Photo by Toshiharu Minagawa. |
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01.Available Light |
ウィンダム・ヒルに彼の名前が初めてクレジットされたのは1985年の『PIANO SAMPLER』です。1937年生まれの彼の音楽活動は、レーベルアーティストの中では最も古く、そしてキャリアも一番長いかもしれません。いや、考えてみれば初期のカタログにロビー・ベイショがいるから、1、2を争うと言った方が良いでしょう。 マシュー本人にとってみれば、すでに5作目となるソロアルバムで、ウィンダム・ヒルからは、このアルバムだけがリーダー作で後にも先にも、これ1枚だけというのが残念でなりません。 私の場合、音楽を聴くスタイルというのは主に自宅の書斎で「聴く」か、車で移動中、もしくは星空のお供に… ということになります。たいていの場合は音楽とは関係のない光景が目の前に広がっているので、イマジネーションをかき立てるために目を閉じて聴き込みます。だから目を開けたときと頭の中で鳴っている音楽との光景が現実と空想を行ったり来たりしていることになるでしょう。 マシューの音楽、ひいてはウィンダム・ヒルの音楽は、目をつぶったときにはっきりと風景が浮かび上がるのは、すでに多くのファンが経験済み(?)。このアルバムタイトルに邦題で『自然光』と付けられているので、ついついそういった情景を思い描いてしまいがちですが、まさにそんな風景がゆっくりと動いています。カーテンからこぼれる光り(まさにアッカーマンの『PAST LIGHT』)、湖面にきらめくさざなみ。それらは光だけの光景というのではなく、風との戯れ、影との共演。その他、取り囲む環境によって、様々に変化してゆきます。 ここに収められた12篇の風景は繰り返される単調な調べに催眠に掛けられたような錯覚に陥るのです。繰り返される自然のサイクルに。光を描くと同時に影も描いていることに気づくでしょう。 エリック・サティよりもフェデリコ・モンポウの世界。 “To The Well”には、人間楽器と言われたボビー・マクファーリンがゲスト参加しています。 ここに収録された12篇の音楽にメロディや調性を探し出すのは苦労するかもしれません。クラシックを学んだとは言え、現代音楽に通じる無機質さも合わせ持っているから。ただ、自然界の繰り返すサイクルには人間の計り知れない時間の流れと繰り返し(それは単純に四季のサイクルなど)が存在するから、それをほんのちょっとのぞき見できれば、このアルバムがもっともウィンダム・ヒルらしいピアノアルバムだと気づくことでしょう。 デビュー当初はウィンストン、コッス、ストーリー、アーバーグの次代のアーティストとして紹介されていましたが、個人的には最もアッカーマン好みのピアニストかもしれない、と思います。現在は妻のDevi Mathieuと弦のShira KammenとEPHEMEROSというバンドを組んで活動しているようで、レーベルを離れ活動しているようです。他に作家という面も持ち合わせている多彩な顔を持つ、いかにもレーベルらしいアーティストです。 ウィンダム・ヒル・デビュー前にリリースしたアルバム。 STREEMING WISDOM SECOND NATURE IN THE WIND LISTENING TO EVENING 以下のアルバムには楽曲を提供しています。 PIANO SAMPLER / Listening To Evening(1985) IMAGINARY ROADS / WILLIAM ACKERMAN / The Moment in Which You Must Finally Let Go of the Tether Which Has Held Your Hope Airborne(1988) A WINTER'S SOLSTICE II / By The Fireside (1988) PIANO SAMPLER II / Deep Water Gospel(1994) 最後に、この1987年に国内盤としてリリースされたアルバムに付けられていた邦題を記します。聴き手にイマジネーションを与えてくれるような。 『自然光』 01.自然光 / 02.デビの夢 / 03.透かし絵/ 04.見えない雨/ 05.この光は? 06.月影/ 07.丘の歌/ 08.みつばちのダンスのための音楽/ 09.描かれた窓/ 10.泉へ/ 11.真昼の月/ 12.炎 |