星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

星降る夜の深夜喫茶:ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン編

ポケットに音楽を詰め込んで星を見に行こう


 ベートーヴェンという存在は、あまりにも大きすぎて私の手に負えず(笑)、生誕250周年を迎える4〜5年ぐらい前まで、私のポケットに入っていませんでした。それが星のソムリエ講座「天界の音楽」あたりから感覚が代わり、ベートーヴェンへの親しみが膨らみ始めました。

  幸いなことに、図書館などで多くの演奏家のCDを聴いて「慣れ」たおかげで、他の古典派で避けていた作曲家の作品も好んで聴けるようになったのも、楽聖のおかげだなぁと思っています。

 とはいえベートーヴェンの交響曲などを星空のお供にする時、マーラー同様(交響曲第8番を除く)、いささかオーバーというか、静かに星空を眺めるには少々うるさいというか…(笑) そんな風に思っていたところ、ふと目にとまったのがプロ・アルテ・アンティクァ・プラハというグループがレコーディングした交響曲第7番の室内楽版。正確には弦楽五重奏版。
 最初にも書きましたが、ベートーヴェンは避けていたのですが、この交響曲だ7番と言うヤツは例外で、カール・セーガンのコスモスや、ピーナッツ(邦題はスヌーピーとチャーリーブラウン)でおなじみの曲だったこともあり、唯一と言っていいぐらい、ベートーヴェンはこれ以外聴くことはなかったのです。それの室内楽版だったので、躊躇なく手が伸びました。





♪ 交響曲第7番
♪ エグモント序曲
♪ プロメテウスの創造物序曲
♪ フィデリオ序曲



プロ・アルテ・アンティクァ・プラハ
- Pro arte antiqua Praha -

ヴァーツラフ・ナーヴラット:ヴァイオリン
ヤン・シモン:ヴァイオリン
ヤロスラフ・ポンジェリーチェク:ヴィオラ
ヤロミール・パーヴィチェク:ヴィオラ
ペトル・ヘイニー:チェロ




 このCDがリリースされた1996年当時は、こうした編曲ものがあまりというか、ほとんどなく、日本国内でも初登場とかなんとかうたっていたような気がします。その後、それに併せるようにしてオクトフォロスという管楽器ばかりの楽団のCDもリリースされました。私がその2枚のアルバムを手にしたのは、同じ交響曲第7番だったこと、そしてこの曲こそ私のベートーヴェンの入り口となったきっかけとなったことが理由でした。

 そのアルバムの解説にはこう書いてあります。

「今日の私たちはディスクや放送など“音楽の再生装置”の恩恵を受けて、オペラやシンフォニーをはじめ、どんな大編成の音楽も家庭で鑑賞できる。18世紀半ばにはこうした大編成の音楽の再生は、それを小さな規模に編曲した合奏や独奏によって行なわれていた。オペラや管楽作品を、ピアノ独奏、ピアノ・デュオ、ピアノ・トリオや管楽合奏に編曲し、劇場やホール以外の場所でも楽しんでいたのである」
(KKCC4197より)

 確かにそうだよなぁ、と思います。今では携帯プレイヤーをポケットに入れて、どんな場所にだって好きな音楽を連れて行くことができる時代になりましたが、当時はそんなこと考えにも及ばなかった時代です。だから、ここで紹介する室内楽版などは人気だったわけです。のちにピアノ・デュオへのアレンジへと続くわけです。私が室内楽版にアレンジされた曲が好きな理由の一つに「星空を眺める際に、そっと傍らでなっていて欲しい」という思いがあって、星たちの輝きを邪魔しない(笑)静かな音楽を聴きながら眺めるのが好きだからです。携帯プレイヤー本体から音を流すと、フル・オーケストラだと音が割れたりすることも考えられるので、こうした小編成のアレンジがちょうど良い、というのもあります。

 2020年にリリースされた交響曲第9番のピアノ版の解説に面白いことが書いてあったので、引用させていただきます。

「今日のようにオーケストラの演奏会が頻繁になかった時代、ベートーヴェンの交響曲のトランスクリプションや簡易版は生前から幾つか出版され、出版社にとっても重要な収入源となった。それは音楽愛好家や腕の立つアマチュア演奏家作品を知らしめるのに一役買ったが、そこには2つのカテゴリーがあった。1830年までは、交響曲を縮小して室内楽編成、主に四重奏や五重奏に編曲していた。その後、ピアノが楽器の王様ととして台頭し、ピアノ4手用またはピアノ1台用編曲が優勢になった。ベートーヴェンの弟子でもあったカール・ツェルニーは1829年にベートーヴェンの交響曲第9番を編曲しているが、そこでは合唱パートを、歌とピアノ伴奏、もしくは2台ピアノのみとしている。ヨハン・ネポムク・フンメルも第1番〜第7番を、フルートもしくはヴァイオリン、チェロとピアノ用に編曲したが、リストによれば“完全な錯乱”であり、“大家の考えをここまで歪曲されたものを目にするのは辛い”と酷評している。」(MIR534より)

さらに自身のピアノ編曲に関しては

「自惚れではないが、私の方がカルクブレンナー騎士のよりも上出来だと思っている。やつは金髪か赤毛のかつらをアレンジでもしていればいいんだ。」(MIR534より)

 こうしたアレンジ物の他に、私が星空のお供にポケットに忍ばせている音楽は、作曲家が存命中に製作された楽器(ピリオド楽器といいます)を奏でたレコーディングがあります。肥えた耳の持ち主(特に音楽家の方々)には、いささか堪え難い響きを与えるようなキライもありますが、ベートーヴェンが生きていた時代の空気を吸い込んだ楽器によって奏でられる音楽は、もはや私の感覚ではタイムマシンのなにものでもなく、星の光が何十、何百年も掛けて到達した姿であることを考えたら、このコンビによる星見は天球の音楽に触れている以外の何モノでもない、と思います。

 さて、ポケットにベートヴェンを仕込んで、星を見に出掛けましょう!(強引… 笑)なお、紹介の順番に意味はなく「ああ、そうだ、この録音もあったんだ」みたいな感じで、思い出しながら書いてみました。

 





交響曲全集(フランツ・リスト編曲)

シプリアン・カツァリス(Cyprien Katsaris)

   

 ベートーヴェンの編曲もので思い出すのは、超絶技巧ピアニストのシプリアン・カツァリスがピアノ一台で臨んだフランツ・リストが交響曲を編曲したレコードでしょうか? ということで、懐かしさもあってシプリアン・カツァリスのシリーズも持って行くことにしました。
  それにしても凄いレコードでした(笑)。リリース当初は、他の作曲家のピアノ編と同じように、なかなか馴染めないアレンジ色だったので、グールドの「田園」の素朴さに惹かれるぐらいで、やはり敬遠していました。それでもなんとなく覚えているのは、ジャケットもテルデックらしく、なんかウィットに飛んでいると言うか、クラシックらしからぬデザインで、ちょうどデジタル録音のはしりだったことも手伝っていたのかもしれません。やはり7番だけはそのうち聴いておかなくてはなぁ、と思っていました。実際に聴けたのは、図書館に通うようになってからです。いやぁ、図書館さまさま!(笑)




交響曲全集(フランツ・リスト編曲2)

ユーリー・マルティノフ(Yury Martynov)
 古楽(フォルテピアノ)でのレコーディングは多いものの、実際はレプリカが多く(作曲家自身の所有していた楽器などは、展示のための保存が主で、演奏できないからレプリカが作られ、それを用いるのは当然と言えば当然)、解説とか読んでガッカリさせられることがありますが、このレコーディングは、ピアノが製作された当時のオリジナルを演奏しているので、古楽ファンとしては、どんなにギシギシとノイズが入ろうが、ビョ〜オオンといったような奇妙で狂ったチューニングに聞こえようが関係なく、それだけで時間を越えた感覚の気分になるので、オリジナルで演奏されたものを選びたくなります(で、それを聴きながら星を眺めるなんて、最高ですねー)。

  ここで交響曲全集に臨んだユーリー・マルティノフが選んだピアノは、ベートーヴェンの時代ではなくリストの時代(1811-1886)に製作された楽器を選んでいますが、至極当然のことと思われます。

交響曲第1番 ハ長調 Op.21
交響曲第2番 ニ長調 Op.36
交響曲第6番 ヘ長調 Op.68「田園」
交響曲第7番 イ長調 Op.92
以上1837, Erard

交響曲第3番 変ホ長調 Op.55「英雄」
交響曲第4番 変ロ長調 Op.60
交響曲第5番 ハ短調 Op.67「運命」
交響曲第8番 ヘ長調 Op.93
交響曲第9番 ニ短調 Op.125「合唱付」
以上1867, Bluthner

 星空のお供につれているベートーヴェンの「ピアノ版交響曲」のファーストチョイスは、このユーリーのレコードです。
 




交響曲全集(フランツ・リスト編曲3)

ヒンリヒ・アルパース(Hinrich Alpers)

 リストが編曲したベートーヴェンの交響曲は、2020年の生誕250周年に向けて多くのレコーディングがリリースされて来ましたが、恐らく初めてヴォーカルも加わった演奏がレコーディングされました。ピアノ+声楽は先に小川典子や広瀬悦子(シプリアン・カツァリスが「ロシア物のバレエ作品」のピアノ・デュオの相手に選んでます)のレコーディングがあったので、さほど珍しくなくなってしまいましたが、いずれもリスト以外の編曲者によるものでした。しかも、リストは第九のみピアノへの編曲を後回しにし、声楽もピアノパートに置き替えることによって完成させたとか。しかし、Hinrich Alpersのこのレコーディングには、リストのアレンジに声楽付きというちょっとしたサプライズを追加しています。

 リストの編曲版を最初に聴いたのはグレン・グールドの「運命」と「田園 第1楽章」でした。そのあと輝デックからシプリアン・カツァリスのシリーズが始まりました(笑)




交響曲第6番「田園」(ゼルマール・バッゲ編曲)

マルタ・アルゲリッチ & テオドシア・ントコウ

 なんかレディ・ガガみたいな風貌のテオドシア・ントコウとマルタ・ルゲリッチという子弟コンビ。リリース直前になって延期され、アルバムジャケットも当初予告されていたポートレイトではなく、なんだかつまんないデザインになってしまいました。編曲者は音楽学者のゼルマール・バッゲ(1823-1896)




交響曲 第1番(フンメル編曲)
Aurelia Visovan: Fortepiano
(Conrad Graf, 1835)
Anna Besson: Flute
Cecilia Bernardini: Violin
Marcus van den Munckhof: Cello

 1800年に作曲された交響曲第1番。まだまだ古典派の枠にどっぷり浸かった感のある作風は大作曲家の若書きでしょうか? 音楽解説書などを読むと「ハイドン、モーツァルトの影響を受けながらも既に独自性が現れている」と説明していますが、私のような素人にはどこが独自性?と思ってしまいます(笑)。

 そんな交響曲第1番を室内楽にアレンジしているのは、当時はベートーヴェンと並んでピアノの巨匠と讃えられたというヨハン・ネポムク・フンメル(1778-1837)。このアルバムにはモーツァルトのピアノ協奏曲第24番と、彼自身のピアノ・ソナタ。

  嬉しいことに使用ピアノが1835年製作オリジナル楽器のコンラート・グラーフ。何より、星空のお供に連れて行くなら、出来る限りオリジナル楽器での録音がお勧めです。過去の姿(星の光)を眺めながら、作曲家が活動していた当時の楽器を奏でて、当時の音楽が聴けるなんて… 至福の一枚です。

 1800年の天文学史・音楽史の年表にも「各国で家庭音楽が盛んになり、器楽が声楽よりも優勢になり、弦楽器による室内楽、管楽器のための独奏曲、協奏曲の演奏が盛ん」と語られるようになりました。




交響曲 第2番(本人の編曲)
アトランティス・トリオ
The Atlantis Trio
Penelope Crawford: Fortepiano
(Anton Walter & Son, 1802)
Jaap Schroder: Violin
Enid Sutherland: Cello

 ベートーヴェンは、自作の交響曲第2番を1806年ごろにピアノ三重奏曲へ編曲しました。残念ながら本人が交響曲を室内楽にアレンジしたのはこれ1曲のみ。本人のアレンジだからなのか、比較的多くのレコーディングがなされたようですが、レコーディングにピリオド楽器を選んだのは、今のところアトランティス・トリオによるこのアルバムだけで、1802年に製作されたアントン・ウォルターを奏でています。そうしたクレジットを見つけると、早くこのアルバムを聴きながら星空を眺めたいなぁと思ってしまいます。




交響曲第6番「田園」(ミヒャエル・ゴットハルト・フィッシャー編曲)

プレイアデス(レ・シエクル)

 弦楽六重奏曲版。メーカーの宣伝では個人的に気になるグループ名を「おうし座のすばる星団のフランス名」と紹介していますが、メンバーを見る限りギリシア神話のプレアデス姉妹が正しいのではないでしょうか? というのも神話の通り星になった(これがすばるのことであり、プレアデス星団のこと)彼女たちが、のちに1名天界から去り6名となるエピソードがあるから。なので女性ばかりの編成は見事(笑)。これまた演奏とは関係ありませんが、ジャケットの誰一人としてカメラ目線がいないと言うのもグッド(笑)。

 メンバー全員レ・シエクル(ジャケット左上にクレジットされてます)。それはさておき、第6番は、交響曲としても当時は異例の全5楽章という編成だったことからか、アレンジャーのミヒャエル・ゴットハルト・フィッシャー(1773-1829)このアレンジも表現の幅を持たせるためか、これまでの室内楽版と比べ人数を増やしています。もしかしたら、彼がオルガン奏者と関わっているのかもしれません。そのためでしょうか、オリジナルとあまり変わらない印象で聞くことができました。カップリングはシェーンベルグの、こちらは弦楽六重奏曲としてオリジナルの演奏です。




交響曲第7番(本人の編曲)

オクトフォロス

 当時ベートーヴェンで唯一と言って良かった私の大好きな交響曲第7番が、ピアノ版、弦楽五重奏、そしてこの管楽器のみの楽団によるハルモニー版と、どういうわけか続けてリリースされた時期がありました。そうした編曲もので最初に手を出したのがこのハルモニー版。これはベートーヴェン自身が編曲を手がけているというというところがポイントではないでしょうか? つまり本人が「そうしたい」と望んだ響きを担当できると言うわけです。しかも、この編成はベートーヴェンが全曲編曲しているらしく、このアルバムの解説には全曲レコーディングすると書いてありました(あれから30年近く経ちますが、いまだ音沙汰なしですが…)。
 なお、編成はポケットに詰め込むことができる上限ギリギリの9名(アンサンブルの名前はジャケットの影絵の人数通りですけど)で、オーボエ2、クラリネット2、ホルン2、ファゴット2、コントラファゴット1です。




交響曲第7番(編曲者不詳1812年刊行)

ボックスウッド&ブラス

「ベートーヴェン変容 第2集」と銘打たれてレコーディングされた一枚。こちらの編曲も、ベートーヴェン本人が編曲したものに編成が似ていて(よほど人気のあった編成だったんでしょう)、オクトフォロスで用いられていたコントラファゴットの代わりに超低弦のコントラバスが用いられています。というわけで、こちらのアンサンブルも上限ギリギリの9名(笑)オーボエ2、クラリネット2、ナチュラルホルン2、ファゴット2、コントラバス1です。オクトフォロスよりも魅力的なのが、ピリオド楽器による演奏です。聴き比べると、その音色の違いが面白く、古の響きを楽しむことができます。彼らにはぜひ交響曲全集を完成させてもらいたいですねぇ(笑)。




ヴァイオリン・ソナタ全集

ジェリリン・ジョーゲンセン(Jerilyn Jorgensen)、カラン・ブライアント(Cullan Bryant)

 個人的に待望久しかったヴァイオリン・ソナタをヒストリアル・インストゥルメンタルでのレコーディング。メーカーによればヴァイオリンはアンドレア・カロルス作1797年ウィーン製、弓もF.Xピアノは、ディスクが手元にないため、なんともハッキリしていないのですが、曲によってベートーヴェン存命中に作られたベーゼンドルファーほかを弾き分けているとか。




チェロ・ソナタ全集

マット・ハイモヴィッツ(Matt Haimovitz)、クリストファー・オライリー(Christopher O'Riley)

 チェロはゴフリラー1710年製、ピアノは1823年製作のブロードウッド。チェロの方はあまりよくわかりませんが、ピアノは古の響きが随所に聴き取ることができて、星を見ながらだとさらに楽しく聴くことができます。おそらくピリオドでなければ、こんなに真剣に耳を傾けることがなかったでしょう… しかもマルチチャンネルのSACDですから、私にとっては屋外でも室内でも楽しめる一枚です。

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