1月10日 「フィリップ・カッサール」
 武蔵野文化会館で、フィリップ・カッサールのドビュッシー・ピアノ・ソロ全曲演奏会があるのを知ったのは昨年の暮れ。すでにその時は売り切れていたが、どうしても聴きに行きたかったからキャンセル待ちを頼んだところ、年始めに(これはぼくにとってはお年玉)キャンセルが出たという連絡が来た。

 朝の11時に始まって終わるのが夜の10時。全4部構成になっているが、11時間に及ぶコンサートである。ぼくにとってのドビュッシーはこれはもう僕の自然観を音で表現してくれる神様みたいな作曲家だから、1日で全曲聴けるなんてもう夢のようなコンサートだ。もうそれだけで感無量なのに、これに追い打ちをかけるようなことがあった。ひとつは第1部が終わって昼食をとりに三鷹駅に向かっていたら、なんと信号待ちをしているところへ、さっきまでステージでドビュッシーを奏でていたフィリップがたった一人で来たのである。当然握手にサインをしてもらったのはいうまでもない。
 もうひとつはずっと空席状態だった席に、外人さんがどっかりと座っていたのである。彼はぼくが座るのを待ってからニューッと身を乗り出してさっきまでのコンサートはどうだったかと聞いてきた。ぼくは当然にっこりと微笑んで「very good ! 」と答える。すると今度はやたらと早口で何やらまくし立てたのでぼくが「はぁ」と言うと、今度はゆっくりと「私は彼のマネージャーなんだ」と驚くことを言った。ぼくは「わぉっ!」と、周囲のことなんか気にせず大声を出してしまった。ぼくはさっきもらったサインを見せると、マネージャーは鞄の中からレコーディングデーターやら、各国のコンサート評やらを見せて読んできかせてくれた。
 フィリップもマネージャーもぼくのことを「Are you Pianist?」とか「Are you Musisian?」などと不思議がってたが、はたしてぼくみたいなのがそんなことをしている人物に見えたのだろうか。確かにこの日も無精ひげを生やしていったから、はたから見たら社会人になんか見えないことは確かだっただろうが…。

---星空観望(1999)


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