星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 一番好きな作曲家は誰かと聞かれたら「ドビュッシー」と答えます。クラシック音楽全般に言えることなのですが、今までは敢えて敬遠していた声楽やオペラもポツリポツリと聴き出しました。そんな楽曲を聴いているうちに、この何十年間、私は「一体どれだけ損をしていたのだろう」と思い知らされました。ドビュッシーの歌曲は、ピアノ曲同様、私の心に響くようになって来ました。

 また、ドビュッシーの歌曲に限ったわけではありませんが、彼は特にソプラノがお気に入りだったようで、その影響か、私もソプラノの音域が好きです。

 クラシックの歌曲と言ったら、作曲家が作詞する曲も少なかれ存在するようですが、ほとんどの場合がインスピレーションを与えてくれる詩人たちの「詩」にメロディをつけているので、詩集を眺めつつ耳を傾けると、言葉はわからなくても情景を思い浮かべやすくなります。ドビュッシーの場合も、それは当てはまり、私が彼の歌曲に興味がわいた頃、生誕151年に出版された詩集(ドビュッシー・ソングブック)を傍らに聴いています。




 ピアノ伴奏を務めるダルドン・ボールドウィンが音頭を取って、エリー・アメリング、ジェラール・スゼー、マディ・メスプレ、ミシェル・コマン、フレデリカ・フォン・シュターデが曲毎に担当して、ドビュッシーの世界を演出してくれています。ジャケットは左がアナログ、右がCD。
 




 
♪マドリッド(近年発見)
♪スペインの歌(近年発見)
♪アリエッタ(初版)
♪マンドリン(改訂版)
♪センチメンタルな情景(改訂版)
♪庭にて(第二版)
♪忘れられし小唄(第二版)
♪家なき子等のクリスマス(自筆譜)
 

なんと!
ドビュッシーが所有していたという1905年製のブリュトナーを奏でた歌曲全集がリリースされました。古楽ファンの私としては嬉しくてしょうがない上に、上記のような近年発見された楽曲他、EMI全集に収録されなかった歌曲が多数収録され、近頃彼の歌曲に耳を傾けるようになった私には貴重な音源です。上記の曲目は新発見と初レコーディングのみ記載しました。下の写真は、ニューディスクと、これまでの金字塔だったEMIのレコードです。

「あれっ!?ドビュッシーはベヒシュタインが好きだったんじゃないの?」とも思いましたが、彼が所有していたピアノなら、これはメーカーが何であれファンにとっては嬉しい選択だったのではないでしょうか?

 特に♪スペインの歌は、アップショウのレコード(1997)では聞けなかったデュオ曲で、収録当時、楽譜がなければレコーディングできなかったのも当然でしょう。改訂版のや第二版の曲はそれぞれ別版も収録してくれているために、聴き手が努力(笑)すれば「ヴェニエ歌曲集」の完全版をまとめることができます(私はやりました。iPodに入れて楽しんでます)。


I. パントマイム(Pantomime)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン

II. 声をひそめて(密やかに/第一稿)(Calmes dans le demi-jour)
ソプラノ:マガリ・レジェ

III. マンドリン(第一稿)(Mandoline)
ソプラノ:マガリ・レジェ

IV. 月の光(第一稿)(Clair de lune)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン

V. 操り人形(第一稿)(Fantoches)
テノール:ジル・ラゴン

VI. 死後の艶姿(Coquetterie posthume)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン

VII. スペインの歌(Chanson espagnole)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン & メゾ・ソプラノ: マリー=アンジュ・トドロヴィッチ

VIII. ロマンス(Romance - Silence ineffable)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン

IX. 音楽(Musique)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン

X. 感傷的風景(Paysage sentimental)
テノール:ジル・ラゴン

XI. 今はもう春(Romance - Voici que le printemps)
ソプラノ:マガリ・レジェ

XII. アリエルのロマンス(La Romance d'Ariel)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン

XIII. 未練(Regret)
ソプラノ:リリアナ・ファラオン

 
ソプラノ:リリアナ・ファラオン、マガリ・レジェ
メゾ・ソプラノ: マリー=アンジュ・トドロヴィッチ
テノール:ジル・ラゴン
バリトン:フランソワ・ル・ルー
語り:アントニン・ロンドピエール
ピアノ:ジャン=ルイ・アグノー(ドビュッシー所有のブリュトナー1905年製)





♪Ernest Chausson
魅惑と魔法の森で Op.36‐2
♪4つの歌 Op.13(静けさ/セレナード/告白/せみ)
♪「愛と海の死」~リラの花咲くころOp.19-3

Claude Debussy
♪華やかな宴 第1巻(ひそやかに/操り人形/月の光)
♪抒情的散文(夢に/浜辺に/花に/夕暮れに)
♪白夜(終わりなき夜/彼女が入ってくると)

♪Ernest Chausson
♪7つの歌 Op.2(エベ/蜂鳥/夜想曲/悲しい春)
♪2つの二重唱曲(夜/目覚め)

クリスティーネ・シェーファー:ソプラノ
アーウィン・ゲージ:ピアノ

 このアルバムは、まるまるドビュッシーではなく、ショーソン(1855-1899)とのカップリングです。しかも歌っているのはクリスティーネ・シェーファー、ドイツ人です。マーラーとかバッハで良く見かけるアーティスト。
 ドビュッシーの歌曲集としてレコーディングされるアルバムといったら、だいたい曲目は決まって来てしまうのですが、このアルバムには、めったに収録されることのない「♪白夜」 が含まれています。

  また、ショーソンの「♪夜想曲」やメゾソプラノのステッラ・ドゥフェクシスを迎えてレコーディングされた美しいデュエットが収録されているのが良いです。ピアノはアーウィン・ゲージ。





歌曲集「忘れられた小唄」
♪やるせない夢ごこち
♪巷に雨の降るごとく
♪木々の陰は
♪木馬
♪グリーン
♪ 憂鬱
♪蝶々
♪薄明の静けさ
♪出現
♪後悔
♪ロマンス

歌曲集「抒情的散文」
♪夢に
♪砂浜に
♪花に
♪夕べに

歌曲集「ステファヌ・マラルメの3つの詩」
♪溜息
♪ささやかな願い
♪扇

サンドリーヌ・ピオー:ソプラノ
ジョス・ファン・インマゼール:ピアノ(1874年製エラール)


 丸々一枚、ピオーの美声に満ちあふれ、しかも伴奏を務めているのがジョス・ファン・インマゼールが奏でる1897年製のエラール。現在望みうる最高の組み合わせではないでしょうか!




 
♪6つの古代の墓碑銘/シュリンクス
♪牧羊神の笛/髪の毛/水妖たちの墓(以上ドビュッシー)
♪小さなワルツ、夢(以上カプレ)
♪牧羊神の歌(ルーセル)
♪ほら、目には見えないけれども
(ゴダール/ピエルネ/サン=サーンス/カプレ)
♪聞けよ、わが心(カプレ)
♪夜鶯、いとしいおまえ(ルーセル)
♪天よ、大気よ、風よ(ルーセル)
サンドリーヌ・ピオーの歌声が聞ける他にも、ギリシア神話ファンにはたまらない一枚。

 このアルバムはアルテュール・スホーンデルヴルトが奏でる1907年製のエラールによるドビュッシーの『6つの古代の墓碑銘』を中心に、サンサーンス、ゴダール、ピエルネ、ルーセル、カプレらが、ヴィクトル・ユーゴーの
「ほら!目には見えないけれども…」という詩に、インスピレーションを受けて作曲した歌曲を集めて演奏しています。
  歌曲以外では、フルートのジル・ド・タルエが、19世紀に制作された2種のベーム式フルートでドビュッシーの『シランクス』他、カプレやルーセルのフルート作品を奏でています。




「ヴェニエ歌曲集」
I. パントマイム(Pantomime)
II. 声をひそめて(密やかに/第一稿)(Calmes dans le demi-jour)
III. マンドリン(第一稿)(Mandoline)
IV. 月の光(第一稿)(Clair de lune)
V. 操り人形(第一稿)(Fantoches)
VI. 死後の艶姿(Coquetterie posthume)
VIII. ロマンス(Romance - Silence ineffable)
IX. 音楽(Musique)
X. 感傷的風景(Paysage sentimental)
XI. 今はもう春(Romance - Voici que le printemps)
XII. アリエルのロマンス(La Romance d'Ariel)
XIII. 未練(Regret)

「忘れられた小歌」

「シャルル・ボ-ドレ-ルの5篇の詩」

ドーン・アップショウ:ソプラノ
ジェームズ・レヴァイン:ピアノ


 このアルバムの魅力は、くすぐるような高音、ドーン・アップショウと、ピアニストとしても活躍するジェイムズ・レヴァインという組み合わせ。そして作曲家の若書き「ヴェニエ歌曲集」でしょう(先に全集で紹介しましたが、このアルバムがリリースされた当時、結構ワクワクしながら聴きました)。重唱の「スペインの歌」は今回のレコーディングでは省かれていますが、順番通りにまとめて聞くことの出来る貴重なアルバムです。
 この声でもっとドビュッシーの歌を聴きたいのですが、サロネンと「選ばれた乙女」、『VOICE OF LIGHT』というアルバムで「ビリティスの歌」が聴けるぐらいです。




ドビュッシー歌曲集 / ベロニク・ディーチー
Disk1:MELODIES
♪忘れられた小歌(静けさ/セレナード/告白/せみ)
♪シャルル・ボ-ドレ-ルの5篇の詩
♪ジャヌ
♪カプリス
♪華やかな宴 第1巻(ひそやかに/操り人形/月の光)
Disk2:LA DAMOISELLE ELUE
♪ビリティスの3つの歌
♪ロマンス
♪まぼろし
♪ステファン・マラルメの3つの詩
♪星の輝く夜
♪感傷的な風景(言うに言われぬ静けさ)
♪選ばれた乙女(1887)

 ここで伴奏を務めているのが、世界各地で「ドビュッシー・マラソン演奏会」を行ったフィリップ・カッサール。残念なのは、独奏曲全集で奏でたベヒシュタインではないということ。それを差し引いても、ドビュッシーの歌曲がまとめて聞くことが出来る喜びに代わりはありません。
 珍しいピアノ版による「選ばれた乙女」が貴重な録音。メゾ・ソプラノ、女声合唱も加わり、ドビュッシーの世界が更に広がります。


 2000年にピアノ伴奏がフィリップ・カッサール(Philippe Cassard)から、エマニュエル・シュトロッセ(Emmanuel Strosser)になって、再び取り上げてくれたベロニク・ディーチー。レーベルが代わっていないのが個人的には嬉しいです。ドビュッシーの歌曲集の中では、一人の歌手による、これだけまとまった楽曲を聴くことができるのは初めてのことかもしれません。
  残念ながら現在はすべての巻が廃盤となってしまっていますが、生誕150年記念となった2012年に、レーベルを越えた作品全集『THE DEBUSSY EDITION』の中に、ディーチーの4枚すべてが含まれました(すばらしい!)。Vol.1と2のサインはカッサールです。
Disk3(2000):MELODIES - COLLOQUE SENTIMENTAL
♪ヴェルレーヌによる3つの歌
♪眠れる森の美女
♪抒情的散文(夢/砂浜/花/夕暮れ)
♪バンヴィユの7つの詩(夢想/祈願/西風/リラ/愛しあって眠ろう/セレナード/ばら)
♪波、棕櫚、砂
♪夢
♪悲劇
♪ひそやかに
♪月の光
♪華やかな宴 第2集(初心者/半獣神/わびしい会話)
Disk4(2002):MELODIES - NUITS BLANCHES
♪庭の色彩
♪春が来た
♪アンジェラスの鐘
♪マドリッド
♪蝶々
♪ロマンス
♪もう家のない子のクリスマス
♪フランスの3つの歌(ロンデル:時は脱ぎけりその衣を/洞窟/ロンデル:プレザンスみまたかりければ)
♪眠れぬ夜(終わりなき夜/なぜ)
♪愛し合う二人の散歩道(この暗き洞窟のほとり/我が進めを信ぜよ/我はおののく)
♪華やかな宴(Fete Galante)
♪哀惜
♪アリエルのロマンス
♪讃歌 「イル・ドルト・アンコル」
♪フランソワ・ヴィヨンの3つのバラード(恋人に贈れる/母の願いによりて聖母に祈れる/パリの女を歌える)





 
♪華やかな宴 第1巻(ひそやかに/操り人形/月の光)
♪忘れられた小歌(静けさ/セレナード/告白/せみ)
♪ボードレールの5つの詩
 
 
 
 
 
 
 ここでバーバラ・ヘンドリックスをサポートしているのは、なんと!ミシェル・ベロフ。なんという贅沢な共演でしょうか?それだけでも十分にこのアルバムの価値を高めていますが、演奏もドビュッシーを得意とするベロフのサポートを得て、得も言われる美しさに溢れています。ぜひ、全集に行って欲しかった(笑)。たぶん、兄貴分のコラールがフレデリカ・フォン・シュターデとレコーディングしたフォーレの歌曲集は、EMIにとっては姉妹作なのかなと思います。





 以下に、ドビュッシーならではの声楽(歌曲とは言えませんが)女声の語りで聞かせてくれる『ビリティスの歌』を紹介します。この曲とは別に詩人であり友人のピエール・ルイス(1870-1925)が、1894年に書いた詩集から三篇を選び、ソプラノのための歌曲集「ビリティスの歌」も作曲しています(1897/1898)。


「ビリティスの歌」

I. 牧場の歌
II. くらべっこ
III. お話し
IV. 歌
V. お手玉遊びの勝負
VI. ビリティス
VII. 無名の墓
VIII. エジプトの娼婦
IX. 水盤の清らかな水
X. クロタルを持つ舞姫
XI. ムナジディカの思い出
XII. 朝の雨


「ビリティスの歌」

I. パンの笛
II. 髪
III. ナイアードの墓


この詩集にはカラクリがあって、ルイスの恋人だったメリエン・ベン・アタラという女声の異国的な魅力に触発されて書き上げた詩集です。詩集と言っても、ルイス名義で出版したのではなく、紀元前6世紀頃に活躍した女流詩人サッフォーの友人とされる、ビリティスという架空の女流詩人が書いた散文詩というふれこみで、146篇を訳した詩集と偽って出版したのです。当時の評論家達がこぞってだまされたというオチがついているのです。この詩集は、沓掛良彦氏の訳で読むことが出来ます。

 1900年になって、ルイスから詩集から12篇をマイムつきで朗誦するために付随音楽を書いて欲しい、とドビュッシーに依頼。彼はアルカイックな雰囲気を出すために、フルート2、ハープ2という編成で作曲しました。
 1901年2月7日の上演会当日に、ドビュッシー自身がチェレスタのパートを加えるために、即興で演奏しましたが楽譜を残こしませんでした。1954年にピエール・ブーレーズがチェレスタのパートを補筆して復元させました。私がはじめてこの音楽に触れたのは、1995年にリリースされたウィーン・アンサンブル・ベルリンのアルバムで、詩の朗読は俳優のカトリーヌ・ドヌープという豪華な演奏です。

 ルイスは家族宛の手紙の中で次のような報告をしています。

「リハーサルの間、今週は毎午後、ヌードの女性たちと過ごした。素敵だった」と。

詩に歌われた古代の雰囲気を醸し出すための演出が行われていたようです。(みたかったなぁ)





 1914年にドビュッシーは、この中から6曲を選んで2台のピアノのために『6つの古代の墓碑銘』を作曲し、更にピアノ・ソロへ編曲をしています。2台のピアノ版は、なかなか聴く機会がありませんが、ソロ版は多くのピアニストによって取り上げられるようになりました。




ビリティスの歌
6つの古代の墓碑銘
牧場の歌
夏の風の神、パンに祈るために
無名の墓
無名の墓のために
夜が幸いであるために
クロタルを持つ舞姫
クロタルを持つ舞姫のために
ムナジディカの思い出
エジプト女のために
朝の雨
朝の雨に感謝するために




 このアルバムの主役はハープ。前半にラヴェル、後半には無伴奏のフルートを境にしてドビュッシーのアルカイックな世界を堪能することが出来ます。ライナーノートに書いてありますが、おそらくCDというフォーマットでは初登場となる「ビリティスの歌」が何と言っても目玉商品であり、語りがフランスの名女優カトリーヌ・ドヌープというのが凄い。

♪序奏とアレグロ
♪亡き王女のためのパヴァーヌ
♪ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
♪シランクス
♪フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ
♪ビリティスの歌

 上記のアルバムの主役がハープだったのに対し、こちらのアルバムの主役はフルート。どちらもドビュッシーの作り出す音楽には欠かすことの出来ない重要な楽器です。そして、そのどちらにも登場させているのが「フルートとハープ、ヴィオラのためのソナタ」であり、「ビリティスの歌」です。このアルバムには、未完に終わった劇『プシュケ』で演奏されたであろう形で「シランクス」にもナレーションが入っています。
 そして目玉は「ビリティスの歌」。こちらもフランスの女優イレーヌ・ジャコブ(1999年の第44回カンヌ国際映画祭にて『ふたりのベロニカ』に対し女優賞を受賞しました)がナレーションをしています。カトリーヌが女神なら、イレーヌはさながら女神に仕える侍女のような声質です。「ビリティス」の内容がエロティック(レズビアン)なだけに、その気にさせてくれる(どんなだ?)朗読をする女優さんです。(CDでは)

 2009年のNHKで『ラ・ロック・ダンテロン 国際ピアノ・フェスティバル 2004』のドキュメンタリーが放送されました。その中でイレーヌはレポーターを務めつつ、アンデル・ジェフスキの依頼でホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を朗読するという、役に抜擢されていました。

♪フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ
♪シランクス(1927年のルイ・フルーリー校訂版)
♪牧神の午後への前奏曲
♪ビリティスの歌
♪シランクス(劇『プシュケ』のための「パンの笛」)





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