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星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

BEYOND THE SUN(1976)


 
An Electronic Portrait Of Holst's THE PLANETS Patrik Gleeson, EUu Poliphonic Synthesizern.
 
Patrik Gleeson/Keyboards




01. Mars, The Bringer Of War(07:03)
02. Venus, The Bringer Of Peace(07:37)
03. Mercury, The Winged Messenger(03:04)
04. Jupiter, The Bringer Of Jollity(08:20)
05. Saturn, The Bringer Of Old Age(09:34)
06. Uranus, The Magician(06:39)
07. Neptune, The Mystic(06:51)


 このアルバムの原題を「BEYOND THE SUN」と銘打ったホルストの「惑星」。冨田勲のレコードよりも早く、電子楽器による惑星に取りかかっていた米国のアーティスト、パトリック・グリースン。私にしてみれば「トミタの惑星」の方を先に聴いていたので、どうしても比較して聞いてしまいますが、どう贔屓目に見て(聴いて)もアレンジなど、トミタサウンドのユニークな音色には及ばないな、というのが第一印象でした。

  しかしオーディオチェック(制作はフィリップス)としての脚光を浴びていた同曲の異色盤として米国では話題になっていたようです(1977年のグラミーでノミネートされるほど)。日本では発売が予定されながらも直前に回収(理由は版権)となり未発売となり、惑星マニアの間では垂涎のレコードと言われたとか言われないとか。

 私がこのアルバムの存在を知ったのは、1983年に日本でもリリースされたクラシックの名曲中の名曲、ヴィヴァルディの『四季』のライナーノーツの中で「1977年のグラミーにノミネートされた」という紹介文でした。それ以来、グリースンの惑星はずっと探し求めていた音源だったのです。

 グリースンのこのアルバムは、楽器の発明者であるロバート・モーグと、『SWITCHED-ON BACH』の制作者ワルター・カーロスに捧げられています。なお、カーロスはこのアルバムのライナーノーツも寄せています。


「Mars, The Bringer Of War」
 期待が高まる一曲目の火星。ただし、遠目(音量が小さい)にはシンセサイザーという感じがほとんどしないサウンド。おや?と思わせるのは1分ほど進んでから。

「Venus, The Bringer Of Peace」
 鍾乳洞の中を歩いているような神秘的イメージの金星(どことなくYesのClose To The Edgeを連想してしまいす)。水の雫などの効果音が印象的。

「Mercury, The Winged Messenger」
 韋駄天というイメージにピッタリのせわしないキーボード(リック・ウェイクマン辺りが好みそう)の「水星」。

「Jupiter, The Bringer Of Jollity」
 グリースンにとっても「Jupiter」の有名なメロディは、とても大切なものといった感じの、たっぷりと感情を含ませた演奏。ちょっとやり過ぎかなと思えるぐらいゆっくりと。オケでも、ここまでゆっくりとした演奏は無いのではないでしょうか(笑)。

「Saturn, The Bringer Of Old Age」
 一瞬「(ジェフ・ベックの)フィードバック奏法かよっ !?」と思ってしまったオープニングの「土星」。

「Uranus, The Magician」
 もともとのオーケストレーションが「ホルストの真骨頂」と言われるだけあって、ここでのグリースンのアレンジも、組曲中もっとも手の込んだ感じになっています。打楽器の扱い方が生々しい。もっと暴れ回っても良かったかなぁというのが正直なところ。

「Neptune, The Mystic」
 楽屋裏から聞こえてくる女声コーラスが、「なんとなくそれっぽい」音で彼方へ消えてゆく。潮騒のような音は効果的。

  冨田版の『惑星』は、オリジナルにあった副題が外され、オーケストラがイメージするローマ神話の神々の姿をひとまず脇に置いて、自由なアレンジを試みているところが斬新であり、これがアレンジというものを提示してくれているようでした。

「クラシック音楽をただ、そのシンセサイザーに置き換えるってことじゃなくって、そこに、自分の視覚的なものが入り込めるような音楽・・・」(小松左京がホストを務めた対談番組、NHK-FM「日本のトップアーティスト」第四夜より)と語るだけあってどこから聴いてみても「トミタサウンド」が金太郎飴のごとくわき出していますが、それと比べてしまうと、演奏者が誰だか分からないのが特徴とでも表現したらよいでしょうか?


 どうしても冨田勲の比較してしまいますが、グリースンの惑星は、あくまでも原曲を忠実にシンセサイザーに置き換えて演奏しただけといった感じで、ホルストの遺言の呪縛から逃れることができなかったのかもしれません。ちょっと飽きてしまうかも。だったらオケを聴いていた方がいいや、なんてね。
 色彩豊かなトミタサウンドはクラシック的、というよりも国民楽派〜印象派に見られる音作りがベースになっていますが、グリースンの場合は、ジェファーソン・エアプラインなどのセッション経験から、ロック寄りのアプローチに仕上げているのかもしれません。単色なキーボードによる演奏で「これぞグリースン節」が無いのが私にはちょっともの足りないです。

  レコード『冨田勲の世界』や、NHK-FMでの小松左京氏との(今や伝説的な)対談番組『日本のトップアーティスト』の「ダフニスとクロエ」や(第2夜でした)、FM東京の『サントリー・サウンド・マーケット』での「シェエラザード」のサンプルを使った基本音(冨田氏曰く「電話のプッシュ音みたいな」)と、なんら違いの無いような音のオンパレードなので、ちょっとくたびれてしまいます(笑) 

当時のシンセサイザーという楽器性能を考えると、単色もやむを得ないのかもしれませんが、2012年にリ・イシューされた『月の光』には、ある音から口笛に変換させたり、鐘の音に変換させたりといった「裏話」を赤裸々に披露し、こうした努力と探求の賜物であったことを垣間見せてくれました。
 そう考えると、冨田の行った録音(1年近く掛けて)忍耐力は特筆すべきもので「1人で演やってみたかった」という思いが、あの名作(アレンジと演奏)を生んだと言えるのではないでしょうか。
  また、グリースンの先輩格にあたるワルター・カーロスならもっと違った演奏をしたのでは?などと『SWITCHED-ON BACH』を聴くたびに思ってしまいます。

  グリースンの作品では他にヴィヴァルディの『四季』があり、ワルター(ウェンディ)カーロスや冨田勲のようクラシック音楽をシンセサイザーに置き換えたアルバムは、私の知るところ、この二作だけです。


 


 パトリック・グリースンは映画音楽などの作曲家としての知名度(フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』ではアカデミー音楽賞を受賞しています)があるようですが、このアルバムは、本国アメリカでオーディオチェックアルバムとして、オーディオ・ファイルの間での評価は高いようです。日本では残念ながら『惑星』が、サンプル盤として一部音楽関係者に配られただけで、その後発売前の回収されれてしまったため、ファンにとっては垂涎のアイテムになっています。

 それに比べると、その後に制作されたヴィヴァルディの『四季』は、多少音色が豊かになったかもしれません。先にも紹介した伝説的な番組、冨田氏も小松氏との対談の中で「ぜひやってみたい」と語っていました。
  その直後に小松が「曲ごとに曲想が書いてあってね」と言うと「いやー、あそこまで指定されちゃうと、逆にやりずらくなるなー」と言っていたことを思い出します。

 グリースンのクラシカル作品は「惑星」とヴィヴァルディの「四季」の二作(もしかしたら本意ではないのかもしれません…)。日本で発売されたのは後者のみで、アメリカ盤と違って、いかにも日本人が好みそうなジャケットに差し替えられ(左の帯付きがそうですね)、さらに、当時のビクター色が色濃くでたジャケットでリリースされました。その帯には「DIGITAL デジタル to デジタル」というコトバが、これでもかー というぐらいに書き足され、そのデジタルな明るいジャケットと併せて、楽器(シンセサイザー)から直接ピュアなデジタルの音を聴くことが出来るというイメージを売りにしています。帯には「この低音が再生できるか」などと書かれていました。

 


※2018年にヴィヴァルディが、2019年にホルストがCD化されました。さぞやリマスターとかリミックス化と思いきや、アナログをそのままダイレクトでレコーディングしたような音質です。しゃーしゃーというような、レコード針が溝をなぞっている音も聞こえて来ます。とてもクリアーな音、デジタルテープにトランスファーして… といった感じではないようです。とはいえ、今まで聴いていたアナログ盤より、ぜんぜん聴きやすいし、いままで聴き取れなかったような音まで入っているのがわかるので、まぁまぁ、よほどのマニア以外は手に取ることはないのかな?などと思えて来ます。


(2019/10/23更新) 


 
 
 
 

背景画像は「Adagio」と書かれていますが、「金星」の直筆譜です。
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