星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

ようこそ、ホルストの『惑星』のページへ。ここでは、英国の作曲家ホルストが書いた『惑星』についての解説と、各曲のお薦め演奏、ディスクガイドを紹介しています。また、『惑星』に関するニュースや、ホルストの生きていた時代に起きた天文現象をクラシックの世界と平行して年表を作ってみました。そこに何が見えてくるでしょう?

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 現在(2021年11月)、この曲のディスクが何種 出ているのか見当もつきませんが、私が聞いたアルバムの中で、曲毎に絞って、各曲の「この演奏」を選んで、各曲を説明をします。
なお、緑色の解説は、アルファーエンタープライズからリリースされた【2台のピアノ版】(FACET FCD8002)に添付されていたジャンヌ・M・ウィン(桐沢聡子訳)を転載しました。

 
アレグロ、ハ長調、4分の5拍子。

 弦のコル・レーニョ奏法による力強いリズムで始まります(ダダダダン、ダダダン)。このリズムが全曲を一貫し、金管楽器による3つの主題によって構成されています。Mars(火星)はローマ神話では軍神ですが、この曲は2度の世界大戦の戦車の戦いのドキュメンタリー映画などでB.G.M.として再三再四使われてきたようです。しかし、この曲だけは第1次世界大戦の開戦前に完成されていて、当時、今日で言うところの戦車は発明されておらず、またホルストは機関銃の音も聞いたことがなかったといいいます。それで、その後の世界を予見した音楽、という解説を目にすることが多々あります。1914年5月に着手。

《トランペットのファンファーレもなく、らっぱの音もなく、ドラムの連打もない−−−勝利や栄光を暗示するものを、この戦争の神の凄みのある描写では聞くことがない。主な題材には、発砲したときの耳障りな音で無常に打ちたたいている、5/4拍子のリズミカルな装飾音、そして、半音離れて平行に動く三和音の連続で作られた、スタッカートのリズムの主題がある。緻密なテクスチャーや音の集積が、巨大な力を意味している。》

【1971年盤のメータがお勧め!】
 冒頭の叩きつけるようなこの突進、荒々しいさ。ワイルドと言う表現がぴったりの火星。35歳のときの演奏。火星にこめられた「戦い」に、これ以上の演奏は、まだメータ以外聴いたことはありません。ショルティの突進力も凄まじい馬力がみなぎってます。

アダージョ、変ホ長調、4分の4拍子。

 前曲の火星とは対照的に、穏やかで叙情的な曲。あたかも、宵の明星が澄んだ夕暮れの中に輝く情景を思い起こさせます。のびやかなホルン・ソロで始まり、それを木管が彩る牧歌的な第1主題、ヴァイオリンの優美な第2主題、そしてオーボエの甘美な第3主題によって構成されています。なおローマ神話のVenusは、ギリシア神話では愛と
美の女神アフロディテ。


《これは静けさとやさしさに満ちている---前楽章に対する強力なアンチテーゼである。柔らかな和音が鳴り響き、次に金星の主題に移る。これは揺れるような旋律で、5度の音程が意図的に用いられている。漂うような、成層圏の特徴が、ほとんど中高音域だけを用いることによって、表現されている》

【1926年録音のホルストがお勧め!】
 モノラル録音ですが、ここで耳にする音楽は、一切の感情を排除した演奏になっています。テンポが速いのが特徴でしょうか。ただし、純音楽であるにもかかわらず、宵の明星が美しく瞬く情景が時間を超えて目の前に広がってくるようです。このチープな音が素晴らしい。

 ヴィヴァーチェ、8分の6拍子。
 軽快なスケルツォ風の曲で、第1主題はチェレスタと木管、第2主題はヴァイオリンからいろいろな楽器に受け継がれてゆく。流麗な曲で飛翔感にあふれ、ホルスト自身は「心の象徴」と語っている。

《ホルストの「水星は心の心象である」という謎めいたコメントは、繁栄の神の、頭の回転の速さがこの音楽描写の第1の焦点であることを示唆している。事実、このスケルツォは、そうとうの創造力と賢明さを示している。ある音域から別の音域に素早く動くメロディーの断片は、変ロとホに交互に集中する。この多調の展開をホルストはここで初めて用いているが、それと分からないほど手際よくやってのけている。2つの拍子---3/2拍子と6/4拍子---の同時使用も、構成力に富んだやり方である》

【1926年録音のホルストがお勧め!】
 金星に続いて室内楽的、というよりも翼のある使者よろしく、小回りの利いた演奏です。大げさでなく、さっぱりとしたテンポの速い演奏は、目をつぶると古の神の姿、韋駄天が天空を駆けめぐる情景が目に浮かぶようです。

 アレグロ・ジョコーソ、ハ長調、4分の2拍子。
 Jupiter(木星)は神話の神々の王だが、ホルストは常識的な意味での悦びと同時に宗教的、あるいは国民的な祭りと関連のある式典的な悦びもかねていると語っている。はじめに3つの主題がホルンの晴れやかな響きによって歌われるが、第3主題は4分の3拍子の民族舞曲風のもの。中間部はアンダンテ・マエストーソにテンポを落とし、親しみやすい民謡風の第4主題が壮麗に歌われ、第1〜3主題が再現されたあと、第4主題が回想的に混合されて曲を閉じる。祝典的な気分が満ちあふれる輝かしい音楽である。なお、私的な初演の最初のリハーサルの時、この曲が聞こえると、廊下にいた掃除婦たちはモップやバケツを持ったまま踊ったというエピソードも伝えられている。
 またこの曲はイギリス第2の国歌として親しまれているが、本人自身の編曲により『祖国よ、私は誓う』という合唱曲もある(現在“LAST NIGHT OF THE PROMS COL”で聴くことができます)

《「木星は普通の意味での快楽と、宗教的、民族的な祝祭と結びついた、もっと儀式的な歓喜の両方をもたらす」(ホルスト)英国的なメロディーをいくつか並べている中で、この小踊りして喜んでいるような楽章は、イギリスの音楽がホルストに与えた大きな影響を物語っている。彼はスウェーデン系であるが、母国である英国の文化を完全に吸収していた。この壮大な賛歌は、ま簡潔で心のこもった方法で表され、次に楽章の終わりに向けて、もっと華麗に表現されているが、ホルストがモーリー大学での合唱指揮の活動をして知った旋律なのである後に、彼自身がこの美しい旋律を、“祖国よ、私はあなたに誓う”の歌詞に曲をつけて合唱曲にしようとしていた》

【1966年録音のボールトがお勧め!】
 この曲に関して、未だにボールトを越える感動を与える演奏には巡り会っていません。あの第4主題に入る前のタメ、このわずかな絶妙さと歌い回し。5度目のレコーディングでも本人は再現できていません。まさに一期一会。言葉には言い表せません。 

 アダージョ、ハ長調、4分の6拍子。
 ホルストは「肉体的な老化だけではなく、すべてを成就したいというヴィジョンも含まれている」と語り、この曲をもっとも好んでいたという。フルートの憂いをたたえた調べに導かれ、コントラバスが沈痛な第1主題を奏したあと、それを変形したコラール風の第2主題は金管で登場し、ゆったりした行進を続けながら次第に盛り上がり、金管も加わってクライマックスに達したあと、遠ざかるかのように静まり、穏やかな宗教的な雰囲気で曲を閉じる。

《「土星は肉体的衰弱だけでなく、充足した洞察力をもたらす」(ホルスト)作曲家自身のお気に入りだった、この痛烈な楽章についてこう述べている。老年の衰弱してゆく面は、始めの部分で描かれている。2つの九の和音が交替するうちにまずは不承不承といった風に、増4度を特色とする上行のモチーフが現れる。解決の、低音域の下行の主題が現れることでわかる新しい部分は、より積極的な外観を呈している。ここで上行のモティーフが再び形を変えて現れるが、オリジナル版の緊張した増4度は、ここではもっと和らげられて完全なものになっている》

【1978年録音のショルティがお勧め!】
 通常盤ではなく米国のMFSLがリマスターしたコチラの盤は、中〜低音域の凄まじい迫力に耳を奪われます。火星にしても天王星にしてもショルティの面目躍如と言ったところでしょうか。しかし圧巻はこの土星。ジワジワと迫り来るクライマックスに向けての迫力と浮遊感はMFSLで初めて味わえました。これが見つからなければショルティの演奏をただ通り過ぎていたかもしれません。

 アレグロ、ハ長調、4分の4拍子。
 金管のファンファーレに先導され、全曲を一貫する音型による第1主題はファゴットが、飛び跳ねるような第2主題はホルンと弦が、そして堂々とした第3主題ははじめテューバが奏し、躍動的に盛り上がるが、突然、オルガンのグリッサンドがそれを中断し、静寂が戻る。ホルストの魔術的な管弦楽法が鮮やかに発揮されている。マルコム・マクドナルドの指摘(1987年)によると、天王星の動機、すなわち「G-ES-A-h」は、ホルストの名前GuS(=Es)tAv Holstの音名化。

《3つの部分からなる呪文が、この素晴らしい魔術の神を呼び出し、子どものようなふざけ屋の精神で、彼の悪戯のレパートリーを披露している。力強い和音が突然のグリッサンドではほとんど聞こえなくなるが、これが彼の最大の策略である。魔法使いがひと吹きの煙の中に消え、突然、我々を楽しませるためにおどけた仕草で再び現れる、といった印象である》

【1971年録音のバーンスタインがお勧め!】
 ここまでオルガンの音を前面に出した演奏はありません。まさにマジシャン!といったオーバーな演出で観客を「あっ」と言わせる演奏です。

 アンダンテ、4分の5拍子。
 すべての楽器がピアニッシモで演奏される幻想的な音楽。第1主題がフルートで現れ、中間部ではハープ、チェレスタ、弦による天国的な雰囲気を醸し出すなか、舞台裏から無歌詞(ヴォカリーズ)の女声合唱も聞こえてくる。さらにクラリネットが第2主題を奏し、瞑想的な雰囲気となり、永遠の彼方に消え去るように曲を終わる。非常に美しく、神秘的な雰囲気がみなぎっている終曲である。

《この楽章は、謎めいていると同時に洗練されている。オーケストラ版では、すでに大きなアンサンブルが女声コーラスを伴って実行に移しているが、楽章全体を、ダイナミック・レベルの出きる限り低いところに保っている。事実、ホルストは自分のオーケストラ版スコアに「死んだ音で」と鉛筆で書き入れさえしていた。明確な主題がないので、どこか形が定まらないような特徴がある。そのため、我々は和音群とはためくような装飾音を用いている。和声はこの世のものとは思えない感じがあり、そこにホルスト特有の、根音が長三度離れている単三和音の展開を上手く用いている。この絶えず抑制されてはいるが、深いところで動きのある「惑星」の集結を聴いていると、ホルスト自身も感じたように「この世のすべては・・・ひとつの奇跡である。いや、むしろ、宇宙自体がひとつなのである」と感じるのである》

【1989年録音のコリン・デイビスがお勧め!】
 小沢征爾がボストン交響楽団を指揮したアルバムも、室内楽的な美しさを持っていますが、なんといっても神秘感が加わったデイビスの演奏が一番です。カラヤンが存命中に、この演奏。きっとカラヤンも嫉妬したことでしょう。

「惑星」各曲と名演の紹介
 

背景画像は「Adagio」と書かれていますが、「金星」の直筆譜です。
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