このページでは、私の好きな「デンオン・アリアーレ・シリーズ」を紹介します。もともとデンオン・アリアーレ・シリーズは、フルートの有田正広を中心としたバロック作品を紹介するというコンセプトでスタートしたシリーズでしたが、2013年現在までに、有田氏を中心とする日本の演奏家たちによるバロック音楽と、古典派の作曲家たちのカタログが多数リリースされるようになり、「バロック」にこだわることのない作品集をリリースています。 そして、このシリーズのユニークな点は、様々なアーティストの魅力あるアルバムが、私の好きな画家である有元利夫(1946-1985)の作品をジャケットに使用していることです。有元氏の作品は、自身もリコーダーなどのバロック音楽を奏でるだけあって、タイトルにも音楽用語や作曲家の名前が登場します。なので、音楽のコンセプトに見事調和しているのではないでしょうか。このおかげでビジュアル的にも統一感のあるシリーズとなり、ジャケットを飾って眺めながら音楽を楽しむことができるのです。 2009年は「アリアーレ・シリーズ」が始まってちょうど20周年に当たるために、リリースされたアルバムはすべてが「20周年記念」の冠がつけられています。わたくしがこのページをこさえるに当たり参考にしているのも、記念に配布された「創立20周年カタログ」という冊子です。これを眺めつつ、すべてのアルバムを揃えるのは楽しかった(けど、懐が泣いていた…)。さて、次の記念年まで、そんなカタログが並ぶのでしょうか。楽しみです。 ここでは、2009年にリリースされた3枚を紹介します。 |
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アリアーレ・シリーズ始まって以来の初ライヴ盤です。収録はすべて東京芸術劇場での公演からですが、前後に挟まれたピアノ協奏曲だけは別の日に録音されています。せっかくのライヴなんだしSACDだったらなぁ、と思います。
古楽器の音は、特に弦楽器は金属的な音(実際はガット弦だから羊の腸)が耳になじんでいますが、ここでもちょっとモダン楽器にはない音色が聞こえてきます。東京芸術劇場の特徴なのか、低音楽器の音が増幅されたような感じで、丸っこいです。これは管楽器にも同様で、古楽器のイメージであるウッディな音でまろやか。まろやかな管楽器、金属っぽいような弦楽器のブレンドという感じでしょうか。他のピリオド・オーケストラ(ブリュッヘンの18世紀o.とか、ホグウッドの、ガーディナーの、最近聴いたのはインマゼールのアニマ・エテルナ…)とはちょいと違った「ジュピター」という感じでした。しかし、この曲は20年前に、東京バッハ・モーツァルト・オーケストラを立ち上げた時に最初に選んだ曲だといいます。 1曲目のセレナードは楽譜にはないティンパニを有田氏が付け加え、序曲にふさわしい効果を上げています。ピアノ協奏曲で使われているのはコピーではなくオリジナル楽器。1809年にヤコブ・ヴァイメス(1767-1830)が製作したフォルテピアノ。弾いているのはピート・クイケン。父はアリアーレでもソロアルバムをリリースしているヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のヴィーラント・クイケン。そして「ジュピター」の名で知られる交響曲第41番も、あまたある古楽オーケストラとは一線を画する(これもホールのせいなのかなぁ)、ちょいと低音を強調したようなサウンドを聞かせてくれます。確かに神話の大神をイメージさせるような感じですか。 |
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「デンオン・アリアーレ・シリーズ」の中にあって、もっともSACD率の高い寺神戸氏。今回も期待に応えてSACDという仕様での登場です(やっぱ、これでなくちゃ)。 バロックのヴァイオリン作品を数々残してくれていましたが、2005年にベートーヴェンのソナタを全曲レコーディングして、バロックから一気にロマン派入口まで飛んで行ってしまいましたが、モーツァルトに戻ってきてくれました(とはいうものの、クイケン四重奏団の中でヴィオラに持ち替えて弦楽五重奏全集を、同じくクイケンらと協奏曲も全集を残してくれているので、ちょっと回り道をしていただけなのかもしれませんね)。ソナタのほうも全集へと発展するのでしょうか。 デンオン特有のワンポイント録音の表現力は、SACDでいかんなく発揮されているように思います(だからほかの録音もSACD化にして欲しいと思っています)。そのサウンドに、バロック・ヴァイオリンの明るい音色にモーツァルトの子供たちが喜び跳ねているようです。2.0chでもマルチでも、ヴァイオリンとピアノフォルテの共演が眼前に広がって聞こえてきます。まるで我が家のリスニング・ルームで演奏してくれているかのようです。ピアノフォルテは、モーツァルトが旅に出て、ここに収録されているソナタの作曲中に出会ったという楽器(のコピー)。ヴァイオリンはK301とK304ではGivanni Grancino(バロック・ヴァイオリン)を、K305とK306はCarlo Ferdinando Landolfi(クラシカル・ヴァイオリン)とに弾き分けています。これらの楽器の違いに関して、寺神戸氏も在籍していたミト・デラルコのページに解説があります(初期のアリアーレで通奏低音を務めた鈴木秀美氏の訳で読むことができます)。 発売記念にこのアルバムのアーティストページが開設され、今回のプロデューサーであるゲルハルト・ベッツのプロデューサーズ・ノートを読むことができます。期間限定かもしれないので、興味のある方、すでに体験済みの方も是非ご一読してみてはいかがでしょうか? |
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「デンオン・アリアーレ・シリーズ」は、有田氏のフルート作品から始まりましたが、1989年、1999年に続き、10年の間隔で3度目のレコーディングは千代子夫人とのデュオです。しかも選んだ楽器は古楽器ではなく1968年製作のベーム式のモダン楽器です。今まではオリジナルにこだわってきたので、奏でられる音色もやわらかく暖かい感触でしたが、今回のモダン楽器(金属)ではどんな感じになるだろうと、期待と不安がありました。しかし、シリーズ4枚目となるSACDというフォーマットということで、どちらにせよ、楽しみな一枚となりました。
実際に私がこのアルバムを聴いた環境は、1月の朝。関東では久しぶりの大雪となった日の、明けの明星ヴィーナスが、曙の女神アウロウラの羽衣に包まれている時間帯でした。昔でいえば「バロックの時間」あたりでしょうか。
SACDというフォーマットは、まるで録音した空気までもパッケージしているのではないかと思えるぐらいの臨場感が伝わってきます。ましてや(この寒いのに)部屋は窓を開けて、冬の冷気が部屋を満たしているような状態。そこへ、まるで目の前で演奏してくれているのではないかと錯覚してしまうような迫力。「迫力」と書くと、荒々しさを感じさせますが、ここでは奏者の動作が伝わってくるというのか。音楽以外の空気までもがスピーカーから流れてくるのです。そのスピーカーすら実態を感じさせないのはSACDのなせる業。部屋全体が音楽で満たされているかのような感触です。2chステレオでもこういう感じなのですから。 それにしてもこの時間帯ほどバロックが似合う時間帯はないのではないでしょうか? 聞きなれた旋律が、過去の2枚では通奏低音が加わっていましたが、今回のレコーディングではチェンバロのみ。しかも曲によって持ち替えもなく同一の音色… 曲ごとに解説書を見て「あー、これはスティンビーか…」などと気にせずにゆっくりと聴けるのが嬉しいですね。まぁ、できることなら古楽器でのSACDが聴きたいのです… |
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