別の頁でも書きましたが、ショパンのノクターンは(私には)、あまりにもピアニスティックで星を眺めるときに、少なくとも全曲していません。2、3、6、8、12、17、18番がフィールド的でしょうか。この7曲はフィールドに混ぜて良く聴いています。

 私は古楽による演奏を非常に好んで聴いているので、まずCDを探す際、その時代の楽器で演奏されているものを探してみます。それは星の姿は過去の光を眺めている、ということからそういう趣味に走っているわけです。最近、そういった演奏やアルバムが増えて嬉しい限り。

 いわゆるオリジナル楽器による演奏は海外やバロックでは盛んに行われ、数多くのレコーディングが行われるよう尾になりました(探すの大変)。しかし楽器の進歩が求められ、作曲家もそうした楽器のために表現の幅が広くなったことを考えると、古楽に固執するのもどうかという声も聞こえてきます。
 でも星の光が何十年、何百年という空間を越えて辿り着いたことを考えると、

「この星の光はショパンがピアノを弾いている頃か…」

 というぐあいに眺められるから、楽器のきしむ音も不安定な音もその時代を目(星の光、宇宙の姿)と耳(音楽)で体験していることになり、決して届くことのない過去の時間に触れているようで、私にとってはノイズには聞こえてこないのです。 




NOCTURNES/Michele Boegner
 
 
 ジャケットにも写っている1836年製のプレイエルでの夜想曲の響きは、当時の穏やかなサロンの雰囲気をも伝えてくれているようです。見るからに現代のピアノと比べても小さな感じのピアノからは、繊細な音色が響いていたのではないでしょうか? 生まれては消えてゆくはかない音色。
 





NOCTURNES/Bart van Oort
 
 
 オートのアルバムは、もともとフィールドの1枚ものでしたが、のちにレコーディングされたショパンや、その時代の作曲家たちの夜想曲をレコーディングして、4枚組でリイシューされました。そこでのショパンはDisk2が年製ので、Disk3が年製という具合に、ショパンの曲集の中でピアノを弾き分けるというこだわりを見せてくれています。
 





Yuan Sheng

 この頃はオリジナル楽器の、保存状態の良いものが出てくるらしく、先の有田氏所有のプレイエルの4年後に製作された1845年製を奏でて夜想曲全曲の他、バラード、即興曲、前奏曲を収録しています。





Alan Planes

 ベテランのアラン・プラネスが1836年製のプレイエルで、を奏でて夜想曲全曲の他、バラード、即興曲、前奏曲を収録しています。2009年に『プレイエル邸にて』というタイトルのショパンアルバムをレコーディングし、その中でも夜想曲を4曲入れていましたが、今回は全曲盤です。


モダンピアノによる演奏


 夜想曲とは別に、ショパンが書いたピアノ協奏曲第1番に、彼が

“春の夜の美しい月光を浴びた瞑想”

と表現した美しい叙情楽章がありました。さっそく探し出して(笑)、彼のノクターンに混ぜて星を眺めるときに流しています。

意外にもショパンは星の世界に興味を持っていたようで、1846年に発見された海王星の話題に触れて


“ルヴェリエ氏の新しい惑星の発見です。彼はその距離、軌道、質量、その他、あらゆることを(計算によって)発見しました。何という科学の勝利!数学によって、こんな発見ができるとは!

と、感激していたそうです。天界に興味を持っていた(と思う)ショパン。彼も夜空に瞬く星の情景を見てそのインスピレーションを作曲に反映してのでしょう。“ピアノの詩人”と言われていただけあって、彼が表現したピアノ協奏曲の情景はまさにその通り、という曲想です。



小倉貴久子

 白神さんの演奏に酔いしれているところへ、すべての楽器がオリジナル楽器という、天界の音楽ファン(私だけか、そんなこと書くの)にとって、垂涎の一枚がレコーディングされました。第1番(コレクション9)のディスク(プレイエル1830年製)には、ピアノ協奏曲の他にピアノ三重奏曲、ピアノ協奏曲と同じ編成による「別れの曲」が収録されています。 第2番(コレクション35)でも同じ楽器、奏者によるレコーディングで、協奏曲の他にワルツ、マズルカ、バラード、ノクターン、舟歌といった小品が収録されています。





古楽オーケストラによるピアノ協奏曲

 仲道さんは1841年製のプレイエル(有田氏所蔵の)、アヴデーエワさんは1849年製のエラールという異なるピアノを奏でてくれているので、そうした音色の違いを楽しむことができます。特に私は2013年、最後の来日となったブリュッヘン/18世紀オーケストラの演奏会で実演に接することが出来ました。面白かったのは、第1番が終わった後に休憩が入り、ピアノを解体しはじめての調律(聴衆は群がって携帯で写真を撮りまくり)には驚かされました。ただ、第1番の演奏では、アヴデーエワさんもノリが悪く、音の響きも悪く(だからノリが悪かった模様)、調律後の音色の違いにはびっくりしてしまいました。こんなにも変わるもんなんだと!なお、ブリュッヘンにしては珍しく、このレコーディングはライヴではなくセッションです。

 

 ピアノソロで演奏されたピアノ協奏曲。もはや第1番のロマンスなどは独立して夜想曲として良いのではと思えるぐらいの雰囲気を持っています。Dina Yoffeは第9回ショパン国際ピアノコンクールで最優秀賞を受賞するというショパン弾き。





 ショパンぐらいになると、生前本人が愛奏していたピアノは現存しているんだろうと思って調べていたら、1863年にロシア軍の兵士により破壊されていた、という事実を知りました
  その破壊されたピアノ(ブッフホルツ製)と同タイプのピアノが復元され、それで演奏されたのがこのアルバムの楽器とのこと。私はピリオド楽器は、当時のままの楽器の音が好きなので、コピーはあまりチョイスしません。しかし、この場合、現物が残っていない以上、その音を伝えてくれるのは復元(レプリカ)とはいえ、これしかないのであれば聴いてみたくなってしまいます(調子がいい)。

その時のことを詩人Cyprian Norwidは「ショパン」という作品の中で歌っています

モダン・ピアノによる夜想曲(ショパン)

 ショパンと科学。まるで接点がないような両者ですが、彼の書簡の中に、実は天文に興味を持っていたのではと思わせる手紙が知られています。

 ”もうお聞きになっているニュースですが、ルヴェリエ氏の新しい惑星の発見です。ルヴェリエはパリ天文台に勤務していて、天王星の運動のある狂いに気がつき、その原因が未発見のほかの惑星にあることを発見し、その距離、軌道、質量、その他あらゆることを発表しました。それはベルリンのガレ氏の観測と、今はまたロンドンの人たち(ヨハン・コーチ・アダムス)が観測できたものとも一致しました。なんという科学の勝利、数学によってこんな発見ができるとは! この間の科学アカデミーの会合でアラゴ氏はこの新惑星をルヴェリエと命名すべきだと提案しました。ガレ氏はベルリンより書面をよせて、命名の権利はルヴェリエ氏にあると述べながらも、彼は「イヤヌス」というのを示唆していますが、ルヴェリエは「ネプチューンがよかろうといっています。科学アカデミーのある部門で反対はありますが、大多数はこの惑星には発見者の名をあたえようとしています。彼は数学の力で天文学の未知の分野を開拓したのです。「ヴィコ」とか「ヒンド」と呼ばれる彗星があるのですから、天王星も「ヘルシュル」と呼ばれているのですから「ルヴェリア」と呼ぶ惑星があってはいけないでしょうか。王は直ちに彼をレジオン・ドヌールに叙勲しました。
- - -1846年10月11日”


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