星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

星降る夜の深夜喫茶:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト編

ポケットに音楽を詰め込んで星を見に行こう

 モーツァルトの音楽に初めて宇宙を感じたのは、ほとんどの人と同じように『ジュピター』というニックネームのついた交響曲です。彼の作品は当時から人気があったようで、気軽に聴けるようにという要望から、家庭でも演奏できるようなこじんまりとした編成に編曲されたものが数多く残されました。「家庭でも」というあたり、そもそも楽器演奏ができないと、叶わぬ夢… 後々発明されたレコードと言うのはつくづく大発明だなぁと感謝しきりです。




モーツァルトの交響曲/フンメル
MOZART'S SYMPHONIES

交響曲 第38番
交響曲 第39番
交響曲 第40番

2012 NAXOS 8.572841

モーツァルトの交響曲/フンメル
MOZART'S SYMPHONIES

交響曲 第36番
交響曲 第35番
交響曲 第41番

2012 NAXOS 8.572842


 帯には「シェイプされて身軽になった」と表現している通り、大編成故に『ジュピター』と勝手に命名された41番のようなオーケストラ作品が、こうしたポケットに詰め込めるようなサイズで編曲されています。編成はフルートとピアノ、ヴァイオリン、チェロというピアノ・トリオという室内楽。編曲者のヨハン・フンメルはモーツァルトと同じく「神童」扱いされ、のちにモーツァルトの家に住み込んでいた模様。ベートーヴェンと並び称されるほどの存在だったようです。
 そんなフンメルですが、私が彼の存在を認識したのは、モーツァルトやベートーヴェンの作品を、こうした小編成への編曲者が初めてでした。彼のプロフィールなどを読むと、確かに「ベートーヴェンと並び称される」だけの存在を誇る作曲家でした。学校教育の功罪でしょうな(と、言い訳してみる…)

 というわけで、最初に気になったのは『ジュピター』。私が星と音楽に興味を持ち、ホルストの『惑星』に続いて目を付けたのが、この曲。しかも神々の王にふさわしい威厳ある存在感を見せつけ(聴かせる)てくれるこの曲が、どうアレンジされているのかが最も気になりました。

 この『ジュピター』に限らず、 メロディメーカーのモーツァルトの頭の中で鳴り響いた旋律が、クッキリと、キビキビとして溌溂、前のめりになって畳み掛けて来る演奏が終始繰り広げられています。なんか午前中、頭がすっきりしているときに聞くと、なにやら一定の効果が得られそうな感じ…(星見ながら聴きたいんだけど…)。特にアレグロ楽章なんかいい感じ。そしてメヌエットなどの抒情楽章は、室内楽という編成がみせてくれる穏やかな雰囲気が、風景やゆったりとした時間の中に溶け込みそうな名旋律を贅沢に味わうことになります。

 今度はピアノ協奏曲の室内楽版に興味の対象が行きます…


NAXOS 8.572841NAXOS 8.572842
交響曲第35番・36番・41番
Uwe Grodd; Flute, Friedemann Eichhorn; Violin, Martin Rummel; Cello, Roland Krüger; Piano
Recording: 9-10 July 2012. Producer, Engineer & Edditor by Erich Pintar.

NAXOS 8.572842
交響曲第38番・40番・39番
Uwe Grodd; Flute, Friedemann Eichhorn; Violin, Martin Rummel; Cello, Roland Krüger; Piano
Recording: 14-16 July 2012. Producer, Engineer & Edditor by Erich Pintar.





ピアノ協奏曲
MOZART

ピアノ協奏曲 第6番 変ロ長調 K.238
ピアノ協奏曲 第12番 イ長調 K.414
ピアノ協奏曲 第13番 ハ長調 K.415

1988 EMI Digital CDC 7 49156 2

ピアノ協奏曲
MOZART

ピアノ協奏曲 第11番 K.413
ピアノ協奏曲 第8番 K.246
ピアノ協奏曲 第14番 K.449

1989 EMI Digital CDC7 49791 2


 交響曲の室内楽アレンジは星空のお供にピッタリで、傍らにお抱えの奏者を侍らせていた宮廷のお偉いさんのような気分で流せます。このピアノ協奏曲は、作曲者自ら、つまりモーツァルト本人による室内楽へのアレンジです。本人の編曲だから一番聴かせどころを知っているアレンジ。ピアノがことさら浮き出て美しい編曲です。これがピリオドならと…
 モーツァルト自身、第11番以降の協奏曲に「オーケストラとともに演奏しても、あるいは弦楽四重奏として演奏しても、同等の効果がある」と明言したようですが、それを思えば単なるピアノ協奏曲をピアノ五重奏曲にアレンジしただけにとどまらない、新たな息吹を吹き込まれたような感じがします。イグナーツ・ラハナーは、モーツァルトのピアノ協奏曲然8曲を、コントラバスを含むピアノ五重奏曲版にアレンジしています。

ともかく!

 どの曲も室内楽版というアレンジ好きのマニアックな作品ではなく、最初から独立したピアノ五重奏曲として書かれたオリジナルに聞こえて来ます。

  ジャン=フィリップ・コラールのピアノ、 ミュイール弦楽四重奏団の演奏では、モーツァルト自身が編曲した計6曲のみをレコーディングしてくれていますが、フンメルや先のラハナーなどによって、音楽愛好家に手軽に演奏できるよう全曲が編曲された版を巡るのも、クラシック音楽ならではの楽しいイベントかもしれません。

1988 EMI Digital CDC 7 49156 2
ピアノ協奏曲 第6番・第12番・第13番
Jean-Philippe Collard; Piano
Quatuor Muir are
Peter Zazofsky; Violin, Bayla Keyes; Violin,
Steven Ansell; Viola, Michael Reynolds; Cello
Recording: 7-10 March 1988. Producer by Etienne Collard.

1989 EMI Digital CDC7 49791 2
ピアノ協奏曲 第11番・第8番・第14番
Jean-Philippe Collard; Piano
Quatuor Muir are
Peter Zazofsky; Violin, Bayla Keyes; Violin,
Steven Ansell; Viola, Michael Reynolds; Cello
Recording: 18-21 November 1988. Producer by Etienne Collard.





ポケット・モーツァルト
POCKET MOZART

フロリアン・ドイター & モニカ・ワイズマン
Florian Deuter & Mónica Waisman

2022 Accent ACC24380


 友人であるミヒャエル・ハイドンの依頼で作曲されたヴァイオリンとヴィオラのデュオのような作品は、星空のお供にはピッタリ。メロディメーカーのモーツァルトだけに、もっと作品を残して暮れているのかと思っていましたが、あいにくこのセットのみでした。しかし、後世の作曲家たちは、モーツァルトの作品を、気軽に楽しめるよう二梃のヴァイオリンのために編曲を残してくれました。当時は現代のようにラジオもレコードも携帯プレイヤーもなかったから、音楽は生で演奏され聴かれてきたのは言うまでもありません。そんな環境下に合ってみれば、音楽はどのように人気を博し、後世に繋がれてきたのだろうと考えるのも、音楽を聴く楽しさのひとつでもあるのではないでしょうか(音楽史ってやつ)。

 メロディーメーカーであるモーツァルトの作品は、長大なオペラであってもあちこちに口ずさめるメロディが散りばめられており、どんなに長くてもメロディに尽きることはありません。そこに目を付けた、他の作曲家(モーツァルト本人の編曲もあり)が、家庭でも気軽に演奏、聴く楽しみを味わうためにコンパクトに編曲を重ねていたようです。これまでもカメラータ・トウキョウから、ウォルフガング・シュルツのフルートを中心とした室内楽編曲版などのレコーディングがリリースされていたので、モーツァルトのメロディ・メーカーぶり、そしてメロディだけをチョイスしたような演奏に新たな楽しみが加わったようです。(ジャケットもいい! そう私が想像していたイメージ通り)このアルバムは私の「ポケットにモーツァルトを詰め込んで星を眺めよう」のコレクションにぴったりなのです。

『魔笛』より
ピアノ・ソナタ第8番 K.310より
『フィガロの結婚』より
弦楽四重奏曲第21番 K.575 より
ピアノ・ソナタ第11番 K.331

Florian Deuter & Mónica Waisman
Recording: 23-26 March 2021. Produced by Christoph Claßen.





ピアノ・ソナタ全集
MOZART COMPLETE KEYBOARD WORKS

バート・ヴァン・オート
Bart van Oort

2010 Brilliant Classics 94198


 「古典派」というジャンルが聴けるようになって、ならばと手を出したのがモーツァルトのピアノ・ソナタ。星を眺めながら聴くんだから、ピリオド楽器による演奏をと思って安価なブリリアントものをチョイスしました。当時いくらで購入したか覚えていませんが、14枚組。

 ピリオド(楽器製作当時のオリジナル)と思っていましたが、おそらくクレジットを見る限り、オリジナルで演奏しているのは14枚中1枚だけ(Disk6)。この1枚以外はすべてコピー楽器と思われます。音がとってもキレイ。

  まぁ、素人の私が聞いてわかるのかと言われそうですが、このDisk6以外は「1995年以降に、現代の技術と素材で製作されたコピー楽器」と言う耳で聴いてしまっている(先入観ってやつ?)ので、艶やかさが多少落ちるかも、といういう感じがします。
  私の感覚では、フォルテピアノは音に曇りがないというか、澄み渡った空気の中を濁りのない音色を聴かせてくれる感じがします。そしてそうした音、音楽は古典派の作品がしっくり来ます。音楽的に曇りがないというか、作曲者の感情移入がない分、純粋な音楽作品として時間を、そして空間の中を響いて来ると言う感じです(あくまで個人の感想)。なので、そうした音こそ、星を眺める際にはピッタリ来ると感じてしまうのかもしれません。

  残念ながら、モーツァルトに思い入れはそれほどない(怒られそう…)ので、どれを聴いていても同じような感触で接しているために、一度ターンテーブルにのせてしまうと、なんと14枚もあるにもかかわらず、1日中同じディスクをリピートしていることもざらで、ひょっとして、もしかしたら一度も聴いていないディスクがあるかもしれません。そんな輩には、一度携帯プレイヤーに放り込んで、最初から掛けっぱなしにしておけば、とりあえず全曲耳にすることはあるでしょう(笑)。実際、星空の下で単純計算1枚1時間計算したとしても14時間眺めっぱなしということはないのですが…

Disk1: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 1995)
SONATAS AND FANTASIES
Recording: September 1997. Produced by Peter Arts.

Disk2: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 1995)
SONATAS, FANTASY AND ADAGIO
Recording: 26-28 April 2000. Produced by Peter Arts.

Disk3: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 2000)
VARIATIONS VOL.I
Recording: 27-29 November 2001 and September 1997. Produced by Peter Arts.

Disk4: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 2000)
VARIATIONS VOL.II
Recording: December 2001 - January 2002. Produced by Peter Arts.

Disk5: Fortepiano after Walter(ca 1785) by Gerard Tuinman(Utrecht, 2002)
SONATAS AND RONDOS
Recording: October 31 and December 23 2003. Produced by Peter Arts.

Disk6: Fortepiano Anonymous, Vienna ca 1785, Collection Edwin Beunk
EARLY SONATAS AND VARIATIONS
Recording: 26-27 October 2004. Produced by Peter Arts.

Disk7: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 2000)
SONATAS AND VARIATIONS
Recording: 28 October 2004 and 4 May 2005. Produced by Peter Arts.

Disk8: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 2000)
SONATAS AND DANCES
Recording: 29 April and 3 May 2005. Produced by Peter Arts.

Disk9: Fortepiano after Walter(ca 1800) by Gerard Tuinman(Utrecht, 2001)
MOZART AND POLYPHONY
Recording: 22-24 November 2005. Produced by Peter Arts.

Disk10: Fortepiano after Walter(ca 1800) by Gerard Tuinman(Utrecht, 2001)
MISCELLANEOUS KEYBOARD WORKS
Recording: 4-7 October and 22-24 November 2005. Produced by Peter Arts.

Disk11: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 2000/2005)
MOZART'S CHILDHOOD
Recording: 22-24 November 2005. Produced by Peter Arts.

Disk12: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 2000)
KEYBOARD WORKS 4-HANDS, VOL.I
Recording: 11-13 July and 12-14 December 2001. Produced by Peter Arts.

Disk13: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 2000)
KEYBOARD WORKS 4-HANDS, VOL.II
Recording: 11-13 July and 12-14 December 2001. Produced by Peter Arts.

Disk14: Fortepiano after Walter(ca 1795) by Chris Naene(Ruiselede, 1995)
KEYBOARD WORKS 4-HANDS AND TWO PIANOS
Recording: 11-13 July and 12-14 December 2001. Produced by Peter Arts.





ピアノ・ソナタ全集
THE PIANO SONATAS on Mozart's fortepiano

ロバート・レヴィン
Robert Levin

2022 ECM NEW SERIES 4855776


 ピリオド楽器にこだわりたい私にはとっておきのレコーディングが2022年にリリースされました。モーツァルト研究家としても知られているローバート・レヴィン(Robert Levin)が、モーツァルトが愛奏していたという楽器を使用しての録音。しかもリリース元がマンフレート・アイヒャー率いる「沈黙の次に美しい音」をコンセプトとしているECMから。先のオート盤は鍵盤作品全集となっているために14枚も要していますが、こちらはソナタに限ってのレコーディングなので7枚に収まっています。

 1782年に製作された楽器と言うことの他に、作曲者であるモーツァルト自身が1785年以降使用していたという付加価値が、星空の下で聴く音楽としてはこれ以上にないタイムトリップを可能にしてくれます。

Fortepiano Anton Walter, 1782.

Recording: February 2017 and February 2018



もどる天界の音楽

Classic IndexJukeBox

home(一番星のなる木)