ウィンダム・ヒルの掲示板


Photo by Toshiharu Minagawa.


WH-1042
TRANSIT/ Ira Stein & Russel Walder


Produced by
Dawn Atkinson and William Ackerman.

excepted where noted.

Windham Hill Records, 1986



01.The Underground(Russel Walder/Ira Stein)
Ira Stein ; Synthesizers, Piano / Russel Walder ; Oboe
Mark Isham ; Synthesizer
Produced by Dawn Atkinson and William Ackerman with Mark Isham.

02.Engravings(Ira Stein)
Ira Stein ; Piano, Synthesizer / Russel Walder ; Oboe

03.Marseille(Ira Stein)
Ira Stein ; Piano / Russel Walder ; Oboe

04.Foreign Correspondence(Russel Walder/Ira Stein)
Russel Walder ; Vocals / Ira Stein ; Piano, Synthesizer
Kurt Wortman ; Drums / Dawn Atkinson ; Percussion
Russell Clark, Bruce Hornsby, Gunnar Madsen, Matthew Stull ; Chorus

05.Transit(Russel Walder)
Russel Walder ; Oboe, English Horn / Ira Stein ; Piano, Synthesizer
Michael Manring ; Fretless Bass / Kurt Wortman ; Drums

06.Lost Time(Ira Stein)
Ira Stein ; Piano / Russel Walder ; Oboe

07.Circe(Russel Walder)
Russel Walder ; Oboe, English Horn
Produced by Russel Walder.

08.The Calling(Russel Walder)
Russel Walder ; Mouth Percussion, Oboe, English Horn, Vocals / Ira Stein ; Synthesizer, Piano
Kurt Wortman ; Hi-hat / Dawn Atkinson ; Vocals

09.Suite For Dominique(Ira Stein)
Over And Under/Round Robin/All Bounced Up
Ira Stein ; Piano



 1982年に制作されたデビュー・アルバム『ELEMENTS』がピアノのIra Steinが舵を取っていましたが(全曲アイラのペンによる)、今回の2ndアルバムでは、Russel Walderの楽曲が増え、それと同時にオーボエとピアノデュオというシンプルな編成が大きく変わり、デュオとアンサンブル、そしてオーボエソロ、ピアノソロがそれぞれ1曲ずつという新たな試みが行われています。そしてヴォーカルにも比重が置かれ、今のラッセルの音楽スタイルは、この頃から模索が開始されているような感じです。残念ながらこのデュオは、このアルバムのアトレーベルをナラダに移し、初期のスタイルに戻ってアルバムを一枚制作しましたが、コンビを解消し、それぞれの道を歩んでいくことになります。

 オープニングを導く「The Underground」では同じレーベルメイトのマーク・アイシャムのシンセサイザー。そしてパーカッションがリズムを刻み、デビューアルバムで見せた透明感のある感触がカラフルになったことに驚きました。この曲では、プロデュースとミキシングまで担当しています。このデュオのスタイルだったオーボエとピアノという音色は、後半になってようやく絡み始めますが、シンセ群やリズムトラックにより、ほとんど気づくことがないかもしれません。この頃、アコースティックに限らず、エレクトロニクスサウンドにに傾倒していたアッカーマンの思惑か、主役二人の方向性なのでしょう。それにしてもマーク・アイシャムが関わっているとは!
 2曲目の暖かいハーモニーは、レーベル初のコンピレーションアルバム『A WINTER'S SOLSTICE』に提供された楽曲のオリジナルで、このニューアルバムの中では異色の雰囲気をもっているように聞こえてしまいます。それほど、この『TARNSIT』は新しいサウンドなのです。しかし、このスタイルを期待していたファンには嬉しい一曲です。
 続く曲も二人のデュオで、ピアノのフレーズが小鳥のさえずりのよう。途中でオーボエがピアノに呼応してハーモニーを厚くしていきます。雪解けを思わせるような瑞々しい響き。頭に浮かぶのは水しぶき、木漏れ日といった情景です。ピアノの速いパッセージに対して朗々と歌うオーボエの対比が美しい曲。

 興味深い4曲目でオーボエ奏者のラッセル・ウォルダーは楽器を手放し、ヴォーカルを披露します。しかもそのコーラスの中にはBruce Hornsbyが居るのです。この曲がレコーディングされた頃、すでにBruce Hornsby & The Rangeとして、Heuy Lews & The Newsの弟バンド的な宣伝でデビューし、シングル「The Way It Is」は全米1位に輝いていました。ブルースは数々のレコード会社にデモテープを送りましたが、どこも相手にしてくれなかったそうです。そんな中、唯一興味を示したのがウィンダム・ヒルで、そうした事もあり、いわば恩返しという形でレコーディングに参加したのです。この頃のブルースは、あちこちで引っ張りだことなり、ミュージシャンズ・ミュージシャンの一人として高く評価されていました。その理由はソングライティングの豊かさ(他にもヒューイ・ルイスの「Jacobs Ladder」も全米1位)にありますが、彼の弾くピアノスタイルがその一番の理由だったのではないでしょうか。特に私の印象に残っているのは1989年のグラミー賞です。ドン・ヘンリーのグラミー受賞曲である「The End Of The Innocence」のバックで奏でられたピアノの音色は今でも忘れることはできません。最近では本人のヴォーカルのビデオもあります。

 マイケル・マンリングが参加した曲は、どことなく彼のアルバムに似合っているような曲調に仕上がっています。中間のピアノソロは、アイラのスタイルが最もあらわれ、ライヴなんかでも、ここではかなり即興的なプレイが繰り広げられるのではないでしょうか。そしてラッセルのオーボエが加わり、いっそうハーモニーが熱くなっていきます。
 6曲目は再び静かなデュオ。このアルバムでは2番目に長い曲で、1stの雰囲気をもっとも強く感じます。前作からこぼれ落ちた曲のようにも思えます。静かな森の中に身を置いて自然界と対話を楽しむことが出来そうです。
 軽快なオーボエの音色とリズムトラックががアルバムジャケットを彷彿とさせる「The Calling」は、のちにアッカーマンが多用するコーラスのスタイルを聴くことが出来ます。また、このアルバムを代表する曲なのか、ベスト盤で良く選曲される一曲です。

「Circe」のオーボエ、イングリッシュ・ホルンの多重録音では、ラッセルが自らプロデュースを行い、ラストの「Suite For Dominique」ではアイラのピアノソロ。二人の独奏楽器がソロという表現で語られ、おもしろい試みではないでしょうか。そのアイラのピアノソロでアルバムは締めくくられます。


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