星語り(星のソムリエのブログ)


イゴール・ストラヴィンスキー(Igor Stravinsky; 1882-1971)

 ストラヴィンスキーと言えば、ほとんどの音楽雑誌などでピエール・ブーレーズの演奏を第一に推薦している本が多いのではないでしょうか?私もそんなレビューに乗せられて(?)、というか、最初はやはりそうしたモノを参考にレコード(演奏)を選んでいました。

 私のストラヴィンスキーの初体験は、冨田勲の電子音楽版『火の鳥』でした。そして、FM番組でSF作家の小松左京との対談番組の中で「あまりにショックで寝られなかった」というコメントを聞いて興味を抱いたのがきっかけです。そして病床のお見舞いの品(←なんでだ?)として母に「ピエール・モントゥーという指揮者の春の祭典を買ってきて…」と要求したのを覚えています。それに応えてレコード屋の店員が「それはまたマニアックですね〜」と探してきてくれたのがパリ管弦楽団を振ったロンドンのレコードでした。実はその前にもアンタル・ドラティがデトロイト交響楽団を振ったレコードを買っていたのでした。今にして思えば、中学生の分際で指揮者をより好んでいたとは、かなり生意気な領域にいたのかもしれません。それもこれも、冨田勲の発言に触発されたのでした(笑)。




 ブーレーズのレコードは、グラモフォンと指揮者の契約としてレコーディングを始めた(先ずはマーラーからというのが興味深いです)デジタル録音のストラヴィンスキーから手を出しました。
  グラモフォンはジャケットのセンスがいいと言うのか、1992年の「春の祭典」は、まぁ、挨拶代わりとしてスルーですが、「火の鳥」はマーラーのジャケットの流れを汲んでいます。ラヴェル、バルトークも絵画を使ってました。そして私がグッと来た(アルバムのジャケットで老人男性がカッコいいと思えるのは、もはやクラシック音楽ぐらい?)のは、1999年の「詩篇交響曲」です。「なんなんだこのセンスは!?」と、真っ先に眼がいったのはジャケットで、曲目はなんであれジャケ買いです(笑)。譜面越しのレイアウト、主役をまん中に置かないバランス感覚、音楽よりも先に視覚的にノックアウトしました。このアルバムのリリースに合わせて、NHKでこの曲の演奏会をオン・エアしてくれていましたが、ストラヴィンスキーの新古典主義と言うのか、ギリシア風のアルカイックな雰囲気を現代音楽の無機質な旋律が見事にハマった演奏であり、楽曲だということを思い知りました。


左から「火の鳥ほか」(1993)
「春の祭典」(1992)、「詩篇交響曲ほか」(1999)、「管弦楽曲集」(2001)
以上Deutsche Grammophon

 ブーレーズは、作曲家として指揮者としてとんがっていた1960年代に、ストラヴィンスキーのほとんどの作品をレコーディングしてくれています。私がクラシック音楽を聴き始めた頃、ストラヴィンスキーと言えばブーレーズみたいな風潮がありましたが、やはりそれは1969年にレコーディングされた「春の祭典」が決定打だったのでしょう。

「春の祭典は今でこそ学生オケの定番メニューになるほどごく普通のレパートリーになっているが、一昔前はオーケストラの性能をはかるうえでのリトマス試験紙的な難曲とみなされていた。このブーレーズの演奏が登場したのはさらにそれ以前、この曲のスコアを完全に音に置き換えるのすら不可能と考えられてた頃のことだ。そうしたなか、冷徹な眼差しで完全に作品を掌握した演奏を実現した当録音の登場は衝撃的だった。クリーヴランド管の卓越した能力を駆使してこの作品の構造を解き明かし、作品の真の姿を示してくれたこの録音の意義はきわめて大きい。優れた演奏が目白押しの今日でも、第一級の名盤という地位は微塵も揺るがない」
(音楽之友社『クラシック不滅の名盤800』より)

 CDが台頭してきた頃、ブーレーズの新録が登場し、デジタル録音といううたい文句に惹かれ、ついつい手を出すのは1992年にレコーディングされ、エソテリックでSACD化された方をチョイスしてしまいますが、旧盤は本家のソニーからマルチチャンネルでSACD化されたので、今ではそっちを楽しんでます(というか、もう両方ですけどね)

  2020年にダットンから『火の鳥』全曲盤が、なんと1975年に同じニューヨーク・フィルを振ったズビン・メータの『春の祭典』とカップリングでマルチチャンネルでリリースされました。ブーレーズの演奏(録音)は、それでなくてもクモの巣を払ったような見通しの良い演奏、といわれるぐらいなのに、このSACDマルチ(性格には4ch)では、さらに瑞々しいというか、そんな音が展開してくれました。


左上から「プルチネッラ」(2010 CSO Resound)
右上「火の鳥」(2020 DUTTON)
左下「春の祭典」(1999 Sony Records)
右下「春の祭典、火の鳥」(ESOTERIC)

 ストラヴィンスキーの作品の中で特に好きなのは、やはり『春の祭典』です。図書館で借りられるから、それこそ「大人買い」せずに済んでいますが、今までどれぐらいの演奏を聴いたでしょうか?好きな曲だけに、甲乙つけ難く、まさに聞いているその演奏が一番いいと思ってしまいます(そうした聞き方は幸せと言えるかもしれませんが、曲によっては偏っちゃいます…)。

天文学史、音楽史

もどる(作曲家)home



https://www.latimes.com/

星の王

もどるhome(一番星のなる木)