発売当初のレコード帯には「電子音楽」と銘打ってあったことを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。アメリカでは、一足先にパトリック・グリースンによってシンセサイザー化されていた楽曲。冨田氏はファーストアルバムにドビュッシー、続いてムソルグスキー。3枚目にはストラヴィンスキーと前二作で取り上げられた2人の作曲家を再び登場させましたが、4作目にホルスト。確かに宇宙的なサウンドが第一印象にあるシンセサイザーですが、パトリック・グリースンとほぼ同時期に題材として取り上げられたことに多少の違和感がありました。
冨田氏の「音の雲」の中に「ホルスト騒動」があります。これによると、彼にホルストをアレンジするようにリクエストしたのが、トーマス・シェパード氏だったと綴られていました。これで納得。
アメリカでは、映画の世界でハリウッドのような大作と並行して、ケーブルテレビ網で同じ題材によるドラマを制作するのが常識になっています。当初、この話を読んだときに、ふと、そのことが脳裏をよぎったのですが、もしかするとマーキュリー・レコーズ(パトリック・グリースン)への対抗意識として、トミタサウンドなら太刀打ちできると判断し、この楽曲をリクエストしたのではないでしょうか。「トミタならパトリックなんかよりもっとすごいアレンジをしてくれる」と思ったのでしょう。ここにアーティストには見えないレコード会社の戦いがあったのかもしれません。 |
2003年には、満を持してDVD-Audioによる音の次元をリミックスし直したアルバムがリリースされました。一部の間で話題となりましたが、現在ではフォーマットが流行らず後続がほとんど断たれてしまいました。冨田氏の書かれた『音の雲』の中で、このフォーマットによる続編に期待を寄せていたのですが… そういう私も、当時はこのフォーマットに親しみが持てず(高価だったということもあって)、ほとんど意識していませんでした。
5.1chにしてしまうと、フロントスピーカーに音が定位してしまうので、あえて4chに作ったというのも、サウンドクリエーターらしい冨田氏のこだわりでしょう。これを聞いてしまったら、SACDでも色あせてしまいます。これに太刀打ちできるとしたら、先日、幕張で開催されたコンサートのように、広い会場で大スピーカーから遠慮なく流れ出すライヴ以外にないのではないでしょうか。 |
このSACD化はレコード会社の宣伝によると、2012年に冨田氏が80歳を迎えるにあたり、立ち上げたISAO TOMITA PROJECTの一環としているようです。今後(というかCOMING SOONになってます)、月の光、展覧会の絵、omnibus album (宇宙幻想・大峡谷etc)・・・と続くようです。楽しみぃ! この新たに蘇った音の迫力は、さすがSACDの威力でしょう。もはやホルストの「惑星」ではなく、完全なる冨田の「惑星」であることは疑いの余地もありませんが、今回は木星と土星の間に「イトカワとはやぶさ」が博士へのレクイエムとして追加作曲されました。遠い宇宙を孤独に旅したはやぶさへの思いが、しみじみと伝わってくるようです。 『レコード芸術』誌2012年6月号のインタビューの中で、ご本人は1977年の同作品を「封印したい」とか語っていましたが「嘘でしょ!と思いました。そういえばかつてNHK-FMの第5夜の中で「僕の意志とは関係なく、奴ら(コンピュータ)の意志の方が前面に出てしまい…」と語っていましたが、このアルバムを聴いているとき、その事を思い出しました。「当時はこの音を使いたかったのかなぁ」って。 ジャケットなどは大幅に差し替わっていますが(う~ん、これには正直閉口してます)、アナログ時代の音がそのままクリアになり、それがSACDのサラウンドと合わさってサウンドクラウドが、更に広がりと奥行きとを形作っています。 とにかくびっくりしたのは、低音のすさまじいこと。1曲目の火星からズーンと体に響いてくる低音は、今までに体感したことがありません。まさにSACDの恩恵ではないでしょうか。残念ながらDVD-Aは自然消滅気味となってしまったので、これからは是非とも全作SACD化を実現してもらいたいものです。 |
1976年版 | DVDオーディオ版 | SACD版 | |
管制塔のやり取りと打ち上げ | 03'10" | 03'54" | 02'50" |
火星 | 08'07"(11'17") | 07'37"(11'31") | 08'17"(11'07") |
金星 | 08'39" | 09'22" | 09'21" |
水星 | 05'24" | 04'39" | 04'44" |
木星 | 09'24" | 07'39" | 07'33" |
イトカワとはやぶさ | - - - | - - - | 03'23" |
土星 | 08'04" | 08'14" | 07'58" |
天王星・海王星 | 09'48" | 09'25" | 09'14" |
「トミタの惑星」は、宇宙空間を漂うような、宇宙から呼びかけてくるようなサウンドで始まります。そこへ木星の第4主題のメロディがオルゴールで奏でられるのですが(これがエンディングと呼応している)、DVDオーディオ版、SACD版のオープニングは、それらはカットされ、いきなりのファンファーレで始まります。 上記の時間は、各プレイヤーでの実測ですが、オープニングの「管制塔~」は曲目としてクレジットに表記されているのではなく、あくまで私が個人的に表記したものです。実際のクレジット上では、それらを含めて「火星」となっていて、火星の()内の時間が「火星」としてクレジットされています。 また、レコードでは、火星、金星、水星までがA面、木星、土星、天王星、海王星がB面にそれぞれ収録されていました。 |
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