ウィンダム・ヒルの掲示板
Photo by Toshiharu Minagawa.

IT TAKES A YEAR / William Ackerman(WH-1003)
Produced by Scott Saxon.

01. The Bricklayer's Beautiful Daughter
02. Balancing
03. The Impending Death Of The Virgin Spirit
04. It Takes A Year
05. The Townshend Shuffle
06. Tribute To The Philosophy Of James Estell Bradley
07. The Search For The Turtle's Navel
08. Rain Sequence (From The Townshend Shuffle)
09. The Rediscovery Of Big Bug Creek Arizona

Windham Hill Records, 1977


 このアルバムはウィルの2作目にあたり、レーベルとしては3作目になるギター・ソロ作品集です。 作風としては前作1976年にレコーディングされた1stの延長線に当たるシンプルなサウンドですが、彼の代表作である♪The Bricklayer's Beautiful Daughterや♪The Impending Death Of The Virgin Spiritのオリジナルが収録されていて、のちのスタイルと微妙に違うことの発見ができるのが興味深いといえるでしょう。

 なんの化粧も施していないスタイルは、逆に曲の本質に迫れるのではないでしょうか。ギターというシンプルな楽器の響きが非常に美しく耳に残るのは、フィンガースタイルだからでしょう。
 彼はサティの楽曲に最も影響を受け、作曲に際しサティのようにシンプルな曲を書きたいとインタビューで語っていたことがありますが、1stに収録された曲に手を加え(ダブルトラックでレコーディングし、スケール感を増しています)、のちにリ・レコーディングし直して彼の代表曲となった曲たちの原石も、ここではすでに洗練された美しさと輝きを響かせています。

 1stの延長上にあたる今作も、多彩なスタイルを演じるウィルの様々な面を楽しむことができます。前記した1と3は、ファンにとってはおなじみの名曲ですが♪Balancingのジャケットを思わせるしっとりとした秋色は、全編に通じる(しかもジャケットにマッチした)雰囲気を持っています。それも艶やかに染まる紅葉ではなく、晩秋の木々の表情はため息が出るばかりです。1stアルバムのタイトルによく似た♪The Search for the Turtle's Navelではシタールを思わせる独特の響き、ウィルのもつスタイルが、多彩な表情であることを物語っています。
 また、エンディングの♪The Rediscovery Of Big Bug Creek Arizona”では、私の大好きなローリングストーンズの名作『BEGGARS BANQUET』に収録されている♪Factory Girlのリズム感が浮かんでは消えてゆきました。

 前半はウィンダム・ヒル・サウンドの前身とも思える瞑想的な曲調で、後半は1st同様様々なスタイルでスピード感のあるカントリー調の曲を配置して対比させているようです。
以下は日本盤のアナログに記載されている曲目。
 

Side 1
1. ブリックレイヤー家の美しい娘
1. The Bricklayer's Beautiful Daughter
2. バランシング
2. Balancing
3. 無垢の心と誘惑の影
3. The Impending Death Of The Virgin Spirit
4. イット・テイクス・ア・イヤー
4. It Takes A Year

Side 2
1. タウンシェンド・シャッフル
1. The Townshend Shuffle
2. ブラッドリーを賛える曲
2. Tribute To The Philosophy Of James Estell Bradley
3. タートルズ・ネイブル
3. The Search For The Turtle's Navel
4. 長雨
4. Rain Sequence (From The Townshend Shuffle)
5. ビッグ・バッグ・クリークの再発見
5. The Rediscovery Of Big Bug Creek Arizona

 

 このアルバムから、レーベルの看板とも言える美しい風景のジャケットが採用されるようになるのも特筆すべき点です。

「風景が音楽になり、音が風になる」

このキャッチコピーは、ウィンダム・ヒルが日本に紹介された際に生まれた言葉ですが、まさにその通り。うまい言葉を思いついたもんだなと思いました。私も、このキャッチに惹かれアッカーマンやジョージ・ウィンストンに導かれて彼らと巡り会い、今に至った訳です。『IT TAKES A YEAR』は、そんなレーベルのイメージ(「白バックに自然の写真」)を決定づけた記念すべきアルバム。
今作のデザインを手がけているのはRon Mayですが、この組み合わせ(といっても主役はやっぱり音楽)から制作者はひらめいたのかもしれません。
ウィンダム・ヒルのジャケットは、大学時代にデザインを学んだアン・アッカーマン・ロビンソン(ウィルの奥さんだった)が、プロダクションの段階でミュージシャンと事前に話し合い、考え方や曲への思い入れを十分理解した上で、リスナーのイメージを広げられるデザインを決定しているといいます。彼女はウィンダム・ヒル設立当時からシルク・スクリーンなどのアートや写真を手がけ、レーベルの経理面だけでなく、1979年からは、ウィンダム・ヒルの顔とも言うべくジャケットのほとんどを手がけるようになりました。クラシックの廉価盤にありがちな、ただ単に風景写真を選んでいるのではないのです。

「音楽の内容、アート、品質の高水準をトータルなものと心がけ、3つの要素のどんな些細なクレームも受け入れられるように、レコードにアンケート用紙を入れている。出来上がったレコードは自分のこどものように思っている」

 かつて私はアルバムタイトルになっている“It Takes A Year”で聞こえてくる効果音を

「彼の地元であるバーモントの風なのでしょう。ジャケットを眺めていると木の葉が今にも揺れ出し、ウィルのギターと調和しそうです。彼の部屋、あるいはスタジオの窓を開けた先に広がる風景の中に聞こえる風の音でしょうか」

なんて書いたことがありましたが、よくよく聞いてみると有史以前から繰り返される波の音でした。 タイトルの意味を考えてみると、(風でもいいのですが)波のほうがいろいろと考えさせられるかもしれません。