星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 オルガンで『惑星』というと、ラトビアの作曲家ロムアルツ・ヤルマクス(1931〜)が2002年に作曲した9つの組曲がありますが、録音はまだないので、私は聴いたことがありません(全曲演奏は、世界に先駆けて日本が最初と地となりました。オルガン演奏は浅井美紀。2005年9月23日に武蔵野市民文化会館小ホールにて)。ヤルマクスの惑星は、太陽に近い順に、水星から冥王星までの9つの惑星を作曲。作曲当時はまだ冥王星が惑星のままだったので、今や貴重な存在かもしれません。聴いてみたい曲です。
  また、1998年に、ホルストの組曲と同じ7曲で作曲したデンマークのベント・ロレンセン(1935〜)の「惑星」もまたオルガンのための作品です。

 さて、ここで紹介する「惑星」は当然ホルストの組曲を、他人がオルガンに編曲したアルバム(版)です。
「惑星」には元々オルガンのパートがありますが、オーケストラの中での活躍はあまり目立つことはありません(低音担当なので)から、オルガン奏者にとっては、ソロで弾くには絶好のチャンスなのかもしれません

松居直美(1993)

 

 あってなさそうだったオルガン版の「惑星」の、最初の録音が日本人というのも意外な気がしました。編曲は諸井誠(ラジオでクラシック番組を担当されていたので、へぇ〜、と思いました)。

 オルガンの単色だけでは弱いと思ったのか、吉原すみれのパーカッションと山口恭範のパーカッション&チェレスタが効果的に使われています。とりまとめ(指揮)に星野貢。というのもオルガンのキーボードの位置からだと、パーカッションの二人の姿が見えず(20メートル以上も離れていたとか)、星野氏は指の動きをモニターしてタイミングを取っていたとのこと。

 録音は愛知県芸術劇場のオルガン。ドイツのカール・シュケッツ社製のオルガンが劇場内にあって、当然、録音する際は収録機材の方を動かす必要があり、上記のような裏方の苦労や、編曲にあたっての苦労談などがライナーノートに記載されているので、一聴の価値ありです。


 

Peter Sykes(1996)

 パイプオルガンの音は、敬虔なクリスチャンでなくとも、宗教という枠を超えて、何やら厳粛な気持ちになるのかもしれません。それがステンドガラスに囲まれた教会かどこかで聴こうものならなおさらです。

 私が初めて『惑星』のオルガン版を耳にしたのは、このジョン・サイクスの演奏。当時の家のオーディオではいまいち再現しきれないような気がして、職場のスタジオに持ち込んで深夜大音量で聴いた記憶があります。その時の体験と言ったら、コンサートホールには程遠いものの、近隣の迷惑を全く考えずに済む防音室だったということもあり、「スカッ」とした快感が思い出されます。サウンド専用のディスクではないとはいえ、低音の情報量は通常のそれ以上であり、これを製作者の意図した音で再生するためには、それなりの出力のアンプとスピーカーが必要ではないでしょうか?
  しかし、残念ながら一般家庭では思うような再生ができないのが実情です。ダイナミックレンジが恐ろしいほど広いために、低音が全く再生されないのです。ものすごいシステムで聴いたときの破壊力はこの上なく、特に音(低音)の洪水に一度でも浸ってしまうと、オーディオファイルにとって、これはもう病みつきなってしまう恐ろしいディスクです。
 とはいえ、パイプオルガンの特性と、収録時の残響が見事に被さって、様々な楽器が織りなす複雑なオーケストレーションに慣れてしまっている耳には、なんかモサ〜っとした感じがします(えてしてオルガンの曲はそういうものなのか?)。その単色に近い音色が好きならば、きっと飽きることはないのではないでしょうか?

ちなみにジャケットはサイモン・ラトルのデビュー盤となった同曲のミラーバージョン。


Hansjorg Albrecht(2010)

 

 私が最初に手にしたオルガン版の奏者ピーター・サイクスがアレンジした版を使ってのレコーディングです。ピーターと違うのは、そのフォーマット。なんとSACD!火星の冒頭が歌いだす直前の、地鳴りというのかなんというのか?マルチチャンネルがふんだんに活用され、まるでオルガンの中に入っているかのような感覚にさえなってしまいます。ピーターの低音にさえ驚かされたのに、さらに上を行く音です。
 この曲はオーケストラ以外に様々なアレンジが施されていますが、またこのディスク(オルガン版)を聴きたいなぁと思ったのは初めてかもしれません。これはマルチチャンネルで聴くべきディスクです。

 冒頭の超低音がヒタヒタと開始される地鳴り。最初はそれが火星の始まりだとは思えませんでした!



Hugh Banton(2009)

 

 2005〜2007年に掛けて自作したオルガンでレコーディングしてくれたのは、1968年結成のヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターのキーボード奏者ヒュー・バントン。自らオルガンを設計し、バッハの『ゴルトベルグ変奏曲』もレコーディングしており、ホルストの『惑星』はシリーズ第二弾。オルガン版としては3人目のアレンジャー。サラウンドだったらなお良かったのに…  ホルストのレコーディングの前にはバッハの『ゴルトベルグ変奏曲』を、同じく自作したオルガンでレコーディングしています。今回のアルバムが次作オルガンの2ndアルバムになるわけです。

 ジャケット左は2009年に始まったダウンロード版のジャケット。右は2013年にCDでリリースされたディスクのジャケット。
 冨田勲の「惑星」以外のシンセ作品は、どれも似たような音が登場するのですが、オルガンもまたしかり。一度聴くと、オーケストラが聴きたくなってしまいます。


 

Simon Johnson assisted by Peter Holder(2014)

 

 こちらもピーター・サイクスのアレンジによるレコーディング。今回のレコーディングでは合唱が加わっていること(あの手この手使ってきますね)。しかも女声合唱ではなく少年合唱。そして驚くことにこのコーラスがクッキリと聞こえることでしょうか?
 古代天文学の 7つの惑星の向こう側、第8天には天使が美しい歌声を聴かせているという神話もあるぐらいですから、ホルストがそれを音にした結果の海王星への女声コーラスが神秘的な響きを聴かせてくれるのですが、この演奏では突然姿を現して驚かされました。

 余白には、同じくホルストの『セントポール組曲』が、こちらはこのアルバムのオルガン奏者サイモン・ジョンストンのアレンジでレコーディングされています。


 

Stefan Moser(2012)

 

 奏者本人と、ピーター・サイクス、アーサー・ウィリスの良いとこ取り。

 
 


 

Jorg Endebrock & Susanne Rohn(2019)

 

 ヨルグ・エンデブロック(1911年製)とスザンネ・レーン(1979年製)の二人のオルガン奏者にパーカッションが加わったアレンジ。

 
 


 
 
 
 

背景画像は「Adagio」と書かれていますが、「金星」の直筆譜です。
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