ウィンダム・ヒルの掲示板


Photo by Toshiharu Minagawa.


WH-1013
WILLOW / Daniel Hecht

 

 



Produced by William Ackerman.
Engineered by Russell Bond.
except where noted.

All compositions by Daniel Hecht.
Windham Hill Records, 1980

   


 1983年に、ウィンダム・ヒルが紹介されたときのカタログにこのアルバムがありました。しかしアナウンスされたものの、結局日本盤はリリースされることはなかったのです。手元にあるのは輸入盤で探し当てたもの。

 ダニエル・ヘクトはウィンダム・ヒルにこの1枚しかレコーディングしていないばかりか、彼のミュージシャンとしては唯一のレコードです。1989年以降ギターを置き、ギタリスト引退宣言をしてしまいました。現在は作家としての顔が有名ですが、いつの日か“ギタリスト”としての活動再開を願って止まみません。

 ウィンダム・ヒルにはたった1枚しか足跡を残していないアーティストが名盤になっているというケースが少なくなく、このダニエル・ヘクトのギターアルバムもそれで、初期のウィンダム・ヒルのカラーを見事に繁栄していて、ジョージ・ウィンストンの『AUTUMN』のギター版とも言えないでしょう。2曲目に“Autumn”があるからそう思うのかもしれなませんが、このギターの作品集には晩秋の高く澄んだ青空、ひんやりとした爽やかな風を受けているような雰囲気があるります。とにかく私のお気に入りの一枚で、この季節になると良く聴くアルバムであるだけに、これ一枚しかないのは残念でなりません。
 彼のスタイルは、共演者のアレックス・デ・グラッシほどのテクニカルではないし、プロデューサーのアッカーマンのように叙情的でもありません。メロディの美しい楽曲が多く、彼の自然を歌い上げるメロディーメーカー振りが、レーベルポリシーとうまく結合して、この名盤が生まれたように思えてなりません。

 なお、4曲目の“jimmy Blue Eyes”では、アレックス・デ・グラッシが客演していますが、このポートレイトを見ると、どことなくアレックス・デ・グラッシに似た風貌(ヒゲだけ?)


01.Willow
Daniel Hecht ; Guitar

02.Autumn
Daniel Hecht ; Guitar

03.Water Mantra
Daniel Hecht ; Guitar

04.Jimmy Blue Eyes
Daniel Hecht ; Guitar / Alex de Grassi ; Guitar

05.Love's Reply
Daniel Hecht ; Guitar

06.Confluence of the Rivers
Daniel Hecht ; Guitar

07.Shell Game
Daniel Hecht ; Guitar / Alex de Grassi ; Guitar

08.Tanglefoot's Tales
Daniel Hecht ; Guitar

09.March of the Trolls
Daniel Hecht ; Guitar

10.Afternoon Postlude Solioquy
Daniel Hecht ; Guitar



01.Willow
 アルバムタイトルにもなっているオープニング曲。レーベルの性格からすると、これは植物の柳のことかと思っていましたが、実は、レコーディングしていた頃に誕生した愛娘のお名前だそう。生命の誕生に対する不安と喜びを交えた、感覚が見事にメロディとなり、聞くものを癒してくれるようです。そうした喜びをダニエルのしなやかな指が軽快に弦を弾く。それを見事に捉えたウィンダム・ヒルのレコーディング技術は非常に優秀で、まるで目の前で演奏が行われているようです。

02.Autumn
 萌えあがった秋の山にひっそりと水をたたえた湖畔にたった一人でたたずんでいるよう。秋は山から人里へと下りて行くが、この情景の中に身をおいていると、人里へは届いただろうかと、フト思います。

03.Water Mantra
ゆったりとした瞑想的な曲

04.Jimmy Blue Eyes
 左にアレックス・デ・グラッシ、右にダニエルのギター。感情移入してしまいそうなほどブルージーにメロディを歌い上げるデ・グラッシのソロが印象的。アルバム一番の聴きどころ。当時、一緒にヨーロッパ・ツアーをしていたことから実現したセッションのうちの1曲。この曲のみエンジニアはRichard Bosworthが担当。

05.Love's Reply
 オープニングと同様、ダニエルの指がしなやかに歌い上げる佳曲。この曲のみがフェードアウトで終了。

06.Confluence of the Rivers
 ちょっとしたカントリー調の曲で、メロディにあふれた一曲。アルバムの中でも、もっとも歌謡性にあふれた曲かもしれません。

07.Shell Game
 “貝殻遊び”のことでしょうか。子供たちが夢中になって遊んでいる様子が浮かんできます。かなりのスピード感にあふれる曲で、ダニエルのテクニカルな面が浮かび上がってくる曲です。

08.Tanglefoot's Tales
 ヘッジス的な前衛的オープニングに続いてアップテンポで構成された曲。時々現れる短いフレーズが耳に残るメロディを奏で、前衛的な曲で終わらないところが、短いフレーズも生かされているようです。

09.March of the Trolls
 前曲同様、二部構成になっていて、後半のメロディが非常に印象的。トロルが機関車のように突進してゆくさまは、フランスの作曲家オネゲルが書いた『パシフィック231』を思い起こさせますが、そういった部分は前曲と同じように短い構成で、全体的にメロディアス。

10.Afternoon Postlude Solioquy
 2曲の前衛的な曲(といっても非常にメロディアスだが)に続いて、アルバム全体に漂う雰囲気で締めくくられています。なお、2007年に製作されたAdam Wernerが立ち上げた新レーベルNew Land Musicから『WOODSONGS』というアコースティック・ギタリストのためのコンピレーションがリリースされましたが、その中で、実に27年ぶりにこの曲をリ・レコーディングをしてくれました。アッカーマンは関わっていませんが、スタジオはお馴染みのImaginary Road Studiosで、プロデュースはアッカーマンの右腕コリンが行っています。


参考までに彼の著作
・Skull Session(1997)邦題「スカル・セッション〜殺戮の脳」内田 昌之訳/徳間文庫
・Babel Effect (2000)
・Puppets (2001)
・City of Masks (2002)
・Land of Echoes (2004)
・Bones of the Barbary Coast (2006)
・On Brassard's Farm (2018)
・The Body Below(2023)

 なお、彼の書く作品はスティーブン・キング同様、モダンホラ〜だとか。日本では『スカル・セッション』のみ出版されているようです。