一番好きな作曲家は誰かと聞かれたら「ドビュッシー」と答えます。クラシック音楽全般に言えることなのですが、今までは敢えて敬遠していた声楽やオペラもポツリポツリと聴き出しました。そんな楽曲を聴いているうちに、この何十年間、私は「一体どれだけ損をしていたのだろう」と思い知らされました。ドビュッシーの歌曲は、ピアノ曲同様、私の心に響くようになって来ました。 また、ドビュッシーの歌曲に限ったわけではありませんが、彼は特にソプラノがお気に入りだったようで、その影響か、私もソプラノの音域が好きです。 クラシックの歌曲と言ったら、作曲家が作詞する曲も少なかれ存在するようですが、ほとんどの場合がインスピレーションを与えてくれる詩人たちの「詩」にメロディをつけているので、詩集を眺めつつ耳を傾けると、言葉はわからなくても情景を思い浮かべやすくなります。ドビュッシーの場合も、それは当てはまり、私が彼の歌曲に興味がわいた頃、生誕151年に出版された詩集(ドビュッシー・ソングブック)を傍らに聴いています。 |
ピアノ伴奏を務めるダルドン・ボールドウィンが音頭を取って、エリー・アメリング、ジェラール・スゼー、マディ・メスプレ、ミシェル・コマン、フレデリカ・フォン・シュターデが曲毎に担当して、ドビュッシーの世界を演出してくれています。ジャケットは左がアナログ、右がCD。 | ||
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♪Ernest Chausson |
このアルバムは、まるまるドビュッシーではなく、ショーソン(1855-1899)とのカップリングです。しかも歌っているのはクリスティーネ・シェーファー、ドイツ人です。マーラーとかバッハで良く見かけるアーティスト。 ドビュッシーの歌曲集としてレコーディングされるアルバムといったら、だいたい曲目は決まって来てしまうのですが、このアルバムには、めったに収録されることのない「♪白夜」 が含まれています。 また、ショーソンの「♪夜想曲」やメゾソプラノのステッラ・ドゥフェクシスを迎えてレコーディングされた美しいデュエットが収録されているのが良いです。ピアノはアーウィン・ゲージ。 |
歌曲集「忘れられた小唄」 ♪やるせない夢ごこち ♪巷に雨の降るごとく ♪木々の陰は ♪木馬 ♪グリーン ♪ 憂鬱 ♪蝶々 ♪薄明の静けさ ♪出現 ♪後悔 ♪ロマンス 歌曲集「抒情的散文」 ♪夢に ♪砂浜に ♪花に ♪夕べに 歌曲集「ステファヌ・マラルメの3つの詩」 ♪溜息 ♪ささやかな願い ♪扇 サンドリーヌ・ピオー:ソプラノ ジョス・ファン・インマゼール:ピアノ(1874年製エラール) |
丸々一枚、ピオーの美声に満ちあふれ、しかも伴奏を務めているのがジョス・ファン・インマゼールが奏でる1897年製のエラール。現在望みうる最高の組み合わせではないでしょうか! |
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「ヴェニエ歌曲集」 I. パントマイム(Pantomime) II. 声をひそめて(密やかに/第一稿)(Calmes dans le demi-jour) III. マンドリン(第一稿)(Mandoline) IV. 月の光(第一稿)(Clair de lune) V. 操り人形(第一稿)(Fantoches) VI. 死後の艶姿(Coquetterie posthume) VIII. ロマンス(Romance - Silence ineffable) IX. 音楽(Musique) X. 感傷的風景(Paysage sentimental) XI. 今はもう春(Romance - Voici que le printemps) XII. アリエルのロマンス(La Romance d'Ariel) XIII. 未練(Regret) 「忘れられた小歌」 「シャルル・ボ-ドレ-ルの5篇の詩」 ドーン・アップショウ:ソプラノ ジェームズ・レヴァイン:ピアノ |
このアルバムの魅力は、くすぐるような高音、ドーン・アップショウと、ピアニストとしても活躍するジェイムズ・レヴァインという組み合わせ。そして作曲家の若書き「ヴェニエ歌曲集」でしょう(先に全集で紹介しましたが、このアルバムがリリースされた当時、結構ワクワクしながら聴きました)。重唱の「スペインの歌」は今回のレコーディングでは省かれていますが、順番通りにまとめて聞くことの出来る貴重なアルバムです。 この声でもっとドビュッシーの歌を聴きたいのですが、サロネンと「選ばれた乙女」、『VOICE OF LIGHT』というアルバムで「ビリティスの歌」が聴けるぐらいです。 |
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以下に、ドビュッシーならではの声楽(歌曲とは言えませんが)女声の語りで聞かせてくれる『ビリティスの歌』を紹介します。この曲とは別に詩人であり友人のピエール・ルイス(1870-1925)が、1894年に書いた詩集から三篇を選び、ソプラノのための歌曲集「ビリティスの歌」も作曲しています(1897/1898)。 |
「ビリティスの歌」 I. 牧場の歌 II. くらべっこ III. お話し IV. 歌 V. お手玉遊びの勝負 VI. ビリティス VII. 無名の墓 VIII. エジプトの娼婦 IX. 水盤の清らかな水 X. クロタルを持つ舞姫 XI. ムナジディカの思い出 XII. 朝の雨 |
「ビリティスの歌」 I. パンの笛 II. 髪 III. ナイアードの墓 |
この詩集にはカラクリがあって、ルイスの恋人だったメリエン・ベン・アタラという女声の異国的な魅力に触発されて書き上げた詩集です。詩集と言っても、ルイス名義で出版したのではなく、紀元前6世紀頃に活躍した女流詩人サッフォーの友人とされる、ビリティスという架空の女流詩人が書いた散文詩というふれこみで、146篇を訳した詩集と偽って出版したのです。当時の評論家達がこぞってだまされたというオチがついているのです。この詩集は、沓掛良彦氏の訳で読むことが出来ます。 1900年になって、ルイスから詩集から12篇をマイムつきで朗誦するために付随音楽を書いて欲しい、とドビュッシーに依頼。彼はアルカイックな雰囲気を出すために、フルート2、ハープ2という編成で作曲しました。 ルイスは家族宛の手紙の中で次のような報告をしています。 「リハーサルの間、今週は毎午後、ヌードの女性たちと過ごした。素敵だった」と。 詩に歌われた古代の雰囲気を醸し出すための演出が行われていたようです。(みたかったなぁ) |
1914年にドビュッシーは、この中から6曲を選んで2台のピアノのために『6つの古代の墓碑銘』を作曲し、更にピアノ・ソロへ編曲をしています。2台のピアノ版は、なかなか聴く機会がありませんが、ソロ版は多くのピアニストによって取り上げられるようになりました。 |
ビリティスの歌 |
6つの古代の墓碑銘 |
牧場の歌 |
夏の風の神、パンに祈るために |
無名の墓 |
無名の墓のために |
歌 |
夜が幸いであるために |
クロタルを持つ舞姫 |
クロタルを持つ舞姫のために |
ムナジディカの思い出 |
エジプト女のために |
朝の雨 |
朝の雨に感謝するために |
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