グルーブ。
まず一聴して頭に浮かんだ言葉です。これは練習すれば見に付く感覚ではなく、生まれもったモノとでも言ったらよいでしょうか。ジョージが生まれ育った環境も大きく左右させるだろうし、何よりも彼の血がそうさせるに違いありません。
ジョージの敬愛するピアニスト達の作品に自作を織り交ぜている構成は、いつもながらうまい。ただ、もうちょっと突っ込んだ見方をすれば、前半に偉大なるピアニストの作品を取り上げ、後半に自作といった二部形式のように演奏しています。比較的少な目の曲数ですが、来月、ジョージの1stアルバムがリイシューされ、そこで5曲もボーナストラックが追加されます。きっと、このアルバムのセッションでレコーディングされたトラックが収録されるのでしょう。彼の今の心境を物語っているような企画と言えます。
このアルバムは2005年8月末にアメリカ南部を襲った(ニューオリンズ含む)ハリケーン“カトリーナ”での被害を受けた人々への復興支援を呼びかけたチャリティ・アルバムとしてレコーディングされました。この種の性格をもったアルバムに【REMEMBRANCE(2001)】があります。今回のこのアルバムは、被害にあった時期に合わせ、本国米国では9月5日にリリースされました。一方日本では、諸般の事情から発売時期が遅れています。本来なら、アルバムの性格を考え、また、人々の記憶が消え去らないうちに(そういう意味合いを踏まえ、被害から1年経った、この時期を選んだのでしょう)リリーするのが、アーティストの本望のはずです(もうちょっとアーティストの意志を考えて欲しかったなぁ)。
1972年のデビューアルバム時に奏でたピアノとは違い、スタインウェイによるブルース。そのスタイルは変わらず、当時の音楽性を彷彿とさせてくれるアルバムです。ジャケットからは同朋、フィリップ・アーバーグのスタイルを連想させます(彼の【BLUE WEST】も、同じようにブルースを演じているからです)。
四季の移ろいや、自然の表情をピアノの調べによって紡ぎ出す“ピアノの詩人”としてのジョージの音楽性を支えているのは、実はブルースなのです。レコーディングに際し、楽譜をなぞる、というよりも、体に染みついた感覚を一気に放出したかのような演奏を、そのまま記録して出来上がった。そんなライブレコーディング的な雰囲気が、こんなちっぽけな円盤(CD)からも伝わってきます。もの凄いグルーブ。そうとしか表現できません。久しぶりにピアノだけで体がグラグラと揺れてしまいました。
ニューオリンズのピアニスト達の楽曲を、ジョージ流にアレンジし、【四季】とは違った一面を魅せてくれています。2002年にリリースされたドアーズの作品集同様、ちょっと身構えてしまうリスナーも出てくるかもしれません。前作【モンタナ】で、私が感じた“非常にプライベートな作品集をもって一区切りつけるのではないでしょうか?『MONTANA』を聴くたびにそんな思いが募ります。この後にどういった活動をするのかわかりませんが、このアルバムを聴くたびにジョージの集大成のような気がしてなりません”という予想も、あながち間違えていないのかもしれません。今後の彼の活動は、原点に戻っていくのではないでしょうか?ただ、7、8あたりの曲を聴くと、この叙情性豊かな表情はジョージならではのものであり、そしてハリケーンで壊滅状態となったニューオリンズを目の当たりにしたジョージの気持ちが伝わってくるようです。そう、被害に遭われた人々への鎮魂曲でしょう。
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