ようこそ、ホルストの『惑星』のページへ。ここでは、英国の作曲家ホルストが書いた『惑星』の作曲に至る経緯を簡単に解説します。


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組曲『惑星』作品32
 この曲は現在までに40種近いレコードがリリースされ続けている超人気曲であるにもかかわらず、作曲者本人の意思と、それを受け継いだ遺族たちによって編曲(楽器編成の変更など)や、抜粋しての演奏をいっさい禁じられ続けられているために、なかなか生で演奏される機会がない曲です(最近は緩んできた感がありますが…)。他に、オーケストラの規模もさることながら、終曲には女声合唱を必要とするため、演奏上、コスト面が立ちはだかっているという問題もあるようです。

 私は音楽を示唆するものしか研究しない。そういう訳で、私はサンスクリットに取り組んだのだ。そして近頃は、それぞれの惑星の特徴が、私に多くの示唆を与えている。私は占星術をかなり綿密に研究している。

 1914年に気晴らしに書いたこのコメントは、私を虜にさせた【惑星】を作曲するに至りました。そのきっかけとなったのが、1913年に劇作家のクリフォード・バックス(兄は作曲家のアーノルド・バックス/1883-1953)から占星術について教えを受けたから、というのが一般的のようです。そして、ホルストは当時流行し始めた近代占星術に興味を示し、ジョージ・ミードの友人である近代占星術の父と称されるアラン・レオの書いた著作を数多く読み、そこから多くのインスピレーションを感じ取りました。

 そのホルストの蔵書の中にレオが1912年に出版した『THE ART OF SYNTHESIS』という本があり、その中の各章(正確には第4章から第12章まで)が以下のように書かれています。

THE ART OF SYNTHESIS / Alan Leo
CHAPTER IV ; THE SUN, LIFE GIVER(第4章「太陽;生命を与える者」)
CHAPTER V ; THE MOON, MOTHER(第5章「月;母」)
CHAPTER VI ; MERCURY, THE THINKER(第6章「水星;思索者」)
CHAPTER VII ; VENUS, THE UNIFIER(第7章「金星;統合者」)
CHAPTER VIII ; MARS, THE ENERGISER(第8章「火星;力を与える者」)
CHAPTER IX ; JUPITER, THE UPLIFTER(第9章「木星;引き上げる者」)
CHAPTER X ; SATURN, THE SUBDUER(第10章「土星;征服する者」)
CHAPTER XI ; URANUS, THE AWAKENER(第11章「天王星;目覚めさせる者」)
CHAPTER XII ; NEPTUNE, THE MYSTIC(第12章「海王星;神秘なる者」)

 この中にはMercury 'the winged Messenger of the Gods,' is the expressor, the mirror of all the planets. などといった記述や、海王星のサブタイトルなどは、そのままこの著作の第12章を借用していることからも、ホルストはこの著作から影響を受けて、各惑星への曲想やタイトルなどのインスピレーションを受けことが伺えます。
 

 1913年から1914年に掛けて、占星術がインスピレーションの源泉として世人の耳目を引くようになると、ホルストもこの題材に没頭するようになりました。彼は星が未来を予言するなどとは信じていませんでしたが、十二宮図(ホロスコープ)を操ることを覚え、ほぼ一生の間、“お気に入りの悪癖”と彼が名づけたことを続けていました。
そして作曲という目的のために「占星術は太陽系に多用な惑星があることに起因する」という惑星系の体系にのみ興味を持っていたようです。こうしたキャラクター、言い換えると各惑星の神話的な性格が、作曲の基本プランに必要なインスピレーションを与えてくれるだろうと考えたのです。

 1912年にアルノルト・シェーンベルク(1874-1951)の『5つの管弦楽組曲』がロンドンで初演されたことに刺激を受け、当初は『7つの管弦楽組曲』として構想された作品集も、更に拡大され、イゴール・ストラヴィンスキー(1882-1971)の大胆なバレエ音楽『火の鳥(1911)』、『ペトルーシュカ(1911)』、そして『春の祭典(1913)』、モーリス・ラヴェル(1875-1937)の『ダフニスとクロエ(1912)』などからの影響を受けて大管弦楽組曲と姿を整えていきました。「海王星-神秘」に登場する女声合唱によるヴォカリーズなど、クロード・ドビュッシー(1862-1918)の『夜想曲(1899)』を参考にしているのではないでしょうか。

 惑星は1914年の火星から着手されましたが、最初は2台のピアノのための編曲に仕上げられ、1917年にオーケストレーションの構想を完成、1918年9月29日、ロンドンのクイーンズ・ホールで初演されました。驚くのは、この曲の原曲が2台のピアノ版で、それがオーケストラ版へと編曲され(当時の流行に倣えば、オーケストラピースを著作権収入のために連弾版などに編曲されていた)、今日聴かれる【惑星】の姿となったのです。
【惑星】が完成すると“第一次世界大戦の勃発に応じて「火星」に着手したのだ”という解釈が出てきましたが、ホルストは1926年のあるレクチャーの中で、運命の8月に先立って全曲のプランを作り上げていたのだ(だから引き金になったのではない)、と述べて、その考えを否定しています。皮肉なことに「金星-平和の神」と「木星-快楽の神」の楽章は、戦争の最初の何ヶ月かに当たる1914年の終わり頃に、ホルストが取り組んでいた曲なのです。「土星」「天王星」「海王星」(5〜7楽章)は1915年に完成し、組曲の第3楽章「水星」は、実際には最後に書かれた。完成したのは1916年のことです。

 1917年中に、ホルストはオーケストレーションの構想を完成します。しかし、全スコアを書き上げる仕事は、彼には非常に難しいことがわかりました。それは腕の神経炎の再発のためで、この状態は生涯ホルストを苦しめ、彼が望んでいたように、ピアニストとして成功することはできなくなったのです。補助のため、彼はセント・ポール女学校音楽科の同僚ノラ・デイとヴァリ・ラスカー、そして学生のジェーン・ジョセフと筆記者としての契約を交わした。ホルストの鍵盤譜書き方は正確で、疑問点にはいつも身近にいて答えていたので、この作業はスムースに行きました。
編曲作業に伴って、セント・ポールで2台のピアノ版の内輪の演奏会が開かれました。しかし、ホルストは、一般の人々にこのヴァージョンを紹介したいとは決して思わなかったし、実際、1978年にこの版がレコーディングされるまで、知られていませんでした。
【惑星】オーケストラ版は1918年9月29日、ロンドンのクイーンズ・ホールで初演されました。このコンサートは、ホルストの友人ヘンリー・バルフォア・ガーディナー(ジョン・エリオット・ガーディナーの叔父)が企画・提供した非公式のコンサートでした。

 惑星の解説の中で、作者本人の決定的なコメントが残されています。

もし、この曲に対するなんらかの手引きが必要なら、それぞれの曲のサブタイトルが、広義に用いられるとすれば充分でしょう

 
 私が思うに(ホルストのこの言葉にもあるように)この組曲を実際の星空や宇宙と連想させて聴かないほうが良いのではと思います。というのも、邦題になっている「惑星」という言葉がイメージを膨らませ過ぎているので、それにつられて(笑)星空のお供に耳を傾けてみると「なんだかイメージに合わない」のです。私自身そう感じているので、観望会で流す時も金星と海王星以外は掛けることはありません(「天界の音楽」でも、あえて外して講演しました)。この2曲は穏やかな楽章なので、静かな星空とぴったり合うのですが、それ以外の曲はあまりにも騒がしすぎるのです。「ジュピター」でおなじみの木星なんて騒ぎ過ぎ。なんたってズンチャッチャッ、ズンチャッチャッですからね。

 たとえば洋楽にありがちな、あえて曲名をカタカナ表記にしてみると、かなり印象が変わってくるのではないでしょうか。もしかしたら「組曲 惑星」ほど人気がなくなってしまうかもしれませんが、神話の「神々」として描いたホルストの描写力を知るには、この方が理解しやすいかもしれません。ギリシア神話に精通したリスナーが聴くなら、少なくとも惑星の名前でイメージを膨らませるより、よっぽど神々の名前で聴いた方が楽しめるはずです。だとすると、邦題のように訳さず、ダイレクトで聴く英語圏の人の方がはるかに作曲家の意図を理解していると思うのですが、アルバムジャケットを見る限り、国が違えど考えることは一緒のようで、惑星や天体の写真ばかりが使われていることからも、容易に想像できるでしょう。
ザ・プラネッツ
マーズ ; 戦争をもたらす者
ヴィーナス ; 平和をもたらす者
マーキュリー ; 翼ある使者
ジュピター ; 快楽もたらす者
サターン ; 老年をもたらす者
ユラナス ; 魔術師
ネプチューン ; 神秘
 
グスタフ・ホルスト惑星の作曲過程
 
 
 

背景画像は「Adagio」と書かれていますが、「金星」の直筆譜です。

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