星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

麻田剛立(1734-1799)
享保十九年〜寛政十一年 (享年65歳)

 子どものころから天文学を独学し、かたわら医もよくし、数学は宅間流に学んだといわれる。旧姓綾部、名は妥彰(やすあき)、字は剛立、正庵と号す。杵築藩儒綾部の四男。明和年間(1764〜72)、杵築藩侍医に推されたが、みずから脱藩して大坂に行き、医を業としながら、天文の観測、理論に没頭した。名声が高まり弟子に高橋至時、間重富、西村太仲、坂正永、足立信頭らを出し、世に麻田流天文学といわれる。寛政年間(1795)幕府に召されたが、老齢のため辞し、弟子至時と重富を推挙した。日本暦学史上、中国流暦算学から西洋式近代天文学への移りゆきの曲がり角に立つ人。彼の創出した消長法は、天文常数の長周期的変化を採用し、これにより中国と西洋の天文学の止揚を意図したもので、高弟たちにより唱導されたが、近代天文学の理解は不十分で、天保暦では捨てられる。ケプラーの第3法則を独自に創案したと弟子たちはいう。まとまった著作はほとんどなく、有力な高弟たちの過大な評価の中に、彼の指導的位置がうかがわれる。

----天文学人名辞典 天文学年表  中山茂編(恒星社)より

麻田剛立墓(淨春寺)

 麻田剛立のお墓は、浄春寺(大阪市天王寺区夕陽丘町5−3)にあります。私はJR新大阪駅から地下鉄(1日乗車券はお得!)を乗り継ぎ、訪れました。
  ブログにも書きましたが、急遽決まった前倒しの休暇を利用して、日食(2019年12月26日)に合わせた千載一遇のチャンスが訪れ、いつか訪ねて見たいと思っていた巨人、麻田剛立に会いに行くなら、この日以外に考えられないと思い、カメラと着替えだけ用意して計画もそこそこに新幹線へ乗り込みました。朝もまだ早い時間に最寄り駅の始発快速に乗り、いつまでたってもどんよりとした空を眺めながら大阪に向かいました。新幹線のぞみは、最高速度300キロで新横浜から一気に名古屋へ飛ばします。途中、富士山が青空の中白い冠を魅せてくれましたが、あっという間に過ぎ去り、今から200年前の江戸時代の人びとが自らの足で西へ東へと歩く姿に想いを馳せました。それにしても早い。いつもは車のハンドルを握っているから、旅程のすべてが自分の目を通しているのですが、電車ともなると事情が異なります。少なくとも行きぐらいは昼間の行程になるので、しっかりと自分の目に焼き付けていきたい、そんな風に考えて車窓の移り行く姿のめまぐるしい展開に呆れてしまいます。浜松をすぎた辺りから、地面が濡れていることに気づき、車のヘッドライトも点灯しています。ワイパーも動いています。道行く人たちの色とりどりの傘も開いていました。「あと5時間、このまま雨なのか…」願いも空しく、最初に到着した間重富までは傘をささざるを得ませんでした。(間重富へ

 今回の日食、大阪での欠け始めは14時22分。それまで昼食とお茶で時間をつぶし、いよいよ面会。当然誰もいません。当然と言えば当然ですが、その後も、お墓参りに来る人は誰もおらず、年の瀬の慌ただしさとは無縁の時間と空間と、そして静けさがここにはありました。

  どんよりとした空で、いつまで待っても欠けた太陽は顔を出すことがありません。私は腕を組んだまま空を見上げる剛立に「晴れませんねぇ」と声を掛けてみたものの、彼は身じろぎひとつせず、ただ雲の隙間から一筋の日彼が漏れることだけを期待しているような横顔だけを見せていました。

 そんな情景を想像しながら、自分自身も時々顔にパラパラと冷雨を受けながらじっと空を見つめていましたが、このまま待っていても日食は無理かなぁ、と思った瞬間、隣にいたはずの剛立の気配もなくなっていました。 (2019/12/26)


参考書
☆麻田剛立/ 末中哲夫監修 宮島和彦、鹿毛敏夫著 (大分県先哲業書)
☆麻田剛立・資料集 (大分県先哲業書)
☆近世日本科学史と麻田剛立/ 渡辺敏夫(雄山閣出版)
☆日本思想体系63 近世科学思想・下(岩波書店)
→星学簡抄(間重富・高橋至時/広瀬秀雄校注)
☆近世日本天文学史(上)通史/渡辺敏夫(恒星社厚生閣)
☆近世日本天文学史(下) 観測技術史/渡辺敏夫(恒星社厚生閣)
☆近世日本天文学史(下) 観測技術史/渡辺敏夫(恒星社厚生閣)
ニッポン天文意外史20「麻田剛立と高橋至時の師弟関係」(星の手帖 Vol.60)
☆天文学者たちの江戸時代: 暦・宇宙観の大転換/嘉数次人 (ちくま新書)
→第二章西洋天文学の導入 徳川吉宗・麻田剛立が開いた扉
☆日本洋学史の研究 I (創元社)
→享和期における麻田流天学家の活動をめぐって『星学手簡』の紹介(有坂隆道)
☆日本洋学史の研究 V (創元社)
→寛政期における麻田流天学家の活動をめぐって(有坂隆道)
☆日本洋学史の研究 VI (創元社)
→山片蟠桃の宇宙論について(有坂隆道)
 
☆天空に魅せられた生涯―小説麻田剛立伝/ 柳田昭(日本図書刊行会)
☆月のえくぼを見た男/ 鹿毛敏夫(くもん出版)
☆月に名前を残した男/ 鹿毛敏夫(角川ソフィア文庫)
 
  「文献を調べるにつけて、我が文庫本の誤りが出るわ、出るわ、あっと言う間に四、五箇所の致命的誤謬を発見したのである。それで、何事にも乗りやすい私は、剛立の実像を伝えるため、身の程知らずにも自分で書こうと決心したのである」

  これは、この小説の作者柳田昭氏のあとがき。 私のように剛立についていろいろな文献をあたって、彼の人となり、周辺の状況などを興味深く調べている者にとって、小説という体裁を取っているものの貴重な資料となっています。ただ、よみがな(ルビ)の振り方に統一性が見られないので「えっ、ここでルビ?」とか、肝心な固有名詞に「うっ、読めない…」があったりと、残念な箇所も見受けられました(自分で調べることで、新たな発見もありましたが…)。

 プロの作家が書くような主人公の独白のようなものはなく、史実を元にした剛立の立ち回りを描くことによって、主人公のイメージが損なわれるようなことはありませんでした(小説としてなら、思いっきり作者の創作が入っても良かったと思いますが←井上ひさしの『四千万歩の男』みたいな、きっと作者がそうした剛立像にしてしまうと、誤解を招くと考えていたのではないでしょうか)。
 

 

もどるhome