Photo by Toshiharu Minagawa.


WH-1008
PIANO SOLOS OF ERIC SATIE / Bill Quist
Produced by William Ackerman.
Engineered by Harn Soper.

01.3つのジムノペディ
02.3つのサラバンド
03.2つのオジーブ
04.天国の門へのプレリュード
05.気むずかしい気取り屋のワルツ
00.a) 彼の恰好 .b) 彼のメガネ c) 彼の両足
06.最後から2番目の思想
00.a) 牧歌(ドビュッシーへ) b) 朝の歌(ポール・デュカへ)
00.c) 瞑想(アルベール・ルーセルへ)
07.3つのグノシェンヌ
08.2つのプレリュード
09.星たちの息子
00.a) 使命 b) 伝授
10.3つのノクテュルヌ

Windham Hill Records, 1979



 アッカーマンが最も影響を受けたというエリック・サティ(1866-1925)の作品集で、レーベルとしては初の全曲カヴァーということになります。とは言え、このアルバムに関しては、ウィンダム・ヒル初のクラシックであり、のちにリリースされているバッハやモーツァルトのアルバムとも性格を異にしています。完全にクラシックのスタイルで貫かれている作品集も、レーベルの中では後にも先にも、このサティのアルバム1枚しかありません。
 おかしな表現をするようですが、クラシックの世界から眺めてもサティを演奏しているにもかかわらず異質であり、レーベル内から見ても(かなりクラシックよりということで)異質な性格を持つ孤立した立場にいます。

 私はサティの音楽を白のイメージとしてとらえられています。白を選んだ理由は、下手にピアニストの感情(色彩)が入るとサティの音楽が死んでしまうからだと思うからです。サティ弾きに要求されるのは“いかに楽譜に忠実に作曲家の書いた音符だけを弾くことができるか”というところにあり、一般には「それ」をアルド・チッコリーニや高橋アキといったサティ弾きは見事にそれを演奏しきっていると思います。

  しかしながら、ウィリアム・クイストがウィンダム・ヒルからリリースしたこのアルバムは、更に「白さ」に磨きがかかっているようです。今までに多くのサティを聴いてきていますが、ここまで真っ白な演奏には正直驚いきました。ピアニストの感情をまったく意識させないユニークな演奏だからです。
 しかしこのアルバムをプロデュースしたのがアッカーマンと知り、納得。この演奏はウィリアム・クイストの演奏というよりもプロデューサーとしてのウィリアム・アッカーマンの主張が見事に表現されたサティの音楽だからです。

 ウィンダム・ヒルにはジョージ・ウィンストンをはじめ、リズ・ストーリー、フィリップ・アーバーグ、ジム・ブリックマンといった個性的なピアニストがたくさんいます。彼らの解釈によるサティはさぞかし面白いでしょうが、アッカーマンはそういうサティを望んでいなかったのでしょう。サティを弾くに当たり、彼らの“個性”が邪魔だったに違いありません。サティが意図した音楽は『家具の音楽』に代表されるように、音楽を意識させない音楽、つまり五線譜に何も書かれていない音を要求しています。
 だからといって当のウィリアム・クイストが個性のない平凡なピアニストなんて思っていません。ウィルの要求を見事に表現しきった素晴らしいサティ弾きだったということなのです。これは、未だにこのアルバムがカタログ落ちをせずに再販を繰り返していることからも証明済みだと思います。

 私は彼の本名であるウィリアム・クイストと表記していますが、レコードクレジットではビル・クイスト。パリでラヴェル弾きとして知られるノエル・リーに師事しました。のちにRichard Sechristとピアノデュオ(Sechrist & Quist)を結成し、西海岸を中心としたエリアを拠点に活動を行っていました。現在はChrista McAuliffe Academy(CMA)で教師を務め、ピアニストとしての活動を行っていません。どういう経緯でウィンダム・ヒルと関わったのか、興味が持たれるところですが、これが唯一のレコードのようです。