星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

 モーリス・ラヴェル(1875-1937)ぐらいの作曲家になってくると、さすがにピリオド楽器は新しすぎるんじゃないかと思っていましたが、なかなか世の中は広い(笑)。探せば結構出てくるもので(といっても、思っていたほどのレコーディングはなく、やはり少ないかな…)、ここでは、そんなラヴェルの作品をピリオド楽器で演奏したピアノ・アルバムを紹介します。

  同時代のドビュッシーやサティらと違って、オール・ラヴェルのピアノ・アルバムがないというのは、時代が新しすぎるのでしょうか? 選ばれているピアノを見ても、なかなか作曲当時の年代のピアノというわけにはいかないようです。

美しいアップライトピアノ〜連弾の悦び〜
(浜松市楽器博物館 コレクション・シリーズ53)

♪ドビュッシー:小組曲(Gilson c1860)
♪フォーレ:ドリー Op.56(Erard, c1822)
♪バラノフスカ:乙女の祈り(Gilson c1860)
♪プーランク:ソナタ(Barois? (Erard) c1880)
♪フランセ:ルノアールによる15人の子供の肖像
(Barois? (Erard) ca1880)
♪ブルグミュラー:25の練習曲集より Op.100(Erard, c1822)
♪ラヴェル:マ・メール・ロワ(Giraffe Piano c1830)
ピアノ:小倉貴久子、羽賀美歩

 ラヴェル以外にも興味深い作品のピリオド楽器による演奏。ドビュッシーやフォーレなんか、個人的に親しんでいる曲も収録されていてお得な一枚。これを企画したのは浜松市楽器博物館。ここで聴くことの出来るラヴェルの作品は、連弾作品の傑作といっても過言ではない♪マ・メール・ロワ。使用楽器はジラーフ・ピアノで1830年ごろに制作されたアップライト。アップライトでの演奏ばかりを集めた一枚で、グランドピアノとは違った古楽の響きが、古楽ファンの私の耳をくすぐる(笑)。とはいえ、作曲家も生まれる前のピアノなのでちょっと複雑な心境。古ければいいってもんでもなく、この考えでいけば、チェンバロ演奏だって構わないことになってしまう。
 ちなみにこのアルバムに収録されている♪マ・メール・ロワは、1908〜1910に掛けての作曲。かつて誰かがこのピアノを使って奏していたら、ピアノは懐かしんで音を奏でてくれたのかもしれません。




ラ・カンパネラ 〜エラールピアノ、音の世界〜
(浜松市楽器博物館 コレクション・シリーズ30)

♪リスト:夜想曲第3番 愛の夢
♪リスト:ラ・カンパネラ
♪ショパン:夜想曲 嬰ハ短調
♪ショパン:英雄ポロネーズ
♪サティ:ジムノペディ 第1番
♪サティ:おまえが欲しい
♪ドビュッシー:喜びの島
♪ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
♪ラヴェル:クープランの墓
小倉貴久子(Erard, 1874)

 アルバムタイトルが「ラ・カンパネラ」にカモフラージュされ、最近までラヴェルが収録されているとは知らなかった一枚。ラヴェルのピアノ作品の代表でもある♪亡き王女のためのパヴァーヌと、私が個人的にラヴェルの作品で一番好きな♪クープランの墓が収録。

 ちなみにこのアルバムに収録されている♪亡き王女のためのパヴァーヌは、ラヴェルの中では古い作曲になり1899年の作曲。♪クープランの墓は1914〜1917の作曲。




ラ・ヴァルス 〜華麗なるデュオ・ピアノの芸術〜
(浜松市楽器博物館 コレクション・シリーズ31)

♪シャブリエ:3つのロマンティックなワルツ
♪ドビュッシー:リンダラハ
♪シャミナード:交響的二重奏曲 Op.117
♪ラヴェル:ラ・ヴァルス
♪ミヨー:スカラムーシュ
♪フランセ:8つの異国風の舞曲
小倉貴久子、佐藤卓史(Pleyel, 1925)

 先ずジャケットのピアノに目が行ってしまいました。支え棒が更に目の錯覚を誘う感じ? まるで鏡に反射しているような錯覚になってしまいます。これも1台のピアノ。ここでは管弦楽作品としてもポピュラーな♪ラヴァルスが取り上げられました。他にドビュッシーのリンダラハも収録されているのは嬉しいところ。

 ラヴェルの♪ラ・ヴァルスは1919−1920に掛けて作曲されたバレエ用の管弦楽。このピアノ版は管弦楽版初演に先駆けて、ラヴェル自身と作曲家のアルフレード・カゼッラ(イタリア)の二人によって初演されました(オリジナル版であるバレエの初演はその2ヶ月後)作曲され、初演されました。ドビュッシーのリンダラハは1901年の作曲。





Maurice Ravel/ Gwendolyn Mok
♪グロテスクなセレナード
♪古風なメヌエット
♪亡き王女のためのパヴァーヌ
♪水の戯れ
♪ソナチネ
♪鏡
♪夜のガスパール
♪ハイドンの名によるメヌエット
♪高雅で感傷的なワルツ
♪前奏曲
♪シャブリエ風に
♪ボロディン風に
♪クープランの墓

グウェンドリン・モク(Erad, 1875)
 2001年にレコーディングされていたソロ全集。私は最近(2020)知ったアルバムです。かなりデッドな音で、所々で積み木を叩くようなカチカチ、タンタンという乾いた音なので、ピアノの美しい響きとかを好む人にとっては、少々苦手な音なのかも知れません。しかし私のような天の邪鬼(笑)には、こうした音こそ求めていた音で、星空を眺める時に傍らで鳴っていて欲しい音です。そしてまた、通常のピアノアルバムとは違って、残響もほとんどなく、遅いところ(ペダルの効果がない?)ではせかせか感じてしまうかもしれません。私にとってはStany David Lasryのドビュッシーのアルバムも、同じエラール(こちらは1921年製)を使ってレコーディングされたアルバムも、残響がほとんどなくカタカタカタという音にほれぼれしたぐらいです。




四手ピアノのためのフランス作品集(2010) / Elaine Greenfield & Janice Meyer Thompson

小組曲(ドビュッシー)
子供部屋(ビゼー)
マ・メール・ロア(ラヴェル)
6つの古代墓碑銘 (ドビュッシー)
ドリー(フォーレ)

エレガントエラール(1877年製)

 2000年にブリュトナーで『前奏曲第1巻、第2巻』をレコーディングしてくれたグリーンフィールドが、今度は(エレガントエラール1887年製)を、Janice Meyer Thompsonと4手のためのフランス作品をレコーディングしてくれました(4手連弾なのでピアノは1台)。このアルバムにはラヴェルの♪マ・メール・ロアが収録されています。





牧神のはるかな嘆き (デュカス)
ミューズたちのもてなし「ドビュッシーの思い出に」(ルーセル)
ミラージュ Op.70-1 ドビュッシーの思い出に(シュミット)
ドビュッシーの墓碑銘(ストラヴィンスキー)
クロード・ドビュッシー(マリピエロ)
ドビュッシーへのオマージュ(無題)(グロッセンス)
ドビュッシーの墓碑銘のための讃歌(ファリャ)
ハンガリー農民の歌による即興曲 Op.74 第7番(バルトーク)
第1番「牧神」(サティ)
水の戯れ(ラヴェル)
・・・
映像第2集(ドビュッシー)
スケッチブックから(ドビュッシー)
マスク(ドビュッシー)
喜びの島(ドビュッシー)

Randall Love(Blutner, 1907)

 ドビュッシーへのオマージュとして編まれたアルバムで、1907年製のブリュトナーを奏しています。ラヴェルは♪水の戯れを取り上げてくれました。ラヴェルがドビュッシーを偲んで書いた作品は、ピアノではなくヴァイオリンとチェロの二重奏曲です。まぁ、そんなことを抜きにしても、ラヴェルのピアノ作品がブリュトナーで聞けるのは嬉しいです。





♪ワーグナー/リスト編:イゾルデの愛の死
♪ドビュッシー:喜びの島
♪ドビュッシー:『映像』第2集
♪スクリャービン:ピアノ・ソナタ第5番
♪ラヴェル:夜のガスパール
♪シェーンベルク:3つのピアノ曲 Op.11

上野真(Bechstein, 1906)

 ピリオド楽器として初めて意識したのはベヒシュテイン(カッサール)だったから、今回の上野氏が選んだこの銘器の名を見ると安心します(笑)。このアルバムの主役はドビュッシーなのですが、彼のみを取り上げるのではなく、 その周辺の作曲家も取り入れたプログラムを仕掛けてくるので、ドビュッシーを小出しにしているようです(いずれ全集に発展か?)ただし、今回興味深く眺めたのは、意外と演奏されないラヴェルの作品が含まれていること。しかも、かなりピアにスティックなガスパールです。





♪ドビュッシー:ベルガマスク組曲
♪ラヴェル:水の戯れ
♪ラヴェル:ソナチネ
♪ドビュッシー:前奏曲集 第1巻

上野真(Erard, 1927)

ドビュッシーを前後に、ラヴェルを真ん中に…まぁ、主役はドビュッシーなのですが、既にこのピアノが製作された時にはドビュッシーは亡くなってます(1918没)。ラヴェルの作品は♪ソナチネと♪水の戯れ。





♪ソナチネ
♪夜のガスパール
♪古風なメヌエット
♪クープランの墓

パオロ・ジャコメッティ(Erard, 1907)

Disk1は1907年製のエラール。Disk2はスタインウェイ。曲目は同じ演目で、当時の音と現代の音を弾き比べるという変わり種の一枚。これがまるまるラヴェル!(しかもSACDと来た!)ラヴェルの作品が一枚のアルバムに収まったピリオドは珍しい。





♪夜のガスパール
♪ソナチネ
♪グロテスクなセレナード
♪古風なメヌエット
♪亡き王女のためのパヴァーヌ
♪水の戯れ
♪メヌエット 嬰ハ短調
♪ハイドンの名によるメヌエット
♪高雅で感傷的なワルツ
♪ボロディン風に
♪シャブリエ風に
♪前奏曲
♪クープランの墓

ホーコン・アウストボ(Stainway, 1893)

 パオロ・ジャコメッティに続き、オール・ラヴェルのピリオド。ただし、フランスの作曲家なのに、選ばれたのはスタインウェイ。しかも1893年というメーカーの創業期に近い楽器が選ばれています。
  音は、さすがのスタインウェイなのか、しっかりと現代風の音色を聴かせてくれています。すでに弦を支えている躯体が金属のため、今までのピリオドという印象とは遠く(ギシギシとか言わない)、かなりモダンな響きを聞かせてくれるので、あまり時代を感じさせません。





♪鏡
♪ハイドンの名によるメヌエット
♪亡き王女のためのパヴァーヌ
♪ボロディン風に
♪前奏曲
♪クープランの墓

ジャン=フィリップ・シルベストリ(Erard, 1854)

 ラヴェルの(ピリオド)レコーディングの中ではもっとも古いピアノ、ラヴェル生前に製作された楽器を選んでくれています。

 メーカーインフォメーションには「バロック的な雰囲気を出すためにはハープシコードのようなアーティキュレーションとソノリティを持ったピアノが必要。このアルバムをエラールという特別なピアノで録音することにしたのは、その音色と振動が、ラヴェルや最初の印象派の時代の音、魂、雰囲気を再現しているから」とのこと。

全曲録音でないのが恨めしい…

〜 ラベルのピリオド楽器による演奏は、管弦楽作品にもおよび始めました 〜

ボレロ/ Anima Eterna

♪ボレロ
♪亡き王女のためのパヴァーヌ
♪ラ・ヴァルス
♪左手のためのピアノ協奏曲
♪スペイン狂詩曲

クレール・シュヴァリエ(Erard, 1905)

管弦楽:アニマ・エテルナ
指揮:ジョス・ファン・インマゼール

 アニマ・エテルナという名のオーケストラ。ジョス・ファン・インマゼールはキーボード奏者。このコンビは数々の作品をピリオド・オーケストラで取り上げてくれ、一躍古楽界の旗頭的存在に成っていますが、今回はラヴェル。





道化師の朝の歌/ Les Siecles

♪狂詩曲「スペイン」(シャブリエ)
♪歌劇「ル・シッド」〜バレエ組曲(マスネ)
♪道化師の朝の歌(ラヴェル)
♪イベリア(ドビュッシー)


管弦楽:レ・シエクル
指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト

 ラヴェルのピリオド演奏、アニマ・エテルナの後継者(?)となるでしょうか?ピンポイントでのレコーディングなのでしょうか?フランスの作曲家の管弦楽作品集の中に埋もれるようにラヴェルがひっそりと取り上げられました(ドビュッシーも)。





ダフニスとクロエ/ Les Siecles

♪バレエ音楽「ダフニスとクロエ」


管弦楽:レ・シエクル
指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト

 いきなり「ダフニスとクロエ」がきました。これは初のピリオドということで、絶賛されました。組曲ではなくバレエの伴奏として作曲されたオリジナルの方。ストラヴィンスキーの時のようにSACDにして欲しい…





マ・メール・ロワ/ Les Siecles

♪バレエ音楽「マ・メール・ロワ」
♪「シェエラザード」序曲
♪クープランの墓

管弦楽:レ・シエクル
指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト

 ラヴェルの管弦楽シリーズの第二弾。まだボレロが来ないということは、第三弾があり?





ピアノ協奏曲/ セドリック・ティベルギアン

♪ピアノ協奏曲ト長調
♪ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン・キホーテ
♪2つのヘブライの歌
♪亡き王女のためのパヴァーヌ
♪マラルメの3つの詩
♪左手のためのピアノ協奏曲
♪聖女

セドリック・ティベルギアン(Pleyel, 1892)
ステファヌ・ドゥグー:バリトン

管弦楽:レ・シエクル
指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト

 主役はピアノのセドリック・ティベルギアン。収録全曲で活躍(笑)。演奏しているのは1892年製のプレイエル・グランパトロン。♪亡き王女のためのパヴァーヌのみ独奏で、協奏曲のオケはレ・シエクル。また、歌曲ではバリトンのステファヌ・ドゥグー。

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