星と天界の音楽と(星のソムリエのブログ)

  『コスモス』の音楽にはクラシックが多用されていますが、このベートーヴェンの交響曲第7番だけが全楽章が使われるという特別扱い(笑)を受けています。私の大好きな曲なだけに、ひょっとするとかんむり座同様にセーガン博士もこの曲が一番好きなのかも、などと想像してしまいます。

 この番組の感動的なシーンをひとつ上げよ、と問われれば、真っ先にこのベートーヴェンの交響曲第7番(第3、4楽章が使われた場面を挙げるでしょう。実は私がこの交響曲第7番曲を好きになったきっかけが、この人類の賛歌と思えるセーガン流の人類愛を感じさせる使い方によってです。この曲を聴くときは、いつもこの踊るシーンを思い浮かべます。そして地球という、ちっぽけな惑星の上に住む人々の共通の喜びを聴かされるようで、胸が熱くなります。同じように人類の賛歌を思わせてくれる曲に、同じくベートーヴェンの交響曲第9番がありますが、番組ではまったく使われていません。ワーグナーは第7番を“舞踏の祭典”と表現していますが、わかるような気がします。

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交響曲第7番より第1楽章

 エピソード1【The Shores of the Cosmic Ocean】、セーガン博士と私たちを乗せたタンポポの綿のような想像の宇宙船が、150億光年彼方から、故郷である地球に到着します。「ようこそ地球へ」(31m55s付近から)と招いてくれる後ろでのどかに流れてきます。大規模なシンフォニー中、牧歌的な田園風景を感じさ、最も室内楽的な調べを奏でるフルートの音色。 個人的には【スヌーピーとチャーリーブラウン】のイースター祭のエピソードで、スヌーピーがカラフルな卵を配り歩く室内楽に編曲されたヴァージョンが好きです(あっ、関係ないですね)。まさかベートーヴェンだと思わなかったので、この旋律を耳にしたときは鳥肌が立ちました。

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交響曲第7番より第2楽章

 ワーグナーにして“不滅のアダージェット”と呼んだメロディは、エピソード13【Who Speaks for Earth ?】(09m00s付近から)で使われています。
 セーガン博士は生と死を分けた二つの文明のコンタクト(接触)の話をしてくれます。そして博士もある思いを抱えて宇宙旅行をしています。銀河大百科事典を用いながら知的生命の存在する惑星を探す、そんな夢です。この曲のシーンの前に置かれた正反対の結果となるエピソードがキーワードになって、セーガン博士の悪夢が始まります。そんな憂いの思いを見事に音楽が盛り上げました。

物憂げなセーガン博士
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交響曲第7番より第3楽章

 この楽章が登場するのは、全エピソードの総集編ともいえるエピソード1【The Shores of the Cosmic Ocean】です。ただし、コチラはダイジェストのようなカットですので、最終話の、宇宙と地球の関係を描いたシーンは涙なくしては見られません。

 人類の賛歌的な様々な人種が踊り集うシーン(場所も時間も違いますが、編集の関係で、人類全ての人種が手を取り合って踊っているようです)で、実に躍動感あふれる感動的なシーンです。まさにセーガン博士が夢見るコスモスを映像化したかのようなカットで、「この番組の感動的なシーンをひとつ上げよ」と問われれば、真っ先にこの場面を挙げるでしょう。実は私がこの曲を好きになったきっかけが、この人類の賛歌と思えるセーガン流の人類愛を感じさせる使い方によってです。この曲を聴くときは、いつもこの踊るシーンを思い浮かべます。そして地球という、ちっぽけな惑星の上に住む人々の共通の喜びを聴かされるようで、胸が熱くなります

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交響曲第7番より第4楽章

 この楽章は、第3楽章に続けてエピソード13【Who Speaks for Earth ?】に流れます。

 第3楽章の繰り返しになってしまいますが、人類の賛歌的な様々な人種が踊り集うシーン(場所も時間も違いますが、編集の関係で、人類全ての人種が手を取り合って踊っているようです)で、実に躍動感あふれる感動的なシーンに使われます。楽聖の舞踏的なリズムには、必ずや聴き手の心も体も動き出してしまうような効果があり、宇宙に生まれ育った「地球の生命」の鼓童を見事に演出してくれました。そしてセーガン博士が夢見るコスモスを映像化したかのようです。
 この番組の感動的なシーンをひとつ上げよ、と問われれば、真っ先にこの場面を挙げるでしょう。実は私がこの曲を好きになったきっかけが、この人類の賛歌と思えるセーガン流の人類愛を感じさせる使い方によってです。この曲を聴くときは、いつもこの踊るシーンを思い浮かべます。そして地球という、ちっぽけな惑星の上に住む人々の共通の喜び、溢れる生命の一致した鼓動を聴いているようで、胸が熱くなります(
52m27s付近から)。ワーグナーをして“舞踏の祭典”をもじるなら“生命の祭典”とでも言えるような感動的なシーンに胸が熱くなります。果たして、科学番組で涙してしまうことなどあり得るのでしょうか?

カルロス・クライバー指揮/ウィーン・フィル
 
 サウンドトラックにも収録されなかったこの曲の演奏者はわかりませんが、一番にこの曲のCDをお勧めしたいのが1976年にカルロス・クライバーがウィーン・フィルを指揮したこのアルバムです。
 正直言って、この演奏を聴いてしまうと他の指揮者の同曲を聴けなくなってしまいます。それほど毒に充ちた演奏。これ以上リスナーを興奮の坩堝に陥れる演奏はないだろうと思えます。軽やかなリズムや旋律の歌わせ方。第一楽章の最初の和音から、最後の一音まで。これほど演奏の内容が濃く、また興奮させてくれる魔力は、めったにないかもしれません。少なくとも番組で使われている演奏はクライバーではありません(番組の演奏は、結構もたつくように聞こえてしまいます)が、この曲を、ああいったシーンに起用した番組プロデューサーのセンスの良さが光ります。

 この場を借りて、このアルバムで演奏しているカルロス・クライバーのことをちょこっと書かせていただきます(ファンなので)。

 大指揮者エーリッヒ・クライバーの息子として1930年7月3日に生まれ、父の反対を押し切って指揮者となりました。キャンセル魔として知られ、ヘルベルと・フォン・カラヤンは皮肉たっぷりに「冷蔵庫に食べ物がなくならないと指揮台に立たない」と言ったほど、実演回数とレコーディングの少ない指揮者です。ただし、ひとたび指揮台に挙がるというニュースが出ると、世界中のおっかけ(特に日本人は有名らしい)がついて行くばかりか、その楽団を引退したメンバーまでが、カルロスと共演する喜びを共に楽しみたいと、加わるようです。
 それから、レパートリーがきわめて少ない指揮者です。そんなカルロスが残してくれたアルバムのうち、コスモスで印象的なシーンに使われたこの曲の超名演として記録されたことは、まさに奇跡としかいいようがありません。

 2004年、秘密に包まれた隠居生活の末、死後1ヶ月経って世界に訃報が知れ渡り(7月13日)、世界中のファンを嘆かせました。私も1992年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のツアーに同行予定だった“クライバー来日チケット争奪戦”に踊らされた1人ですが、ようやく手に入れた公演も、直前にキャンセル(代役としてジュゼッペ・シノポリ)となり、生のクライバーを体験することはできませんでした。
 曲もニュー・イヤーの曲目と、シューベルトの『未完成交響曲』を引っさげての予定でしたが、シノポリに替わり、曲もマーラーの交響曲第1番他、になりました。
 シノポリとは1988年の東京芸術劇場の?(こけら)落としの際、フィルハーモニー管弦楽団とマーラーの全曲演奏会で、交響曲第8番を聴かせてもらい感動させてもらいましたが、「クライバー!」のつもりで購入した高額チケットの返金額には逆らえず、シノポリ/マーラーの組み合わせでもキャンセルしてしまいました(ショルティなら行ったかも)。

 その後、キャンセルのために来日できなかったクライバーも、1994年10月にはウィーン国立歌劇場の公演の際、得意の『薔薇の騎士』を振り、元気な姿を見せてくれ、ファンを喜ばせてくれましたが、その後も隠居生活を続け、2004年7月13日にひっそりと息を引き取りました。生のクライバーは二度と実現することはなくなってしまったのは言うまでもありません。また、代役を務めたシノポリも2001年4月20日に、ベルリンでヴェルディの『アイーダ』公演中に倒れ、亡くなるというニュースが一般紙でも報じられ、音楽ファン以外の間でも話題になったのをご存知かもしれません。

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 さて、コスモスに使われた交響曲第7番の話題から外れてしまいましたので、軌道を元に戻しましょう。現在は同じくベートーヴェンの交響曲第5番とカップリングされて(こちらも稀代の名演)います。「クラシックは退屈で…」という人にもぜひお勧めしたいアルバムです(他の人の演奏だと、確かに眠くなるのかも…)

 この曲の対極にあたるのがレナード・バーンスタインが 【最後の演奏会】 となったボストン交響楽団を振った演奏。こちらは聴いていて辛くなるほど、バーンスタインの疲労が、ボストン響の悲鳴となって鳴り響いているようです。そして重々しく引きずるような喘ぎ。確かに「最後のレコーディング」などと書かれてしまうと、どうしても構えて聴いてしまいがちですが、クライバーの演奏と比べると歴然です。
 他の指揮者がふった演奏も聴いてみたいとは思いますが、クライバーの後ではどうも…。その代わりといっては何ですが、フランツ・リストがピアノに編曲したものや、弦楽五重奏、木管八重奏などの演奏は聴きました。(やはりクライバーがいいな、と改めて実感しました)

★【最後の演奏会
★【レナード・バーンスタイン指揮/ボストン交響楽団

 こちらのアルバムはバーンスタイン最後の演奏会、最後のレコーディングとしてリリースされています。カップリングはベンジャミン・ブリテンの『4つの海の間奏曲』です。1970年代は、それこそ指揮台でジャンプをするほど元気が良かったのですが、晩年は指揮台にもたれかかりながら、時にはイスに座りながら指揮をしていました。
 この最後のコンサートとなった1990年8月19日、場所はバーンスタインにとって、もっとも愛着のあるタングルウッド。亡くなる2カ月前の演奏です。このプログラムは、1989年にパシフィック・ミュージック・フェスティバル(P.F.M.)で来日した際、ロンドン交響楽団と行っています。

 先に対極ということを書きましたが、二人は仲が良く、実は1992年にウィーンフィルのニューイヤーコンサートはバーンスタインの予定でしたが、(亡くなってしまったため)その代役に「ニューイヤー初登場!」のカルロス・クライバー(しかもクライバーが買って出たという)が務め、急場を救ってくれたというエピソードが残されています。

 演奏とは直接関係ありませんが、このジャケット、好きです。年輩の方がかっこいい、なんて思えるのは映画俳優と、クラシックぐらいじゃないでしょうか。



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