01. 月
02. 水面に映る月
03. 月とブランコ
04. 朧月夜*
05. 月とサボテン
06. 月に想いを
07. 月のしずく
08. 里の月
09. 変わり月
10. 白夜の月
11. 幻想の夜、月の精
12. 海と月
13. 月山
14. 月光**

ピアノ、作曲:深町純(*岡野貞一/**ベートーヴェン)



 私は、このミュージシャンの音楽性をあまり理解していなかったようです。かつて、従兄から録音してもらったクラシック・メドレーが収録されていたシンセサイザーのレコード(当時は青の透明なレコードだったのが印象に残っている)がすべてだと思っていました。他に、松本零士原作のアニメーションを題材にしたイメージアルバム(宇宙戦艦ヤマトとかクイーン・エメラルダスなど)ぐらいしか知らなかったのです。こうしたシンセの音がすべてだと思っていたら、今回のピアノ・ソロ・シリーズを制作していたことを最近知り、さっそく触手を伸ばしたわけです。私が手にしたのは『月』。これは『花・鳥・風・月』という四部作の最後に当たるアルバムです。ピアノはスタインウェイ。

 こうした「ピアノソロ」と銘打たれたアルバムには何度か騙されていて、独奏のつもりで手を出したら単にピアノがフューチャーされただけのイージーリスニングだったりして、がっかりした思い出が何度となくあるので、今回も実は聴くまでドキドキしてしまいました(これは久しぶり)。こうした気持ちをずいぶん前に拭ってくれたのがウィンダム・ヒルなのです。

 聞いていて、自分でも面白いなぁ、と思ったのが、彼のメインだと思っていた顔である「シンセサイザー作品」では、似たような音色ばかりで、冨田勲のようなカラフルな色彩を期待してレコード針を下すたびに、途中で飽きてしまうことが多々ありました。今回はピアノというピアノの音しか出ない(当たり前)楽器を弾いているのに、なんと豊かな楽想、そしてカラフルな色彩なんだろうと思えたからです。
 ラストに収められているベートーヴェンも真面目に弾いているので驚いてしまいましたが(テンポがグッと遅くて個性的)、この雰囲気で日本の唱歌が時々顔を出す曲を奏で、それをオリジナルにうまく溶け込ませるアレンジはさすがジャズ畑のミュージシャンだなぁ、と思いました。
 こうしたアレンジ感は、ウィンダム・ヒルでいうところのフィリップ・アーバーグに近いように思います。彼はアメリカの大地をブルースに乗せたフィーリングで奏でますが、深町氏も日本の古を感じさせる歌を様々に変奏させていきます。月の光に包まれた静かな夜に、あるいは月の無い晩に月への想いをこめて、じっくり味わいたいアルバムです。

「月とサボテン」には、そのジャズっぽいフィーリングから、スヌーピーの兄、スパイクがコヨーテを相手に荒野で一人、サボテンに話しかけているシーンを想像してしまいました。