星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)



ようこそ、ホルストの『惑星』のページへ。ここでは、英国の作曲家ホルストが書いた『惑星』についての解説と、各曲のお薦め演奏、ディスクガイドを紹介しています。また、『惑星』に関するニュースや、ホルストの生きていた時代に起きた天文現象をクラシックの世界と平行して年表を作ってみました。そこに何が見えてくるでしょう?


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惑星の曲順について
 この組曲について、多くの方が天文や宇宙の世界から誘われて耳にしているのではないでしょうか?或いはオーディオ的な・・・

 ホルストが書いたこの7つの管弦楽組曲に対し、少なくとも誰もが最初に感じる疑問があると思います。それは曲順です。思い出すのは「すい・きん・ち・か・もく・ど・てん・かい・めい」です。これは太陽系のシステム、つまり太陽から近い順に並んだ惑星の名前を覚えるために、多くの人が学校から、家族で習ってのではないでしょうか? しかしホルストの書いた惑星の順番を、同様に言ってみると「か・きん・すい・もく・ど・てん・かい」となります。しかも「めい」がいない。これは一体どういう並びなのでしょうか? 作曲者の気まぐれ?大きい順?あるいは・・・


 この疑問がすぐに解けた方は、そうとうの星占いマニア!(笑) ホルストが占星術にハマリ、「お気に入りの悪癖」と自ら呼んだ没頭した占星術に答えがあります。

  占星術と言えば思い出すのは星座、黄道十二宮です。占星術に必要なアイテムとして十二の星座、正確には十二の宮(領域)があります。肉眼で見る事のできる星座に惑わされて、本来の伝統的な占星術(プトレマイオス、マニリウス etc.)が使用している「宮」とは別物なのですが、ここで黄道十二宮と実際の星座たちの関連を書くスペースは無いので割愛させていただきます。

 そうした伝統的な占星術を離れた新時代の占星術師家たちが、「十三星座占い」などという滑稽な星座占い(こちらは星座占いと表現した方がよいでしょう)を作り出しましたわけです。あくまでも解釈側の一方的な考えで。

 話が横道にそれてしまいましたが、この十二宮にはそれぞれ守護星というのがあるそうです。それらを順に並べてみましょう。



守護星
白羊宮
火星
金牛宮
金星
双児宮
水星
巨蟹宮
獅子宮
太陽
処女宮
水星
天蠍宮
火星
天秤宮
金星
人馬宮
木星
磨羯宮
土星
宝瓶宮
天王星
双魚宮
海王星



 白羊宮が最初なのは、占星術が完成したころに、太陽の通り道である黄道と、天の赤道が交わる春分点が白羊宮に位置していたからです。この春分点を基点し、十二等分すると30度の領域ができ、その「均等な30度の領域が宮」となります。これを1930年に制定された星座の領域に移し替えてしまうと、太陽が通過する期間が全てバラバラになってしまい、結果、「十三星座占い」なんていうのを生んでしまったわけです。

 さて、この守護星の順番に注目してみると、なんとなく答えが見えてきます。最初に火星。ホルストの組曲「惑星」の第1曲です。続いて金星、水星と並んでいきます。まさに組曲の第三曲までが並んでいます。ここでは月と太陽は惑星ではないので省かれいますが、古代の考えでは地球は惑星ではなく、太陽と月は惑星とみなされていました。処女宮からは既に適用されている惑星が再び登場しているので更に省きます。すると次は木星、土星、天王星、海王星と並んでいます。つまり、この並び(占星術)をホルストは組曲「惑星」の曲順に採用したようです。 なお、1930年にアメリカの天文学者クライド・トンボーが発見した新しい天体の存在も、ホルストの耳に届いていたようですが、彼は書き加えることはありませんでした。天文学の主権がアメリカに移っていたため、大陸では興奮に包まれていました。当然ホルストのこの騒ぎは認知していましたが、この組曲を書くに当たって、もっとも影響を受けたとされるアラン・レオ(1860-1917)の著作に当然、冥王星の記述がないのはもちろんのこと、ホルストの考える宇宙観を考えてみれば納得するのではないでしょうか?つまり、ホルストの頭の中にあった宇宙観は、あくまでも占星術的な立場であり、当時としては最新の海王星を含めた程度の宇宙です。現代の占星術の土台はプトレマイオスからマニリウスに受け継がれ人気を博することになりますが、 その当時の宇宙は地動説ではなく天動説です。惑星も楕円軌道ではなく正円の軌道をもって地球の周囲を回っていました。プトレマイオスもマニリウスも、ピュタゴラス~プラトンの「天球の音楽」を聴くことができた時代に生きていました(うらやましい)。

 ホルストの惑星は全7曲。天動説の時代の惑星は、太陽も月も惑星と考えられていたので7つ(レオンの一覧表どおり)。地球が惑星の一つだと正しく認知されるようになるのは大航海時代だとされています(カール・セーガン)。ピュタゴラス学派やプラトンの考えた天球には、それぞれの音階を発するセイレンたちが天球を司っていました(プラトンの『国家』)。その数は7。そして、それらの天球の外側にはもう一つ、恒星天という天球を配置しています。プラトンの弟子であるアリストテレスが批判した大音声を発するはずの第八天です。ホルストは最新の占星術を描きつつも(ホルストは天体であるプラネットを描いたのではない。本人談)、それぞれの惑星(天球)にはプラトンのセイレンは登場させずに惑星本人(つまりそれぞれの惑星をつかさどる神々)に旋律を歌わせ、最後の海王星のエンディングでは、第8天を司る恒星天を回すセイレンが登場させました。あの歌声はまさに第八天となる恒星天のセイレンの歌声。海王星の外側の深遠なる奥行きをデザインしたのです(あくまで持論の域をでませんが…)。そう考えると、ホルストの惑星には冥王星は必要としていなかったでしょう。

占星術の話題が出たので、私が占星術に関して、常々抱いていた疑問を…

 新惑星である天王星、海王星がどういういきさつで、誰が、いつ、どういう理由で性格付けを行ったのか知りたいと思っています(まだ辿り着いていない…)。 そして、天王星という名前に落ち着きましたが、それ以前は「ジョージの星(ハーシェルの提案)」だったり「ハーシェル(業績を讃えているので当然。しかし英国以外では猛反発、結局天王星(Uranus、日本では)という名前はドイツ人のボーデの提案があって、徐々に浸透)」という名前でも呼ばれたりしていましたが、仮にそのどちらかかの名前が採択された場合、占星術はどういう立場をとったのでしょうか? 国王やハーシェルの性格が反映される? 笑えます
 私は星のソムリエとしてカール・セーガン的立場にいるので、あくまでも占星術に関して扱うのは「余興」程度であって、占星術が生まれる背景や、その後の歴史に興味はありますが、占星術が行っている事に対して、ホルストのように傾倒し、興味があるわけではではありません(笑)。 息子が毎朝テレビの「占い」に一喜一憂する姿を見てニヤニヤするばかり・・・
おしまいに…
 この組曲には地球と、当時はまだ発見されていなかった冥王星が作曲されていません。しかし2000年になってこの組曲の最終曲、つまり海王星のあとに“冥王星”を付け加えて演奏される機会が増えてきているようです。

 これはホルストが作曲したものではなく、ケント・ナガノがホルスト協会の会長であるコリン・マシューズに作曲依頼をしてマシューズが書いた曲です。


冥王星-再生をもたらす者
(The Renewer)

 と名づけられた曲は、英国で慣習になりつつあるという噂を聞いていますが、それは全くの別物であり、ホルストの『惑星』として、あるいは海王星の後に続けて(らしい)演奏されるのはどうかと思います。まして冥王星の象徴となっている神話でのプルトーは冥土の神であり、再生は望んでいない(神話の中では死人を生き返らせた医師アスクレピオスを殺害依頼しているぐらい)神です。これは作曲者の研究不足としか言いようがありません。しかし、占星術の世界では、新しい惑星が発見されると、発見された当時の世界観を当てはめ、冥王星は「再生、破壊」とか意味しているんだとか…(はぁ~)
 ちなみに、世界初録音は、上記ジャケットのマーク・エルダー指揮、ハレ管弦楽団によるもので、リリース当初はかなり話題に昇ったようですが、私はラトルが指揮したディスクを購入し「とうとう」耳にしてしまいました。2006年8月24日に冥王星は惑星ではなく矮惑星という天体に属することになり、惑星でなくなりました。今後、マシューズの冥王星は、ボーナスディスクに収められている曲と共にアンコールピースとして演奏したらどうでしょうか。

(追伸)2007年7月26日の演奏会でとうとう聴く機会を得ましたが、ホルストと同じ軸で演奏するのはどうかと思いました。やはりアンコールピース(でも海王星の神秘で深遠な宇宙を体験して終わりたい)、いや、前菜として前に演奏した方が良いんじゃないでしょうか、などと思いました。コーラスも入っちゃうけど。
コリン・マシューズ
ケント・ナガノ

組曲の曲順について
 

背景画像は「Adagio」と書かれていますが、「金星」の直筆譜です。
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