星・宇宙の音楽といったら まず最初に思い浮かぶのが

英国の作曲家グスタフ・テオドル・ホルスト(1874-1934)が作曲した

大オーケストラと女声合唱のための管弦楽組曲『惑星』でしょう

この組曲は太陽系の惑星に縁のある神々のイメージをモチーフとしており

たとえば第一曲目から

火星(Mars-the Bringer of War)戦いをもたらす者

金星(Venus-the Bringer of Peace)平和をもたらす者

水星(Mercury-the Winged Messenger)翼のある遣いの神

木星(Jupiter-the Bringer of Jollity)快楽をもたらす者

土星(Saturn-the Bringer of Old Age)老年をもたらす者

天王星(Uranus-the Magician)魔術師

海王星(Neputune-the Mystic)神秘

というタイトルが付けられています

これだけで天文ファンは「聴いてみたい」という欲望に駆られるのではないでしょうか

日本ではカッコ内の言語は神の名であり

訳することによって惑星の名前にも変わります

もちろんここで使われている言葉は全てローマ神話を基にしていますが

西洋人にとってmars(マーズ)と言ったら火星

というよりも戦いの神のイメージの方が強いかもしれません

だとすると

日本人がこの曲を聴くとき

火星、という赤い星が星空の中で輝くイメージとして聴くのと

西洋人が戦いの神

というイメージで聴くのとではまるっきりかけ離れたものになるのではないでしょうか?

そんなわけで

この曲を神話のイメージとして聴いてみたいという方は全曲をお薦めしますが

星空の下で星の輝きを眺めながらB.G.M.でというのであれば

金星と海王星のみをお薦めします

金星は宵の明星のイメージであり海王星は深淵の宇宙の果てに消え去っていくような雰囲気があります

作曲家が絵画的な情景から受けるインスピレーションというものはこうも美しいものなのか

と改めて感動せざるを得ません

ちなみにこの組曲が完成したのが1913年

最遠の惑星である冥王星はまだ発見されていなかったために作曲されていません

しかし

彼はその発見を知っており(1934年に亡くなっているが、発見は1914年)

「作曲してくれても良かったのに」というのはファンの欲目でしょう

そんな願いを聞き入れたのか

最近になってホルスト協会の会長であるコリン・マシューズが“冥王星-再生の神”を作曲し

無茶なことに海王星に続いて演奏する習慣を築き上げつつあるようです

ただ、別ページでも触れましたが

この組曲は女声合唱がフェードアウトして行く“海王星”で完結しており

かつ、冥王星(Pluto)は冥土の神で再生(つまりは生き返り)を望まない神だからです

惑星はオーディオマニアの間で爆発的な人気があるために

40種以上のアルバムがリリースされています

その中で今回お薦めするのが作曲者自身の演奏とピリオド楽器*による2枚です
*(ピリオド楽器とはオリジナル楽器のことで、当時の楽器もしくはそのコピーです。ここでは惑星が初演された当時の楽器になります)

おもしろいところではピアノ連弾版や冨田勲によるシンセサイザー版もあり

オーケストラに興味がもてたら(この曲が好きになってしまったら)手を出してみましょう

超有名曲名だけに

誰が振っても失敗することはありませんから星の数に匹敵するとは言えないまでも

選ぶのに迷うようならまずは廉価盤から手を出してみると良いでしょう

指揮:ロイ・グッドマン ニュー・クイーンズ・ホール管弦楽団、女声合唱団
1996年録音。
CARLTON Classics 30366 00432

 このオーケストラはこの曲が初演されたときに演奏したオーケストラで、恐らくこのレコーディングのために組織されたようです。そして興味深いのは、当時の楽器(ピリオド楽器)を使用しているということでしょう。ただし、この頃と現代の演奏との間の編成には大した違いがないので、たとえばバッハやモーツァルト時代のピリオド楽器を使っての演奏ほど劇的な違いは見られません。興味深いのはそのテンポで、もう一枚僕がここで紹介しているホルスト自身のテンポと非常に似ていることでしょうか。海王星に登場する女性コーラスも、他のモダン楽器の演奏に比べると幾分ハッキリとしたヴォカリーズを聴かせているようです。

指揮:グスタフ・ホルスト
ロンドン交響楽団、女声合唱団
1926年録音。
LP盤は現在廃盤(中古店なら入手可能)
現行CD;Koch International Classics
3-7018-2 H1

 ホルスト自身の演奏による惑星は、「作曲者らしい楽譜通りの」というのか楽譜にはこうしか書いていないんだな、というようなすっきりとした演奏。そして恐ろしく速いテンポで押し進めています(全曲41分しか掛かっていません)。
 ただ僕がこのレコードを選んだ理由は本人の演奏ということと、レコード特有のプチプチとしたノイズの向こうに聞こえる当時の音が聞けるということです。古いラジオ放送を聴いているような雰囲気も味わえ、星空を眺めながら時空を超えるには最適かも。

「惑星」のページへhome