星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

このページではハイドンが声楽のために作曲した作品を紹介します。

「世俗カノン集」ミクローシュ・サボー/ジュール女声合唱団

 1987年にレコーディングされた女声合唱団による世俗カノン集です。全曲が伴奏を伴わないアカペラで歌われていますが、ハイドンもこんな曲を残してくれていたんですね。このアルバムの存在は1991年に出版された「CD目録」の中ででしたが、他に異演・異盤もないようです。ずーっと探していましたが、ネット世界の中でようやく見つけることが出来ました。いやいや、ありがたいことです(ただし輸入盤でしたが)。今ならiTunesからもダウンロードできます。もっともデータで持っているよりは、商品としてのCDが手元にあったほうが落ち着くので、少々割高となりましたが、私はCDで購入しました。

 モーツァルトも同様にカノンを作曲していますが、彼の作品は多彩で伴奏がついたりしていて飽きません。しかし、もっとも大きな違いはテクストの差ではないでしょうか。ハイドンのそれは(解説によれば)堅苦しく説教くさいもの、そしてモーツァルトのそれは遊びだらけの世界です。モーツァルトの「カノン集」の日本語盤の解説には、事実を書こうとしたらレコード会社から「モーツァルトのイメージが壊れるから」というりゆうでボツになったというエピソードが書かれています。確かに、アレをそのまま掲載したら「神童」のイメージが音を立てて崩れ去っていくのではないでしょうか(笑)。映画『アマデウス』にもそうした人柄は描かれていますが、この時もモーツァルト研究者からのクレームがかなりあったようです。

01. 汝の声おお静寂なるかな
02. 神の力と節理
03. 高貴な馬鹿者に
04. ヒラーからナルシスへ

05. 喪失
06. 宮廷の務め
07. 守銭
08. 母からゆりかごの子に

09. 自由な精神
10. トルコは忠実な犬でした
11. 芸術への愛
12. 隣人

13. フェブスとその息子
14. 確信
15. 酒屋の看板
16. ドリリスに
17. 死と眠り
18. 餅は餅屋に
19. マルールに
20. 無からは何も生じない

21. ふたりの馭者の問答
22. 別れの言葉
24. パン屋とねずみ

25. 鹿
26. むなしい知らせ
27. 敵を愛す
28. 悪妻(ver.II)

29. チューリップ
30. 狐と鷲
31. 最大の宝
32. 老いぼれ馬
33. 私は生きた
34. 3つの事
35. 二方の敵
36. 悪妻(ver.I)

37. 小心者
38. 神は人の心に
39. 宮廷道化師
40. 汝の声おお静寂なるかな

41. 小さな妖精
42. 願い
43. 博愛家
44. 墓碑銘

45. 鉄砲とうさぎ
46. 格言を心にとめて
47. 狐と山いたち
48. ロバとカラス

 ハイドンの作曲した「世俗カノン集」は全47曲ですが、ここでは「悪妻」が2ヴァージョン収録されているため、トラック数が1曲多くなっています。そして指揮者のミクローシュ・サボーの意向で、番号通りに演奏されていません。そのおかげで、こうしたアカペラ作品は途中で飽きてきてしまうのですが、変化にとんだ構成になっていて飽きることはありません。サボーの思惑が良い方向に動いたということでしょう。
 曲の印象は、まるで子供のような女声コーラスによるカノンが、時には教会音楽のように聞こえてきたり実に神秘的な要素も含んでいて楽しめます。当然、私にとっては星空のお供となっています。


 
 ハイドンイヤーの2009年、「おおっ、これは!」と思わず手を出してしまったのがこのアルバム。正直にいいますと第一印象は清楚な感じが漂う、このアルバムの主人公であるヌリア・リアルのポートレイト。ソプラノとはいえ、もっと音域の高いコロラトゥーラ・ソプラで、容姿も声も透明感のある瑞々しい歌声にうっとりしてしまいました。購入して大正解!と膝を叩きました(実際叩いていないけど)。 

 他にも手を出した理由として、やはりハイドンが好きと言うこともあったのと、ヌリアともう一人メゾ・ソプラノが参加していて、女声デュエットが好きな私としては、てっきりデュエットしているのかと思っていたら、これは予想が外れ、それぞれソロで歌っています(ソプラノ9、メゾ4)。ちょっとがっかり。 バックを務めるオルフェオ・バロック・オーケストラは名前の通り、バロックを連想させるキビキビとした明るい音色で、というのも通奏低音にチェンバロが入っています。バロックから古典期の橋渡し、ともいわれるハイドンの音楽性を見事に反影した演奏です。いいです、これ。 

 それにしても「これがハイドン?」と思ってしまう曲ばかりが収録されていますが、それもそのはず、どうもこのアルバムはハイドンが他の作曲家のオペラの追加挿入アリアとして作曲したものだそうです(どういうことかわかりませんが、他人が作曲したオペラに自作のアリアを突っ込んでいるということ?)。
しかし実際はハイドンと長く付き合っていたエステルハージ家お抱えのソプラノ歌手ルイジャ・ポルツェッリのためにハイドンが作曲した曲だとか。不倫相手だそうです。音楽の授業ではそんなこと勉強していないから、「交響曲の父」とか「パパハイドン」などと表面的なエピソードしかしるよしがないので、意外な一面をかいま見たと言う感じです。ハイドンは音楽史上でも一二を争う悪妻を娶ったことで知られているそうで、その反動がこの楽しげな曲調に表れてしまったのでしょうか。 

 まあ、ハイドンの悪妻に悩む心中をまったく感じさせない曲調はまことにすばらしく、何度聴いても疲れません、飽きません。さすがはハイドン。でもそう思わせてくれるのは、時々小鳥がさえずるような透明感のあるヌリア・リアルの歌声でしょう。オケとの絡みも、特にフルートやオーボエ、リコーダーでは森や草原で動物たちと語りあうような少女か、ギリシア神話に登場する女神に使える侍女が牧場で歌い踊ってでもいるような牧歌的、田園的な情景が浮かんで来ます。

歌曲集
 ハイドンの全48曲におよぶ歌曲集。ソプラノのエリー・アメリングが、ヨーク・デムスの伴奏で歌っています。交響曲にしても弦楽四重奏にしても、ピアノソナタにしても数多くの作品を残している割には、わずか2枚で収録が済んでしまっている歌曲集? そんなに少ないの? と思わずに入られません。