星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

交響曲第8番 変ホ長調
 交響曲第8番を「千人の交響曲」と呼ぶ習慣があるようですが、実際には初演の際に「千人近く要した」ことから、プロモーターが作曲者のことも考えずにプログラムにつけてしまったため、時々(特に日本では)そう呼ばれる事もあるようです。私も最初にマーラーの交響曲のカタログを見ていたときに、このタイトルが気になっていました。

 確かに、聴き始めの頃(中学生の頃なので1980年代)、演奏されるだけでニュースになり、実際、誰の演奏だったかは覚えていませんが、テレビニュースで取り上げられ「それだけでニュースになるほどの曲なのか!」と驚かされました。そして「だったらマーラーを聴きに行くなら、絶対にこの曲」と思い、東京芸術劇場のこけら落としで行われたジュゼッペ・シノポリの演奏会に足を運んだのです。シノポリは、日本での公演の直後にイギリスでセッションを行っています。

 私にとってのこの曲のツボは、オープニングのオルガンと合唱が全強奏でたたみかけてくるところと、第二部での女声三重唱、そしてエンディングの「神秘の合唱」です。マーラーが「宇宙が鳴り響く様」「惑星の運行」などと表現した音宇宙。この曲が作曲された頃は、鉄鋼業も盛んとなり、巨大望遠鏡がいくつも建設され、深遠なる宇宙が写真という新しい技術によって次々と明らかに、そして遠くなり、「数学的に」解明されていった時代でした。かろうじて宇宙と人間がつながっていた時代なのかもしれません。
 作曲家が最後に宇宙と接触したのは1868年にヨーゼフ・シュトラウスが書いた「天体の音楽」かなぁ、と思うのですが、すでにマーラーの時代には数学や物理の公式が、人間を宇宙に寄せ付けない、無機質な空間へと遠ざけてしまったような気もします。そんな世界になってしまったのに、マーラーは人間が最大限の力を振り絞って演奏して描き出す世界を描き出したのだと思います。

 マーラーは、1910年のハレー彗星大接近を目撃したでしょうか。彼の描いた宇宙の鼓動を、実際の星空が迫ってくる情景は、作曲家にどのような影響を与えるのか、実に興味あるところです。

♪ ♪ ♪

ロンドン交響楽団
指揮;レナード・バーンスタイン
Recoeded on 1975.

ベルリン国立歌劇場管弦楽団
指揮;ピエール・ブーレーズ
Recoeded on Jun 1994.

 バーンスタインはこの曲をレコードとビデオと複数回に渡り記録を残してくれました。ブーレーズは演奏会で何度か取り上げてはいるものの、レコードになったのは二回(それでも凄い事でしょう、この曲ならば)です。




 この曲を聴くときには絶対はずせないショルティのレコード。カタログを眺めていたら、ショルティよりも前に、しかもCDでは2枚組ではなく1枚に収まっている演奏を見つけました。それがクーベリック。聴いてびっくり。ショルティよりも古い録音なのに音がいい(というかごちゃ混ぜになってない!)。トランペットがやたらと目につく感じがしますが、当時の技術を考えてみてもこれは優秀録音だと考えても間違いではないでしょう。ショルティ、ショルテイ、と思っていた曲だけに、なぜか悔しい思いをしたものです(笑)。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
マーティナ・アーロヨ(ソプラノ):いと罪深き女
ユリア・ハマリ(アルト):サマリアの女
ノーマ・プロクター(アルト):エジプトのマリア





 ジャケットを見ても、この曲がいかに凄い曲なんだという事がわかろうもの(笑)。クラシックのレコードといったら、風景写真だったりアーティストの演奏ショットだったり、有名な絵画だったり宗教画だったり。それが魚眼レンズにやっと収まった裏方(ほぼ全員が普段着!)の一コマ。今まで持っていたクラシック音楽へのイメージが一新されるほどの衝撃を受けました。そして音!デッカレコーディングは見事に捉えきっています。私にとってはショルティのレコードが一番と思っています。音も現代の技術をもってしても引けを取らず。この演奏以上に、この曲の巨大さを体感させてくれる録音はないのではないでしょうか。この演奏を凌ぐのは、たとえば第九がいまだに「フルトヴェングラーのバイロイト」と思われているのと同じく「ショルティの千人」なのかもしれません。

そして念願かなって2017年秋にタワーレコードからSACDとしてリリース(他、70年代のシカゴ響とのセッションが、歌曲集を除く全部がSACD化されました! ありがとう!タワー!

♪交響曲第8番のツボ「冒頭の 来たれ!聖霊よ」♪

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
ヘザー・ハーパー(ソプラノ):いと罪深き女
イヴォンヌ・ミントン(メゾ・ソプラノ):サマリアの女
ヘレン・ワッツ(アルト):エジプトのマリア

1972年度第15回グラミー賞
♪Best Classical Album
♪Best Choral Performance, Classical (Other Than Opera)
♪Best Engineered Recording (Classical) ; Gordon Parry & Kenneth Wilkinson, engineers.





 実はこの曲に初めて注目したのは、この小澤のレコードでした。注目したのはジャケット。なんか恐ろしささえ感じてしまいました。しかし、小澤の鬼気迫る表情(なんでこんな上を見上げているのかは、ショルティのジャケットから想像できようもの…)そして、当時はまだ珍しかった「デジタル」を知らせるマークもワクワク感を高ぶらせてくれました(笑)。
 演奏自体は西洋人(ショルティ)と東洋人のパワーの差なのかなー、と思ってしまったほど 繊細な音でした。特に元の美しいこと。ジャケットからはもっとスンゲェ、ショルティと互角勝負ができるんじゃないか!と聞く前から勝手な連想をしてしまったほど、だったのですが実際に耳を傾けると、日本人らしさが滲み溢れているよう(とはいえ、曲が曲だけに圧倒的な音の洪水が押し寄せてきましたが)なマーラーでした。

 その小澤が2024年、天界へ。惑星の奏でる音を聞きに行ったのでしょうか?

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
フェイ・ロビンソン(ソプラノ):いと罪深き女
フローレンス・クイヴァー(アルト):サマリアの女
ローナ・マイヤース(アルト):エジプトのマリア





 この曲に触れて、なかなか演奏も録音も稀だと知って、カタログを眺めていたら、白髪の老人がこぶしを振り上げて汗だくになっているこのジャケットに目が留まりました。1920年生まれのノイマンは当時、まだ62歳だから老人と思ってはいけないのですが、年配の方も熱くなってしまう曲に、こちらものめりこんでしまったわけです(笑)

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
ガブリエラ・ショウノヴァー(ソプラノ):いと罪深き女
ヴェラ・ソウクポヴァー(アルト):サマリアの女
リブシェ・マーロヴァー(アルト):エジプトのマリア





 正直、テンシュテットの8番が、こんなにも熱いものだとは知りませんでした(もっとテンポが遅く、もっともっとどっしりとした感じだと思っていたのですが、若い!)。これは素晴らしい音楽が詰まった名盤です。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
エリザベス・コネル(ソプラノ):いと罪深き女
トゥルデリーゼ・シュミット(アルト):サマリアの女
ナディーヌ・ドゥニーズ(アルト):エジプトのマリア





 知り合いがテスト生としてセッションで(ホルン)参加しているレコード。なので、超お勧め!といいたいところなのですが、何しろこの曲に関しては上記ショルティの高い壁が立ちはだかっているだけに、「コレ」というインパクトが無い限り難しいハードル越えです。しかもこのシャイーの演奏は、巨大さに振り回されてしまっているような感じがします。音もデッカにしてはちゃんと捉え切れていないような感じ。確かシャイーのこのセッションはビデオにも撮られていたはずなので、私はドキュメンタリーとして馴染み深いかもしれません。
 それにしてもシャイーはこの曲を大得意としているのではないでしょうか?このレコーディングをはじめ、作曲者歿後100周年の「国際マーラー音楽祭」のゲヴァントハウス管弦楽団(2011)、そしてアバドの意思を引き継いで2016年にルツェルンと映像でも残してくれています。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
ジェーン・イーグレン(ソプラノ):いと罪深き女
サラ・フルゴーニ(アルト):サマリアの女
アンナ・ラーション(アルト):エジプトのマリア





 アバドのマーラー全集は、この「8番」がライヴ録りとなってしまい(9番もウィーン・フィルとライヴ)、なんか統一感のない全集が仕上がりました。しかもジャケットもここに来て雰囲気が全く異なり、シカゴ、ウィーン・フィルと積み上げてきたチクルスとはちょっと一線を画しているのかもしれません。とはいっても、ここでのアバドは音楽監督としてのまとまりの良さを、この巨大なスコアから充分に読み取って表現しています。オペラ指揮者の面目躍如たる劇的な表情が素晴らしいです。これがライヴじゃなかったら、もっとクリアな音が期待できたかもしれません。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
チェリル・ステューダー(ソプラノ):いと罪深き女
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(アルト):サマリアの女
ローゼマリー・ラング(アルト):エジプトのマリア






 この巨大なシンフォニーをワンポイント録音?まずはそっちに注目してしまいましたが、これまでのインバルのレコーディングと同じく、細部まで収音されたアルバム。各国で音楽賞を受賞していますが、日本のレコーディング技術の高さが買われたのでしょう!

それでもやっぱりSACD化が望まれます(2024年にタワーが!?)

 インバルは東京都交響楽団(2008)と2014年に再びの再録を行ってくれています。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
フェイ・ロビンソン(ソプラノ):いと罪深き女
リヴィア・ブダイ(アルト):サマリアの女
ジェーン・ヘンシェル(アルト):エジプトのマリア






 遅れてきた巨匠とでもいえば良いでしょうか? それでなくてもクラシック界は高齢者が目立つ世界ですが、ベルティーニもまた、(私の中では)遅れてきた巨匠として写りました。マーラーを降っていなければ聞くきっかけを持たなかった指揮者でしたが、全集をレコーディングしてしまうほどの力量、つまり秀でたカリスマ性がなければマーラーの演奏は不可能ではないでしょうか? 期待に違わぬ宇宙を聞かせてくれます。その証として、日本ではインバルに先駆けて東京都交響楽団と再レコーディングを行ってくれました。これに関しては日本サイドに拍手です(笑)

都響とのレコーディングの翌年2005年、天界へこの音楽を求めて旅立ってしまいました。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
ユリア・ヴァラディ(ソプラノ):いと罪深き女
フローレンス・クイヴァー(アルト):サマリアの女
アン・ハウルズ(アルト):エジプトのマリア







 2023年に日本独自企画としてマゼールのマーラー全集がSACD化されました。期待値が高かったのは、この第8番(と第2番)なのは、当然のことでしょう。通常のCDでも持っていますが、この奥行き感!SACDに勝るものはありません。千人近い音の大洪水、いや惑星の運行が奏でる大音声も、このフォーマットではさらさらと流れる澄んだ小川の如く、体にスーッと入り込んで体を満たしてくれる。そんな完食です。特にオーケストラと声楽の分離が素晴らしいの一言。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
シャロン・スウィート(ソプラノ):いと罪深き女
フローレンス・クイヴァー(アルト):サマリアの女
ブリギッテ・ファスベンダー(アルト):エジプトのマリア






 ジンマンのマーラー・シリーズで一番聴きたかったのがこの第8番。録音は2009年のセッション。リリースが翌年、私が聴いたのは2012年の暮れになってやっと(図書館です)。SACDマルチチャンネル(4ch)。再生してワクワクしたのは、やはりオープニングのオルガン、合唱とたたみこんでくる合奏。マルチチャンネルよろしく、狭い私の部屋がまるで大ホールの特等席に移動してしまったかのような臨場感。待ってた甲斐がありました(笑)。そして第一部の後半の金管など、リアから聞こえ、実際にライヴで聴いたのと同じポジションのようで生々しい音。ソロの楽器は、これまでのシリーズ同様に、フロントからオケと濁る(かぶさる)ことなくくっきり聞こえてきます。コーラスはリアに回り込んで部屋全体を包み込んでくれました。マルチの面白さが堪能できます。そしてこの曲のツボであるソプラノとアルト2人による女声三重唱も、美しい声が鳴り響きます。「天使のような」という形容を使ってよいのであれば、使いたいところですが、役どころが罪深き女(メラニー・ディーナー)、サマリアの女(イヴォンヌ・ネフ)、そしてエジプトのマリア(ビルギット・レンメルト)ですから、悩ましいところです。私の好みでは、女声はみな天使だのなんだのに聞こえてしまいます(笑)。

♪交響曲第8番のツボ「ソプラノとアルト2人による三重唱」♪
メラニー・ディーナー(ソプラノ):いと罪深き女
イヴォンヌ・ネフ(アルト):サマリアの女
ビルギット・レンメルト(アルト):エジプトのマリア


もどる(グスタフ・マーラー)作曲家の部屋

星の音楽、宇宙の響き

home(一番星のなる木)

|2021年12月11日更新|