ウィンダム・ヒルの掲示板



Photo by Toshiharu Minagawa.

A WINTER'S SOLSTICE VI

Produced by Brian Keane.

1997 Windham Hill Records.



『ウィンター・コレクション6』。すでにこのシリーズ6作目から日本発売が見送られてしまっているので『ウィンター・コレクション』と呼ぶのもどうかと思いますが、今までと雰囲気がガラリと変わりウィンダム・ヒルというよりは質の高いジャズ・レーベル、たとえばGRPなどの雰囲気を持っています。

  今までと どこが違うのかというと、プロデューサーがDawn Atkinson & Will Ackermanのコンビから『キャロル・オブ・クリスマス』や『サマー・コレクション』など、『ウィンター・コレクション』以外のオムニバスアルバムのプロデュースを手がけているBrian Keaneに代わってしまったことが挙げられるかもしれません。
 だからといって作品の質が落ちたのかというと、そうではなく、今まで聴く機会のなかった(たとえば私のようなジャズをあまり聴くことのない人間にとっては)音楽に触れる良いチャンスで、しかも冬を描いた様々なアーティストの作品が楽しめるという点では、今までどおりのレーベル・ポリシーに触れることができるはずです。
 また、今回から雰囲気が変わったように感じられるのは、このシリーズではバッハや讃美歌が必ずといっていいほど収録されていましたが、今作ではリチャード・ストルツマン(6)がフランシス・プーランクを演奏している以外は全曲アーティストのオリジ ナル作品となっていることも新鮮な雰囲気を感じさせるのかもしれません。
 ここに収録されている作品(収録時間も今までは50分強しかなかったのが70分を超えています)のうち、新人やナラダからの参加者はジャズのフィーリングに溢れ、Michael Hedges、Liz Story、Tim Story、Will Ackermanなどのレーベルの古株アーティストが、今までどおりの ウィンダム・ヒル・サウンドを提供しているというあたり、さすがにウィンダム・ヒルというレーベルは独特のサウンドを持っていると、改めて認識することが出来きます。

 このアルバムの雰囲気の反動からか、平行してウィルの設立した新しいレーベル、イマジナリー・ロードから『ウィンター・コレクション』のコンビ、Dawn Atkinson & Will Ackermanの二人による『ON A WINTER'S NIGHT』が制作され、なんと今まで『ウィンター・コレクション』で常連だったウィンダム・ヒル・アーティ ストが全面参加しています。また『A WINTER'S SOLSTICE REUNION』という風変わりなアルバムが 翌年リリースされ、初期の『A WINTER'S SOLSTICE』を思わせる作風に戻っています(プロデューサーもウィリアム・コウルターにバトンタッチ)。このあたりから察すると、この『ウィンター・コレクショ ン6』の制作過程で複雑なお家事情があったのかもしれません(笑)。  現時点(2003年)このコレクションの最新作『SILVER ANNIVERSARY』や、シリーズを受け継いで いる『クリスマス』は、再びドーン・アトキンソンが返り咲いています。



01. Joyful Time/ Marion Meadows
Marion Meadows; Soprano Saxophone
Sean Harkness; Acoustic Guitar / Dave Anderson; Fretless Bass
Jay Rowe; Piano, Synthesizers / Brian Keane; Synthesizers
Artie Dixson; Precussion / Arto Tuncboyaciyan; Percussion, Frame Drums

 いつもの朝と違う空気を感じ(初めて聞くアーティストということもあってか)て目覚め、窓を開けて 冷たい空気が入ってくると同時に白一色の世界が目に入ってきました。この光景を知っているのは 誰もいない。そんなささやかな楽しみを感じさせる雰囲気をもった曲がアルバムのオープニングに 合わせて始まろうとしています。プロデューサーの心憎い演出かもしれません。  残念なことにマリオン・ミードウズはウィンダム・ヒルよりアルバムはリリースしていません。

 
02. Ursa Major/ Michael Hedses
Michael Hedges; Guitars, Recorder, Synthesizer
 前曲とはうって変わって夜の闇を思わせる雰囲気を醸し出しているのは、このアルバムがリリース1997年暮れ、12月3日に自動車事故で亡くなったギタリスト、マイケル・ヘッジス。私生活に降りかかった不幸(子供の死)が深く影響しているのか、アルバム中異色の雰囲気をもった作品を提供していますが、このタイトルはおおぐま座のこと(そういったタイトルがわかるだけで印象が違ってくる不思議な曲です)。
  ギリシア神話では北の空を巡る星座で、神の怒りを買い一晩中地平線下に沈むことを許されなかった女神アルテミスの侍女カリストの変わり果てた姿。
 最新作は、遺作となってしまった1996年の『ORACLE』で、シークレットトラックに『CAROL OF CHRISTMAS』でしか聴くことの出来なかった“What Child Is This ?”が収録されています。
 
03. Northern Light/ Lisa Lynne
Lisa Lynne; Harps
Seamus Egan; Alto Whistle, Mandlin / Brian Keane; 12 String Acoustic Guitar,
Synthesizer
Steve Reid; Percussion / Gil Morales; Cello / Sue Craig Winsberg; Recorders
 ハープがこんなにも温かみのある音で聞こえてくるのは、前の曲、マイケル・ヘッジスの効果も手 伝っているかもしれません。竹で作るバンブー・フルートの素朴な音色も心地よく、きらきら瞬く雪の結晶の中の世界を舞う妖精の姿が浮かんでくるようです。
  リサ・リンはウィンダム・ヒルからリリース されている多くのコンピレーションに参加しているほか、1997年に『DAUGHERS OF THE CELTIC MOON』で、ソロ・デビューしています。
 
04. Simple Praise/ Joanie Madden
Joanie Madden; High and Low Tin Whistle
John Boswell; Piano /
Sean Harkness; Acoustic Guitar / Brian Keane; Synthesizers
Dave Anderson; Fretless Bass / Joel Rosenblatt; Drums
 フルートによる歌謡的なメロディに途中サックスがかぶさるあたりは感動的な曲。日本でいうところの演歌に近い要素がある曲です。寒い北国を思わせる旋律はアイルランド出身だからでしょうか。 懐かしい故郷の風景が雪をかぶってしまっていても、今の自分の目に映るのは、子供の頃に見たやさしい原風景。心の中にしまっておいた懐かしい風景の何ものでもない。ふるさとに帰ってきた ときの心の高鳴りを思わせる佳曲。アイルランドのフルート奏者、ジョアニー・マッデンは女性だけによるアイリッシュ・トラッド・バンドCherish The Ladiesを結成し活動、そのバンドの音はポーグスの 雰囲気を持っています。ウィンダム・ヒルから『THEGIRLS WON'T LEAVE THE BOYS ALONE』 (2001年)をリリースしています。
 
05. Secert Place/ Todd Corchran
Todd Cochran; Steinway D Hamburg Concert Grand Piano
Trey Henry; Bass / Dave Tull; Drums, Percussion
 ドビュッシーの『子供の領分』第1曲“雪が踊っている”を思わせるオープニングですが、こちらの雪のダンスは雪自身の舞ではなく、降り積もっていた白い天使たちが何かの拍子に巻き上げられて舞っているエレジー風な、そんな情景が浮かんできます。
 
06. Sonata For Two Charinets/ Richard Stoltzman
Richard Stoltzman; Clarinets
 クラシックのクラリネット奏者で、ピーター・ゼルキンらとのタッシというトリオを結成。またクラシックのみならずジャズ畑のアーティストの共演も多く、ここに参加したのもその流れからでしょうか。曲は フランシス・プーランクの“2つのクラリネットのためのソナタ”からで、プーランクの無調な響きとクラリネットの音色がよくブレンドしています。奥深い夜の雪山に迷い込んでしまったような、道を引き返そうともと来た道を振り返ってみても足跡が付いていない…
 
07. Quiet Time/ Jim Brickman
Jim Brickman; Piano
  一夜のうちに辺り一面が白く染まり、しんと静まりかえった冬の朝。すべての物音が耳元で聞こえてくる雪の魔法。それも雪が溶けてしまうのと同じように、束の間の時間。まるで時が止まってしまったかのように、辺り一面が凍ってしまったかのよう。ジム・ブリックマンらしい、小品にこめられたメロディの良さが心に残る1曲です。カレン・カーペンターの声を思い出してしまいました。
 
08. Winkus Mcginkus/ Sean Harkness
Sean Harkness; Solo Acoustic Guitar
 クラシック・ギターによるバロック風の曲は、それだけでも清々しい冬の情景を感じさせてくれます。 一面の雪景色に気づいた子どもたちが、われ先にと未踏の雪面を見つけては飛び込んでゆく。子どもたちの歓声、冬の遊び、子供の情景。
  このシリーズの第一作(1985年)のオープニングを飾ったデビッド・クォーリーを思わせる演奏です。プロデューサーであるブライアン・キーンの門下生であるギタリスト。ウィンダム・ヒルからはリズ・ストーリー、ブライアン・キーンらが参加した『ALOFT』というカヴァーアルバムをリリースしています。彼はハーピストのリサ・リン(3)同様、ウィンダム・ヒルのコンピ レーションに多数の作品を提供してくれています。
 
09. In The Winter's Pale / Tim Story
Tim Story; Piano, Synthesizer
Martha Reikow; Cello / Kimberly Bryden; Oboe
 誰も見ていないところにも雪は降り積もり、時は自然の中で流れてゆく。ティムの造り出す音楽は、 いつも人間の垢から離れた自然、それ自体の時の移ろいを体験しているようです。オーボエとチェロが梢を渡る風のように、しかし北風のような無機質ではなく、お互い絡み合いながらメロディを奏でて ゆきます。
 
10. Snowfall/ Liz Story
Liz Story; Piano
 リズ・ストーリーによる冬の情景は、閉ざされた雰囲気を感じることなく、伸びやかに雪原を走りまわっている子供のよう。もしかしたら彼女自身も雪の中を走りまわるのが大好きな女性のかもしれない、そんなことを思いたくなってしまうような曲です。
 
11. Yesterday's Rain/ W.G.Snuffy Walden
W.G.Snuffy Walden; Guitar
Dean Parks; Guitar / Randy Kerber; Piano / Michael Fisher; Percussion
Peter Kent; Violin / Erika Duke-Kirkpatrick; Cello
Nancy Roth; Violin / Robert Becker; Viola
 凍てついた空気の中をさまよう魂。まるでギターが泣いているようです。雪に変わる前の雨が窓辺を濡らし、その奥の夜景も濡れている。テレビドラマ【ロズウェル〜星の恋人たち】【、ホワイトハウス】 などの音楽を数多く手がけ、人間の心理描写の得意なウォルデンによる冬のエレジー。エリック・ク ラプトンの“Tears Of Heaven”や“Change Of The World”を思わせます。 2001年にウィンダム・ヒルよりソロ・アルバム『MUSIC W.G.SNUFFY WALDEN』がリリースされました。
 
12. Snow Dance/ David Arkenstone
David Arkenstone; Guitars, Keyboards, Bass
 冷たい北風に背を向けることなく立ち向かってゆく、そんな勇ましさを感じるメロディ。ナラダ・レーベルのプロデューサーであり、アーティストでもあるデヴィッド・アーキンストンの演奏は、ギターという楽器を弾いていても、それが同じ楽器としてではなく、多くのプロデュースやアレンジを手がけていると、音色が非常に幅広く、それだけで情景が豊かになって聞こえてくるから不思議です。
 
13. This Clearness Of Light/ Will Ackerman
Will Ackerman; Guitar
Rob Eberhard Young; Guitar / Eugene Friesen; Cello
 デビュー・アルバム『CLOSER TO FAR AWAY』をリリースする前に参加してくれたのはダグラス・スポッテッド・イーグル。ピアノが乾いた赤い大地にも粉雪を降らせ、まるで人の声を思わせるようなネイティヴ・フルートが素朴なメロディと優しく温もりのある音色を奏でます。遠くナヴァホ族に古くから伝わる曲に“もうひとつの聖夜”と名づけ、時間を超えてプレゼントしてくれました。
14. January Stars/ George Winston
George Winston ; Piano
 凍てついた冬の星空の中で一番輝く一月の星。宮沢賢治の“よだかの星”ではありませんが、冬 の星座のどの星なのか気になる曲です。暗闇から差し込む一筋の輝き。孤独な星、どこか陰りのある輝き。ジョージ・ウィンストンのこの曲は、1982年にリリースされた『WINTER INTO SPRING』の中で発表されている曲で、願わくば新録をと期待したいところですが、今回は残念ながら同アルバムからそのまま収録されました。
 
15. Western Sky/ Brian Keane, Michael Manring, Paul McCandless & Lou Soloff
Brian Keane; PIano, Synthesizer
Paul McCandless; Oboe / Lou Soloff; Trumpet / Sean Harkness; Acoustic Guitar
Michael Manring; Fretless Bass / Dave Ratajczak; Drums / Nik Bariluk; Electric Piano
 プロデューサーのブライアン・キーンがアーティストとして提供し、他にもオーボエのポール・マッキャンドレス、ベースのマイケル・マンリング、リコーダーのルー・ソロフが参加しての作品で、多彩な色を冬の真っ白いキャンバスに音色を描き出してくれました。スケールの大きな演奏で、エンディングとしてふさわしいアンサンブルです。