星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

クープランの墓
作曲:1914-1917
初演:1919年4月11日 マルグリット・ロン

 

 私が最もラヴェルの作品で好きなピアノ曲は?と聞かれたら、真っ先に「クープランの墓」と答えるでしょう(彼の作品で?と聞かれたら、迷わず「ボレロ」です)。

 6曲の小品となるそれぞれに、ラヴェルが志願(兵隊として!)した第一次世界大戦の際に亡くなった友人の思い出に作曲された、ラヴェルにとっては最後となるピアノ作品。こうしたうんちくを差し引いて、私がこの曲が好きなのは、ラヴェルが友人の思い出に捧げたのと同じように、私もこの曲集を聴くと、一曲一曲に旅の場面が思い浮かぶからです。旅のお供に連れて回った「クープランの墓」。この曲集にはそうした思い出を喚び起こしてくれる曲想があるのかもしれません。
Prelude(ジャック・シャルロ中尉の思い出に)
Fugue(ジャン・クルッピ少尉の思い出に)
Forlane(ガブリエル・ドゥリュック中尉の思い出に)
Rigaudon(ピエール&パスカルのゴーダン兄弟尉の思い出に)
Menuet(ジャン・ドレフュスの思い出に)
Toccata(ジョゼフ・ドゥ・マルリアーヴ大尉の思い出に)


サンソン・フランソワ(1958)
Prelude 02'55"
Fugue 04'21"
Forlane 05'58"
Rigaudon 02'49"
Menuet 04'50"
Toccata --'--"

 世の中、「ラヴェルと言ったらサンソン・フランソワ」と言われて半世紀…。コレを上回る演奏・録音は現れないのでしょうか? 「録音」とはいっても、この演奏は1958年というモノラル。彼のドビュッシーがSACD化されたのに、ラヴェルの方が、その気配もないのはモノラルだから?

 とはいえ、随分な数の廉価盤として何度も装いも新たにCDが連発されていますが、どれもこれもアナログを上回る音質を再現出来ていないのが残念でなりません。何が悪いのでしょうか? 今の技術を持ってすれば、同じ音質で再現すること等可能ではないでしょうか?現に、そうしたディスクは沢山あるのに!

 このアルバムは3枚組で、他に古風なメヌエット、亡き王女のためのパヴァーヌ、水の戯れ、ソナチネ、鏡、夜のガスパール、ハイドンの名によるメヌエット、高雅で感傷的なワルツが収録されています。まぁ、ごく一般的な全集と言った所でしょうか。


ウラド・ペルルミュテール(1970)
Prelude 02'54"
Fugue 03'15"
Forlane 05'46"
Rigaudon 03'16"
Menuet 04'53"
Toccata 03'57"
 私にとってもラヴェルのピアノは、作曲家に取って唯一の弟子となったペルルミュテールの演奏です。クープランの墓を最初に聴いたのは、ワイセンベルグ、そして全集の中に収録されたコラールのピアノでしたが、作曲家直伝のペダリングの絶妙な響きは、ラヴェル本人の演奏に限りなく近い表現なのではないでしょうか?


アレクシス・ワイセンベルグ(1971)
Prelude 02'59"
Fugue 02'20"
Forlane 05'06"
Rigaudon 03'09"
Menuet 04'35"
Toccata 03'49"
 初めてこの組曲を聴いたのが、ワイセンベルグのレコードでした。その時のお目当てはムソルグスキーにあったので、ラヴェルはおまけみたいな感じでほとんど印象は残っていません。その後、この曲が好きになってから、ペルルミュテールの演奏を聴くまでは、ワイセンベルグのレコードをテープに起こして繰り返し聞いていました。テクニックのことばかり言われているワイセンベルグですが、この組曲の中にある叙情的な作品などもお気に入りです。
  オリジナル収録は、下のストラヴィンスキーとのカップリングです。CD化されたのは2004年になってからのこと(←2014年現在廃盤)。これら以外にも、1972年8月4日にワイセンベルグのザルツブルク・リサイタルにおいて演奏している音源を聴くことができます。

 

ジャン・フィリップ・コラール(1980)
Prelude 03'05"
Fugue 03'39"
Forlane 05'56"
Rigaudon 03'43"
Menuet 05'37"
Toccata 03'44"
 アルバムタイトル(3枚組のボックス)に『全集』と書かれ、この言葉に弱い私は即購入。まぁ、ラヴェルは大好きな作曲家であり、コラール&ベロフという共演も見逃せなかったので、当時はまだ中学生でありながら、ためらうことなく大枚を使いました。

 

キャサリン・ストッツ(1990)
Prelude 02'55"
Fugue 03'27"
Forlane 05'50"
Rigaudon 02'48"
Menuet 05'05"
Toccata 03'52"


・クープランの墓
・水の戯れ
・ソナチネ
・逝ける王女のためのパヴァーヌ
・夜のガスパール


 ペルルミュテールに師事したキャスリン・ストッツのラヴェル。たった1枚しかレコーディングしていませんが、発売当時話題になりました。地味な演奏ですが、ラヴェルのピアノ作品が持つ雰囲気を十分に伝えてくれます。
 ストッツはショパンやフォーレを得意としており、フォーレのピアノ作品全集をレコーディングしています。

 NECがシリーズにしていたフランスもの(他にカッサールのベヒシュタインを使ったドビュッシー全集や、ジャン・クラ、ジョルジュ・ミゴetc.)の一枚。レコード帯には“ラヴェル-ペルルミュテール-ストッツ 時を越え語り継がれたラヴェル直伝派のピアニズム”と書かれています。

ロジェ・ミュラロ(2003)
Prelude 02'55"
Fugue 03'38"
Forlane 05'48"
Rigaudon 03'11"
Menuet 04'59"
Toccata --'--"

・グロテスクなセレナード
・古風なメヌエット
・亡き王女のためのパヴァーヌ
・水の戯れ
・ソナチネ
・鏡
・夜のガスパール
・マ・メール・ロワ
・ハイドンの名によるメヌエット
・高雅で感傷的なワルツ
・ボロディン風に
・シャブリエ風に
・前奏曲
・クープランの墓
・ラ・ヴァルス(独奏版)


 イタリアの銘器ファッオーリによる演奏。スタインウェイのキラキラとした白色で透明感のある輝きに対して、琥珀のようなイメージを感じさせる音です。2台のピアノ作品も含まれていますが、全集には至っていないのが残念です。ラ・ヴァルスの独奏版独奏版がユニーク。

 

Alice Ader(2002)
Prelude 03'22"
Fugue 03'54"
Forlane 06'26"
Rigaudon 03'47"
Menuet 06'10"
Toccata 04'20"

・夜のガスパール
・グロテスクなセレナード
・逝ける王女のためのパヴァーヌ
・水の戯れ
・前奏曲
・鏡
・クープランの墓
・ハイドンの名によるメヌエット
・ソナチネ
・シャブリエ風に
・ボロディン風に
・高雅で感傷的なワルツ
・古風なメヌエット




ピアノ作品集/ジャン・ティボーデ(2003)
Prelude 02'55"
Fugue 03'38"
Forlane 05'48"
Rigaudon 03'11"
Menuet 04'59"
Toccata --'--"

・グロテスクなセレナード
・古風なメヌエット
・亡き王女のためのパヴァーヌ
・水の戯れ
・ソナチネ
・鏡
・夜のガスパール
・ハイドンの名によるメヌエット
・高雅で感傷的なワルツ
・ボロディン風に

 ピアノの貴公子というあだ名がついているティボーデのラヴェル全集。とはいってもソロのみです。

 

ピアノ作品集/永野英樹(2000)
Prelude 03'15"
Fugue 03'35"
Forlane 06'08"
Rigaudon 03'11"
Menuet 05'39"
Toccata 03'56"

・クープランの墓
・前奏曲
・水の戯れ
・古風なメヌエット
・夜のガスパール

 日本人ピアニストとして(私にとって)初めて男性の演奏と出会いました。このピアノ曲集が20世紀に入って書かれたんだな、と思わせてくれます。というのも、線の輪郭がかっちりと聞こえてくるからです。たとえて言うならクオーツ時計の秒針のよう。彼の得意な作品が20世紀になってから書かれた現代音楽というのもうなずけます。


ピアノ作品集/前田あんぬ(2003)
Prelude 02'55"
Fugue 03'38"
Forlane 05'48"
Rigaudon 03'11"
Menuet 04'59"
Toccata 04'02"

・グロテスクなセレナード
・古風なメヌエット
・亡き王女のためのパヴァーヌ
・水の戯れ
・ソナチネ
・鏡
・夜のガスパール
・ハイドンの名によるメヌエット
・高雅で感傷的なワルツ
・ボロディン風に
・シャブリエ風に
・前奏曲
・クープランの墓

 リリース当初、ジャケットに圧倒されてしまって・・・ 

 なーんでこんな水商売みたいな格好でラヴェルのジャケットを持ってきたんだか理解に苦しみます。本人も緊張というか、笑顔堅いし。しかもジャケット裏はミニスカートで立ち姿。隣にラヴェルの写真。せっかくペルルミュテールが「ラヴェル弾き」と讃えているというのに。何考えてんだかフォンテック(レコード会社です)。ただ、本人の希望であったなら致し方ないですが。それに応えてなのか、2000年の再発売の時はまるで別人のような写真に差し替えられての発売になっていました。

 で、気になる演奏ですが、ホールトーンが出ていて、どこかのステージで聴いているようなクリアな音が好感持てました。それは演奏から来るもので、ペルルミュテールが「ラヴェル弾き」と言ったことに頷けるのではないでしょうか?特にピアノがオン気味のフランソワの後に続けて聴くと明らかで、その響きに魅せられてしまいます

 

 

ピアノ作品集/野原みどり(2003)
Prelude 03'23"
Fugue 03'48"
Forlane 06'00"
Rigaudon 03'26"
Menuet 05'06"
Toccata 04'21"

・ハイドンの名によるメヌエット
・ソナチネ
・グロテスクなセレナード
・鏡
・前奏曲
・クープランの墓

 2003年にリリースされた第1集の中に「クープランの墓」が収録されました。作曲年代で考えると、ピアノ曲の最後となる曲集なので、どういう選曲かわかりませんが、このあと第2集(2004)で完結されたので、まぁ、収録時間の関係でこうなっただけなのかもしれません(特に理由は書かれていません)。ゆっくりとしていて曲想に見通しの利く演奏です。

 


impression/三浦友里恵(2004)
Prelude 02'57"
Fugue 03'41"
Forlane 05'41"
Rigaudon 02'39"
Menuet 04'24"
Toccata 03'47"

・月の光(ドビュッシー)
・2つのアラベスク(ドビュッシー)
・亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)
・夢(ドビュッシー)
・クープランの墓(ラヴェル)
・夜想曲第4番変ホ長調(フォーレ)
・ラ・ヴァルス(ラヴェル)
・ジムノペディ第1番(サティ)
・ジュ・トゥ・ヴ (サティ)

 ジャケットからしてアイドルっぽい雰囲気があったから敬遠していたのですが、続くアルバムでは「ピアノ協奏曲(2008)」「ピアノトリオ(2009)」と次々とレコーディングしていたので「おや?」と思って手に取ってみたら、なんと「クープランの墓」のみ全曲レコーディングしているではありませんか!(笑)ほかの作曲家の作品は、有名どころしか弾いていないのに「どうしてクープランは?」。それに「ラ・ヴァルス」のラヴェル自身による独奏版を選曲するなんてただ者じゃないな?というところからジャケットに関係なく聴いてみました。
 演奏自体は奇をてらったところもなく、素直な解釈で、SACDというフォーマットも手伝って透明感を感じることが出来ましたが、それはアーティストの雰囲気を意識して聴いてしまったからかもしれません。フォルラーヌだけが、他の曲と違ってずいぶん重たい足取りに感じました。まるでドビュッシーの夜の音楽のように。


ピアノ作品集/金澤希伊子(2010)
Prelude 03'14"
Fugue 03'23"
Forlane 05'47"
Rigaudon 03'16"
Menuet 04'42"
Toccata 04'14"

・グロテスクなセレナード
・古風なメヌエット
・亡き王女のためのパヴァーヌ
・水の戯れ
・ソナチネ
・鏡
・夜のガスパール
・ハイドンの名によるメヌエット
・高雅で感傷的なワルツ
・ボロディン風に
・シャブリエ風に
・プレリュード(前奏曲)
・クープランの墓

 ジャケットに映し出されているピアノで演奏しているなら、どんなにか想像力をはばたかせて、ラヴェルの音を想像できたでしょうか!しかし実際には、これはジャケット撮影用のためでけに許可されたショットなんだそうです。収録曲は、ラヴェルのソロ作品全集では当たり前のようになっている作曲順に並んでいます。2枚組。

 

ピアノ作品集/岡本愛子(2011)
Prelude 03'17"
Fugue 04'15"
Forlane 05'54"
Rigaudon 03'11"
Menuet 04'46"
Toccata 04'28"

・パレード
・古風なメヌエット
・鏡
・グロテスクなセレナード
・シャブリエ風に
・ボロディン風に
・クープランの墓

 このアルバムの目玉は2008年にサラベール社から出版されたばかりの若書きの「パレード」でしょうか。私にとっては「クープラン」なんですが(笑)。この曲はアレクサンドロ・タローの全集にも含まれていますが、なかなかレコーディングされない曲です。


ピアノ作品集/藤原由紀乃(2011)
Prelude 04'11"
Fugue 03'29"
Forlane 06'38"
Rigaudon 03'28"
Menuet 05'56"
Toccata 04'21"

・亡き王女のためのパヴァーヌ
・水の戯れ
・クープランの墓
・夜のガスパール

 ゆーっくりと弾きはじめる表現は、一音一音を大事に奏でようとする気持ちの表れでしょうか。ライナー・ノーツに自身の解釈を記載してくれていますが、アルバムに収録された曲に対して「作品にまつわる思い出や、奏でるときの心境やイメージについて書くことで、CD聴衆の方々に楽しんで戴けるのではないかと思います」と綴っています。聴く方も、その方が面白いと思います。

 

ピアノ作品集/中井正子(2012)
Prelude 03'04"
Fugue 03'42"
Forlane 06'14"
Rigaudon 03'16"
Menuet 05'08"
Toccata 04'11"

・グロテスクなセレナード
・古風なメヌエット
・亡き王女のためのパヴァーヌ
・水の戯れ
・ソナチネ
・鏡
・夜のガスパール
・ハイドンの名によるメヌエット
・高雅で感傷的なワルツ
・前奏曲
・ボロディン風に
・シャブリエ風に
・クープランの墓
・メヌエット

 しっかり2枚組の作品全集です。日本のレーベルALMから2種めとなるラヴェル全集です(パチパチ)。ドビュッシーの楽譜校訂でも知られるピアニスト。ラヴェルも楽譜校訂を行っていて、今回もそれに基づく演奏です。目玉は1904年に作曲されたとされる「メヌエット」。この曲を1987年3月3日、世界初演も行いました。録音はアレクサンドロ・タローに先を越されてしまいましたが(笑)。

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