私の串田孫一(1915-2003)体験は、FM東京で放送されていた『音楽の絵本』が最初でした。小学生のころから星に興味を持ち始め、当時は「星」とか「天体」とか宇宙を連想させるキーワードに対して、つねにアンテナを貼っていたから、新聞やラジオで見かけては、片っ端からエアチェックなどしていました。そのなかに、『音楽の絵本』があって、1980年6月2日に放送された「星の話」がテープに残されています。

このラジオ番組も1500回を向かえたことと、作者が健康上の理由から番組を終わりにしたいという希望から終止符が打たれていました(1994年3月27日「冬の記憶」)。この番組のファンは多く、1984年には共同通信社より『音楽の絵本1965-1984』が出版され、番組終了後の2002年には平凡社から『音楽の絵本』が出版されました。残念なことに、私が唯一聞いた「星の話」は収録されてはいませんでした。

(なので)聞き取ったエッセイをここに掲載させてもらいました。
  読みやすいように、串田さんの朗読を味わっていただけるように、間を空けている箇所を、あえて改行して表示します。番組を聞いたことのある方なら、雰囲気だけでも味わえるのではないでしょうか?

 また、もっと早くから、この番組の魅力に気づいていたら聞いていただろうに、と思わせる星に関わりのあったエッセイが放送されたタイトルと、放送日を、上記2冊の本から抜粋させていただきます。

音楽の絵本
1965(昭和40年)4/3~
7月10日(土)
1966(昭和41年)
4月29日(土)
1967(昭和42年)
太陽
4月29日(土)
1970(昭和45年)
流星
9月28日(月)
1972(昭和47年)
冬の星座
1月30日(日)
銀河
7月2日(土)
1973(昭和46年)
金星
10月21日(日)
火星
11月18日(日)
1975(昭和50年)
新しい太陽
1月5日(日)
1976(昭和51年)
オリオン星座
1月11日(日)
氷河の星
8月1日(日)
星の採集
9月12日(日)
旅の一番星
11月14日(日)
1978(昭和53年)
星の伝説
7月16日(日)
天文台
11月26日(日)
1980(昭和55年)
星の話
6月1日(日)
1981(昭和56年)
地球
5月31日(日)
プラネタリウム
8月23日(日)
1983(昭和58年)
三日月
1月23日(日)
1986(昭和61年)
箒星
3月30日(日)
1989(平成元年)
一番星
12月4日(日)
1990(平成2年)
宇宙
3月4日(日)
1991(平成3年)
七夕
7月7日(日)
1993(平成5年)
羊飼の星
2月14日(日)

 

 

音楽の絵本「星の話」(1980年6月1日放送)

1970年6月1日、東京天文台の古畑正秋さんと対談をした。
早めに出て、
途中で買い物をしたり、
偶然出会った古い友だちと立ち話をしたりして
会場へ行った。

これを掲載する雑誌の方では
特にテーマを考えているわけではなく、
私たち二人の星の話を
今年の夏に出る雑誌に載せたいというだけで
編集部の人も
特に星に興味を持っているわけではない。

初めてお目に掛かる古畑さんも
積極的に話をされる方ではないし
私は専門家の前に座らされた素人であるから
話がうまくまとまらない。
私は、冬、
霧ケ峰で夜10時ごろに、
雪の中を歩いていると
奇妙な光がゆっくりと水平に流れていくのを見たのを思い出して、
その話をした。

これは私だけが目撃したわけではなく
帰ってきて新聞を見ると
怪しい光を見たという報告が
各地から新聞社にも集まったらしく
かなり大きく扱われていた。
古畑さんは、そのことを記憶してはおられなかったが
私が詳しく話すのを黙って聞いておられてから
「それは流星です」と言われた。

患者に詳しく体の悪いところの説明をさせて
何も診察もせずに
「それは肝臓です」と言われたのと似ているのではないかと思った。

帰りは自動車が用意してあって、
私たちは同方向なので一緒に乗ったが
その古畑さんは
車の中では
いろいろ星の観測についての面白い話をされた。

木曽の山中に
観測するには良い場所があるが、
そんなことをいったところで、
すぐに予算を通してもらえるわけではない。
三鷹の東京天文台などは
今はもう最悪の状態で
なにもできない。

「それではどうしていらっしゃるのですか」と尋ねると
「早寝をして、朝早く起きて、小鳥の観察をしています」と、
まじめな口調で話しておられた。


 

 この朗読の時に流れているBGMはルーセルの「弦楽のためのセレナーデ」です。曲は連続して掛かるのですが、同じフルート、ハープ、ヴィオラの演奏というだけで、私には曲名がわかりませんでした(とほほ)。

ここで朗読が一旦終わり先のエッセイの裏話(?)を話してくれています。
その中で野尻抱影の印象が出てくるので、ファンとしては嬉しいところでしょうか 。

「口をとがらせて、自分が星にならなければ話せないように熱心に話した」

「山奥に星を見に行った子供から、夜が麻疹になったようだと聞かされたことを、私に嬉しそうに話してくれたことを思い出します」 など。

そして最後に、(おそらく) 野尻抱影のことでしょう、朗読がヴィヴァルディの曲をバックに始まります。

 

 

星の話になると
彼の小さい目は鋭く光りはじめる。
山の夜更けに見た
アルデバランの赤さの、
その形容が巧みで、
いつも同じではない。
白鳥座のベータ星となると
もう座ってはいられない。
自ら、
白鳥となって
私の頭上を越えて飛び立っていきそうになる