ウィンダム・ヒルの掲示板

 

 

AMERICA -2004-

Produced by Dawn Atkinson.
2004 Windham Hill.


01. Water Is Wide (traditional)/ Paul McCandless
Paul McCandless; English Horn
John R.Burr; Piano / Robert Ward; French Horn / Michael Manring; Fretless Bass
Produced by Dawn Atkinson and Paul McCandless.

02. O, Shenandoah (traditional)/ Philip Aaberg
Philip Aaberg; Piano
Produced by Philip Aaberg.

03. Summertime (George Gershwin)/ David Grisman
David Grisman; Mandrin / Tony Rice; Guitar
Produced by David Grisman.

04. Variations on Solace (Scott Joplin)/ Dick Hyman
Dick Hyman; Piano
Produced by Dawn Atkinson.

05. Angelina Baker (Stephen Foster)/ Barbara Higbie
Barbara Higbie; Piano, Fiddle, Guitar, Hammered Dulcimer
Blake Richardson; Acousitic Bass
Produced by Dawn Atkinson.

06. It Ain't Necessarily So (George Gershwin)/ George Winston

George Winston; Piano
Produced by George Winston.

07. One Hand, One Heart (Leonard Bernstein)/ Tracy Silverman
Tracy Silverman; Electric Violin, Acoustic Violin, Keyboards
Produced by Tracy Silverman.

08. Times They Are A-Changin'(Bob Dylan)/ Fred Sion
Fred Siomon; Piano
Produced by Fred Simon.

09. Prelude, No. 2(George Gershwin)/ Chris Botti
Chris Botti; Trumpet
Dominic Miller; Guitar / Christian McBride; Bass / Manu Katche; Drums
Produced by Chris Botti and Dominic Miller.

10. Sophisticated Lady(Duke Ellington)/ Steve Erquiaga
Steve Erquiaga; Nylon String Guitar
Produced by Steve Erquiaga.

11. In a Mist(Bix Beiderbecke)/ Philip Aaberg & Darol Anger
Philip Aaberg; Piano / Darol Anger; Fiddle
Produced by Darol Anger and Philip Aaberg.

12. On the Threshold of Liberty(Mark Isham)/ Mark Isham
Mark Isham; Synthesizers, Trumpetd, Flugelhorn, Piano, Steiner EVI, Ekectribuc Oercyssuib
Produced by Steven Miller.




 ウィンダム・ヒルによる“アメリカ”。恐らく2003年の『ADAGIO』や『PRAYER』に続くクラシカルな楽曲の三部作になるのではないでしょうか? タイトルからもおわかりの通り、今回は彼らの土台(血であり、肉体であり、魂である)ともなるべくアメリカの作曲家の作品を取り上げています。個人的には久しぶりに登場してくれたFred Simonによるボブ・ディランの“時代は変わる”が非常にうれしく思います。ディランの詩は、長年ファンであっても、言葉の壁は拭いきることはできず、時代背景から来る本当の意味や、韻を踏むような彼の詩を味わうことはできません(このあたりが日本人としては悔しい限り)。しかし、今回のようにピアノによるカヴァーは、改めてディランのコンポーザーとしてのメロディ・メーカーを楽しむことができる野のではないでしょうか。この曲からも伺えるように、彼は実に美しいメロディ書くコンポーザーなのです。
 他にはジョージ・ガーシュイン、ステファン・フォスター、スコット・ジョプリン、レナード・バーンスタイン、デューク・エリントン…
 最近のウィンダム・ヒルは、ソロ・アーティストの作品よりも、こういったオムニバス物しかリリースしない傾向にあります。ニュー・レコーディングとしては先の二作と、今作の間に『CHRISTMAS II』があるぐらい。年々、初期のレーベルらしい音から遠のいていくようです。とは言え、アルバム全体を流れているポリシーは昔のまま。それはそれで、多くのアーティストの個性的な楽曲が楽しめるのですが、やはり1980年代初期の頃のような作品群を期待したいところ。しかも主役となるべきはずのウィリアム・アッカーマンがここでも参加していません。唯一、Philip Aabargがクレジットの中で讃辞を述べている程度。ちょっと寂しい。プロデュースにはアッカーマンの右腕、ドーン・アトキンソンが務めてめています。

“Water Is Wide”はU2がアメリカを題材にした『RATTLE AND HUM』の中で、ギタリストのThe Edgeが鼻声で歌っていたメロディ。Paul McCandlessはジェームズ・テイラーの歌で初めて知ったと言います。原曲はイギリスの古い民謡。イングリッシュ・ホルンとフレンチ・ホルン(Robert Ward)のハーモニーが美しく、あいかわらずの世界を作り出してくれます。

 “O, Shenandoah”はボブ・ディランが“ローリング・サレンダー・レビュー”のツアー中、ジョーン・バエズとしばしばデュエットしていたフォーク・ソング。Shenandoahとはインディアンの酋長の名前で、ハリー・ベラフォンテやビング・クロスビーもカヴァーしていますが、Philip Aabergはスケールの大きなタッチで(まさにアルバムジャケット)アメリカの魂の故郷を描いていています。
 “Summertime”はジョージ・ガーシュインの歌劇『ポギーとベス』の中の曲で、多くのアーティストがカヴァーしているのはご存じのとおり。ここではDavid Grismanが右チャンネル(バンジョー)と左チャンネル(ギター)で楽器を引き分け一人デュエットという芸(別々にレコーディングしただけですが)を披露しています。

 スコット・ジョプリンの“Variations on Solace”は正確には“Solace-A Mexican Serenade”というようです。1909年の作曲で、映画『スティング』の中でも“The Entertainer”同様、オーケストラ・ヴァージョン、ピアノ・ヴァージョンと使用されていたのでなじみ深いメロディですので、お聞きになった方が大勢いるのではないでしょうか。George Winstonあたりが演りそうなアレンジですが、ここでは1927年生まれのジャズ・ピアニストDick Hymanに譲っています。
 ウィンダム・ヒルのマルチ・アーティスト、Barbara Higbieが取り上げたのは、ステファン・フォスターの“Angelina Baker”。Blake Richardsonにアコースティック・ベースを弾いてもらっているものの、ピアノ、フィドル、ギター(!)、ダルシマーを一人で多重録音で演奏し、ミンストレルの雰囲気溢れるアレンジに仕上げています。

 Summertimeに引き続き、歌劇『ポギーとベス』の挿入曲“It Ain't Necessarily So”を、思い入れたっぷりブルージーに演奏しているのはGeorge Winston。先に登場したアーバーグやハイマンと同じピアノで演奏しているのに、一聴して彼のプレイだとわかるスタイルはさすが。ドアーズを演奏したときのようなスタイルです。

 アメリカが生んだ偉大な作曲家の一人であり、指揮者、教育者だったLeonard Bernsteinの作品が、奏でられるとは感慨深いものがあります。ここで独特のスタイル(エレクトリック・ヴァイオリン)を奏でているのは、同じクラシック畑出身のTracy Silverman。この曲は歌劇『ウエストサイド物語』の挿入曲。


 ボブ・ディランの“Times They Are A-Changin'”をシンプルなピアノで仕上げてくれたのは、本当に久しぶりの登場となるFred Sionです。既に書いてしまったので、書くことはありません(笑)。名曲とはシンプルになったときほど、その美しさを露わにする好例です。

 ガーシュインの“Prelude No.2”をジャージーにアレンジしたのは若きトランペッターのChris Bottiです。Stingと活動していた関係からか、ここでギターを奏でているのはDominic Miller。

 オープニングに登場したポール・マッキャンドレス同様、ウィンダム・ヒルのオムニバス物には欠かすことの出来ないナイロン・ギターの名手、Steve Erquiagaの多重録りによる落ちついたアレンジはデューク・エリントンの“Sophisticated Lady”

 
ルイ・アームストロングと並んで称されたコルネットの名手、ビックス・ベイダーベックの曲。楽譜をジョージ・ウィンストンから譲ってもらったといいますが、それをアンガーのアイデアでワルツにアレンジしています。タイトル“In a Mist”からして印象派の世界が漂ってきそうですが、彼はステージでドビュッシーやストラヴィンスキーの作品を取り上げています。ここでは初期のレーベルの雰囲気を漂わせたPhilip AabergDarol Angerが、そんなことを思ってか古き良きアメリカを描いています。まるでモノクロの映画を見ているような世界。

 このアルバムのトリを務めるのは、自作を演奏しているMark Ishamです。タイトルの“On the Threshold of Liberty”ルネ・マグリットの作品タイトルから借りてきているようです。もともと自分自身のソロ・プロジェクトのために書いたものが原曲だとか。メロディを奏でるバロック・トランペットの音色が、いかにもマークらしい雰囲気。

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