星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)


 1968年に公開されたスタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick, 1928-1999)とアーサー・C・クラーク(Arthur Charles Clarke,1927-2008)の『2001年宇宙の旅』で一躍有名となったリヒャルト・シュトラウス(Richard Georg Strauss, 1864-1949)。その作風は後期ロマン派の濃厚なオーケストレーションで、確かにハリウッドのような映像にはうってつけのサウンドでした。
 こうした既存の作品を使うことは様々な理由が考えられますが、この『コスモス』などのように、予算を押さえたい場合、新たに作曲するより過去の作品を使用した方が、費用がかからないと言うこともあったのではないでしょうか?

  そんな映像が似合いそうなリヒャルト・シュトラウスですが、この『コスモス』では、たった1曲、たった1箇所だけに起用されています。

交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』大いなる憧れについて

 エピソード12【Encyclopedia Galactica】で使用されるこの曲は、セーガン博士が特に強い関心を寄せている地球外知的生命との交信を扱ったエピソード。番組冒頭で、およそ科学番組ではタブーとされているUFOや宇宙人に誘拐されたエピソードなどを大胆に紹介しています。この話は、のちのち取り上げることにしましょう。

 さて、このシュトラウスの曲が登場するのは、ジャン・フランソワ・シャンポリオン(Jean-François Champollion, 1790-1832)が、ロゼッタストーンをめぐり、自らがエジプトの巨大神殿を前にしたときの心理描写として見事な演出をはたしています(15m00sごろから)。
 単一楽章であるこの交響詩にあって、“大いなる憧れについて”は、映画で有名になった序奏の“日の出”を含む3曲目に演奏されます。まさにシャンポリオンが昔から憧れていた神殿を目の前にした心境と、それに伴う神殿の壮大さ、そして音楽が巨大神殿のごとく壮大に鳴り響きます。なんと感動的なシーンでしょうか!

 シャンポリオンが、初めてロゼッタ・ストーンを手にしたとき、持ち主であるジョセフ・フーリエ(Joseph Fourier, 1768-1830)に「どういう意味ですか?」と問いかけるのですが、「誰にも答えられないのだよ」という返事しかかえって来ません。そして数年後、とうとうシャンポリオンは、その石が発見された場所に赴き、あと1時間という地点までやって来ます。そして「この誘惑に耐えられるか?」「いや、できない」と日記を付け、案内人をおいてたいまつを手に巨大神殿に向かいました。そして、夥しい数の古代文字を前に「すべて現代語に置き換えることが出きる」と言って、後にフーリエに尋ねた質問に自ら答えてしまったのです。
 このあたりのシナリオの書き方は、通常の科学番組では味わえない感動を視聴者に与えてくれます。そしてセーガン博士は「現代のシャンポリオン」が、宇宙から届く道のメッセージを、きっと解読してくれるに違いない、と締めくくります。








ゲオルグ・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団
 私のお勧めは、やはり最初に聴いたレコードということになりますが、大オーケストラのための交響詩ということもあり、やはりここは、壮大にこの曲の大宇宙を描くショルティとシカゴ交響楽団による筋骨隆々の演奏を推薦します。冒頭の重低音(この音を再現できるには相当のシステムが必要)から、全強奏まで、完璧に鳴り響かせる演奏は、さすがこの名コンビ!
1976年グラミー受賞「Best Classical Orchestral Performance」

 


 グラミーと言うとポピュラーという感がありますが、実はクラシックをはじめとする、様々なジャンルの音楽がノミネートされています。実は、ショルティは歴代の受賞者の中で、もっとも受賞数の多いアーティストです。その数31個は歴代最多。その次に最も多いアーティストですら16個(アレサ・フランクリン)という、輝かしい受賞暦を誇るアーティストでもあります。







ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団

 さて、せっかくだから映画『2001年宇宙の旅』で使用された音源についても説明しておきます。
 驚異の映像を盛り上げたリヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』冒頭部分ですが、スクリーンで流れたのは、先の説明にもあるとおり、1959年にデッカと契約を交わしたカラヤンがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と最初に取り組み、名プロデューサー、ジョン・カルショウが“創り上げた”こちらの演奏です。
 ややこしいことに、デッカ側がノン・クレジットを理由に使用許可を出したり、その後のサントラ盤にはカール・ベーム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音源が採用されたことなどにより、長らく、映画で使われたのはベーム盤とされてきました。

 


最近読んだジョン・カルショウの『レコードはまっすぐに』の中では、次のように書かれていました。「キューブリックはカラヤンの録音を採用した」「デッカがキューブリックにテープの使用許可を与えるにあたり、デッカやカラヤンの名前を画面に出さないのを条件にした」など。私はカラヤンが1983年にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を振ったアルバムをショルティ以外でよくテーブルに載せているのですが、この記事を読んで、古い音源とはいえ、思わず買い求め、スクリーンと同じ感動を味わっています。
  冒頭やエンディングで使われた(今回紹介する)リヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』は、まさに映画のために作曲された、などと勘違いする人がいたほど、その旋律は、映像と見事に融合していました。映画では、他にもシュトラウス違いのヨハン・シュトラウスの『美しく青きドナウ』やリゲティなど音楽が使用されています。

 ちなみに映画で実際に使われたのはヘルベルト・フォン・カラヤンが1959年、デッカと初契約を結んだ直後にウィーンフィルとレコーディングした音源です。しかし、デッカが映画のクレジットに演奏者名を出さないことを条件(なぜそんな条件を出したのか?)に使用を許可したところカラヤンは激怒。また映画のサントラ盤にはカール・ベームが1958年にベルリン・フィルとレコーディングしたの演奏が収録されてしまい、「映画に使われたのはベーム」という噂が立ってしまったとか(サントラに収録されては、誰も疑いませんよね)。




ジャケット集
 おそらく映画の影響でしょう。この曲のアルバムジャケットのほとんどが、ダイヤモンドリングというのはどういう趣向なんでしょう?(笑)

 


日食以外のジャケット



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