今から6000年以上昔の星座が作られた頃、このうみへび座 はもっともっと北よりに位置していたことがわかっています。現在は南半球の空に位置していますが、その頃のうみへび座は天の赤道に巻付いていたのです。
どういうことかというと、地球の地軸のコマ振り現象(歳差)によって、当時の星空はどんどん南へ移動してしまいました。星座が作られた当初の位置と比べると、そのほとんどが、はるかに南下してしまい、現在は作られた頃の意味がほとんどなくなってしまったのです。(歳差は、約26000年で一回転します)
天の赤道は季節に関わらず、そして地域に関わらず、真東から真西に伸びています。うみへび座の配列を、天の赤道に絡めることで、海や砂漠を行き交う旅人や商人たちは正確に方角を知ることができました。真西に伸びる鎌首、真東を指し示すしっぽ。つまり暗闇での旅路を助ける道標にするためには、首と尻尾が真西と真東を指し示す姿に配置することが必要だったのです。こうすることで暗闇を行き交う人々の道標となり、どれほどの明かりを投げかけてくれたことでしょうか。
現在まで、古代の人たちが知恵を出し合って描き出した星座が残っていられたのは、こうしたメッセージが星座の中に込められ、それが延々と人々の生活の中で生きてきたからではないでしょうか?
それはそうと、日本語名の海蛇というのはどうも不自然で、学名のヒドラをそのまま名前にしても良かったのではないかと思いますが、とにかく、この主の正体はギリシア神話では九つの頭を持った怪物ヒドラです。遠く隔てた日本の神話にも登場する「やまたの大蛇」と良く似た姿をしていますが、画家のオーギュスタン・モローの描いた情景がもっとも有名かもしれません。
α星のアルファルドは“孤独なもの”という意味のアラビア語ですが、その名の通り南の空に、いかにも一人寂しく輝く2等星です。実体は太陽の200倍以上もるため、170光年も遠方にありながら1.98等級で輝いています。この星には別名にコル・ヒドレ“ヒドラの心臓”という名もあり、これはティコ・ブラーエが名づけました。これだけ広大な広がりを持つうみへび座ですが、固有名を持つ星はこれ一つしかありません。確かに「孤独なもの」にふさわしいかもしれません。
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