10月30日「父親になった」
 昨日の秋一番の冷え込みに伴う雨も朝のうちに上がり、会社のビルから外へ出ると、水溜りこそ残っているものの、明るい曇り空からは、それ以上の雨が落ちてくる心配は無さそうだった。そんな天気も夕方には快晴をもたらし、今年一番の夕空を描き出してくれた。細く明るい三日月のすぐ下にぶら下がりそこねた宵の明星が雨上がりの冷たい西の空に姿を現している。空も気持ちいいほどに澄んで雲だけが赤く染まっている。

 今朝、勤務先に妻から電話があって陣痛が始まったという。僕は職務前の歯磨きをしていた。
 急いで家に帰ると「病院へ行ってます」のメモの隣に、陣痛の経過を知らせる一辺のメモ(4:45、5:35、5:43…)。しばらく待機しているとお義母さんからの電話で、出産は夕方6時ごろになりそうだというので、面会ができる15時ぐらいまで昼寝を…、と思っていたら1時間前に病院から電話があった。誰だよ、この心地よい気分を打ち壊すのは…。
「12時33分に、無事出産しましたよ」という。最初は何を言っているのか意味がわからなかったので「ハァ?」と聞き返すと、「3410グラムの元気なお子さんです。奥様も元気です」と言い直してくれた。なんだか実感の沸かないままお義母さんを誘って(実母はニュージーランド)病院へ向かう。妻との面会は時間制限があるので、その間、新生児室に行って対面させてもらった。(もちろんガラス越しで)

 妻の名前と並んで「3410g、50.1cm、12時33分」というプレート。小さな生命がスヤスヤと呼吸する赤ちゃんの寝顔があった。妻のおなか越しに童話を読んで聞かせた子が、今度はガラス越しに目の前にいる。僕は、自分の目で赤児を目の前にするまでは性別に関して知りたくなかった。だから名前も決めずにこの日を迎えたのである。目の前には男の子。この瞬間、普通、親になった実感を抱く人が多いと聞く。僕もそうなると思っていたのに、どういうわけか、自分が小さかった頃の記憶が蘇ってくるようだった。実に不思議な気持ち。
 家に帰る車のフロントガラス越しに、昨日見た細い月がちょっとだけ大きくなって見えていた(月齢2.8)。僕が生まれた日も同じく、宵の明星が西の空に姿を見せていた。

 妻へ、ありがとう。十月十日、ごくろうさまでした。

---星空夜話(2000)

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