ウィンダム・ヒルの掲示板

Photo by Toshiharu Minagawa.

WH-1026
AN EVENING WITH WINDHAM HILL LIVE
Produced by Will Ackerman, Alex de Grassi.




 2006年8月27日に、レーベル発足30周年を記念してリユニオン・ライヴが行われました。1976年に発足された際のレーベルメイトは、現在それぞれの道を歩んでいますが、レコード上では毎年のように再会(リユニオン)しています。ウィンダム・ヒル・サンプラー・シリーズがそれです。

  最近の企画としては、クリスマス物や映画のテーマなどを扱ったオムニバスアルバムが、季節ものの、ファンにとってはレーベルからのプレゼント的な作品集となっています。

 ウィンダム・ヒルが日本に紹介された1983年、友人に「ウィンダム・ヒルってナニ?」と聞かれることが多々ありました。彼らにはレーベルといった概念がなく(秋葉原の某大型レコード店の店員から「レーベルってなんですか?」と言われたときには唖然としたが…)、かといって「レコード会社だよ」といった説明すると、無機質で味気なく、かつてはイーグルスが「金儲けになる商品を作り出す魂を食い尽くす連中」と切り捨てたり(Hotel California)、レイナード・スキナードが契約に縛られて「商品としてのレコードを作り出さねばならない」苦痛を訴えたり(Work for MCA)しているレコード会社と取られたくなかったから、そんなときに、『サンプラー・シリーズ』は大いに役立ったものです。タイトルこそ“サンプラー”などと、それこそ無機質な商品になってしまっていますが、アッカーマンはジャケットにこだわり続け、いわゆるジャケ買いの対象にも成り得ましたが、主役はあくまでも音楽でした。


 ウィンダム・ヒルは今でも複数のアーティスト単位で行うジョイント・コンサートを行っていますが、このレコードに納められているのは、その拡大版とも言うべき規模でしょう。参加者の顔ぶれは、今見てもスゴイメンツがステージ上に集まり、現在の状況を思えば、30周年記念コンサートを遙かにしのいでいるようです。

01. Rickover's Dream / Michel Hedges
Michel Hedges ; Guitar

02. Turning: Turning Back / Alex de Grassi
Alex de Grassi ; Guitar

03. Clockwork / Alex de Grassi
Alex de Grassi ; Guitar / Chuck Greenberg ; Lyricon
Darol Anger ; Violin / Michael Manring ; Bass / Michael Spiro ; Percussion

04. Spare Cange / Michel Hedges
Michel Hedges ; Guitar
Liz Story ; Piano / Michael Manring ; Bass

05. Visiting / Will Ackerman
Will Ackerman ; Guitar
Chuck Greenberg ; Lyricon / Michael Manring ; Bass

06. Hawk Circle / Will Ackerman
Will Ackerman ; Guitar
George Winston ; Piano / Michel Hedges ; Guitar

07. Reflections/Lotus Feet / George Winston
George Winston ; Piano



 本作(邦題『ウィンダム・ヒルの夕べ』)は、1982年10月9日にバークリーで行われた2回のセットから、その模様を伝えるウィンダム・ヒルのライヴアルバムであり、ある意味『ウィンダム・ヒル・サンプラー』ともいえる内容です。
 本国でブームになる以前は、このアルバムのように10名近いアーティストたちが全米をサーキットしていました。つまりここでは初期のウィンダム・ヒルが、レーベルとして活動していた頃の、ブレイク直後の模様を伝えるアルバムなのです。(ま、ブレイクをどの時点に定義するかにより、前夜だったり直後だったり…)

 このアルバム(ツアー)には、スコット・コッスが参加し、アルバムジャケットには名前もクレジットされているにもかかわらず、どういうわけか彼の演奏は未収録となっています(レコードの最後に、アーティスト全員がステージに登ったときのコメントも収録されていますが、まさかそこにいたから、なんてことではないでしょうが…)。どうせクレジットしているなら、デグラッシも参加していることだし収録してくれれば良かったのに、と思う。“Purple Mountain”などの名曲は夕暮れ前にピッタリの曲だし、“Thrty Six”など全員参加で楽しめるノリの良い曲なのに。ただし、コッスのクレジットはアナログ盤だけで、CDジャケットでは削られています。あるいはマイケル・マンリングなんて、クレジットしてあげても良いぐらいなのに。

 収録曲がわずか7曲と、今となっては寂しい限りですが、演奏の組み合わは様々で、レコードで共演しているアーティスト同志はもちろんのこと、ヘッジスとストーリーなどのように、ステージ上でなければ見る(聴く)ことができないような共演もあったりして興味は尽きません。

 ライブならではの(ファンとしては)豪華な顔合わせで演奏してくれていますが、実は彼らにとってはレコードで共演しないだけで、ステージ上のセッションは多いのです。同じ音楽性を持ち合わせているから、場所や曲が変わっても、そのポリシーやサウンドに変化がないのは、このアルバムを聴いていてもおわかりいただけるでしょう。だから、ここでは、その組み合わせの楽しみも味わえるわけです。

 そんな中、このライヴアルバムで興味深いのは、ジョージ・ウィンストンの登場でしょう。今でこそ、ほとんどのステージをソロで廻っていますが(言い換えれば、ソロでサーキット出きるアーティストはジョージぐらいということか?)、全米にウィンダム・ヒルの風が吹く前は、レーベルの一員として参加していた、ということが伺い知ることのできる嬉しい作品集なのです。

 今回のアルバムは、たった7曲という少なさですが、当然、収録されなかった演奏や演奏者も多くいて、同じ年の【ウィンダム・ヒル・セレブレーション】と銘打ったコンサートには、ウィンダム・ヒルに新加入したばかりのアイラ・スタインとラッセル・ウォルダーや、バーバラ・ヒグビーとダロール・アンガーといったデュオチーム、またシャドウファックスのようにグループとしての参加もありました。
 曲の合間に彼らのおしゃべりが楽しめるのも一聴に値します。来日公演の時は、言葉が通じないと思ってか、あまり多くを語らなかった彼らも、やはり本国では口もなめらかで、音楽だけのイメージでライヴに足を運ぶと、その剽軽な人柄がにじみ出たおしゃべりが実にユニーク、かつユーモアに溢れていることに気づかされます。このアルバムには、そんな彼らの人柄と、ステージの雰囲気までが伝わってくる作品集となっています。


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