星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)


レナード・バーンスタイン、二度の交響曲全集

 左のジャケットは、ドイツのレーベル、グラモフォンからリリースされた交響曲第1番から未完の第10番までをセットにした二度目の交響曲全集ボックス。右のジャケットは、油ギラギラ時代のバーンスタインが手兵ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団を率いてアメリカ・コロンビア時代に完成させた全集のシングルレイヤーのSACDボックス(SIGC32-40)。

 複数のオーケストラを用いて臨んだ二度目の全集は、別のページでも書いていますが、対極的なピエール・ブーレーズと全集を並行するようにレコーディングを進めていました。片やスタジオ・セッション、片やライヴという方式も対極でした。レニーのプロジェクトは主人の死によって完結することなく未完に終わってしまいました。

 このボックスに収録されることになったのは、新全集では未録音となってしまった8番、大地の歌、10番は古い音源を(しかもレーベルを超えて!)無理矢理収録し、強引に完結させたのでした。このうち、第8番のみは他の番号付きの交響曲と同じようにアルテ(Erté 1892-1990)のジャケットをあしらい違和感を払拭させていました。

 ちなみに下の80周年記念のジャケットは考えるマーラーと瞑想するバーンスタインが時を隔てウィーン国立歌劇場のロビーで撮ったもの。なんとなく対話しているようなレイアウトがなかなか…、でしょう?

 なお、バーンスタインはロンドン交響楽団、ニューヨークフィルハーモニック、イスラエル・フィルハーモニックを指揮して、史上初となるマーラーの交響曲全集を作り上げ、映像でも交響曲全集を残してくれました。そのうちのいくつかが、今回2度目になる全集にも取り込まれました。

レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein, 1918.8.25-1990.10.14 アメリカ)



「今日の客の入りは大丈夫かな…」(マーラー)
「ちょっと黙っててくれよ、精神を集中してんだから…」(バーンスタイン)


アムステルダム・コンセルトへボウ
ニューヨーク・フィルハーモニー

 私のマーラー初購入のアルバムは、レニーがニューヨーク・フィルとのレコードでした。その頃はまたクラシック音楽を聴き始めたばかりではありましたが、音色が豊かな19から20世紀の作曲家のものばかり聴いていたこともあって、耳慣れたサウンドに聞こえました。教科書で習うような古典派のような音楽しか聴いてなかったら、かなりの抵抗があったのかもしれません。とはいえ、マーラーの中でも比較的短い第1番でさえ「ああ、しんどー」と思いながら耳を傾けていたことを思い出します。そして最終楽章で一気に爆発。まだ良く知らなかったとはいえ、レニーのオーバーアクションが見えてきそうな迫力満点の演奏には、一種の爽快感があって、のちのマーラーをはじめ、他の作曲家の作品でさえ、エンディングには爆発を求めるようになりました。中でもショスタコーヴィッチの第5交響曲は、マーラーと対抗できる作品と思いました(初体験はマゼール/クリーブランド管)。

 それはさておき、レニーとニューヨークのレコードは、SACDとなり、この録音の最上級の音楽を届けてくれたのではないでしょうか?このフォーマットによって、録られた音のすべてが無理なくオーディオ装置(スピーカー)から聞こえてきます。さらさらとした感触。決して塊としてなっているのではなく、前にも書きましたが、角砂糖がポロポロと崩れていくような澄んだ一恩威と音が身体の中を通り抜けていくような心地よさ。特質するのはなんといっても奥行き感。家のスピーカーは壁を背に設置していますが、目を閉じて耳を傾けて聴くと、壁を突き抜けて何メートルも向こうへ広がっている感じのスピーカーから聞こえてくるよう。ジャなくて、オーケストラがいるよう(オーバーかな?)特にマーラーの作品は、歌劇場音楽監督だけあったマーラーの頭の中で、指揮棒で広がる音世界が、今のオーディオ界とマッチした感があるのかもしれません。こぞって多くの指揮者、いえ、レコード会社が全集を繰り広げているようですから。そうしたブームの先人を切ったバーンスタインの全集は、録音は古いとはいえいまだにトップを走り続けています。

 
1st Recording Date: Oct4, 22, 1966. Produced by John McClure and Thomas Z.Shepard.
2nd Recording Date: Oct, 1987.
 





ニューヨーク・フィルハーモニー
ニューヨーク・フィルハーモニー





ニューヨーク・フィルハーモニー
ニューヨーク・フィルハーモニー





アムステルダム・コンセルトへボウ
ニューヨーク・フィルハーモニー





ウィーン・フィルハーモニー
ニューヨーク・フィルハーモニー





ウィーン・フィルハーモニー
ニューヨーク・フィルハーモニー





ニューヨーク・フィルハーモニー
ニューヨーク・フィルハーモニー





ウィーン・フィルハーモニー
ロンドン交響楽団





アムステルダム・コンセルトへボウ
ニューヨーク・フィルハーモニー



ベルリン・フィルハーモニー
イスラエル・フィルハーモニー







ウィーン・フィル
イスラエル・フィル


 バーンスタインのマーラーにのめり込むきっかけを作ってくれたのが、この「大地の歌」です。交響曲という肩書を持ってはいますが、それまでの形式を破りまくった異色の存在でしょう。全楽章に歌が入るという前代未聞の作品。それを紹介してくれたのが、当時特集しまくりのNHK-FMのクラシック番組でした。そこでリスナーが選ぶマーラーの交響曲ランキングみたいなのがあって(詳細は忘れた)、このバーンスタイン、ウィーン・フィルを紹介してくれました。その紹介の仕方も、落語家(?)のようなDJの方が「通常はアルト(女声)で歌われているパートをバリトン(男声)が歌っている、とにかくすごい演奏!」みたいなこと説明していました。固唾を飲んで最初の一音がスピーカーから鳴った時の衝撃は興奮を誘いました。その時は第1楽章のみでした。確かその当時、サントリーがジュリーニ/ベルリンのレコードをCMに使い、なんとなくガイドブックのみでしか親しんでいなかった(つまり実際の音はこの時点ではまだCMの部分しか聞いたことがなかった)ので、いきなりのオケの咆哮には、交響曲第1番の第4楽章的な迫力があって「こういう音楽好きかも〜」という具合にのめり込んでいったのです。

 さて、そのウィーン・フィル盤はジョン・カルショウがプロデュースした、私にとっては決定盤として君臨しているレコードです(笑)。 クラシックのプロデューサーというのは、ロックやポピュラーなどとは違って、ほとんど影のような存在。その考えがガラガラと崩れ去ったのは「ショルティのリング」。いえ「カルショウのリング」のメイキング・ビデオを見てから。そして他のページにも書きましたが、井阪紘氏(カメラータ・トウキョウ)の著作を読んでからです。
 それはさておき、まずはウィーン・フィル盤。ジェームズ・キングの前のめりヴォーカルはレニーの指示でしょうか、カルショウのアイデアでしょうか? 私の「大地の歌」を聴く耳(大したことはない)は、この第一声で決まります(笑)。この後、若くして亡くなったキングの艶やかな高音、オケに負けない(ここはカルショウの裁量か?)発声。どこをとってもこの曲にふさわしい歌声です。いやぁ、たまんねぇ!
 ちなみにこのレコーディングは政治的な裏話が有名で、当時コロンビア所属アーティストだったバーンスタインと、デッカ/ロンドン所属アーティストだったウィーン・フィルの、それぞれがそれぞれのレーベルにいって(貸し出して)レコーディングするというウィン・ウィンのやりとりがあったそうです(クラシック界もえげつないのぅ…)。

  当時の帯には

「66年春、バーンスタインは招かれてウィーン・フィルと共にヴェルディの『ファルスタッフ』を指揮し、大好評を博しました。アメリカc CBSコロンビアはこれをそっくり録音しようと考え、ウィーン・フィルを専属にしているイギリス・デッカ/ロンドンからウィーン・フィルを借り、ロンドンへバーンスタインを供にするということで交換が成立したのです」

と記載(説明)されていたようです(PROC-1991の解説より)。

(そうした関係などから、この話を読んで「カラヤン/ベルリンの帝王」 という関係が理解できました)

テノール;ジェームズ・キング
バリトン;ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮;レナード・バーンスタイン
(TOWER RECORDS VINTAGE SA-CD COLLECTION; PROC-1991)

メゾ・ソプラノ;クリスタ・ルードヴィッヒ
テノール;ルネ・コロ
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
指揮;レナード・バーンスタイン
(TOWER RECORDS VINTAGE SA-CD COLLECTION; PROC-1991)
 
1st Recording Date: Oct4, 22, 1966. Produced by John Culshaw.
2nd Recording Date: May 18, 20 & 23, 1972. Produced by John McClure.
 





 バーンスタインは映像でも全集を残してくれました。まさにマーラー演奏史の遺産級とも思える数々。レニーの表情などを見ながら楽しむことができます。レコードとは別に収録されているのがポイントではないでしょうか?ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団をメインに、ロンドン交響楽団と第8番、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団と大地の歌。リハがまたすごい(笑)。
 第8番は、グラモフォンからの晩年の全集に落とし込んでいる演奏を「見る」ことができます。レニーのジャンプも高い(笑)。第6番のヒゲ面も渋い(プライベートで色々あった時期だとか…)。 ともかく、ウィーン・フィルとのコンビで、ここまで残してくれたことは嬉しいです(後にマゼールが全セッションでのマーラー全集という偉業を成し遂げました)。

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|2024年1月3日更新|