2月6日 四街道自然同好会
 『新春とはいうものの、北風の駆け抜ける日は風のない時よりも体感温度が下がるので、いつもより寒く感じ、電線をふるわせたり枯野をさつさつと吹き抜けるようになことになろうものなら、人々を足早に家の中に閉じこめてしまうようです。
 北風というと、何となく寂しく辛いようなイメージがあって、“寒い”という言葉だけでは表現しきれない響きのため、とかく嫌われがちでです。でも、この北風が吹いてくれるおかげで、太平洋側では安定した晴天が続き、汚れた空を澄み切った青空にしてくれているのです。

 そんなことを言ってみても、北風が雨戸を揺するような星冴ゆる夜には、僕だって家の中で暖をとっていたいのですが、こんな夜ほど星たちはいつになく輝きを増してくれているから、部屋の中にこもって「どうしようかなー」ってグズグズしていると、決まって北風が雨戸をドンドンたたきながら「何やってんだい!今日は最高の星空だぜ!」と、僕を引っぱり出そうとせかすのです。

 窓越しに見ると、オリオンや天狼シリウスがギラギラしているのが見えました。窓を開けると人家の屋根の上にも小さな星座たちが架かっています。星の見えない星空に双眼鏡を向けると、人の目に触れることのない淡く細かい星がたくさんあって、どこかとんでもなく遠いところまで来てしまったような錯覚にとらわれてしまいました。

 こんな北風の吹く星冴ゆる夜には、カノープスというめったにお目にかかることのできない星が見えるかもしれないので、僕は仕方なく(?)北風の誘いに乗ります。

 この星は全天一の輝星“天狼シリウス”に次ぐ明るさの星なのですが、日本からだと空気の厚みによって光が吸収されてしまい、赤く濁った暗い姿にしかなりません。そのおかげで、その光が星とは思えず、地上の灯りと見間違えてしまうことすらあります。

 こんな性格の星でも昔からこの星の存在は知られていて、地平線上を這うようにしか姿を見せなかったので、かなり珍重されていたようです。そのため古くからこの星のことを”南極老人星”と呼び、その姿を一目でも見ることができたなら、長生きができるといわれてきました。南極老人とは七福神の中の寿老人のことで、長寿を授ける神のことです。

 この言い伝えを聞いて、今ほどそれが当てはまると思うのは僕だけではないと思います。というのは、この星はよほど空気の澄んだ所でないと姿を現さないからです(もっとも、南に行けば行くほど見やすくなりますが…)。空気がきれいであるためには、森や緑といった自然が豊かでなければならりません。なぜなら森が新鮮な空気と水を生み出してくれているからです。人間の健康が空気と水によって左右されているということは、過去の公害裁判の判決からも明らかです。星の見え方ひとつが、人間をはじめとする生物圏に多大な影響を与えているというとオーバーかもしれませんが、星の輝きが生活環境に大きく左右されているのは事実です。そう考えれば星の世界が遠いところの話しではなく、自分たちの生活と深く関わっていると思えるでしょう。

 カノープスは空気が汚く、空を狭くしてしまうような建物のある町には姿を現してくれません。ここ四街道でも環境整備という名の下に、森や雑木林が伐採され、建物や夜空を照らしだすネオンの数だけが増え続けています。僕が初めてカノープスの姿を見てから15年近くたちますが、残念なことに見える場所や日数だけが減り続けています。

 世の中には見たこともなければ存在すら知らない動植物がたくさんいます。姿を消してからその存在を知り、初めて環境の変化に気づいた、ということが一番こわい事ではないでしょうか。』

---四街道自然同好会・2月15日号(1995)/一番星のなる木

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