|星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)|
20時南中:2月25日
木枯らしが町を吹き抜け、そろそろ冬の訪れを感じさせる晩秋の夕暮れ。夕焼けに染まる空の反対側、夜がその帳を大地に降ろす境目に目を移すと、たったひとつ、チカチカと妙に目を引く明るい星が目にとまります。この星はぎょしゃ座の1等星カペラで、ふだんは黄色味をおびた穏やかな輝きの星ですが、この頃は地平線近くにいるということと、北風などが吹いているおかげで、いつになく瞬いて見えています。 |
カペラは師走の頃から人目に付くような高さにのぼってきますが、この頃はまだせわしなくチカチカまたたいて見え、まるで年の瀬になると忙しくなる人々の心に合わせているように見えるので、個人的にはこのカペラのまたたきを見ると「いよいよ年末だなぁ」と、季節の到来を教えてくれる星として注目している星のひとつです。 このカペラの穏やかな色は、表面温度が太陽とほぼ同じことに由来しているのですが、実体は大違いで太陽の直径14倍もある0.9等星の巨星と、9倍もある1.0等星のふたつの巨星が太陽-地球間ぐらいしか離れていない場所で、わずか104日の周期でお互いを回り合っている連星なのです。距離は50光年という比較的近くにある星なので、干渉計という特殊な装置を使って見かけの直径を測ることのできる数少ない貴重な星なのです。 さてこのぎょしゃ座、将棋の駒のように並ぶ五角形が印象的な星座のため、中国では“五車”、日本では“五つ星”“五角星”などと呼んで親しんでいました。 この星座はプトレマイオスの48星座として知れ、すでに紀元前9世紀の壁画に記されている歴史の古い星座ですが、ギリシア語でこの星座の五つの星の並びを“ヘニオクース(手綱を取る者)”とよび、α星のカペラを“御者”、残る4つの星を“車”、カペラの脇で小さな星が形作る三角形を“手綱”と見て、その名のとおり、馬車を走らせる御者の姿を星空に描いていました。 しかしヘヴェリウスやフラムスチードなどの制作した星座絵図を見ると、名前こそ“ぎょしゃ座”ですがその姿はなく、そこには母山羊と二匹の子山羊を抱く老人の姿で描かれています。これはギリシア時代よりももっと古く、バビロニアで描かれた頃の姿だけがそのまま残り、神話と結びついても絵姿だけが昔のままだったことが原因のようです。 写真を見てもらうとわかるように、この星座は冬の天の川の中にどっぷりと浸かっているために、五角形の中には金砂銀砂をばらまいたような細かい星がたくさん集まって見えます。中でも注目は、メシエの散開星団トリオといわれているM36、M37、M38の姿でしょう。五角形の中に双眼鏡を向けてみると、同視野の中に浮かぶ散開星団の並んだ光景に、思わずため息が漏れてくること請け合いです。 |
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