1月16日 四街道自然同好会
『中央本線と小海線というローカル線を乗り継いで、文豪島崎藤村が自然とそこに住む人々とのふれあいを『千曲川のスケッチ』の舞台となった小諸は中棚を訪ねました。
2年前の夏にも訪れているので、今回は特に藤村ゆかりの地を歩くことを目的にしていたわけではなく、ローカル線の気長な旅の終点として小諸を選んだのと、その旅の疲れを癒してくれる中棚荘(藤村が良く利用した温泉宿)に泊まりたかったからというふたつの理由だけでした。
以前この宿を利用したときには露天風呂などなかったのですが、新装されて露天風呂が増え、露天風呂から仰ぐ星空の風情に取り憑かれてしまうと、たとえ外気で氷点下になろうとも「露天、露天」とつぶやきながら湯舟につかります。
そんなわけで深夜になってからも露天風呂につかり、頭上に輝く冬の星座たち、眼下に流れる千曲川、静かに眠りについた町の灯りを眺めているのは僕だけでした。人家一軒一軒の屋根には、月の光が降りそそいでいるおかげで雪が積もっているでしたが、ここ小諸に雪はありませんでした。ただ、遠く浅間山の頂きに白い帽子がのかっているぐらいです。でもそこから吹き下ろされる浅間おろしが身を切るような冷たい風になって吹き抜けていきました。
露天風呂から夜明けを見たくなり、友人の制止をふりきって浴衣のまま外に出ました(朝の天気予報では、このときの気温が氷点下9度)。まだ夜の闇が去りきらないうちから、ちょっと高台にある露天までの石段を常夜燈の明かりをたよりに歩き、湯気がもうもうとしている岩風呂に飛び込みました。すでに明けの明星(金星)と夜半の明星(木星)は並んで東の空にいます。ちょうど枕に良さそうな岩に頭をのっけて仰ぐと、湯気の中に北斗七星が見え隠れしていました。
夜が色を失い白々と明けてくると、さっきまでの闇の中に木々のシルエットが浮かんで、木枯らしの中で揺れています。その冬枯れした梢の中に輝く明けの明星は、まるで最後のひと葉が木枯らしに打ち震えているようにまたたいて見えました。』
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