星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

ようこそ、ホルストの『惑星』のページへ。ここでは、英国の作曲家ホルストが書いた『惑星』についての解説と、各曲のお薦め演奏、ディスクガイドを紹介しています。また、『惑星』に関するニュースや、ホルストの生きていた時代に起きた天文現象をクラシックの世界と平行して年表を作ってみました。そこに何が見えてくるでしょう?

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惑星リスト
 ホルストの「惑星」は20世紀になってから作曲された、いわば現代音楽としての位置づけがあります。そしてまた、レコードが作られるようにな時代の、いわば現代音楽だったこともあり、作曲者による自作自演が記録されていました。あと10年も経てば100年前の記録として耳にすることになるのです。
 当時のオーケストラの音や、作曲者自身の解釈による興味深いレコードは、何もこの曲に限らず、様々な作曲家の演奏を楽しむことができます。当時は、「ウワサ」としてしか伝わって来ない、他人の演奏会などが、レコードやラジオと言った媒体で聞くことができた時代の幕開けとなったのです。
 
ロンドン交響楽団(1923/1924)
火星(6'21")1923/10/30
金星(8'14")1923/08/23
水星(3'45")1923/08/23
木星(7'13")1922/09/22
土星(7'11")1924/02/14
天王星(6'17")1923/08/23
海王星(5'39")1923/06/11
 現代の演奏では考えられないほどテンポもリズムも早く、それもそのはず、まだこの時代はハイフェッツが流行らせたというヴィブラートによる奏法も定着していなかったから、金星で聴かれる甘美なソロもありません。このあたりの時代背景を知っているのと知らないのとでは、印象が全く違って聞こえてきます(場合によっては「なんだこの演奏は!?」みたいな)。私なんかは、「(R.シュトラウスをはじめとする)作曲家というのは、なんて淡白な演奏をするのだ」と思っていたぐらいです。

 それにしても、このアコースティックレコーディングの素晴らしさはどうでしょう。今の私にとっては宝物のようなこの音源は、1923年から1926年にかけて録音されました。星の光も電波も同じものなので、宇宙空間を同じ速度で伝達します。カール・セーガンの『コンタクト』では、地球から発信されていた「ベルリン・オリンピック」という、あまりにも素材がセーガンらしい映像を、ヴェガにいる知的生命体が「見たよ」という意味で地球に送り返してきます。それはまさに映画の舞台となっている52年前の出来事。つまりヴェガまでの片道が26光年だということです。
 届いた映像も音声もノイズが乗っていますが、これを私はホルストの演奏する音源に置き換えて楽しんでいるのです。あるいは、この音源が遠い惑星に住む知的生命体がキャッチしたら、こんな音に聞こえるんじゃないの?と考えると、まさに星空のかなたから聞こえてくる「天球の音楽」であり、「天界の音楽」になるのではないでしょうか。


ロンドン交響楽団(1926)
火星(6'07")
金星(7'13")
水星(3'29")
木星(6'55")
土星(6'51")
天王星(5'51")
海王星(5'29"

Recorded June-October, 1926
 最初のレコーディングから約3年後の二度目の録音。今回は多少のノイズが軽減されていて、チープなAMラジオのノイズの中に埋もれているような感じの音源ではありません。聴きやすくなったかと問われれば、決してそういう音ではなく、あくまでもこれは貴重な記録としての音源でしょう。時代ものの音源だけに、これは万人向けではないのは仕方ないし、オーディオファイルとしての存在は不動のものだから、そうした趣味をお持ちの方にはお勧めできるシロモノではありません。人によっては眉間にシワを寄せる人もいるでしょう。しかし、いくらピリオド奏法を研究し尽くした現代の演奏ですら、昔の演奏を超えることはできません。これは技術とか研究成果とか、そうした問題ではないのです。もしも、当時の演奏を超えることができるとしたら、それは「音質」とかの問題ではないでしょうか。

  ホルストの惑星が作曲された1913年前後、まだクラシック(この頃は後期ロマン派)が活動していましたが、シェーンベルグをはじめとする、現代音楽作曲家が登場し、特にホルストはシェーンベルグの「5つの管弦楽曲」やストラヴィンスキーの「春の祭典」の影響もあって、当時、新作発表としてこの曲を聴いた観客の反応はどうだったのでしょう。それまでとは違く楽器の使い方や、組み合わせetc. 土星の後半部分にやってくるクレッシェンド! 天王星の盛り上げ方(ホルストはこの曲のオーケストレーションを気に入っていました)、そして海王星のエンディングにどこからともなく聞こえてくる女声コーラスに戸惑ったかもしれません。今でこそ宇宙の構造を、地球の外にまで進出する時代ですから、あまり驚くこともなくなりましたが、当時はまだビッグバン理論や、宇宙の膨張も発見されていない時代です(その数年前のハレーすい星騒動やツングースの大爆発なども、宇宙や星空に脅威を感じる時代だったのではないでしょうか)。しかし、数学という新しい武器を使った、望遠鏡のみの眼視にとって代わり、惑星の動きも理解されるようになっていました。つまり、フェルネーゼの天井に描かれている「天球」の世界は、急速にすたれていったのです。そして当時の人々の神秘感を見事に描いてくれたのはホルストであり、これとは逆に物理の法則による宇宙の「音」を描いたのが、指揮者マーラーの「交響曲第8番」だったのです。
  さて、この(お世辞にも上手いとは言えない)演奏ですが、レコーディング技術の向上からか、オーケストラにかなり厚みが加わり、特に金管の音が前に出てくるように聴こえて、現代の演奏に近づいてきています。また、ホルスト自身の指揮も、前回と比べると慣れて来たのか、テンポよくまとめられた「カッコイイ」演奏に仕上がっています。

 

背景画像は「Adagio」と書かれていますが、「金星」の直筆譜です。
このページは、元http://homepage.mac.com/tupichan/Planets/Planets.htmlです。
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