星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 遠野物語の楽しみ方のひとつに、語り部による昔話があります。おすすめは現地に行って現地の言葉による生きた遠野物語を聴くというのが一番ですが、近所にいるならともかく、私のように「遠くに思うもの」にとってはなかなか難しいので、以下に紹介する朗読された音声を聞く楽しみ方もありかな、と思います。遠野から遠く離れていても、自宅にいながら遠野を追体験できること間違いありません。

 とはいえ、やっぱり遠野に行って、遠野という空気を吸うのが一番でしょう。なかなかいけない人、また、一度足を踏み込んで、遠野に魅了された人たちに自信を持って紹介します(ダイジョウブカ?)

 ここで紹介する以外にも、たくさん出版されていますから、書店や図書館の民俗などのコーナーで自分にあったガイドブックを探してみるのも、遠野をめぐる旅のひとつと言えるのかもしれません。




鈴木サツさんを囲んで

忘れもしない1989年12月1日金曜の夜…

 遠野にある古民家の民宿「曲り家」には私を含め4人。初日に語り部として足を運んで頂いたのは、なんと鈴木サツ(1911-1996)さんでした(上の写真)。曲り家のオヤジさんが言うにはとてもおしゃれなおばあちゃん。



 

「昔あったづもな…」鈴木サツ媼の話に耳を傾けているといつの間にか夜も更け、異次元に入り込んでしまったような錯覚に陥ります。異次元とは、つまり遠野物語が活字として残される以前の、口から口へと伝えられていた頃の時空へ。カッパやザシキワラシが我が物顔で、ここかしこへと出没していた頃(もっとも、遠野には今も彼らは生きていますが…)。

 遠野に関連する説話集として先ずまっさきに挙げなければならないのは、約10年(1986-1991)の間に本人の元を訪れて聞いた話をすべて収録(188話)した11枚分に及ぶ記録集。 しかし、現在は一部の資料館(私の場合、地元の図書館で全て聴くことができます)でしか聞くことが出来ず、手に入りやすい点で福音館書店から出版されているこの書をお勧めします。ここに付録として、先に録音された語りが42話、CD3枚として聴くことができるからです。
 聴き手は柳田國男が佐々木鏡石氏から話の採取をしている現場にでも迷い込んだと思うでしょう。聴いていて疲れないのは、さすがに話しなれているからでしょうか?かなり完成された語り部の語りを聴くことができます。下のカバーはCDケース。

CDに収録されている説話
(其の一)
1.おしらさま 2.つぶむすこ 3.猿の嫁ご 4.まめっこの話(一) 5.まめっこの話(ニ) 6.上の爺と下の爺のどっこかけ7.屁っぴり嫁ご 8.人にもの食わせたくねえ男の話 9.三枚のお札 10.笠地蔵
(其のニ)
1.雪おなごの話 2.魚のががの話 3.河童淵 4.お月お星 5.二度咲く野菊 6.ねずみの相撲っこ 7.びっきの上方見物 8.狐とつぶの参宮 9.頭のおっきな男の話 10.おっとん鳥 11.かっこうとほととぎす 12.寒戸の婆さま 13.座敷童子 14.猿と蟹の餅つき 15.とんびの染屋
(其の三)
1.虎猫と和尚さま 2.猫の嫁ご 3.豆とおにぎりとわら 4.昔と話と謎のはなす 5.ねずみの参宮 6.川原のくるみの木 7.金の壷 8.天さあがった男 9.狐の恩返し 10.狐の郵便さん 11.ボホボホの話 12.豆腐とこんにゃく 13.せやみ 14.上方せんぽ 15.神さまと小便 16.飴をなめた小僧っこの話 17.観音さまのお授けのへら



 遠野の2日目、オヤジさんは気を利かせて、みんなと違う料理を並べてくれました。

「だから言っただろ」

  そしてその夜やって来てくれたのは白幡ミヨシさん(下の写真)。

  共に今では遠野の語り部、というよりも民話の語り部として世界的にも名を馳せている媼の語りを二晩続きで体験することが出来きたのです。これは遠野ファンである私にとって、なんと贅沢な時間だったことでしょうか。

  残念ながらサツさんは1996年に85歳という高齢でお亡くなりになりましたが、現在は妹の正部家ミヤさんが代わって活躍されているのをはじめ、数々のメディアが残されていますので、追体験をする事が出来ます。  
  ここで紹介する本とCD、今では動画も配信され(遠野昔話語り部の会)、今でも私を曲り家へ、そしてサムトの婆の部屋、笛吹峠へ連れて行ってくれるのです。
白幡ミヨシさんを囲んで

白幡ミヨシの遠野がたり(岩田書院/1999)
“一人出版社”の異名をとる岩田書院からリリースされた白幡ミヨシ(1910-)さんの語り。

 昔話編13話と世間話編11話が『白幡ミヨシの遠野がたり』『遠野物語は生きている』という2冊の本に収録されている話を、24話のみ収められています。『世間話編』の菊池玉さんは、ミヨシ媼の実娘。
 鈴木サツ媼の語り口と比べると、道すがらのおばあさんの話を聴いているような、とても素朴な語り口にまったりとできるでしょう。

2010年に満100歳を迎え、ますます遠野のばあちゃん元気です。


CDに収録されている説話

disc1 昔話編 1.おしら様/ 2.鬼の子小次郎/ 3.馬放しに行かされた童子の話/ 4. 猿と蟹/ 5. 一寸法師/ 6.鼠の相撲取り/ 7.瓜こ姫こ/ 8.極楽見てきた婆様/ 9.耳帽子/ 10.笠売り爺様/ 11.蛇にだまされた娘/ 12.鼠の嫁入り/ 13.ねずみの千匹

disc2 世間話編 1 サムトの婆様/ 2.下女を流した話/ 3.座敷童子/ 4.河童の恩返し / 5.山男の話/ 6.鉄砲撃ちとオリワ/ 7.まよいが/ 8.あく太郎/ 9.置き針置きの話/ 10.早瀬河原の親子石(語り:菊池 玉)/ 11.シラッパタケにカブ撒いた馬






 鈴木サツ媼の実妹、正部家ミヤ(1923-)による昔話集で、お話しに重複があるものの、遠野物語の続編といった趣があります。嬉しいことにコチラにもCDが付録としてパッケージされていて、聴き易さ(ちょっと都会に近づいた?)の点でいえばサツさんよりミヤさんの方が聴きやすいかもしれません。

CDに収録されている説話

1.猿の嫁ご/ 2.親父買った男/ 3.人さ、もの食せたくねえ男 4.ねずみの相撲っこ/ 5.お月お星1/ 6.猿と蟹の餅つき  7.狐と郵便屋さん/ 8.オグナイさま/ 9.団子っこけろ/ 10.蚕の串刺し/ 11.豆腐とこんにゃく(仲悪かった)/ 12.貧乏神と福の神(一人神)/ 13.川端のくるみの木





 遠野の語り部たちによるオムニバスで、冒頭の市原悦子さんの語りは、あのテレビ番組を連想させます。先にご紹介した媼たちの再登場ですが、新しく収録したなおした説話を聞くことが出来ます。日本全国の昔話シリーズの「岩手編」です。



CDに収録されている説話

01. 市原悦子ナレーション 02. たにし長者 (菊池ヤヨ)03. 迷い家(菊池ヤヨ)04. 三人娘とうなぎ退治(白幡ミヨシ)05. 貧乏神と福の神(白幡ミヨシ)06. なみなみのへっぴり爺(正部家ミヤ)07. 猿と蟹の餅つき(正部家ミヤ)08. 猫の嫁ご(正部家ミヤ)09. おしらさま(鈴木サツ)10. 瓢箪(ふくべ)の始まり(鈴木サツ)11. ザシキワラシ(鈴木サツ)


〜 ちょっと話題がずれますが・・・ 〜
 遠野物語とはずれてしまいますが、このCDシリーズの冒頭のみのナレーションを勤める市原悦子さんといえば、ファンも多い『まんが日本むかしばなし』を思い浮かべる方もいらっしゃるに違いありません。このCDのプロダクションは、そういうイメージをもって作ったのでしょう。それはそれでいいのですが、ちょっと安易すぎるような気もします。それに、冒頭だけというのは、あまりにも出し惜しみが過ぎるような・・・
 最近、某番組のCD絵本が出版されました。丸々番組の吹き替えをCDに収め、絵本を付けた体裁。あの番組はアニメーションがあって、両名優による吹き替えがあってこそ味わいが出るので、ただ単にナレーションだけというのは頂けません。吹き替え時は当然、映像があっての収録であって、「読み聞かせ」を念頭に置いていないからです。雰囲気だけを味わうのであればいいかもしれませんが、多くのファンはそういう形式を望んでいません。完全な形での販売を期待するものです。





鍋の中
川上の家
雉子娘
冷し馬
狐つきおよね
笛吹峠の話売り
水面の影
鰻と赤飯
狐穴

新潮カセット文庫

鍋の中
笛吹峠の話売り

朗読;すまけい




 井上ひさし(1934-2010)がオマージュとして書き上げた『新釈遠野物語』を、私は遠野に向かう列車の中で、読んでいました。ある人はパロディと称していますが、決して、そんなに軽いアレンジではなく、巧妙な話術で読者は、きっと、井上氏の遠野にも魅せられるに違いありません。もしかすると、本家よりも人気があるのではないだろうか、と思うこともあります。最後のどんでん返しに抱腹絶倒すること請け合いです。
 新潮カセット文庫から2話の朗読版がレコーディングされました。できることなら全話の朗読で聴きたいですねぇ。



遠野物語を知る、考える本柳田国男の「遠野物語」遠野物語の周辺の本

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