ウィンダム・ヒルの掲示板


Photo by Toshiharu Minagawa.



WH-1019
WINTER INTO SPRING / George Winston

Produced by William Ackerman
      and George Winston.

Engineered by Steven Miller.

All composed by George Winston.except where noted.

Windham Hill Records, 1982



01.January Stars
02.February Sea (traditional)
03.Ocean Waves (O Mar)(Dorival Caymmi)
04.Reflection
05.Rain
06.Blossom/Meadow
- The Venice Dreamer
07.Part One - Introduction
08.Part Two
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20th Anniversary Edition Bounus Track
09. (Love Echoes in the)Pine Hills



 1980年に発表された『AUTUMN』の2年後にリリースされたこの作品は、前作が一曲ごとに完結するような性格を持って描かれていた絵画的(静)な作品なのに対し、ここでは冬の中に見え隠れする春の訪れを描き、冬から春への季節の移り変わり(動)を、詩情たっぷりに描き出しています。まるで一本の映画を見るような、つまり曲ごとに断片的でありながら、全体を通して1枚の絵画が出来上がる音絵巻を感じさせてくれます。

 寒々とした表情から始まる“January Stars(一月の星)”は、暗く、厳しい冬の寒さを思わせます。ジャケットのうららかな「春」という先入観で聴き始めると、ちょっとした疑問が生まれるかもしれません。しかし、ジャケットに描かれている風景に出会えるのも時間の問題です。現代音楽のような作風で始まるこの曲は、まるで孤独な星の姿を連想させます。その表情は(スタインウェイの高音に透明感も手伝って)氷とか雪の結晶とか、そういう純白のイメージを与えてくれますが、私には、冬の凛と張った空気や、その冷たい凍った空気を伝わってくる自然界の息吹を感じます(ウィンター・コレクションやディセンバーでもそうでした)。それは風に吹かれて偶然落ちた、枝に積もっていた雪の塊もあれば、風に舞う粉雪などのように、自分では意思を持っていない自然の営みなど。これは私が冬の中に次の季節を期待する様々な命の鼓動を聞いたことがあるからかもしれません。

 一体どの星を描いているのでしょう。星好きの私にとって、宮沢賢治の『よだかの星』が、一体どの星なのか? と同じぐらい、この曲を聴くたびに冬の星空を仰いではオリオンやアルゴ(今は廃止されている星座)あたりに目を泳がせてしまいます。

 そして“February Sea(二月の海)”も荒涼とした海原、鉛色の空、灰色の海といった日本海のような情景が浮かんできそうです。ここでお得意のストライド奏法を披露してくれますが、彼の楽曲の中でも一、二を争うほどの右手の早いパッセージを聴かせてくれます。

   続けて演奏される“Ocean Waves(O Mar)(波)”で、ようやく春の兆しを感じることでしょう。この曲のみボラ・セテのアレンジによるドリヴァル・カミイの1939年の曲で、ボラ・セテ の『OCEAN MEMORIES』というソロ・ギターのアルバムの中に入っているそうです。他は全てジョージのオリジナル。そしてこの曲も余韻をつなげて4曲目が演奏されます。ちなみにボラ・セテのアルバム『JUNGLE SUITE』(1985)はDanceing Catよりジョージがプロデュースしています。芋蔓式に辿っていくと、ボラは1964年にジョージの敬愛するミュージシャン、ヴィンス・ガラルディとコラボレイト作品を残しています。(FROM ALL SIDES


 『AUTUMN』と、このアルバムは、それこそ曲目のインデックスがついていますが、耳を澄ましてよく聴くと、ほとんどの曲が前の曲の余韻が消える前に 次の曲へとつながっています。特にそういった響きを大事にするピアニストですのでコンサートでも気をつけたいものですね(我先にと手を叩く「ブラボーおじさん」は、ウィンダム・ヒルのコンサートにはふさわしくありません!)


 “Reflection(きらめき)”は個人的にジョージの楽曲の中で一番好きな曲ですが、やはり春というイメージには辿り着きづらい雰囲気を持っています。ただ、前の3曲が星や海といった無機質な自然を描写しているのに対して、この曲は心象を扱っているのか、ほのかに暖かい音色を聴くことができます。春の訪れを感じさせるそんな曲かもしれません。雪解けのきらめきなのでしょうか。
1982年にリリースされた『AN EVENING WITH WINDHAM HILL LIVE』では、この曲に“Lotus Feet”を繋げたライヴを聴くことができます。

 アッカーマンの“Sunday Rain(雨の日曜日)”同様、芸術家たちにとって「雨」他は感受性が豊かになるのでしょう。アナログのB面にあたる“Rain/Dance(レイン /ダンス)”から春の兆しを自然界から受け取ることになります。この響きは、明らかに11月や12月に降る氷雨とは違って、2月や3月頃に降る、雪解けを知らせる喜びの雨のようです。

 “Blossom/Meadow(花/草原)”で、ようやくジャケットに描かれている季節と巡り会えました。長く厳しい冬を体験するほど、この季節の到来がどれほどかけがえのない喜びとして感じるのは、みんな同じなのでしょう。星野道夫の著作に、「冬をどれほどつらく生き抜いたかによって、訪れる春の価値が変わってくる」という一節を思い出してしまいました。

 “The Venice Dreamer(ヴェニスの夢)”は二部構成の曲。ベニスの丘を渡ってゆく風に揺れる花々、蜜を求めて花から花へと舞う蝶や蜂たち。そんなスケッチをジョージは描いているのでしょうか?アルバムはこの曲で終わってしまいますが、このアルバムを聞いた後は、春の陽気に誘われて散歩に出てみたくなってしまいます。

 前作の『AUTUMN』も今作も、ジョージはアナログという媒体を意識した構成にしていました。今回は『AUTUMN』ほどはっきりと描き分けていませんが、このアルバムでは、A面を1、2月のスケッチ、B面を3、4月頃の、といった感じに聴こえます。ここではA面のラストで雪解けを、B面のオープニングで雨をスケッチし、春の訪れを告げてくれているようです。

 最近はCDが主流になってしまい、以前はどんなアーティストのアルバムでも、レコードを引っくり返してA面の終わりの曲やB面の最初の曲、エンディングの曲なんかを意識して楽しむことができました。 初期の頃はそのまま丸ごとCD化していたので、A面B面の区別がつかなくなった程度だったのが、最近では技術革新のおかげで音質を改善した“デジタル・リマスター”による再販が増え、その際、ほとんどのアルバムにボーナストラックが収録されるようになりました。ファンとしては嬉しいのですが、アーティストの制作意図が薄らぐことにもなりかねないので、以前リリースされたジョージの今作のようにボーナスものは2枚目によせてほしいと思います。


 このアルバムのみ単独で1990年にデジタル・リマスター処理を施して再リリースされました(それほど音質が悪かったわけではなく、むしろ通常よりも良い方では?)。日本では7年後の1997年に発売されましたが、その際、ベスト盤『SELECTIONS FROM OTHER RECORDINGS BY GEORGE WINSTON』というボーナスCDがパッケージされました。その時に収録されていた曲目は以下の通り。
 
01.Colors/Dance(edit)
02.Thanksgiving
03.Living In The Country
04.The Cradle
05.The Great Pumpkin Waltz
06.New Hope Blues
07.Birds In Flight

2002年に、このアルバムのリリース20周年としてアニヴァーサリー盤がリリースされました。
ボーナストラック“(Love Echoes in the)Pine Hills”で、楽譜は“Reflection”です。
なお、このアルバムはRIAAからプラチナディスクの認定を受けています。

 それにしても最近の冬はどうしてしまったんでしょうか? 地球規模の暖冬で、雪があるはずの地域に雪もなく、1月なのに3月下旬の陽気になったりと。ジョージの四季四部作は、ウィンダム・ヒルが日本に紹介された(本国ではオータムが1st、ウィンター・イントゥ・スプリングが2nd、ディセンバーが3rdの順で発売されたが、日本では2ndと3rdが逆に発売されている)1983年以前から構想があったから、足掛け10年掛けても色褪せることがなかったのでしょう。もしも、10年ずれていたら、サマーはもっとギラギラ(でもトロピカルか?)していたかもしれないし、雪のない12月や、他のアルバムも思い出の中の四季を描いていたかもしれません。
 それにしても、最近の冬はどうしてしまったんでしょうか。数年前に発生したエルニーニョ以降、地球規模による異常気象の温暖化が進み、年々、秋こそ訪れても冬を飛び越えて、いきなり春のような気配があちこちに見受けられます。

 2006年の冬に、ウィンダム・ヒルのクリスマスものがリリースされなかったのも、少なからず季節の表情が影響を受けていたりして、などと考えてしまいました。


1982年頃のジョージ

〜Discography〜

PIANO SOLOS(Ballads and Blues 1972)(1972)
AUTUMN (1980)
WINTER INTO SPRING(1982)
DECEMBER (1982)
COUNTRY(1984)
VELVETEEN RABBIT(1985)
SUMMER(1991)
FOREST(1994)
LINUS & LUCY : THE MUSIC OF VINCE GUARALDI(1996)
さだ子と千羽鶴(1997)
ALL THE SEASONS OF GEORGE WINSOTN(1998)
PLAINS(1999)
REMEMBRANCE(2001)
NIGHT DIVIDES THE DAY(2002)
MONTANA: A LOVE STORY(2004)
GULF CAST BLUES & IMPRESSIONS(2006)
LOVE WILL COME − THE MUSIC OF VINCE GUARALDI VOL.2(2010)
GULF COAST BLUES & IMPRESSIONS2: A LOUISIANA WETLANDS BENEFIT(2012)
SPRING CAROUSEL - APRING CANCER RESEARCH BENEFIT(2017)
RESTLESS WIND(2019)
NIGHT (2022)


 
Anniversary Edition
AUTUMN(2001)
WINTER INTO SPRING(2002)
DECEMBER(2002)
VELVETEEN RABBIT(2003)
PIANO SOLOS(Ballads and Blues 1972) (2003)
SUMMER(2005)