音と映像の組み合わせと言うのを担当する人は、相当イマジネーション豊かと言うか、多くの楽曲を知り、聴くたびに映像を浮かべているのでしょうか?今回紹介するショスタコーヴィッチを、まさか宇宙を旅する際のB.G.M.にあわせるなんて、どういう神経なら考えられるのでしょう?(笑)
 冗談はさておき、そういった音楽と映像の融合が見事に合わさると、いつ見ても、いつ聴いても、そのシーンが思い浮かんできます。特にコスモスで初めて聴く曲もありましたが、ショスタコーヴィッチの曲はポピュラーな交響曲第5番しか聴いたことはありませんでした。

 コスモスで使われたショスタコーヴィッチの交響曲は5番と11番。どちらも政治色の濃い作品です(この作曲家の作品は、政治的内容を反映した作品は多いです)。

★交響曲第11番『1905年』

 この交響曲が、よもや宇宙をテーマとした科学番組に使用されるなんて、作曲家は思いもよらぬ出来事だったことでしょう。当然ショスタコーヴィッチは1975年に亡くなっているので、そんなこと知る由もないでしょうが、この曲が扱っているテーマをご存知の方には、やはり驚愕の出来事なのではないでしょうか。

ちょこっと、この曲の解説を(あいかわらず簡単に)。

 ショスタコーヴィッチの交響曲第11番『1905年』は1957年の作曲です。副題にも現れている通り、1905年に起きた、ある出来事を題材にしています。その年が明けて間もない1月9日、ロシアのサンクトペテルブルグで起きた“血の日曜日”事件。労働者の請願行進に対して政府が発砲、死者が千人にも及んだ惨劇です。

 第1楽章が主に番組では使われていますが、交響曲としては全楽章を通して、切れ目なく演奏する指示が書かれているために、4楽章の交響曲というよりは単一楽章の交響詩といった性格が強い曲です。しかし聴いてみれば約1時間(な、長い…)。

それぞれの楽章には副題がつけられています。 

第1楽章;宮殿広場(Adagio)
第2楽章;1月9日(Allegro)
第3楽章;永遠の追憶(Adagio)
第4楽章;警鐘(Allegro non troppo)

第1楽章は、すでにコスモスでなじんでいるために、本来は宮殿広場に集まる群衆を描いているとのことですが、宇宙を漂うイメージしか湧きません。静かなアダージョ楽章。

第2楽章では惨劇(弾圧から死者が横たわるまで)を描写し、自作の合唱曲のメロディを引用しています。

第3楽章は犠牲者へのレクイエムと言うべきアダージョ。革命歌「同志は斃れぬ」をヴィオラが歌い、その叫びと嗚咽はやがて行き場のない怒りへと昇天し、冒頭のレクイエムへと回帰する流れとなっています。

第4楽章は激しいアレグロ。番組でも一部登場します。

 アラン・ホヴァネスに次いで番組で多用されている曲です。通常のCDでは第1から4楽章までは切れ目なく演奏されているため、サントラに第1楽章だけ収録されているのは大変喜ばしいことです。

第1楽章;アダージョ

 静かなイントロは、未知なる宇宙空間を旅する旅人の不安を物語るかのようです。しかし、実際は厳寒なロシアの暗く思い空気を漂わせているのでしょう。革命歌と民謡が用いられているようですが、私にはわかりません。先にも書きましたが、ホヴァネスの交響曲に次いで、コスモスでは多用されたメロディで、ほぼ全エピソードに登場します。
 最初にこの曲が登場するシーンは
エピソード1【
The Shores of the Cosmic Ocean】(19m27s付近)で、ヴァンゲリスの“世界の創造”を引き継ぐような形で流れます。途中、フルートによる牧歌的なメロディが登場しますが、その旋律が民謡なのでしょうか。曲が持つ本来の描写が、これから惨劇が起こるような表情には思えません。

プレアデスを通過中。

 そのフルートが奏でるのどかな牧歌的なメロディは、エピソード3【Harmony of the Worlds】で、妻子や母、そしてティコ・ブラーエを失ったヨハネス・ケプラー(Jaromir Hanzlik)が、荷馬車を引いて野原をあてどなくさすらうシーン(55m25s付近)で効果的に流れます。

♪ ♪ ♪

第4楽章;アレグロ 

 エピソード4【Heaven and Hell】を見ていると、この曲の激しい曲調が流れたのを聴いたときには、交響曲第10番のスケルツォ楽章だと思っていました。しかし、交響曲第11番を全曲聴いたときに、「10番ではなく、これがエンケ彗星が地球に激突するときに使われていた曲だ」と気づきました(11m05s付近)。また、エピソード3【Harmony of the Worlds】でも30年戦争が勃発した際(36m10s付近)にも使われています。

 エンケ彗星の衝突にしろ、戦争勃発にしろ、どちらも破壊がテーマのシーンに選ばれてしまったメロディです。

 ちなみに交響曲第10番は、ショスタコーヴィッチがスターリンへの怒りをぶつけた作品と言われ、特に第3楽章の異常なまでのテンポ設定が物議をかもし出しています。
(何かと政治色の濃い作品を残す作曲家として有名で、それがこの番組で多用されているというのも面白いですね)

彗星の驚異を説明する博士
♪ ♪ ♪
交響曲第11番
;セミヨン・ビシュコフ/ベルリン・フィル

 サウンド・トラックではレオポルド・ストコフスキー盤が収録されています。また、この曲の初演者であるムラヴィンスキー盤も存在します。しかし私は、このロシア人指揮者が、カラヤン存命中にベルリンフィルを指揮したこのアルバムを愛聴しています(図書館でたまたまあったのがこれと言ってしまえばそれまでですが…)。とはいえ、まだまだカラヤンの音を持っていた頃のベルリン・フィルで、政治色の濃い、しかも東側の匂いを強烈に残すかのような音色(色のついていない色。当時のソビエトや東ドイツは鉄のカーテンとか、ベルリンの壁といったイメージが強かった)に仕上げているんじゃないかと思います。それもひとえにビシュコフがロシア出身というプロフィールも影響しているのかもしれません。



★交響曲第5番ニ短調

 コスモスではショスタコーヴィッチの交響曲はもう1曲、彼の作品の中では、もっともポピュラーな交響曲第5番が使用されています。

ちょこっと、この曲の解説を(あいかわらず簡単に)。

 ショスタコーヴィッチの交響曲第5番は1937年の作曲です。前年に作曲されたオペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』がスターリンによって“音楽のかわりに荒唐無稽”と評され、モーツァルトの再来といわれた彼の作曲家としての存在ばかりではなく、“体制への反逆者”として生命への危険にさらされることになりました(一体どういう国だ)。そこで書かれたのが交響曲第5番。

 ショスタコーヴィッチにしてみれば、彼の、それまでの持ち味だった前衛的な面影を一切排除し、いわゆる古典的クラシックの源流を表現するのは簡単と思ったのかもしれません。また、その中には国が求めた社会主義リアリズムも取り込む必要がありました。

 結果として熱烈歓迎、以後、彼の代表作となり、オーケストラの主要レパートリーとしてクラシックを代表する曲にまで登りつめることになります。

第1楽章;Moderato
第2楽章;Allegretto
第3楽章;Largo
第4楽章;Allegro non troppo

第1楽章は、チャップリンの映画や、モノクロのドキュメンタリーに似合いそうな曲調。いかにもソビエトという感じ。

第2楽章では惨劇(弾圧から死者が横たわるまで)を描写し、自作の合唱曲を引用しています。

第3楽章。この曲で唯一使用された楽章で、室内楽的な美しい構成が漂う曲。

第4楽章は、冒頭から荒れ狂うように、そしてエンディングのティンパニの連呼。

第3楽章;ラルゴ 

 この美しい室内楽的な楽章は終始ラルゴという穏やかな曲調ではなく、アクセントとしてストリングスが頂上を上り詰めるかのような音型を奏でる部分があります。なにか決断を迫られるような、切羽詰った印象を受けるパートです。

 エピソード3【Harmony of the Worlds(宇宙の調和)】ではケプラーが神学校の授業をうけている最中、仲間から離れ教会の中を彷徨っていました。その時天窓から降り注ぐ陽光の中で神と対話をします(27m50s付近)。彼はその時、幾何学こそが神そのものであるという考えに至ります。

 この旋律は、なにか切羽詰まったような音型がストリングスで奏でられ、木琴などの打楽器がもの静かなラルゴ楽章の雰囲気をうち破り、かなりアクセントとなっているか箇所です。同じラルゴとは思えません。

 エピソード12【Encyclopedia Galactica(宇宙の地平線)】では、シャンポリオンが憧れのカルナック神殿に包まれ、人が創造した巨大建造物に圧倒されます。シャンポリオンの替わりにセーガン博士が、その神殿の中で天空を見上げます(18m55s付近

神の啓示を受けるケプラー少年
 

 ケプラーのシーンも、シャンポリオンのシーンも、共に何か天啓を受け、頭上から降り注ぐ光に吸い込まれていくようなシーンで使われているのが印象的です。

 ラルゴ、という曲調らしい室内楽的なメロディは、この交響曲全体を通して、もっとも美しいシーンです。再びエピソード3【Harmony of the Worlds】ケプラーが正多面体を用いて宇宙の構造と惑星軌道の関係の模型を作るシーン(34m00s付近)。ろうそくの中のまどろみをハープの伴奏でフルートがが印象的なメロディを奏で演出しています。

宇宙を幾何学によって試みるケプラー
★交響曲第5番
;セミヨン・ビシュコフ指揮/ベルリン・フィル

 先の第11番の愛聴盤をビシュコフにしたのはもうひとつ理由があって、実はコスモスで使われた交響曲第5番に関係があります(こじつけに近いが…)。
 このレコードが録音された頃(1980年代)、ビシュコフは大指揮者たちの代役として指揮台に立つことが多かった若手識者の一人でした。このショスタコーヴィッチを振ることになったのも、リッカルド・ムーティ(!)の代役としてベルリン・フィルを振り、大絶賛を受けたためです。その後にレコーディングされたのがこのアルバムでした(その時のライヴではありません)。これも好評をもって迎えられ、先に紹介した第11番のレコーディングに結びついたというわけです。

さて、この曲は、どこを切っても「西側」の音楽と酷評された交響曲ですが、私は大好きです。『革命』というタイトルをつけるのはどうかと思いますが、第4楽章の激奏は派手なほど◎。特にエンディングのティンパニの連鼓もド派手でスカッとします。
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