星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 ハイドン(1732-1809)といえば一般的なイメージは「退屈な音楽」なのかもしれません。本当にそうでしょうか?

 実は私もクラシックを聴き始めてから、古典派というジャンルには興味がなく、もっぱら19世紀の後期ロマン派(特にマーラー)や、印象派(特にドビュッシー)に耳を傾けてきました。そんな折り、古典派に目覚めたのは、私がハイドンに対して持っていたイメージを一新するディスクに巡り会ったからに他なりません。

 とはいっても、それまでに全くハイドンを聴いていなかったのかといえば、そういうわけでもなく、弦楽四重奏曲第78番『日の出』など、後に付けられたタイトルに惹かれて、最初に手を出した曲でした。このタイトルから湧くイメージは、今でも小学6年生の時に友だちと徹夜して星を眺めた朝のイメージがあり、この頃から「星の世界と音楽」を結びつけていました。 

フォルテピアノ、フルートとチェロのための三重奏曲ニ長調Hob.XV-16
フォルテピアノ、フルートとチェロのための三重奏曲ニ長調Hob.XV-17
フォルテピアノ、フルートとチェロのための三重奏曲ニ長調Hob.XV-15
トゥイヤ・ハッキラ;フォルテピアノ
Tuija Hakkila ; Fortepiano
アントン・ワルター1795年製作の5オクターブ・モデルに基づき、ポール・マクナルティ(アムステルダム)製作

ミカエル・ヘラスヴォ;フルート
Mikael Helasvuo ; Flute
ハインリヒ・グレンザー1790年製作の6鍵モデルに基づき、ルドルフ・トゥッツ(インスブルック)製作

アンッシ・カルットゥネン;チェロ
Anssi Karttunen ; Cello
ベンジャミン・バンクス(ロンドン)1770年頃製作のオリジナル
弓;J.ドット(ロンドン)1790年頃製作のオリジナル


 このアルバムのレコーディングに選ばれた楽器は、チェロが1790年頃製作されたオリジナル以外は、ハイドンが、まさに、この三重奏曲を作曲した時代に製作された楽器(のモデルに基づき製作されたレプリカ)ということになります。アルバムの解説にあるとおりならば、ハイドンが2回に及ぶロンドン旅行(1790~1791年、1794年)を行い、古典派交響曲の最高峰と謳われた『ロンドン交響曲(93~104番)』の作曲時期の響きを再現してくれていることになります。

 天文学の世界では、ハイドンと親交のあったウィリアム・ハーシェル(1738-1822)が約20年の観測に及び、ふたご座のカストルをはじめとする、いくつかの連星の観測において、2つの星の視角が変動していることを発見した時期です。もともと宮廷作曲家を本職とするハーシェルらが耳にしていた響きを聴く事が出来ると思うと、その想像は羽を広げて、当時の音響を思い出さずに入られません。



チェロ協奏曲第1番ハ長調Hob.VIIb-1
チェロ協奏曲第2番ニ長調 Op.101 Hob.VIIb-2
ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴットとオーケストラのための協奏交響曲変ロ長調Hob.I-105*
鈴木秀美;チェロ
Hidemi Suzuki ; Cello

寺神戸亮:ヴァイオリン*
Ryo Terakado ; Violin

パトリック・ボージロー;オーボエ*
Patrick Beaugiraud ; Oboe

マルク・ヴァロン;ファゴット*
Marc Vallon ; Bassoon

シギスヴァルト・クイケン指揮
ラ・プティット・バンド
Sigiswarld Kuijken/La Petite Bande

 このアルバムに収録されている3つの協奏曲は、エステルハージ時代の前期(1760-1761)、後期(1783)、最初のロンドン旅行(1791-1792)の頃に書かれました。上記の三重奏曲と同時期の作品群です。天文学の世界では、先のハーシェルの観測の他に、カントの提唱した太陽系起源論から発展させたラプラスの「宇宙体系解説(1796)」や、ラグランジュの「解析力学(1788)」など天体力学の数学的基礎が完成された時期と重なります。

 クイケンらは「各楽器一人の奏者によってチェロ独奏部を伴奏するのが相応しい」という演奏によって、バッハのリフキン奏法のように「1パートに1楽器」方式を用いています。その効果は絶大(少なくとも私にとって)で、よりハイドンに対する親しみが湧いてきました。

 惜しむらくは古楽器のアルバムならば、演奏者がいつの時代の楽器を奏でているかを記載してくれなければ魅力は半減してしまいます。そこらへん、レコード会社に努力してもらいたいと思います。