ♪ミヒャエル・ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団(1988-2003) ♪若杉弘/東京都交響楽団(1988-1991) ♪エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立管弦楽団(1990-1996) (Yevgeny Svetlanov/The State Academic Symphony Orchestra of Russia) ♪ロリン・マゼール/ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団(2003-2009) 二度目の全集は音楽監督を務めたNYPとのライヴレコーディング。 作曲者が音楽監督を務めた二つのポストを指揮したことになります ♪マイケル・ティルトン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団(2003-2009) ♪デイヴィッド・ジンマン&チューリヒ・トーンハレ管(2005-2014) ♪ジョナサン・ノット&バンベルク交響楽(2003-2011) (Jonathan Nott/Bamberger Symphoniker) ♪マルクス・シュテンツ&ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団(2009-2014) (Markus Stenz/Gürzenich-Orchester Köln) ♪パーヴォ・ヤルヴィ&フランクフルト放送交響楽団(2007-2013) (Paavo Järvi/Radio-Sinfonie-Orchester Frankfurt) ♪ワレリー・ゲルギエフ&ロンドン交響楽団(2007-2011) (Valery Gergiev/London Symphony Orchestra) |
私にはマーラーの交響曲を全曲、生で体験したいという夢があります。今のところシノポリが東京芸術劇場のこけら落としで行った全曲演奏会の中の交響曲第8番と、アバドがサントリーホールで行った第2番。なかなか実演では取り上げられない大物ばかり(笑)。どちらも音の洪水に圧倒されました。 |