星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

交響曲第6番ハ短調
 マーラーの交響曲の特徴というか、私の好きなタイプは声楽つきの交響曲です。なので、ここで紹介する第6番など純器楽曲はなかなか聴く気にならず。なかでも「角笛シリーズ」のあとの5~7番はもっとも遠いところに位置しています。 それがNHKの番組で、バーンスタインの愛弟子佐渡氏が解説してくれたおかげでこの曲への取り組む(笑)素材というものが見つかったような気がします。それは何かというと、最終楽章に登場するハンマーです。

 番組では佐渡氏が特注で作ったというハンマー。それは巨大な木槌でした。私の想像では、鍛冶屋が使う鉄製のハンマーだとばかり思っていた為、この曲の第4楽章を聴くときは、その音だけを聞きだそうとしていたのがそもそもの間違いだったのです。マーラーは、このハンマーについて「力強い響きが鈍い響きの短い強打、金属的でなく斧でたつような音」といった注釈を記していました (でもハンマーといったら、ショルティの『リング』ラインの黄金に出てくる「カァキィン!」というあの耳をつんざく音を想像してしまいますよ)。

 1903年に着手され、翌年完成。「私のこれまでの5つの交響曲を吸収し消化した世代だけが、敢えて近づく事が出来るでしょう」というマーラーの予言めいた言葉通り、初演当初から第6交響曲の評判は芳しくなかったようです。

 また、「この交響曲は批評家にとって、割りにくいクルミのようになるでしょう」あるいは「英雄はこのように敵から三度の攻撃を受け、三度目に樹のように倒れるのだ・・・」などといった言葉を残しています。そして、この交響曲を興味深い(少なくとも私はこのハンマーのおかげで聴くようになった)三度のハンマーの意味するところに関して、いかにも後の人々がこじつけた一致を楽しむ事が出来るのです。すなわち、一発目は長女マリアの死、二発目は常任指揮者の退任、三発目は自身の心臓疾患の宣告… といったもの。

 これらは作曲当時幸福の絶頂だったマーラーが、「やがて自分の身に降りかかる不孝を予言した」などといったオカルトめいたこじつけに晒される事になりました。

わかったついでに、手持ちのDCや、図書館で借りられる演奏で聞き比べてみましょう(笑)

2021年12月11日更新

♪ ♪ ♪

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮;レナード・バーンスタイン
Recoeded on 1987.

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮;ピエール・ブーレーズ
Recoeded on Jun 1994.


 このハンマー(運命の打撃)、作曲当初は五発だったものを三発に、最終的には二発に減らしました。多くの指揮者は、これに倣い二発で演奏していますが、バーンスタインは三発目を加え(佐渡氏は「復活させた」と表現していますが、バーンスタインが三発目を決意した意味が違うので私は「復活させた」ではないと思います)ています。これは世界平和を願うバーンスタインが、この世の終焉を意味(当時、核兵器や米ソの冷戦などの問題を人類が抱えていたということで)して、世界危機になぞらえて3発目を打ち込んだそうです。

 そもそも金属的なハンマーを想像していたので、はっきりとは覚えてはいませんが、改めて聞きなおしてみると、確かにハンマーをぶっ叩く「ドカーン!」だか「ボカーン!」という破裂音は聞いていました。でもその音がそれだとは思ってもみませんでした(単なる大太鼓のような音ですし)。今回のバーンスタインの三発目は、ほとんど聞き取ることが出来ないぐらいに抑えられています。

バーンスタイン/VPO
13'26''/18'30''/29'30''(第4楽章;33'29'')

ブーレーズ/VPO
12'39''/16'59''(第4楽章;29'10'')

 ブーレーズはウィーンフィルとの初セッションにこの曲を選びましたが「いかにも」な選曲です。バーンスタインはライヴ、ブーレーズはスタジオセッションによるレコーディングという違いがありますが、譜面に書かれている音を全て聴くことができるブーレーズ盤、ということがいえるのではないでしょうか。聞いていて本当に面白い。リヒャルト・シュトラウスが言ったとか言わなかったとかいう「初めがいちばん強く、終わりがいちばん弱い。逆にした方が効果的なのに・・・」というコメント通り、ブーレーズ盤の最後の一撃は
「えっ !? 今、鳴った?」という感じです。





 バルビローリ(Sir John Barbirolli, 1899-1970)のマーラーといったら、という表現にとどまらず「マーラーの9番といったら」という話題に必ず加えられる名演、ベルリンフィルとの第九の3年後にアビー・ロードスタジオでセッションされた第6番。私が持っている第六としてはもっとも古い録音になりますが、さすがにヒスノイズが気になるほどの音量でなっています(特にCDだと)。それにしてもこの演奏、上手いのかどうなのか?各セクションのソロがなんか頼りなさげに聞こえてしまいます。
 バルビローリのハンマーは、英国人らしく(?)期待したほどの派手さもなく、英国人に良くたとえられる「紳士的」大人しい感じ。演奏を断ち切るには程良い感触で聞かせています。

 なお、このアルバムは2012年にSACDでリリースされました(TOGE-15020-21)。バルビローリのマーラーに関しては第5番(エソテリック/ESSE-90057)、第9番(WPGS-50102)そしてこの6番とEMIの音源はSACD化されています。この当時のEMIは音も立体的だったし、とても好きなサウンドを聴かせてくれましたからね。
♪バルビローリのハンマー♪
14'13''/19'20''(第4楽章;32'46'')






 ショルティ(Sir Georg Solti, 1912-1997)の演奏は、このマーラーに限らず抜けの良く筋肉質(ってどんなだ?)な演奏。一言で言えば剛球一直線的な演奏で、いかにもシカゴ響(アメリカ的)サウンド。第1楽章の突進する行進曲なんか快感すら覚えてしまいます。第4楽章のストリングスの叫びも悲痛な冷たさを感じさせますが、期待のハンマーは控え目。「これがカルショウと組んだレコードだったら・・・」と思います。

  どうでもいいことなのですが、ショルティのジャケット(廉価盤のほう)と、キング・クリムゾンの1stの表情が似ているなぁ、と思いました(笑)

 なお、このアルバムは2017年にショルティ没後20周年という名目で、タワーレコードからSACD化されました(PROC-2079)。
♪ショルティのハンマー♪
11'55''/16'02''(第4楽章;27'42'')





 ベルリンフィルがカラヤン(Herbert von Karajan, 1908-1989)の意の思いのままの中で、完成度の高い美しい装いを聴かせてくれます。ハンマーはそうした美しい音楽の中で上品に表現されています。1発目のハンマーと言うよりは大太鼓で演っているようです。更に2発目になるとオケの中に埋もれてしまっています。

 カラヤンは声楽つきの交響曲を「大地の歌」と第4番だけしか残しませんでしたが、この第6番とのカップリングに「亡き子をしのぶ歌」と「リュッケルトの詩による5つの歌曲」を録音してくれました。クリスタ・ルードヴィッヒの歌声が美しく、カラヤンのマーラー美を堪能することができます。カラヤンのマーラーは、虹が目印。

 なお、このアルバムは2012年にSACD化されました(UCGG9055)。
♪カラヤンのハンマー♪
13'11''/17'30''(第4楽章;30'14'')







 丁寧な表現の第6番で、ノイマン(Václav Neumann, 1920-1995)の性格が表れているのでしょう。2発ともおとなしいハンマーです。しかし、これにかぶせて金属のハンマーを加えています。これがなかったらたんなる大太鼓の音に終わっていたかもしれません。

 なお、このアルバムは2020年にノイマン生誕100周年企画で、元販売元の日本コロムビアとタワーレコードのコラボで唯一の全集(二度目のデジタル・レコーディングによる全集企画は未完)がSACD化されました(TWSA1070)。 メーカー情報によれば、第6番は一度SACD化されていたとのこと。

 ノイマンは、この全集の前、1960年代にもライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団と行なったレコーディング(第5, 6, 7, 9番)もタワーレコードからリリース予定(0302695BC) 。こちらは未聴。

♪ノイマンのハンマー♪
12'47''/17'33''(第4楽章;30'34'')

 チェコの巨匠、ノイマン二度目のマーラー全集として進められていたセッションのうち、ミキシングなどが終了していたレコードとしては、これが最後のアルバムになってしまいました。このあとも、セッションを続け、亡くなる5日前の8月28日に第九のセッションが終了したようです(1996年9月2日没)。
さて、問題のハンマーですが、とりたてて騒ぐほどの表情付けもなくあっさりと、オーケストラと共になっている感じです。その音自体はオーケストラの音をかき消すほどの効果をもたらしてくれていますが。

 なお、このアルバムは2020年にノイマン生誕100周年企画で、オクタヴィア・レコードとタワーレコードのコラボによりボックス化されました(OVEP00010)。 音を追求するならこちらか?

♪ノイマンのハンマー♪
13'31''/18'22''(第4楽章;31'39'')




 アバド(Claudio Abbado, 1933-2014)のマーラーは、孔雀の羽が目印で、揃えるのが楽しかった思い出があります。どうしてもショルティの録音と比べてしまうのですが、録音技術やレーベルの音の作り方の違いもあるのでしょうけど、どうしてこんなにも音が違って聞こえるのか(これだからクラシックの聴き比べはやめられない!?)。ショルティは冷徹。これは悪い意味(人間味がないとか、無機質という意味)ではなく、徹底して音を磨き抜いた音とでもいえばよいでしょうか?
 ショルティに鍛え抜かれたシカゴ交響楽団からは、そんな音を期待していたのに、なんとやわらかい音がすることか!というのも、交響曲の世界では、あまり登場することのない楽器の目立つこと。で、肝心のハンマーと言えば「えっ!?鳴った?」という感じで、シカゴには妥当なハンマーが無いのか?などと思ってしまいます。

アバドのハンマー
13'10''/17'48''(第4楽章;30'56'')



 2004年の録音。ライヴだけに、ハンマー担当も力の限りブッ叩いているって感じ。この叩き方は尋常じゃない(笑)。先のシカゴ響とは見違えるほど!バーンスタイン盤よりも強烈!あまりに強烈すぎて、叩き台が床から飛び跳ねてしまったような音まで聞こえます(特に一発目)。そして次の二発目の威力も変わらず。エンディングはビックリシンフォニーという感じ。
 アバドの演奏は、シカゴ響とも、ベルリンフィルとも、そして2007年のルツェルンとも第二、三楽章を入れ替えて演奏します。。

アバドのハンマー
12'33''/17'05''(第4楽章;29'44'')





 マゼール(Lorin Maazel, 1930-2014)のこれまでの演奏を覆すかのような表現、なんといってもVPOの音色が美しいと思わせてくれる演奏です。ハンマーは一発目も二発目もほぼ同じ大きさで聞こえてきますが、木だけではないような音も聞こえてきます。台がハンマーに何か金物っぽい材質を施しているのでしょうか?
 巨大なシンフォニーの中に時々顔を出すソロがとにかく美しいのは、VPOという集団ならではの事ではないでしょうか。ウィーンフィルとマーラー全集(おそらく初の快挙であり、今後も無いのでは!?)を完成させたマゼールだからこそ、ここまで派手に、そして美しい音楽を作り出せたのでしょう。
♪マゼールのハンマー♪
13'06''/17'26''(第4楽章;29'55'')




 ショルティなどの乾いた演奏を聴いたあとに、この演奏を聴くと、まったりとした、というか、しっとりと潤いに満ちた音に包まれて、耳に優しく響いてきます。ベルティーニ(Gary Bertini, 1927年-2005)も全集を残したアーティストで、それまでこのコンビを聴いた事はありませんでしたが、非常に相性がよいようです。

♪ベルティーニのハンマー♪
12'27''/16'52''(第4楽章;29'23'')





 実はインバル(Eliahu Inbal, 1936-)のマーラー初体験で、これほど濃い演奏だとは思ってもみませんでした。それは「ワンポイントマイク」という言葉にだまされていたのかもしれません。「マイク1本のマーラーなんて迫力に欠けるんじゃないか?」とか「ステレオ感の無い・・・」なんて、勝手に邪推してしまって聴かず嫌いとなっていました。それがどうでしょう!この迫力、この立体感。2010年のパーヴォ・ヤルヴィが振った交響曲第2番を聴いた事がきっかけで、インバル(フランクフルト放送に)手が伸びた、というわけです。
 ただし、インデックスに「ハンマーの音に注意」と但し書きがありますが、思ったほどの衝撃はなく、並の打撃だったのには拍子抜けでした。

 なお、インバルは2014年から首席指揮者になった東京交響楽団とレコーディングを行っています。帯には「ワンポイント・レコーディングならではのハンマー音の新鮮さ」とありますが、未聴です(OVXL-00093)。
♪インバルのハンマー♪
12'49''/17'11''(第4楽章;30'02'')

 





 同じオーケストラを振ったテラークとグラモフォンのレコーディングスタッフの音の作り方の違いを楽しむことが出来るシノポリ(Giuseppe Sinopoli、1946-2001)とザンダー盤。私はシノポリのマーラーチクルスをリアルタイムで体験してきたので、シノポリ寄りに聴いてしまっていますが、こと6番に関しては演奏、録音共にザンダー盤に軍配を上げます。シノポリは期待していたハンマーも大人しい音。心理学の博士号を持つ、という肩書きを耳にすることもあって、シノポリの読みの深い切り込みを期待していただけに、かなりテンポも遅い。第2番で聴かせてくれたゴリゴリとした感じの音を再現してくれていたら・・・

♪シノポリのハンマー♪
14'04''/19'04''(第4楽章;34'41'')





 カップリングにジェシー・ノーマン(Jessye Norman, 1945-2019)が歌う「さすらう若者の歌」が収録されていますが、ここではハイティンク(Bernard Haitink, 1929-2021)のスマートなドライブが耳に残ります。ベルリン・フィルという相手を得たハイティンクですが、大曲8番と9番を残して全集とならず。シカゴ響と三度目の全集を完成させるべくライブを行っていましたが、2021年10月に訃報が届き今回も未完に終わってしまい、非常に残念でなりません。ただし、この交響曲は2007年に4度目となるレコーディングが行なわれ、シカゴ交響楽団自主レーベル(Cso Resound)からリリースされています(未聴)。

 肝心のハンマーですが、ベルリンフィルの上品な音の中にあっては、どこまでも上品なハンマーで、これを聞くとアバドが振った同じベルリン・フィルライヴのハンマーの凄まじさがわかります。2発目は結構破壊力ありそうな炸裂音。

♪ハイティンクのハンマー♪
13'08''/17'51''(第4楽章;31'16'')





 指揮者とオーケストラが最後までコンビを組んで全集を成し遂げたシャイー(Riccardo Chailly, 1953-)。これはそのシリーズの第一弾となるレコーディングとなりました。
 シャイーのマーラーは、若手(?)の中にあって、名門コンセルトヘボウを鳴らし切ったオーソドックスなマーラーで、バーンスタイン、ショルティ、アバドなどとは異なり、万人に受けそうな演奏かもしれません。

 例のハンマー部分は、うっかりすると聞きそびれてしまいそうです。2発目のハンマーにはその面影も無く、大太鼓の音のよう。ここにこだわってしまうとちょっとつまんないかも。

 とはいっても、シャイーのマーラーチクルスは、いろいろと凝っていて、ジャケットの統一感に目が奪われてしまいます。アバドのシリーズやブーレーズのそれが途中で変更になってしまったことを思えば嬉しい完結です(笑)。そしてなにより、カップリングで収録される同時代の(マーラー信望者)作曲家による歌曲などが収録されていることでしょう。これが面白い。マーラーの演奏よりそっちが気になって仕方ありません。

♪シャイーのハンマー♪
12'59''/17'44''(第4楽章;30'58'')





 テンシュテット(Klaus Tennstedt, 1926-1998)、ロンドンフィルとの全集を完成させ、本当に力尽きて世を去ったというイメージが強い指揮者です。この6番もライヴレコーディングで、EMIの音場作りのマズさに、せっかくの名演が台無しという感じがしてなりません。奥行きが無く、臨場感に欠ける、立体感もなく平べったい感じがして…
 などと、録音セッションの悪口しか書いていませんが、そんなモコモコとした感触の向こう側になっているのは、テンシュテットの渾身の名演には代わり有りません 。。テンポは驚くほど遅く、あの一発目のハンマーから受け継いだメロディも限りなく遅い・・・
 ハンマーはかなり堅そうな材質を使っているんじゃないか?と思わせる音で迫力があります。さすがライヴで、期待していた 音。二発目は更に強力な追撃です。後にやってくる拍手大喝采がそれを物語っています。

 なお、このアルバムは2013年にSACD化されました(TOGE-15089)。
♪テンシュテットのハンマー♪
13'19''/18'40''(第4楽章;32'57'')





 ブーレーズがマーラーシリーズを始めた年に、デ・ワールト(Edo de Waart, 1941-)も同じ第6番をオランダのコンセルトヘボウ、アムステルダムでライヴ録りしました(マーラーと今世紀の音楽)。データでは3月19日のみクレジットされているので、その後にセッションが無ければ一発録りです。期待のハンマーはおとなしいのですが、全体的にはホール・トーンと合わさったオーケストラの表現力が、いい味出してます。

♪デ・ワールトのハンマー♪
12'36''/17'21''(第4楽章;30'31'')





 マーラーの全集を購入したのはショルティに次いで2組目。もともとはジンマンのSACDを考え(交響曲だ5番の音作りが気に入った)たのですが、某ネット販売で安売りになったので購入しました。まだ全曲聞いていませんが、まずは2、6、8番から。レビューはもうちょっと後で。

 余談ですが、分売しているアルバムジャケットは、トーマス(Michael Tilson Thomas, 1944-)が必ず右にいて左に空間を作り、統一されたデザインになっています。
このレコーディングは2001年9月12日、つまり「9・11」の直後というと、ちょっとしたレクイエムにも似たイメージとしてとらえてしまいますが、実際には最初からプログラムとしては決まっていた演奏会を、事件の直後とはいえ、中止にせず行ったというわけです。とはいえ、聴衆は深い悲しみと、厳戒態勢の中で緊張していたのではないでしょうか。

♪トーマスのハンマー♪
12'34''/17'09''(第4楽章;31'39'')





 井上(Michiyoshi Inoue, 1946-)にとって二度目になるという「悲劇的」。聴き手と演奏者の意見は必ずしも一致するものではないと思いますが、マーラーの第6番とかは、指揮者にとってやりがいのある曲なのでしょう。イジワルな見方をすれば、レコード会社やプロダクションにとっては、なるべく費用の掛からない演目で採算が取れるのがよいのだろうから、マーラーなんか純器楽曲の方が費用が掛からないからいいのかもしれませんね。しかし、マーラーの場合は、全曲で完結するような見方(解釈)もあって、事情は複雑でしょう。
さて、この井上の6番は、新日本フィルとのレコーディングで、優秀録音がいくつもそろっているEXTONから。でも残念ながら私が手にしたのはCDフォーマットです。SACDだったら良かったのに、と思います。この演奏、ショルティ/シカゴ響に似て、ごつごつとした感触がとてもよかった、途中まで。問題のハンマーは一発目に「キターッ」という感じがなく、二発目にして金属っぽい音と共に判別できたぐらいで、ちょっと井上の性格を考えると、二発とも不発弾なんじゃないかと思ってしまいました。それからエンディングに近いところ。楽器がしっちゃかめっちゃかにめまぐるしく登場して交差する箇所。う~ん、ちょっともたついたような感じがして、比較したのがシカゴ響だったからまずかったのか。なんだかぼんやりした印象でした。2000年3月9日、すみだトリフォニーホールでのライヴ録音だから、なおさらSACDがよかったな。

♪井上のハンマー♪
13'13''/17'55''(第4楽章;31'28'')





 英国のザンダー(Benjamin Zander, 1939-)により、耳障りの良い音でレコーディングされた一枚です。このディスクの面白いところは、第4楽章が二種収録されていて、それはハンマーの回数が現行の2回版と、オリジナルの3回版というもの。こういった企画は、マーラーファン、そして第6番のファンにとって嬉しい企画です(笑)。

 この曲がこれほど聞きやすいディスクは初めてで、今までの第6番は「かなり荒削りな音」とでも表現したらよいのか、エヘン虫にやられて喉がイガイガするような悲劇性が全篇を通して表現されているような演奏が多かったから、余計に録音を聴くと、すっきり滑らかな音と感じてしまいます。そのおかげで、ハンマーの衝撃はこれまでにないほどの威力を放っています。これほど面白く聴けた6番はありません!この曲のファーストチョイスとしてお勧めします!何しろスタジオセッションが気に入りました。テラークの録音技術も大きく左右していると思います。ハンマーの加減はだんだん小さくするという指示が楽譜には書かれているようですが、確かに、ちょっとだけ、ヴォリュームは小さめかもしれません。(バーンスタインの3発目はほとんど聴き取れないぐらいの音)

♪ザンダーのハンマー♪
13'25''/18'19''/29'16''(第4楽章;32'57'')





 マーラーの交響曲をレコーディングするにあたり、オーケストラの配置にこだわった(ベートーヴェンでも)ジンマン(David Zinman, 1936- )の録音。最終的には全集に発展しましたが、嬉しいことにすべてがSACDでのリリース(残念なことに、全集としてまとめられたボックスでは通常のCDに…)。 これだけドデカイ音を前面で打ち鳴らしてくれれば、イヤでもこのパートは耳につきます。「これでもかカー!」という一撃の破壊力は、これまでのこの曲の演奏すべてを打ち壊してしまう勢いがありました。これはまさに時代が可能にしたセッションともいうべきでしょう。SACDのマルチチャンネルで発揮されています。全曲を通じて溌剌としていて、クリアで気持ち良くなってくるのも、今までなかったかもしれません。

♪ジンマンのハンマー♪
12'34''/17'09''(第4楽章;29'49'')





 SACDということもさることながら、各楽器ソロのクリアさは美しくも瑞々しい。先のノイマンと同郷のマーツァル(マーツァル(Zdeněk Mácal, 1936年1月8日 ブルノ - )特にハープの弦をはじく音は目の前ではじいているようなリアルさです。そしてハンマーの破壊力も、部屋が揺れてしまうほど。でも二発目はマーラーの指示(リヒャルト・シュトラウスは批判していますが)通り、小さ目になっています。でも、その差は極端すぎるほどで、なんか当て損なったような感じがします。全曲を通して溌剌とした音色は、「悲劇的」と感じないかも。 最初の発売ではDVD-Audioもついていたようですが、図書館では著作権の絡みで貸出不可。最近終息気味のDVD-Audioで聞いてみたいです。

 全く関係ない話ですが、現在流通しているCDのジャケット、SACDのマークが私には「この人刺青入れてる」と思ってしまいました。

♪マーツァルのハンマー♪
12'46''/17'12''(第4楽章;30'15'')





 まだレコードとか、ラジオとかがない時代。人々がオーケストラのコンサートに行く余裕もない時代。それでも人々は音楽を求め、演奏してきました。19世紀後半から20世紀にかけて、誰もが気軽にオーケストラの音楽を楽しめるようにと普及したのがピアノ連弾などによる編曲ものです。ここではマーラー自身が、その需要に反応してピアノ版を編曲したのではなく、マーラーの良き理解者として親交のあったといわれるツェムリンスキー(交響曲第6番)と、ガッセラ(交響曲第7番)が編曲した版。今でなら「オーケストラのピアノ版」としての興味が湧くレコーディングですが、当時としては演奏する楽しみ、気軽に聴く楽しみとして生まれたようです。
 このピアノ・デュオは、マーラーがブルックナーの交響曲第3番を2台ピアノに編曲したレコードも録音をしているチームです。当然のことながらハンマーは入りません(笑)


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|2021年12月11日更新|