星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

THE STARRY SKY
 
 

マンデルリング四重奏団
(Quartett Girard)
ユーグ・ジラール;ヴァイオリン
アガーテ・ジラール;ヴァイオリン
オドン・ジラール;ヴィオラ
ルーシェ・ジラール;チェロ



 天界とのかかわりのあるラズモフスキー第2番をカップリングに据えたエルサンの『星空』は、ベートーヴェン的(ラズモフスキーからの引用あり)で夜想曲風の表情を垣間見せ、星空からのメッセージとも思える抒情的内容を受け取れそうです。時にはショスタコーヴィッチの影響もちらほらし、いかにも現代音楽を歌いだしますが。



 フランスの作曲家エルサンが作曲した弦楽四重奏曲第4番「星空」というタイトルに、星好きが興味を惹かれるのは当然ないでしょうか。そして、このジラール兄弟が中心となったグループがカップリングとして選んだのは、ベートーヴェン。ラズモフスキー第2番というのが、実に良く寝られた選曲なのです。

 1806年ベートヴェンの作品番号59-2「ラズモフスキー第2番」は、ロシアのアンドレアス・ラズモフスキー伯爵から委託されて作曲しています。それで名前もラズモフスキー。そしてこの曲には、カントの言葉「我が上なる星空と、我が内なる道徳法則、我はこの二つに畏敬の念を抱いてやまない」を引用したことでも有名なのです(『実践理性批判』)。さらに第2楽章に至っては、弟子のチェルニーに「星空のもとでの瞑想」と語っていたとか。

  この曲にまつわるベートーヴェンと宇宙(星空)のエピソードは、比較的有名のようです(私はベートーヴェンを聞くようになるまで知りませんでしたが)。さすがは感受性豊かな芸術家だけに、と思いましたが、実は子どものころから天体望遠鏡で夜空を眺めるのが好きだったと言うエピソードが近年報告されています。それを裏付けるかのように、彼の蔵書の中にはボーデの『やさしい星学入門』が含まれていました。しかし、この本は、当時大ベストセラーになった一般向けの天文書だから所持していただけなのかもしれません。
 私はこの本を読んだことがありません。だから当時の最新の天文書と思っていましたが、最近読んだ『地球外生命論争』の中で興味深い記述を見つけました。そこでボーデにふれ、彼は地球以外の多世界論といった思想を持ち合わせ、それを『やさしい星学入門』にも盛り込んでいたようです。

 それを踏まえると、ベートーヴェンがボーデに影響を受けた?と思えるシーンがちらほら見えてきます。特に第九に採用したシラーの歌詞など、ベートーヴェンにとって「これだ!」と電撃が走ったんじゃないかと。具体的には「天空のかなたに主を求めよ 星々のかなたに主は必ずや住みたもう」といったくだりなど、星空の彼方に、ベートーヴェン自身も、当時の人々が感じでいた地球以外の世界を見たかったのかもしれません。

 話はそれますが(それっぱなしという意見も…)、宇宙に興味を抱いていたであろう彼は、もしかしたら高橋至時らが翻訳したラランドの『ラランデ暦書』も目にしていたかもしれません。原題はオランダ語で『天文学』(1792)。当初ラランデも多世界論だったようですが、1806年ごろまでには「19年間天界を見ていて神の存在が必要ないことが分かった」と宣言。ことごとく自らの著名には「無神論者ラランデ」とサインしたそうです。海外でも翻訳されるほどの数理学的な天文学書だったからか、ラランデの考えに納得しなかったからか、ベートーヴェンの蔵書には見当たらなかったようです。

(天文学の歴史では、高橋至時らが命を削ってまで翻訳作業を進めていたのでした)


エマニュエル・カント(1724-1804)
ジェローム・ラランド(1732-1807)
ヨハン・ボーデ(1747-1826)
ヨハン・クリストフ・フリードリヒ・フォン・シラー(1759-1805)
ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
カール・チェルニー(1791-1857)

フィリップ・エルサン(1948-)
 

 



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