ウィルが日本で最後に演奏したのは2016年9月の奈良、春日大社での神前演奏会(奉納演奏)。その後、ファンの前で「ぜひ日本で演ろう!」ということをしきりに語ってくれていましたが(2017年はかなり現実味があったのですが)、結局実現できず、2018年、突然押尾コウタロー氏のライヴにゲストという形で、ようやくファンを喜ばせてくれることになりました。

今回の日本滞在中に行なわれたライヴは5回で、日程は以下のとおり。

押尾コータロー featuring ウィリアム・アッカーマン Billboard Live
7月7日(土)Billboard Live OSAKA
7月8日(日)Billboard Live OSAKA
7月13日(金)Billboard Live TOKYO
7月14日(土)Billboard Live TOKYO

ふれあいコンサートVOL.34
7月11日(水)高峰楽器製作所(中津川)

 このうち7月11日の公演は中津川にある高峰楽器製作所の2Fで行なわれたフリーコンサートで、2年前に(押尾氏の紹介で)奈良で知り合ったと言う居倉健氏がオープニングアクトを務めたもの。300席が満席になったということで、ファンにとっては非常に羨ましいライヴだったようです。

 居倉氏によると「一番入りたいレーベルがウィンダム・ヒル」だったということで、今更ながらに居倉氏のアルバムを取り寄せて、彼らの仲間に入れて仕事の合間に、リラックス時に聞かせてもらっています。確かにマイケル・ヘッジスやアレックス・デ・グラッシを髣髴とさせるスタイルや楽曲を感じることができます(それと夜想曲を作曲してくれているので、夜想曲マニアの私には嬉しい発見でした)。そして特にフルートとのアンサンブルは本人もおっしゃる通り、ウィンダム・ヒル・サウンドといっても差し支えないような空気が漂っていました。
 今回のオープニングアクトで演奏したのは、オリジナル曲の♪CARAVANと♪月夜の風。特に後者の曲ではオリジナルが二胡(木村ハルヨ)とのデュオで、今回はソロ。それを聴いたウィルが、非常に喜んだことが居倉氏のFacebookに書かれていました。

 以下、居倉氏のFacebookより
「CARAVANと月夜の風の2曲に全霊を注いだ。ウィルさんから月夜の風を超褒めてくださった!!両頬をガシッと掴まれて「さっきの二曲目はなんだ!メチャメチャ綺麗だったぞ!!なんかしよう!!」(2018/07/13より)」

 7/10のFacebookには、今まで見たことのないウィルの姿を見ることができるので、必見ではないでしょうか?ぜひチェックを!

居倉氏のセットリスト

01. CARAVAN(Ken Ikura)
  Ken Ikura; Guitar
02. 月夜の風(Ken Ikura)from "ilusion"
  Ken Ikura; Guitar



 この貴重なコンサートに足を運んだ I さん(私がこのライヴを知ったのはIさんのfacebookでした)は、なんと開催2日前に知ったとか。大阪、そして東京公演にも足を運んだそうです!。実に羨ましい。そしてウィルのセットリストを教えていただきました(ビルボードでの演目と比べると、ほとんど一緒で、ここでしか演奏しなかった楽曲や、逆にここでは演奏されなかった楽曲も)。ありがとうございます。

セットリストは以下のとおり(Iさん、ありがとうございます!)
01. The Impending Death of the Virgin Spirit(Will Ackerman)  
  Will Ackerman; Guitar
02. Unconditional(Will Ackerman) 
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Guitar
03. The Last Day At The Beach(Will Ackerman) 
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Bass / Todd Boston; Bamboo Flute
04. Celtic Heart (Todd Boston)
  Todd Boston; Bamboo Flute, Guitar / Kohtaro Ushio; Guitar
05. Waves (Todd Boston)
  Todd Boston; Bamboo Flute, Guitar
06. マザー(Kohtaro Ushio)
  Kohtaro Ushio; Guitar
07. Visiting(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Bass / Todd Boston; Bamboo Flute
08. Hawk Circle(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Bass / Todd Boston; Guitar
09. ナユタ(Kohtaro Ushio)
  Kohtaro Ushio; Guitar / Will Ackerman; Guitar

 クレジットを見る通り、今回のウィルの来日で一緒だったTodd Bostonは、当初から出演でクレジットされていましたが、サプライズに押尾コウタロー氏が登場していたという、とんでもない(笑)ライブだったようです。「これが無料!」そう思うのも無理も無いですね!


 さて、私が今回足を運んだのは東京公演の初日(2018/07/13)。私がウィルの演奏する姿を目の前で見たのは、1985年の昭和女子大学で行なわれた『第8回ウィンダム・ヒル・イン・オリエント』以来なので、実に33年ぶりということになります。月日の経つのは、振り返って見ると早く感じられますが、やはり長かった!

 2016年に引き続き、今回もウィルはお気に入りのアーティストTodd Bostonを連れてきました。昨年ニューアルバム『ONE』をリリースしたばかりなので、もしかしたら彼のソロも聴けるかと期待していたら、演ってくれました!
  Toddが登場するのは、全体の6曲目からで、ギタリストとしての登場ではなく、Bo Fain製作のBamboo Flute(竹のフルートで尺八に似た音色の楽器)奏者として『植村直己物語』に収録されているリリコンパードを加えたアレンジの♪Prossesionalから。

 興奮し過ぎで先に行き過ぎてしまったので、時間を元に戻しましょう。

 1週間前に大阪から始まった今回の来日公演。私は東京公演の初日。この会場であるビルボード・東京初めてなのですが、ビルボード自体、アメリカン・チャートを趣味としている私にとって、ウィンダム・ヒルと同じく1980年代からポップスのチャートで親しんでいる銘柄です(笑)。
 ただ、 個人的には音楽に集中できないので、あまり食事をしながらのライヴは好きではないのですが、会場となってしまっては仕方がない、ということで、リーズナブルな2階正面席でウィルを待ちました。

  最初に登場したのは、当然のことながら今回の主役である押尾氏。

「ずいぶん大柄な人だなぁ…」と先ずはそっちに目が行ってしまったのですが(180センチあるのですね)、2階席にいながら目の前に迫るほどの感じがしたのは、そのプレイ姿も手伝ったかもしれません。

 申し訳ないと思ったのは(ライヴ終了後も)、押尾氏の楽曲はほとんど知らないため、彼の曲を初めて聴くことになってしまったことです。もうちょっと事前に予習をしてくれば良かったと思いました。とはいえ、初めて聴く曲だからこその新鮮な感覚や、そもそも曲自体が良かったので退屈などはせずに済みましたが、 彼のパフォーマンス(MCも含め)でとても共感を覚えたのは、曲の解説や、自身のウィルへの熱い思いでした。中でも彼がステージに立っている理由のひとつに上げたウィンダム・ヒルの思い出。

 この日は1STステージが18:00から。私は仕事もあるので2NDステージの21:30から足を運びました(欲を言えば二回とも見たかった) ウィルが登場するまで30分は経っていましたが、その間演奏したのはわずか3曲のみ。あとは延々(笑)ウィンダム・ヒルの四方山話。
  こちらも前のめりになって「うん、うん、そうそう!」と共感する話しばかりで、気がつけば僅か3曲ながら30分も経ってしまっていたほどです。もっと彼のウィンダム・ヒル・ストーリを聞いていたかったほど。

 そんな話の中でも特に嬉しく思えたのは「アーティストでレコードを選ぶのではなく、ウィンダム・ヒルというレーベルでレコードを買っていた」というくだり。何を隠そう、私も同じ。押尾氏をググってみたら、なんと私のひとつ下ということもわかり、親近感や、なるほど同じ経験をしてきた同志(全然違うのでしょうけど、勝手にそう思わせてもらいますね)として、嬉しくならないはずはありません。
  レーベルの話題の他にも、絶対に今の日本人アーティストの口からは出てこないようなレーベルメイトの名前が続々と出てくるので、思わず目頭が熱くなってしまうほどでした。

 さて、押尾氏が演奏したソロ3曲。彼の演奏は初めてだったから、MCは聞き漏らすことのないよう耳をそばだてていたのですが、今まで全く聞いていなかった仇があたり、どの言葉(単語)が曲名なのかわからず、オープニング曲からしてわからず(ごめんなさい)。

  2曲目は「エイエイオー」を会場全体に要求して♪大坂の陣。マイケル・ヘッジスのタッピングを思わせ、そのスタイルが♪Because It's Thereに良く似た雰囲気の曲で、前のめりで聞き惚れてしまいました。
  そしておかん(母)を素材に、若かりし日の思い出をまぜつつ演奏してくれた♪マザー。わずか30分でも、かなりのボリュームを感じてしまったのは、やはりウィンダム・ヒルの思い出とともに、その精神をも感じさせる彼の楽曲スタイルのためでしょうか? ただ、2階から眺めていると客観的に楽しめることもあって、特に最前列に陣取っている婦人たち黄色い声援が飛ぶたびに「あー、これはウィンダム・ヒルじゃないんだなぁ」と我に返らされる前半でした(笑)

 いよいよウィルの紹介。すでに夜の10時すぎ。会場の構造がステージのみで、ステージ脇がないため、客席後方のバルコニーからウィルの登場(押尾氏もここから登場してた)。 
 1曲目の演奏の前にギターの説明。1997年に亡くなったマイケル・ヘッジスがウィルのスタジオに忘れていったという、ウィルは「マイケルの置き土産」といって紹介したParlor Guitar。レコーディングでも時々奏しているギターですが、ステージで使うとマイケルの精神がここにいるような感覚となります。
曲は♪Uncondisional。作曲は1977年という、かなり初期の作品ですが、初めてレコーディングされたのは1997年にRob Eberhard Youngとのデュオで発表した『A SUMMER SOLSTICE』の中の1曲。この時はまだ♪Incondizionatamenteというタイトルだった曲(ウィルはよく曲名を変えてリ・レコーディングをよくやる)。ロブはイマジナリー・ロード・レーベルからリリースされた数少ないアーティストの一人で、マイケル・ヘッジスを思わせるアグレッシブなプレイは、マイケル本人も絶賛していたギタリストです。それにしてもメガネ姿のウィルも、いい感じで歳とった感がにじみ出ていてカッコいい。

(そういえば楽屋裏で私のメガネ・チェーンを見た奥様が「それ、いいわね」といってしげしげと手に取って眺め「彼は良く、俺のメガネはどこ言った? いつもと探しているから、こんなの欲しいわ」なんてこと言ってました)

 2曲目は押尾氏がステージをウィルに譲りソロ。♪The Impending Death Of The Virgin Spirit。オリジナルは2ndアルバム『IT TAKES A YEAR』の曲で、邦題が「無垢の心」と付けられています。ウィルを代表曲の一曲。2曲とも途中で止めてしまった様子でしたが、目の前で眺めていた押尾氏は「そんなこと大したことじゃないよ」、と興奮状態。そんな二人を見ていてコチラも嬉しくなって目が離せない状態です
 3曲目は押尾氏と再びデュオで♪The Bricklayer's Beautiful Daughter。日本では「ブリックレイヤー家の美しい娘」というタイトルでシングルカットされた曲。デュオによる演奏は、まるで小さな女の子が庭を飛び跳ねるように感じられ、娘というよりは少女を思わせる雰囲気が新鮮でした。

 二人の共演が、同じく3曲過ぎたところでお待ちかねのToddの登場。これまでのImaginary Road Studioでレコーディングされた2枚のアルバム(TOUCHED BY THE SUN、ONE)ではギタリストとして親しんできた彼でしたが、最初に手にした楽器はバンブー・フルートという形も音色も尺八に良く似た楽器(Bo Fain製)。曲は映画『植村直己物語』から、今は亡きチャック・グリーンバーグのリリコンが美しい♪Prossesional。これもオリジナルはウィルの1st『IN SEARCH OF THE TURTLE'S NAVEL』にソロでレコーディングされていた曲。2016年にアナログ化された『RETURNING』では、じつに5回目のレコーディングが行なわれ、途中アンサンブル化されたアレンジをソロに戻してレコーディングしています。

 次はウィンダム・ヒルのフォロワーのみの演奏で、それをウィルが目の前で聞いている、非常に感慨深い瞬間ではないでしょうか? 曲はToddの新しいアルバムに収録されている♪Celtic Heart。ギターも打楽器として表現する押尾氏との共演はToddにとっても良い刺激になるのではないでしょうか?そしてまた、このセッションが初めてとは思えない(大阪で演っているとはいえ)息のあった演奏を繰り広げてくれました。この曲の後半ではToddもギターに持ち替え、ギターバトルが良かった。

 ウィンダム・ヒルの新しい風を体験した後は、再びウィンダムの丘へ。1985年の傑作♪Visiting。ウィルの5th『PAST LIGHT』に収録。邦題もそのまま「訪れ」。ここで押尾氏はギターからベースに持ち替え「マンリングのパートだな」とニヤニヤしながら眺めていると、その通りに押尾氏が解説(今回のステージはすべて押尾氏が曲解説と通訳的なことを担当してくれたので安心)。トリオの演奏。

 そして「次が最後の曲」という紹介でウィルの4thアルバム『PASSAGE』に収録されている
♪Hawk Circle オリジナルはジョージ・ウィンストンとのデュオ。そして、なんの前触れも無く、この会場のウリのひとつとなっているらしいステージ後方の幕が開き、眼下の夜景になった庭園が目に入ってきました(二階席からじゃないとわからないかもしれません)。ウィルはそれを見て「トーキョー!」と叫んで両腕を上げて叫んでくれましたが、せっかくの演出も私には不要かなと思えました。というのは彼(ら)の音楽は自然の中での語らいに似たアコースティックサウンドの中で聴いてきたので、人工的な風景には違和感を覚えてしまうからです。やはり彼の音楽は自然の中で、ウィンダムの丘で聞きたいですね。

 一度ステージの奥(客席)に引っ込んだ後、拍手が鳴り止むはずもなくアンコールへ。登場したのは押尾氏とウィルの二人だけ。曲はウィルもメロディがいいと絶賛してくれたという押尾氏のオリジナル曲♪ナユタ。押尾氏はウィルに「じゃあ一緒に演ってよ!」と言ったら「やろう!」とOKをくれたということで実現した曲なんだそうで、最後の〆もウィルの曲で終わるのかと思いきや、この選曲は意外(嬉しい誤算)でした。ウィルが自分のステージで、自作以外を演奏するのは非常に珍しいかもしれません。

7月13日の曲目は以下のとおり。

01. (Kohtaro Ushio)
  Kohtaro Ushio; Guitar
02. 大坂の陣(Kohtaro Ushio)
  Kohtaro Ushio; Guitar
03. マザー(Kohtaro Ushio)
  Kohtaro Ushio; Guitar
04. Uncondisional(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Guitar
05. The Impending Death Of The Virgin Spirit(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar
06. The Bricklayer's Beautiful Daughter(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Guitar
07. Prossesional(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Guitar / Todd Boston; Bamboo Flute
08. Celtic Heart(Todd Boston)
  Todd Boston; Bamboo Flute, Guitar / Kohtaro Ushio; Guitar
09. Visiting(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Bass / Todd Boston; Bamboo Flute
10. Hawk Circle(Will Ackerman)
  Will Ackerman; Guitar / Kohtaro Ushio; Bass / Todd Boston; Guitar
11. ナユタ (Kohtaro Ushio)
  Kohtaro Ushio; Guitar / Will Ackerman; Guitar

 講演後、元ウィンダム・ヒルの担当だったKさんとお会いし、一緒に楽屋を訪ねました。Willは満面の笑みを浮かべてハグしてくれ、Toddや奥様のSusan(Noah Wilding)ともお話をすることができました。今回もKさんには感謝いたします。

 ウィルはこのあとすぐには帰らずファンのためにミーティングに参加してくれたり、アコースティックサウンド専門のレコード屋(ぷー横町)に顔を出したりと、日本を満喫して帰国したようです。また本来なら、私もKさんが企画したファン・ミーティングに参加する予定でしたが、前日からの急用が尾を引いて不参加となってしまったのは残念でなりません。

 さて、次はいつ来日公演が発表されるでしょうか? 本国ではウィンダム・ヒル・メイツとの『 WINTER SOLSTICE CONCER』や ウィルのスタジオでレコーディングされたアーティストたちとの『THE GATHERING CONCET』など盛んにステージに立っているので、今回の日本でも反応に触発されて戻ってきてもらいたい者です。

〜こぼればなし〜
 バック・ステージでずっと憧れていたNoah Wildingと会うことができました。ウィルはなんで彼女のことを知ってんだと不思議に思ってましたが、彼のプロデュース作品には必ずNoahの美声を聞くことができるし、何よりも私は彼女の声だけを集めたプレイリストをiPodで持ち歩いているから、なんとなく彼女がNoahなんじゃないかと思った、なんてことを伝えたら納得してくれました。Noahはひどく喜んでハグしてくれました。そして一緒に写真をと申し出ると「私のスマホでも撮りましょうよ!」って。そして 、かねがね希望していた「Noahのソロ・アルバムを作って下さい」と提案すると「彼女は目立ちたくないんだ(横でNoahはニコニコ)。でも彼女が望めばいつだって作るよ。そうだ!お前がプロデューシしたら良い!」「じゃあ作りましょう!」「いいわね!」なんて冗談を交えて(私はかなり本気にしたい…)最終電車のことも忘れて花が咲きました。

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